100話 手紙の内容は? 叔父:マルキシオス領主 プロモニス 視点
「ん???なんだ?この勘違いだらけの手紙は・・・」
書いてある内容はとても正常な常識を持った人間が書いたとは思えない内容で、私は数秒、内容を理解するのに時間を要したのだった・・・
シリー「お兄様?なんと書いてありましたか?」
「あ、あぁ、それが・・・・」
まず、“そちらからの和平交渉の提案書を受け取った。だが、こちらと和平の交渉をするには侯爵家では位がたりない、和平交渉がしたければ、王家、または最低でもこちらと同じ爵位の公爵家を交渉役に立てるように。“
次に“こちらの最低限の条件は無罪の娘の釈放、返還、そして、不当捕縛による精神的苦痛に対しての賠償として、王族、またはそれに準ずる血筋の男性を娘の婿として輿入れさせる事、そして、当家に無実の罪を着せ侮辱した事による名誉毀損の賠償として、デューキス公爵家の三男を当家に技術協力のため派遣させる事、この2つの条件を飲むのならば和平交渉の場に着く事を約束する。“
そして、“この条件を飲まなかった場合、当家をさらに侮辱したとみなし、ウェルセメンテ王国に娘を奪還するまで紛争を仕掛ける。以上の条件の確認し早急に返答を返すように・・・“
「・・・・簡単にまとめるとこう言う内容だったよ・・・」
「「「・・・えーっと・・・・」」」
「うん、言いたい事は分かるよ。そもそも、和平交渉の交渉役は基本的に紛争が起こっている現地の領主が国王の意向を代弁し担うもので、爵位は関係ないものなのだが、それを自分達の爵位に見合う交渉役をわざわざ指定してくるとはね・・・
それに爵位を持ち出してくる非常識さに加え、隣り合った領地を持っているにも関わらず、我が国での“侯爵家“とは他国の“公爵家“とほとんど変わらない地位だと言うことを知らないのか、忘れているのか定かではないが、我がマルキシオス家の事を下に見て蔑んでいることはよく分かったな。
さらに確固たる証拠もあるにもかかわらず、公爵家の娘が犯罪を犯してはいないと頑なに言いはり、こちらが無実の罪を着せたと難癖をつけているのもどうかと思うけど、何より、その無実の罪を着せたとしての賠償に、慰謝料、金品ではなく、王家の血筋を持った人間をよこせと言う意味がわからない理不尽な要求をしてくるあたり、この和平交渉の話を真面目にする気がないのが予想通りで呆れるというか・・・」
「「「ですよね・・・・」」」
シリー「しかし、要求のほとんどが昨日の話で出た予測通りではありましたけど。未成年のアトリーを技術協力と称して帝国側に派遣させようなんて、思った以上に強気に要求を突き付けてきましたね・・・」
私が噛み砕いて読み上げた書状の内容に全員が目を点にして戸惑っていた、それから、この内容を何から指摘していいやらと考えていたので、私が全員が思っているであろう全ての指摘を代弁すると、全員が呆れた声を揃えて同意し、団長と副団長は“今までにこのようなふざけた内容の公的な書状があっただろうか?“と頭をひねり、シリーは険しい表情で、相手が強欲にもアトリーの身柄まで要求いてきた事に不快感を示していた。
「確かにね、向こうは元々この内容の要求が通る事はないと分かっていて、要求してきたんだろうさ、本来の目的はこの領地にあるダンジョンとアトリーの持っている情報、ついでに娘の婿探し、と言ったところだろう。そもそも、その全てを自分達のものにするには、この要求では我が領地にあるダンジョンは得ることができないから、最初から理不尽な要求をして、開戦に持ち込むつもりなんだろうな。と、言う事は向こうは、元々こちらの和平交渉を受け入れる気はないのだろうさ、そんな相手にこちらも真剣に受け取るのも馬鹿らしい、だからそう気にすることはないよ。それより、この内容にどう返事を返したものか・・・今までの人生の中でここまで返答に困った手紙はないよ・・・」
シリー「お兄様、その心中お察ししますわ・・・私でもそんな経験ありませんもの・・・」
内容が内容だけに、真剣に考えることすらバカバカしくなった私は、それよりこの内容の手紙を送りつけてきた相手に、こちらの作戦を悟らせず、なおかつ、こちらの目的の“魔物達“を交渉の場に連れて来させるか、その目的を果たすためにどのような言葉選びをしていいのかと悩んでいると、シリーがそう言って慰めてくれた。
その後は慰めてくれたシリーに感謝を述べて、私は本格的にどう返事を返すか考え始めると・・・
シリー「・・・お兄様、そう深く考える事はないのではないですか?向こうは無駄に理不尽な要求をしてきていますが、現状は一刻も早く開戦し、こちらに攻め入りたいはずです。
なのでこちらは真面目に和平交渉を進めたいと言った内容の文章をしたためて送れば、向こうは時間稼ぎされていると勘違いし、焦れてさっさと対面でもして、その場で開戦を宣言し戦力を見せつけてくるのでは?」
「ほう、それは確かに、向こうはこちらが急な戦で戦力の準備が揃ってない事は分かっているからな、今回の和平交渉もその時間稼ぎだと思っているだろう。まぁ、実際は国際協定に基づいた戦を始める前に相手の開戦する理由の確認といった意味合いが強い和平交渉で、その和平交渉を使った、向こうの戦力の把握、確認、その戦力の捕縛、それと自分達が何に手を出したかを思い知らせ、戦意を削りとる、といった作戦だが、相手はこの和平交渉にそんな裏があるとは思ってもないだろうからな。・・・ふむ、ならシリーの提案通り、真面目に和平に関しての交渉をする感覚で返事を書いてみるか・・・」
シリー「上手くいくといいですわね。お兄様♪」
「あぁ、そうだな、まぁ、上手くいかなかったとしても、向こうを焦らせる事はできすはずだ、そうすれば、向こうの予想通り時間稼ぎになって、こちらの準備がしっかり整うからな、後はどちらに転んでもいいように臨機応変に対応するだけだ」
そうして、返答の内容が決まり、真面目に和平交渉に取り組む内容を公式な書面用の用紙に書き込み、偽造など出来ない魔法をかけて、再び使者役の副団長に持たせて、外で待っている帝国の使者に渡すよう指示した。その際に副団長にもう一つ任務を付け加えた、それは・・・
「こちらも一刻も早く返答が欲しいのでと言って、外で待たせていただきなさい」
そう言って、向こうもしてきた、相手を焦らせる作戦をまるっと真似する事にした。
副団長「うわぁ、領主様やるぅ⤴︎♫これは頑張って真面目に相手を急がせないといけませんねぇ♪」
と、言ってニヤニヤ笑いながら、部屋を出て行く副団長に残った全員が苦笑いで「やり過ぎるなよ」と釘を刺した。
副団長「大丈夫ですよ!俺、こう言うの得意ですからー!!」
扉の閉まり際にそう言って、手を振る副団長に全員が呆れた表情で見あって最後には笑ったのだった・・・
そして、それから数分後、またもや返答の書状を持って帰ってきた副団長はご機嫌で、ずっとニヤニヤしながら私に書状を渡してこう言った。
副団長「領主様、あちらは人に急かされるのがお嫌いなようでしたよ。返答を早く欲しいので待たせて欲しいって言った時、とても、嫌そうな表情をなさってましたんでっ♬それに、返答の書状を渡すときもイライラしたご様子でした♫」
と、楽しそうに報告してきたのだった・・・
「・・・相手を苛立たせる事には成功したようだが、本当に煽り過ぎるなよ?やり過ぎて向こうから攻撃されても知らんぞ?」
副団長「だから、大丈夫ですって、自分、向こうではクソ真面目を装ってるんで♫」
なおも楽しいそうに話す副団長に、デイル団長は人選を間違えたかと言った表情をし、シリーは副団長の話を聞いて、少し驚いた顔をした後はニコニコと笑顔で楽しそうに笑っていた。
(作戦が成功するかしないかの瀬戸際なんだがなぁ、なんとも力が抜けるというか・・・まぁ、今のところ作戦はうまく行っているから良いか・・・)
内心そう思いながらも、一応は副団長にやりすぎには注意しろと再び忠告はしておいた。
その後は相手がどんな理不尽な内容を書いてきたとしても、真面目に和平交渉を取り組む内容の返答を繰り返していると、とうとう相手からの4回目の書状で、“書面でのやり取りでは話が進まない、なので会ってさっさと話をつけよう“と言った内容がきた。
「これでまた一歩作戦が前に進むな、アトリーが待ちくたびれてないか心配だな」
シリー「大丈夫ですよ。空に上がってるのはアトリーだけではないですから。ソル君や聖獣様方が話し相手になってくれてますわ」
「あぁ、そうだったね・・・」
意外と向こうからの返答に時間がかかっていたので、作戦開始前から上空に待機しているアトリーの心配をしていると、シリーが笑顔で心配ないと言ってくれたが、私はその心配の他に少々気になることがあった。
(しかし、聖獣様方が空を飛ぶのは分かっていたが、アトリーの従者のソルドア君?だったかな?彼までいつの間に飛行魔法を使えるようになってたんだ?彼はアトリーの規格外の凄さの陰に隠れているが、彼も中々の規格外だよな・・・うーん、アトリーの従者でなかったら我が領都の騎士団に迎え入れたい人材だ・・・)
と思っていると・・・
団長「あぁ、彼ですか、彼は凄いですな!アメトリン様が我々に気づくか気づかないかぐらいに気配を隠蔽されていた時は、本人が動くまで私達でも全く気づかないほど完璧な気配隠蔽をしてましたよね!?本当にまだ12歳の子供ですか?あれほどの腕があれば、どの騎士団からも声が掛かっているのでは?」
副団長「そうですよね!?うちの騎士団にも欲しい人材です!」
と、団長達も私と同じようなことを考えていたらしい・・・
シリー「ふふっ、まぁ、お二人にそう言われてソル君は人気者ですね。確かにソル君はアトリーに次ぐ実力者ですけど、本人はアトリー以外の方を主人として使える気は全くないですからね。騎士団への入団の件は方々からありましたがそれを全てお断りしてますから、お誘いしても多分同じように断られると思いますよ?」
副団長「えー、そうなんですかぁ?残念・・・」
団長「まぁ、仕方ない、本人の意思しだいだからな」
(まぁ、そうだろうな、アトリーと彼は王族と影の一族として“忠誠の誓い“をした間柄だからな、そう簡単に離れてはいかないだろう・・・、だが、彼らの間にはそれ以上の強い絆を感じる、それは“忠誠の誓い“とはまた別の絆なのだろうが、シリー達はその何かを知っているのだろうか?・・・・まぁ、知っていたとしても、私達には話せない内容なのだろうな・・・)
と、少し寂しく思うが、あの子の秘密はまだたくさんあるだろうから、あまり気にしても仕方ないかと、軽くため息を吐き、会って話したいと言った内容の書状の返答を素早く書き、副団長に持たせて私は会合の場にふさわしい装いを整える事にした。
「さて、どんな言いがかりをつけてくるかな?」
シリー「まぁ、お兄様ったら、最初から言いがかりをつけてくるって決めてかかってはダメですよ?」
「おっと、そうだったな、こちらは真面目に和平交渉しに行くんだった」
シリー「ふふっ、そうです。あくまで和平交渉、ですからね?」
「あぁ、あくまで和平交渉だ」
「「っ、ふふっ!」」
シリーが着替える私を手伝いならが揶揄ってくるので、私もそれに乗りふざけて、笑い合った。おかげで、少し緊張していた体が、ふっと軽くなるのを感じじた。
「シリー、ありがとう、では、言ってくるよ」
シリー「行ってらっしゃいませ、お兄様、お気をつけて、話し合いの最中に武力行使されそうになったら、必ずアトリーに合図を忘れずになさってくださいね?」
「あぁ、分かっている。向こうがご自慢の戦力とやらを見せつけてくるともっと良いんだろうがな・・・」
シリー「まぁ、あの書状の内容から考えれば、間違いなく出してくると思いますが・・・出て来なかったとしても、本来の作戦の目的は“アトリーの凄さをわからせる事“、相手の戦意を削ぐことが最重要ですからね?相手ご自慢の戦力はアトリーがちゃんと捕獲してくれますから、無茶なさらないでください」
「ふふっ、相変わらず心配性だねシリー、ちゃんと分かってるよ、無茶はしない」
そう言って心配するシリーを宥めて私は会合の為に決めた時間キッチリに砦の門から団長、副団長を連れてゆっくり歩いて出て行った・・・・