90話 野外実習11 “神狼“
「さて、続きを始めましょうか・・・」
そう言って、僕はまず、ご令嬢の方のステータスを見ることにした。
「ふーん、本当に何も知らなかったのか・・・」
(この人の情報は何も役に立たないな・・・そうなるとやっぱりこっちのオジさんの情報を見るしかないね・・・)
ご令嬢のステータス画面の備考欄には先程した質問の答え以上の情報はほとんどなく、情報があったとしても、彼女が今回の騒動を起こした理由や、強制送還の移送中に姿を眩ました時の、大体の経緯と場所や関係者などが判明したぐらいだった。
ご令嬢自身は宗教団体と長い付き合いなど無く、父親が神官服のオジさんと知り合いだとそう言われて、アッサリその言葉を信用し移送中の宿泊先から脱走、脱走した後の潜伏先も向こうが用意した場所まで大人しく着いて行っただけで、その潜伏先の場所など全く気にしてなかったようだ。
そして、今回の騒動を起こそうとした理由だが、全くもってくだらないものだった・・・
(はぁ、しかし、くだらない、カイ兄様の結婚式で恥をかかされたことへの復讐なんて、自業自得なのに・・・てか、うちの領地の南にあるズローバ領の領主が関わってたのか、これはサフィアスおじ様に報告しなきゃいけない案件だな・・・)
ご令嬢自身が僕達、デューキス家に関わる人達に手を出せないからと、自分の要望をこの宗教団体に告げただけで、計画自体は宗教団体がご令嬢の要望にできるだけ答えて、計画練り、実行した。なのでこのご令嬢は本当にどのような計画かも何も知らず、この騒動を見届ける為だけにこの現場にいたようだ。
(その要望ってやつも、ただ“この国の面目が潰れるような騒動を起こしてほしい“って言っただけって…本当、呆れちゃう( ´Д`))
だから今回の件は僕と、その同年代の生徒達をたくさん巻き込んで、大事にしたかったのだと僕は推測した…
(まぁ、この件で宗教団体の方は何が目的だったかは未だ不明なんだけど・・・(*´ー`*)まぁ、一旦、ご令嬢は放置だな!)
「“影“、この人を縄で拘束して、逃げないように見張ってて、あぁ、大丈夫、この人は魔道具も持ってないし、自力で逃げたりできないから」
ご令嬢を鑑定してみても有用な情報はなく、反対に謎が深まった、色々と考えたが正確な答えは得られないと思ったので、一旦、ご令嬢の事は放置する事に決め、“影“にご令嬢の捕縛を頼むと“影“達は手際よくご令嬢をぐるぐる巻きにし、猿轡までつけ静かにさせて、僕の視界から外すように後ろに引きずっていった。
「じゃ、次は神官服のオジさん、貴方の番ですよ」ニッコリッ
そう言って“情報開示スキルを発動させてみると・・・
神官服のオジさん「っ!・・・何でも、思い通りになるとは思わない事です」
と、何処か勝ち誇ったような言い方で不敵に笑った。僕はそんなオジさんを気にぜず鑑定してみると・・・
「?・・・ん?ふーん、そう来るかぁ~」
ソル「どうなさいましたか?アトリー様?」
「あぁ、このオジさんの隠蔽技術が高くて、ステータスが所々見えないんだよ」
ソル「!、そう言う事ですか。それはまた、高度な技を使いますね。・・・でも、アトリー様には意味ないですよね?」
そう、“隠蔽スキル“をステータスの隠蔽に極振りすると、普通の“鑑定スキル“では全てのステータスを見る事はできなくなって、 僕の“情報開示スキル“でさえ所々見えなくなる。そんな、高騰技術をこのオジさんは使用してることに驚きはしたが、僕としてはあまり意味がないことだった、何故なら僕が“全情報開示スキル“を発動しながら“神力“を目に集中して使えば、隠蔽など全て看破することができるからだ。
「まぁ、そうなんだよねぇ、無駄な足掻きっていうか・・・ん?待てよ?オジさん、どこまで僕のこと知ってるの?」
(この人、あの邪神教と手を組んでるなら、僕が“現人神“だって邪神教の奴らから聞いてるはずじゃ?)
この時、ふっと、思ったのは、この“狼の神“を崇める宗教団体の長らしき人が、僕の事を何処まで分かっているかということだ。僕の詳細な情報を知っているならこんな小細工は聞かないと分かっているはず。でも、本当は邪神教とは手を組んでなくて、ただ、魔道具だけを提供されたか、強奪したかで、僕のことを良く知らずに、もともとこの森、もしくは学園やこの国でしたい事、目的などがあって、あの令嬢のくだらない復讐に付き合って僕を標的にしたのか・・・
(それなら、この状況にも説明がつくんだけど、まぁ、何が目的かは今の所まだ分からないけど・・・ん?結界内に動物?魔物?の動く反応?(・・?)・・・消えた、気のせいか?・・・夜月、ちょっと周囲を警戒してて)
夜月『ふむ、何やら、変な気配がしたな?分かった、直ぐに対応できるようにしておく』
(よろしく)
少し変な気配がしたが、今はこのオジさんの情報を抜き取る方が優先なので、オジさんの返答は待たずに“神力“を解放し瞳に集中させることにした。
「まぁ、いいか、では、貴方が何者で、何がしたかったのか全て見させてもらいますね?」(“全てを見通す神の瞳“発動・・・)
ポゥ・・・
神官服のオジさん「っ!!・・・“神力“・・・」
僕の瞳が淡く光、神聖さが溢れ出したことで神官服を着たオジさんは驚愕の表情をしたあと、何故か恍惚と期待に満ちた表情をした。
(えっ!?オジさんの恍惚とした表情なんて需要ないんですけど!?∑(゜Д゜))
その表情に少しドン引きしたものの、極力、オジさんの顔見ないようにステータスを読み取っていく。
(名前、性別、年齢とかは後でいいとして・・・体力は・・・平均よりやや上、スキルも見た目通り、聖職者に多いスキル構成だな・・・うーん、称号が意外に多いな、何何?“霊峰と狼に寄り添いし民“に“聖獣フェンリルの信奉者“、“神狼教の大司祭“?、これ、なんだ?“崇める神の御子を養いし者?“って?(・・?)神様の子供を育ててるってこと?神様ってこの“聖獣のフェンリル“の事かな?聖獣って子供産めたのか?・・・そうなると、この人が育ててる神様の子供は何代目なんだろう?・・・)
「・・・へぇ、15代目か、意外と歴史が古いな・・・ん?“魔狼“の使役の実績?もしかして、あの時の“狼“は・・・・ん、っ!?」バッ!!
夜月『気配が薄いがこっちに来る!!』
ソル「っ!?何か来る!?」
オジさんのステータスをじっくり読み取っていると、意外なことが次々発覚していくので、より詳細な情報を見るために“神力“の出力をあげようとした、その時、先程も僅かに感じた不思議な気配がハッキリと感じ、その気配がする方向をみると、同じように気配を感じたジュール達やソルが一気に警戒体制に、それと同時に、異変を察知した“影“達も僕を囲むように警戒体制に入った。
そして、警戒体制に入ると同時にそれは突然姿を現すことになった・・・
ザンッ!!
「「「「「!!?」」」」」
(っ、・・・“レッサーフェンリル“?・・・このオジさんの従魔?なのか?)
気配の主は今いる広場の近くの岩山から飛び降り、神官服のオジさんを庇うように僕達の目の前に立ちはだかった、その気配の正体は真っ白の毛並みの背中に、一筋の薄い水色のラインが入った“狼“、それは随分昔に読んだ魔物図鑑に載っていた、“狼“の魔物の“レッサーフェンリル“だった…
「「「「「!!」」」」」 チキッ!
?「ヴゥ~ッ!!ガウッ!!」
「!!、こちらからの攻撃は禁止!最初は様子見!」
その姿に僕が驚いていると、僕を守っている“影“達が戦闘体制に入ったことで、“レッサーフェンリル“も威嚇しながら戦闘体制に入ったことに僕は気づき、直ぐに“影“達を止め、相手が襲って来ない限り、こちらから手を出さないように指示すると、“影“達は戦闘体制から警戒体制に戻し、僕の周囲に留まった。
その様子が出てきた“レッサーフェンリル“にも伝わったのか、襲いかかって来る様子はないが、警戒はして絶対にその場から動こうとしなかった。
ソル「“レッサーフェンリル“ですね。あの様子を見るに、あの神官服の男の使役している従魔なのでしょうか?」
「うーん、そう見えるけど、なんか違う気がする・・・」
確信はないが“従魔“ではないようだ思っていると、じーっとこちらを見ていた“レッサーフェンリル“が急に首を傾げた後、何故か僕に期待を込めた目で見たまま尻尾を振り出した・・・
「・・・君、こっちに来たいの?」
「!、ワンッ!」 パタパタパタッ!!
その期待の眼差しに何となく心当たりがあった僕がそう聞くと、“うん!“というように嬉しそうに吠え、また激しく尻尾を振った。
「ふふっ、可愛いね、じゃあ、こっちにおいで?」
「わふっ!!」 ダッ! キュッ! ペコリッ
僕が“おいで“と言うと直ぐに走り出し、急いで僕の座る場所まで来て止まり、丁寧にお辞儀をしてきた。
「「「「「えっ!!?」」」」」
(うーん、この反応は他の動物や魔物達と同じなんだよなぁ、でも、この子は気配が普通じゃないって言うか・・・もしかして、この子が“神様の子供“?(・Д・))
「ふふっ、それにしても、君はお行儀がいいね?良い子、良い子」 もふもふっ
“神の御子“疑惑が浮上した“レッサーフェンリル“だが、僕に向けてくる感情がいつも相手にしている動物や魔物達と変わらない事に気づき、そう思うと堪らなく可愛く見えてきて、いつもと同じようにその“レッサーフェンリル“を撫で回した。向こうも嬉しそうに撫でられて、お腹まで見せてきたのでこれでもかって言う勢いで撫で回しもふもふの毛並みを堪能した。
この時、ソルとジュール達は呆れ顔でその様子を見ていて、他の人達は驚愕した表情で固まって、特に神官長と呼ばれていたオジさんは信じられないと言った表情で僅かに震えているようだった。
ソル「アトリー様、その“レッサーフェンリル“が可愛いのはわかりますが、そろそろ情報の回収の続きをしませんか?」
もふもふ、もふもふ「はっ!!そ、そうだね!先にお仕事済まさなきゃね!」
ソルの呼びかけで、もふもふパラダイスから戻ってきた僕は、この可愛いもふもふに後ろ髪を引かれながらも、よほどありえない光景だったのか、今は動かなくなったオジさんの情報収集の続きを始めた。その作業の最中、“レッサーフェンリル“はジュールと何やら交流をしていたが、途中でジュールに威嚇されて凹んでいた。
(ジュールが怒るとは、何を話してたんだろうか?(・・?))
とか思いつつも作業を進め、少々物騒な情報を含め大体の情報を見終わると、そこでやっとオジさんが再起動した。
神官長のオジさん「はっ!!君!“神狼の御子“に一体何をした!?」
「あ、戻ってきた?・・・何をしたって言われても・・・何もしてないですよ?ただ、動物や魔物達は僕を見るといつもこうなっちゃうんです。その理由は僕にも分かりません。言えることがあるとすれば、多分、動物や魔物達に好かれやすい体質なんだと思います」 もふもふっ
(しかし、“神狼“ねぇ、この子は多分“聖獣“の子供だから、神格はないはず、それに、本物の“神狼“はここにいるし・・・(・Д・))
と、思いながら、モフっている“神狼の御子“の反対側で、彼を苛立った様子で睨んでいる狼種の“神獣“であるジュールを見た。
(本当、何を話して喧嘩したんだ?この2人・・・(*´Д`*)まぁ、良いか!)
「「「「「・・・はぁ!?」」」」」
神官長のオジさん「ふ、ふざけないで頂きたい!そんな事で、“神狼の御子“が他人に懐くはずがない!!」
「そう言われてもねぇ・・・見たままの事実だし・・・」 もふもふっ
(それより、あの情報は本当なのかジルおじ様に裏どり取ってもらったほうが良いかもなぁ(*´Д`*))
天華『そうした方が良いでしょうね』
夜月『情報は素早く正確に集めたほうが良いからな』
(だよねぇ( ̄▽ ̄)あまり大事にはしたくなかったんだけどねぇ)
ジュール『向こうが率先して大事にしたがってるんだから、止めるのは無理じゃない?』
(ですよねぇ・・・はぁ、僕は平和な日常が続いてほしんだけど・・・・はぁ〜・・・(*´Д`*))
そう会話している間にも気がかりな情報のせいで内心落ち着かない僕は、凹んでしょんもりしている“神狼の御子“を激しくモフる、そうすると、
神官長のオジさん「っ!!人と話している時は“御子“を撫でるのをやめなさい!!」
そう言って怒ってくるので、
「えー、落ち込んでるこの子を慰めてあげてるだけなのに・・・」 (ついでに自分の心も癒してもらってるけど・・・)もふもふっ
と、僕の足に頭を擦り寄せてくる、“御子“が可愛くてさらにモフる僕。その様子にオジさんは顔を真っ赤にして怒り出した。
神官長のオジさん「“御子“!!あなたも、そこから離れなさい!あなたは偉大なる“神狼様“の後継者になるんですよ!?」
“神狼の御子“「きゅぅーんっ・・・」 プイッ!
神官長のオジさん「“御子“!?」
オジさんの呼びかけにそっぽを向く“御子“、そっぽを向かれてしまったオジさんはショックを受けて悲しそうな顔をしていた、そこに、
ソル「・・・はぁ、良い加減、現実を受け止めたらどうです?貴方より、アトリー様のそばの方が居心地がいいんですよ、あの“神狼の御子“は…」
と、呆れた様子のソルがトドメとばかりに現実を突きつける。そして、その言葉に項垂れるオジさん・・・
(オジさんのHPはゼロだよ!!ソル!Σ('◉⌓◉’)労わってあげて!!)
天華『1番そのHPを削った人が何言ってるんですか?』
(ちょっと、何言ってるかワカンナイ( ・∇・))
そんなやり取りをしているうちに、広げていた感蜘網に反応があり、その反応からして、王都からの救援とデューキス家からのお迎えだと分かった。
「あ、もうちょっとでお迎えが到着するね。その前に全員を縄で縛るか・・・あ、その前に魔道具を回収してしまおう、魔道具の場所は僕が言うから、ソルも“影“達も協力してくれるかな?」
「「「「「お任せください」」」」」
「よろしく、1人づつ慎重に作業しようね」
そう言って地道な捕縛作業が始まった・・・