96話 存在を知らしめる方法
父様「・・・ヤヅキ様はアトリーに“さりげなく凄さを知らしめ“ながら、向こうの最大戦力となる“レッサーフェンリル“を堂々と奪い、戦力を削ることで、向こうの兵達を精神的に追い詰め、敗戦濃厚と思わせて戦意を低下させこちらの被害を最小限、いや被害を出さない戦いにすると言うことですか?」
サフィアスおじ様「そうか、向こうは邪神教の言葉を聞いただけで、アトリーを手に入れようとしているが、“本当の意味でアトリーがどう言う存在か理解していない“・・・確かに、上手く行けばそれも可能か・・・そうなると、“アトリーの凄さを見せつける“方法が重要か・・・」
「ん???」(“僕の凄さ“って、どう言うこと???(・・?))
夜月の言う戦力の低下のために“レッサーフェンリル“を引き抜くのは分かるが、“僕の凄さを見せつける?“と言う点においては理解がいかない僕、大人達は何かちゃんと理解できているようだが、当の本人が意味が分からず首を傾げるばかりだった・・・・
そして、翌日・・・・・
「こんなので、本当にいいのかなぁ?大丈夫?ちゃんと役に立てるの?」
いい風が吹く大きな川沿いの上空でこうボヤく僕がいる・・・・
はい、どうも、僕です。
今、マルキシオス領と、帝国領を隔てる国境となる大きな川、シノロ大河の真上、上空500メートル付近で、“隠蔽スキル”と“風魔法で再現した飛行魔法”を使って、ソルやジュール達と隠れながら浮いてます・・・
・・・“神器の祭事服”と、“神器・千変万化”の杖バージョンを持って・・・しかも、ヘアメイクもバッチリした状態で・・・
「ねぇ、こんなに盛る必要あった?“神器の祭事服“着るだけでも充分派手なのに、ヘアメイクまで・・・」
天華:『注目を集めると言う意味ではコレぐらいの派手さは必要ですよ。それに、着飾ったアトリーが”神力“を纏えば”現人神“とはただの人には敵わない、畏怖すべき存在だと知らしめための、良い演出になりますからね』
「そこまでしなきゃだめ?僕は出来ればこっそり“フェンリル“の仔共達を連れ戻せれば良いと思ってるぐらいなんだけど・・・」
僕は極力、自分が目立つのは避けたいタイプなので、今回もこっそり仔共達だけを連れて帰れないかと思っていたのだが・・・
ソル「アトリー、それだと、アイツらはまたしつこくアトリーを狙ってくる可能性が高いですから。ここで1回、格の違いを分からせてやるしか無いんですよ。“安易に手を出せば痛い目を見る“、それを実際に体験させなければなりません。そこまでしなければ理解できないのが人と言う生物ですから・・・」
「うーん、確かにまた変なちょっかい出されるのは嫌だなぁ…、と言うか、その分からせるって言うのは、例えるなら、前に僕の実力を疑った人が言っていた、“人伝いに聞いた魔法の実力の話だけで、実際の魔法の実力を正確に予想するのは難しいから、実際に自分の目の前で魔法を披露してほしい“、って、それと同じ感じ?」
ソル「そうですね、それと同じです。彼らは僕達みたいに“神“に最も近しい存在である、“現人神“になったアトリーが“神力“を使う場面を実際に見た事がない、だからアトリーの“神力“の凄さを理解できない、そこで彼らは何を勘違いしたか、同じ“神“に近しい存在なら“神の使いである聖獣・フェンリル“の血を引いた仔共の力を借りれば、どうにか自分達でもアトリーを捕まえる事ができると思っているんですよ。
それで、このような事を計画した。そんな勘違いした彼らにアトリーという“人界に存在する唯一“の“現人神“がどう言う存在なのか、実際に実感させるために必要な場面が今なんです」
「そうかぁ、そう言えば“現人神“って、今は僕1人だけしかいないから、その能力とか行使できる権限の凄さとか誰も知らないんだね?」
ソル「そうです。彼らはアトリーの事を“神力“を発現できた少し強いだけの子供程度だと侮っているのです。そのアトリーを捕まれば、“神“になる方法がわかる。その方法で自分達が世話をしている“フェンリル“の仔共達が“神“になれる。それにアトリーみたいな子供でもなれたのなら自分達も“神“になれるかもしれない。そう、思い上がってるんです」
「あー、“子供“の僕が“神“になれた。その部分だけの話が1人歩きしてしまってるだな?そこに、“神“に至るために必要だった僕の元々の能力とか、神々の加護とかその他諸々の重要な要素を、“まるっ“と無視して気づかないふりして、勝手に盛り上がって、期待してるんだ・・・バカなのかな?」
ソル「バカなんですよ・・・だから、現実を突きつけてあげるんです」
「・・・うん、納得した・・・」
今回の事件の事も含め、色々と面倒で深く考えずに単純に目立つこと避けようとしていた僕に、ソルが今回の作戦の重要性を分かりやすく説明してくれたので、僕は確かに、そう言う自分の欲望に忠実で、自分が信じたい事だけしか頭に入ってこない、頭がお花畑の勘違いさん達にはちゃんと、格の違いと現実を知ってもらうことの大事さを充分理解し、作戦の実行に納得したのだった。
「・・・納得したのは良いんだけど、仔共達の“探索“は今したらダメなのはなんで?あらかじめ探してた方がもしもの時に強制回収するのが楽なんだけど・・・」
夜月:『今“探索“すると“探索“を使った時の空気の揺らぎや探られてる気配に敏感な“レッサーフェンリル“達に勘づかれてしまう。そうなると、いくら“隠蔽“してても、その空気の揺らぎや探ってるアトリーの気配を感じて騒ぎ出す可能性がある、奇襲的が肝の今回の作戦が相手にバレてしまうと困るからな、合図があったらすぐに“神力“を解放して、全力で“探索“した方が相手の意表をつけて、仔共達もアトリーの存在を強く認識できてすぐに近寄ってくるだろうからな、その方が向こうも仔共達を止める事が遅れたりするだろう?」
「そうか、“探索“とかされることに敏感なんだね?さすが“狼“の魔物・・・しかし、そんなにすぐに僕の気配って分かるものなの?」
夜月:『あぁ、アトリーの気配は独特だからな、“現人神“になってからさらに個性的で惹きつけられる気配がする』
「やっぱり、○ュールか・・・」ボソッ
作戦の重要性は納得したけど。それとは別に天華達から止められていた条件のうち一つが、効率を考えるとどうしてしてはいけないのかが分からなかったので素直に聞いてみた・・・すると、奇襲的な今回の作戦の為に重要なことだと言ってくれたのだが、僕は自分の体質が“猫まっしぐら“的だったことを思い出し、ちょっとやさぐれてしまったのだった・・・・




