94話 寒いものは寒い、見ているだけでも寒い
「見てるだけで寒っ!!」
“聖獣・フェンリル“が住んでいると言われる、“スフェール山脈“の頂上付近にある氷穴前に来ています!!☆彡
ソル「アトリー様、寒いのでしたらもっと厚手の上着を着用なさいますか?」
「あ、いや、大丈夫、全然寒くないから、ただ、気分の問題、それより、ソル達の方は寒くない?」
ソル「いえ、僕の方も装備が優秀なので全然寒さは感じてません」
「そう、それなら良かった。いやー、以前の夏の暑さを体験して作った甲斐があったね!“外気を遮断する魔法“、“エアーカット“♪」
ソル「そうですね。開発のキッカケは昨年の夏の暑さでしたが、逆に寒さにも応用できる時が来るとは思ってませんでした」
「だよねぇ、あの時は涼しさを求めて、冷房の魔道具を使ってたけど、今回は逆に暖房の用の魔道具で結界内を温めれば、こんな寒い場所でも外気を遮断して、結界内の気温が保つことができたから、寒くなくて快適だよね!本当、開発して良かった♫」
ソル「えぇ、本当にアトリー様のおかげで寒さに凍えずに済みました」
現在、僕達は王城での話し合いを終えて、服装もそのまま、学園の制服に学園指定のローブを身に纏っているだけの状態で、あたり一面雪景色の場所まで来ているのだが、そんな格好でも寒さに震えることもなく、凍傷にもならないのは、ソル達が身につけている魔道具のおかげなのだ。
その魔道具を揮発することに至った経緯があった。それは去年の夏はかなりの猛暑で、“守護の加護結界“を持った僕以外の人達が暑さで熱中症でダウンする人が多く出ていて、僕も自分の加護の結界をとって体験した事で、これはヤバいとなり、一刻も早くその状況を改善するために、自分の結界の機能の一部である、“一定の範囲の外気を遮断する効果(呼吸に必要な気体やその他の物体は透過する)“を再現した魔道具を開発したのだった。その外気が遮断された結界の内側の空気を冷却の魔道具や自分の風魔法や水魔法、氷魔法で涼しくする事で、熱中症になる事を防ぐようになって、その年の夏を乗り切れたと言う経緯だ。
なので、それの応用で、今度は暖房の魔道具で結界内を温めているから、ソル達はそんな薄手の格好でも平気で活動している。
(まぁ、本当は結界の魔道具に冷却の効果も付けようとしたんだけど、着用者の魔力を使った方法じゃ魔力量のコスパがかなり悪くなっちゃって、涼しくする方法が他の魔石を利用した魔道具でしなきゃならなくなったんだよねぇ、それに冷房と暖房で魔道具を変えなきゃならないのは面倒だから、それだけは要改善って感じだなぁ(*´Д`*)今度はエアコンみたいに一つの魔道具で空気そのものの温度を変える魔法でも編み出すか?)
と、考えていたりもする・・・・
そして、今はそんな事を話しながら目の前にある氷穴の入り口を見上げていると、後ろからやっと追いついてきた人達が来た。
「あ、やっと来た、おじさん、“聖獣・フェンリル“の棲家はここであってる?」
神官服のオジさん「あ、あぁ、た、確かに、こ、こ、ここで、です・・・」ガタガタガタッ
「ん?寒いの?それだけ着てるのに?」
後ろからついて来ていたのは今回、野外実習で僕達をダンジョンの結界内に閉じ込める計画を立てた、“神狼教“の神官長だ、何故この人がここにいるかと言うのは王城で父様達との話し合いの中で、“聖獣・フェンリル“に会いに行く計画が持ち上がり、その際に、その“聖獣“がどこにいるのか分からないと言ったことが判明した。
“分からない“、そう言ったが、“スフェール山脈の守護する聖獣・フェンリル“と言うお役目上、“スフェール山脈“にいるのは分かっているのだが、関心のこの巨大な山脈の何処に棲家があるのかは王国の方では誰も知らなかった。だから、そこは“聖獣・フェンリル“を神と崇め祀っている“神狼教“の信者で、地位の高い神官でもあるこのオジさんに案内してもらうことにした。
最初、大人達はこのオジさんが“聖獣“の居場所を知っているか分からないだろうと言っていたが、僕がオジさんの情報の中で、教団の高位神官たちが定期的に“聖獣・フェンリル“に供物を捧げる儀式をしていて、その儀式にこのオジさんが参加している事を言うと、すぐにサフィアスおじ様がこのオジさんを連れてくるようにと騎士達に指示し、暫くするとオジさんが封魔の手枷をはめられ、縛られた形で連れてこられた。
そんな格好で連れてこられたオジさんに、母様が何もなかったとはいえ僕に危害を加えようとした事で怒気を放って少し大変な事になったが、オジさんはその事を気にする様子はなく、あった時と同じようにずっと僕の事を見つめてくるので、さらに母様のご機嫌が急降下した。そんな空気の中、このオジさんはなんと、急に発言の許可もなしに、空気も読むこともせず、僕に何故か期待の眼差しをして僕にいろんな質問をしてきたのだ・・・
神官長のオジさん「やはり、貴方は本当に“神“になられているんですよね!?先程、感じた“神力“は貴方のものなんですよね!どうやってそのお力を手に入れられたのですか!?貴方のその膨大な魔力のおかげですか!?それとも、何処かにたくさんの信徒が居られるんでしょうか!?」
と、言った感じで次から次に、僕が“現人神“に経緯やその成り方など、まさにマシンガンのように話しかけてくるので、この少し前に聞いた“聖獣“のお役目の話の事を暴露してやったら、凄く驚いて最初は否定したけど、同じ狼の“聖獣“であるジュールが直接、神々から教えてもらった事だと付け加えると、次は絶望したように黙り込んで泣いてしまったので、僕はまた“神力を使った全情報開示“でもっと深くオジさんを見ようとしたら、オジさんは僕の顔を見てさらに激しく泣き始めた。
神官長のオジさん「・・・っ、只人でも“神“になれたと言う胡散臭い話を疑い、この目で確かめ、事実だと確認し、やっと念願が叶うと・・・」
どうやら、このオジさん、協力関係にあるあの“邪神教“から、その情報を聞いてもすぐには信じられなかったようで、以前にダンシャンスー公爵からの依頼で一時保護していた“泥酔ご令嬢“がしつこく依頼してきた、“この国への復讐“を手伝うと言う名目で、その情報の真偽を確かめるために今回の事件を実行したようだった。
(“泥酔ご令嬢の復讐“と言う名目で計画を立てたと言いつつも、オジさん自身の私情も大いに入っていたから、今回の森での計画が上手くいってたんだろうな、じゃないとあのご令嬢の復讐目的だけだったら“神罰“に触れて計画は阻止されていただろうし・・・それにしても、くだらない復讐と“神力“の確認するだけでこんな事をしでかすとは迷惑な話だよ・・・( *`ω´))と、呆れ返ったのは僕だけじゃないはずだ・・・
(しかし、それで、僕が最初にオジさんの前で“神力“を使った時は、あんなに嬉しそうで期待に満ちた表情してたんだね、ちょっとキモかったけど・・・・(*´ー`*))
僕が“神力”を使った事で、“神格“を得る方法がわかり、念願が叶う時が来たと思っているところに、僕がジュールから聞いた話をしたことで絶望に叩き落とした、まさに上げて落としたのが今の状況なのだが、こちらはそれとは全く別の用があって呼び出したので、今もしくしく泣くおじさんにまずは確認しておかなければならないことを聞いた。
「オジさん、貴方の敬う“聖獣・フェンリル“は今回の計画を何処まで知っているのかな?もっと詳しく言えば、貴方は、ダンシャンスー公爵家の人達がこの国に紛争を仕掛けてくることは知っているだろうけど、その紛争に、“レッサーフェンリル“達が参加するみたいだけど、それは“聖獣“の了解を取っていると思う?」
と、聞くと、やはりオジさんは“レッサーフェンリル“達が紛争に参加することは知らなかったようで、素で驚いて涙が止まっていた。そもそも、その“レッサーフェンリル“達の教育を任される時に必ず“フェンリル“から、仔共達に“聖獣“になるための継承争い以外の諍いに参加させてはならないと言われるらしい。なので、「そもそも、そんな了承はとりに行かないはずだ」と紛争での戦力として入れられている事自体を否定してきた。
(ふーん、そんな約束事をしてたんなら、やっぱり無理やりの参加ではなく、前線に連れてきて参加するかは仔共達、個人の自由ってことか・・・(*´Д`*)もしかして、オジさん以外のその教育係?に任命られた人達は、結構一か八かの博打みたいなことしてる?だって、本人の気まぐれで戦況が左右されるってことだよね?そんな気まぐれな仔達を戦力として数えるかなぁ?それとも他に戦力として何か用意されてる?・・・あ、そう言えば、この教団の人達、“狼“系の動物や魔物を手懐けるエキスパートだった!(・Д・))
と、思い出し、オジさんに手懐けている他の“狼“達が参加する可能性はあるかと聞くと、それは「ある」と答えた、それに「他の狼達の戦闘に触発されて“レッサーフェンリル“達も戦闘に参加する可能性が出てきた」と言ってきたので、「じゃあ仔共達が自発的に紛争に参加しているのなら“フェンリル“の了承は必要ないのでは?」と聞くと、「その判断は自分には難しい」と言うので、僕が「その判断が難しい紛争参加の条件の内容の確認を取りたいので、“フェンリル“の居場所が知りたい」と聞くと、オジさんは少し考えた後に“フェンリル“の棲家への案内をしてくれることになった。
そして、今、オジさんは今回の事件を起こした罰も兼ねて、最低限の防寒対策をした状態でガタガタ震えながら、僕達を棲家へ案内しているの。
こうして、震えるオジさんに案内されて着いた棲家前だが、実は、ここに来たのはつい数分前だ、何故なら僕とジュール達が王城からデューキス公爵領まで転移魔法で移動し、そこから飛行魔法で“スフェール山脈“の頂上付近まで飛び、棲家がありそうな所にあたりを付けて着地、そこから転移魔法で一旦王城に戻って、ソルや他の人達を連れて戻ってきて割と早めに棲家についた感覚で今に至っているので、そう長い時間この場所にいる訳ではないのだが・・・
(でも、やっぱり結界の外は数分いただけでもかなり寒いみたいだね・・・この棲家まで供物を捧げにくるのは真夏だけで、他の季節は山麓にある祭壇にしているって聞いたから、そうなると他の季節だと山の気温が低くなって雪が多くて入れないんだろうな、でも、今は秋だから気温は低くなり始めだろうし、最低限の防寒対策すれば入っても大丈夫って思ったけど、やっぱり加護がある僕も見ているだけでも寒い気がするんだもん、加護の無い普通の人間には厳しい寒さなんだなぁ(*´ー`*)カワイソウニ、自業自得だけど・・・)
とか、思っていると・・・
『『『「「!!」」』』』
ジュール『来たよ』 天華『来ましたね』 夜月『来たな・・・』
ソル「アトリー様、何かがこちらに近づいてきています」
「うん、来てるね・・・」
急に不思議な気配が現れた…、それを感じ取ったのは僕とソル、ジュール達だけのようで、オジさんや罪人であるオジさんの監視役の騎士達は、僕達の言う何かが来たと言う声に不思議そうにしていたが、他にも僕の護衛としてついてきていたデューキス公爵家の護衛騎士達は瞬時に警戒体制に入った。だが、その不思議な気配には敵対心がなく、僕やソル、ジュール達はその気配の本人が姿を現すのをじっと待った。
すると、数秒後、“聖獣・フェンリル“の棲家と教えられた氷穴から、うっすらと青みがかった白い体毛をした体長5メートルはあろうかと思われる美しい毛並みの狼、いや伝承に記載されている“聖獣・フェンリル“が姿を現した・・・
「わぁ、大きい!あ、初めまして、僕はウェルセメンテ王国に住む“アメトリン・ノブル・デューキス“、アトリーと呼んでください。急に押しかけてなんですが、あなたが“聖獣・フェンリル“様ですか?」
聖獣・フェンリル:『まぁ、私のような者にご丁寧なご挨拶ありがとうございます“現人神様“。私が今代の“聖獣・フェンリル“にございます。この様な所までご足労頂き、感謝の念に堪えませんわ』
「「「「「えっ!?喋った!?」」」」」 「「「「「しかも丁寧!!」」」」」
こうして、姿を現した“聖獣・フェンリル“との出会いは驚きに満ちていた・・・・・