85話 野外実習6 問題発生!! Fクラス担任教師 ザック・ウチーチリ視点
デューキス君「結界の色が徐々に変わって行ってる・・・」
そう小さく呟きながら空を見上げた彼の視線の先を、僕も追ってみたが何一つその変化を感じることがなかった。そうしてしばらく空を見上げた後、副学園長の指示のもと、僕達は動き出した。
・・・そして、自分の担当のFクラスの長馬車に戻っている最中に問題が飛び込んできた・・・・
・・・副学園長の指示で僕達はすぐに自分達が乗ってきた長馬車に戻って、先程の話し合いで決まった事を実行すべく、生徒達が待つ長馬車へと向かっている最中に、その長馬車がある方向から数人の馭者が慌てた様子でこちらに向かって走ってきていた。
Fクラスの馭者「あ!先生!ちょうど良い所に!!大変です!生徒さん達が!!」
「生徒達がどうしたんですか!?」
先頭を走っていたFクラス担当の馭者さんが、僕を見るなり焦った様子でそう叫びながら近づいてきた、僕はその様子に只事じゃない空気を感じ、自分から馭者さんの方に駆け寄ってどうしたのかと聞いていると、彼の後ろからきていた他の馭者さん達が息を切らしつつも、次々に大変だと言い出した。
Eクラスの馭者「そちらの先生達の生徒さん達が!!」 Dクラスの馭者「っ、こっち、もです!生徒さん達が!!」 Cクラスの馭者「ぜぇっ、ぜぇっ!っ、こっ、こっちも!・・・」 Bクラスの馭者「はぁ、はぁ、お、お止めする事がっ!っ・・・はぁ」
「「「「「えっ!?」」」」」
生徒達が!と慌てた馭者達に他の先生達も慌てた様子で事情を聞こうと、走って来たせいで息が上がり、まともに話せない様子の馭者さん達をなんとか落ち着かせて話を聞いてみると・・・・
「な、なんだって!?彼らが独断で!?」
(なんて事だ!あれほど馬車から出てはいけないと言っておいたのに!!)
息の整ったFクラス担当の馭者さんの話によると、僕達が馬車を離れた後に、“「数人の男子生徒がお手洗いに行きたい」“と言い出したのがきっかけで、他数名の女子生徒もお手洗いを希望したとの事。
その希望を受けた委員長が馭者さんに相談しに行っている最中に、先にお手洗いに行きたいと言い出した男子生徒の1人が勝手に馬車から降りて行ったらしく、それに続くように他の生徒達も外に出て行ったそうだ。その内の数人が問題行動が多い生徒達で、お手洗いとは関係なく馬車外に出て、他の長馬車にいる友人の元に行ったりと、好き勝手し始め、馬車内に残っていた真面目な生徒達がそれを嗜めた事で、先に馬車の外に出てふざけていた生徒達が、注意した生徒を臆病者と罵り出した。
そこで仲裁に入ろうとした真面目な貴族生徒にふざけていた生徒達が突っかかっていき、喧嘩になった、その喧嘩がいつの間にか“「先生達が戻ってくるまでにFランクの魔物を1匹を早く討伐して来た方が勝ち」“、といった勝負に発展して、現在、Aクラス以外のクラス生徒、数十人が森の中に入って行ってしまったと、馭者さん達は話してくれた。
この時、他のクラスの長馬車からも、お手洗いや外の空気が吸いたいなどと言う理由で外に出ていた生徒達がたくさんいたそうで、この喧嘩のやり取りを見て悪ノリした生徒達がいたことで、この勝負に参加した人数が多くなったと言う証言も上がってきた。
その話を聞いた先生達は慌てて自分達の担当の長馬車まで戻ると、各クラスの長馬車の前で数人の生徒達が不安そうに集まっているのが分かった。
「委員長!!」
委員長「先生!!ごめんなさい!止める事ができなかった!!わ、私、何度も止めたんです!危ないから行っちゃダメって!!」
「分かってる、落ち着いて、委員長がちゃんとアイツらを止めたのは分かってるよ・・・」
長馬車の前で集まっていた生徒達の中にクラス委員長の姿が見えたので声をかけると、委員長は今にも泣きそうな顔で僕の方を振り返り、僕の姿見た途端、泣きながらそう報告してきた。泣きじゃくる彼女の方に手を置き、宥めていると・・・
メーチ先生「誰か!森に入って行った奴らの人数が分かるか!?」
と、すぐに森に入って行ってしまった生徒達の情報を集め出した。
女子生徒1「はい、このクラスから森に行ったのは男子生徒3人に女子生徒2人です!」
(はぁ、やっぱり、これはいつものあの子達だったか・・・)
と、元々、この話を聞いた時から、勝負を仕掛けて森に入って行った生徒達に心辺りがありまくった僕は、予想が大当たりしてしまって目眩を覚え、頭に手を当てて俯いた。
男子生徒1「そ、それとお手洗いに行った人がまだ数人戻って来てません!」
目眩を覚えて俯いてると、続けて他の生徒が他にも馬車から出て行っている生徒達がいる事を証言してくれた。
メーチ先生「何!?まだ戻って来てなかったのか!?」
「・・・それは、最初にお手洗いに行った子達がまだ戻って来てないって事?それとも先生達がここにつく少し前に出て行っちゃったのかな?」
メーチ先生は話に聞いていた最初にお手洗いで馬車から出て行った生徒達が戻って来てないのかと思ったらしいが、僕はそれとは別に、後からお手洗いに行きたくなって行った生徒達なのかも、と思い、一応確認してみると・・・
男子生徒1「それが最初に行った人達をあまりにも遅いから、ついさっき別の人達が呼びに行きました」
と、ちょっと予想外の答えが返ってきた。
「?、最初にお手洗いに行った子達はいつ頃出て行ったのかな?僕達が出てすぐ?それとも少し経ってから?」
お手洗いに行くだけにしては大袈裟だなと思った僕は、もしかして長い時間戻って来てないのかと思い、もっと詳しくお手洗いに行く経緯を聞くと…
男子生徒2「1番最初に出て行ったのは先生が出て行ってすぐです。あいつ、ここについてから具合が悪そうで…、あと、それとは別に続けてお手洗いといって出て行った人達もいますが、本当にお手洗いに行ったかは怪しいです・・・」
「「!?」」
(お手洗いに行ったか定かでは無い生徒達を呼びに、また他の生徒達が馬車の外に出て行ってるってことか!?今の危険な状況で!?)
1番最初に馬車を出て行った生徒は、本当にやむにやまれずと言った状況だったのは分かったが、それ以外にもお手洗いと言って出て行った生徒達もいるとのこと、その生徒達は本当にお手洗いに行ったかは定かでは無いらしく、その上、そのどこに行ったかわからない生徒達を呼びに行った生徒すらいる、この状況での更なる行方不明者の増加に、僕は頭痛がして頭を抱えてしまった。
メーチ先生「・・・森に行ったのとは別で、馬車内での待機が我慢できなかった奴らが出ていったって事か・・・おい、そいつらは何人ぐらいだ?」
男子生徒2「分かりません、あの時は喧嘩が起こっていて、その間に軽く声をかけて出て行った人達もいるみたいなんで・・・」
いなくなった生徒の人数を聞いてみると、喧嘩の騒動に紛れて出て行った生徒達もいるらしく、もはや、どこに行ったのか人数すらも把握できなかった。
メーチ先生「はぁ~・・・、マジかぁ・・・これは探すのは大変だぞ?近くにいれば良いが最悪、死人が出るぞ?」
生徒達「「「「「えっ!?」」」」」
「メーチ先生!」
メーチ先生「おっと、悪りぃ・・・」
「ふぅ、まず、ここにいる皆んなは馬車に入ろうか、それから人数確認しよう」
生徒達の証言で、行方知れずの生徒が他にも多くいる事を知ったメーチ先生が、深いため息をした後に今の状況を悲観しする発言をしてしまい、それを聞いてしまった周りの生徒達が驚き不安そうな表情をした。僕はすぐにメーチ先生を嗜め、生徒達をこれ以上不安にさせないように笑顔で生徒達を馬車内に誘導し、現在の生徒の人数の把握を優先させた。
この僕達のようなやり取りが他のクラスの長馬車前でも行われていた、なので生徒達を長馬車に乗せている時に軽く様子をみると、各クラスにも行方不明の生徒が少なくない人数がいるようで、情報を共有するために馬車外に出ていった人数を確認した後、各クラスの担任達は少しの間、同伴の先生に生徒達を任せて集まった。
「森に行った生徒が5人、他にもうちのクラスはかなりの人数が外に出て行っているようで、後、6人ほど居なくなっていて、その内1人はお手洗いに向かったのは確認が取れているそうなんですが、他の5人はどこにいるか把握できてません・・・」
Cクラスの担任「こちらも、森に行った生徒の4人は別に行方がわからない生徒が3人いました」
リーラール先生「Fクラスも森に5人、他に3人いないわ」
Dクラスの担任「こっちは森に3人、行き先不明が6人、6人中、本当にトイレに行ってるのは半分くらいらしい…」
集まった担任教員達に僕は隠す事なくかなりの人数の生徒が行方知れずだと話すと、他のクラスでもすでに森に入って行った生徒とそれとは別に行方知れずの生徒の人数をすでに把握していたようで各々報告をあげてきた。
(結構、他のクラスでも生徒がいなくなってるな・・・)
Bクラスの担任「Bクラスは森に入った生徒を引き留めに行ったのが4人だけです」
Cクラスの担任「4人だけ?少ないですね?それも引き留めに行ったって事は、勝負に乗らなかった生徒って事ですか?」
報告をあげて来ていた各クラスの担任教員達の中で、Bクラスの担任からは馬車からいなくなっていた生徒の人数が、思ったより少ない事とそのいなくなった理由まで判明している事に、不思議に思ったCクラスの担任が、詳細を聞いてみると。
Bクラスの担任「はい、それがどうやら、この場の空気の異変を感じている生徒が多いようで、怖がって馬車から降りたがらない子が大半でした。なので、正義感が強い生徒が、“勝負“と言って森に入って行った生徒達を止めるために追って行ったようです」
と、心配そうな表情で頭を振って息を吐くBクラスの担任教師。その様子に他のクラスの担任教師達も心配そうに息を吐いた・・・
(やはり、魔力量の関係なのか、この場の空気の変化を敏感に感じている生徒は成績優秀な生徒が多いBクラスに多いな、そのおかげで行方知れずになった生徒の数が少なくて済んでるだろうな・・・)
そう思いながらAクラスの長馬車がある方を見ると、デューキス君とソンブラ君だけが馬車の外にいて、副学園長と生徒の行方不明を知らせに行った馭者達の話を聞いたとコチラに向かって来ている様子が視界に入った、その様子を見る限りAクラスは行方知れずになっている生徒はいなさそうだった…
(Aクラスは行方不明者はいないようだ、ならこっちの生徒達を早く見つけ出さないと・・・)
Cクラスの担任「そうでしたか…、そうなると森の方面に行ったと分かっている生徒が21名、後、行き先不明の生徒は18名の合計39名か・・・思ったより大人数になりましたね。私達で捜索しに行くとしても少々人数が心許ないです。専門教員の方々にも数名お手伝いをお願いしましょう」
「そうですね。その方がいいでしょう」 「確かに・・・」 「森の方向と軍施設周辺と分かれて探しましょう」
Cクラスの担任教員の提案にクラス担任達は頷いて同意していると・・・
副学園長「その必要はありません」
「「「「「えっ?」」」」」
生徒達の行方不明の話を聞いて、コチラにやって来ていた副学園長が急にそんなことを言い出した。
Bクラスの担任「副学園長、それはどう言うことですか?生徒を見捨てると?」
副学園長の発言が生徒を見殺しにするのかと、他の教員達も厳しい表情をする中、副学園長は・・・
副学園長「いいえ、そう言う意味じゃありまあせん。すでに解決法があると言うことです」
デューキス君「39名、全員の居場所を捕捉しました。森の方にいる人達は全員、今から強制的に戻って来て貰いますが、軍の施設内にいる人達は直接呼びに行った方がいいと思いますので、そちらは先生達にお願いします」
「「「「「??」」」」」
「ど、どう言うことでしょうか?」 「強制的に??」 「居場所を捕捉??」 「戻ってくるとは??」 「呼びに行くって何処に?」
ブゥワァッ!!「「「「「うっ、ぐっ!?」」」」」
急に話に割って入ってきたデューキス君の言葉に僕達、担任教師勢は大混乱、言っている意味が理解できないうちに、デューキス君から膨大な魔力を感じ息が詰まるのを感じた。そして、次の瞬間・・・・
シュゥッ!! ドサドサドサッ!!
「「「うわぁっ!!」」」 「「「きゃっ!!」」」 「「「痛っ!!」」」 「わぁぁぁー!!」 「こっちにくるなぁーー!!」 「待ってぇ!!」 「なんだ、お前ら!!?」 「あ゛あ゛ぁぁぁー!!手がぁぁぁー!!」
「「「「「!!?」」」」」 (な、何が!!?)
何も無かった空間から多数の生徒達が急に現れ、驚いたり、怪我をして泣いていたり、何かに向かって叫び声をあげていたりと場が混乱する中、透き通るように凛とした声がその場にいた全員の耳に届いた。
デューキス君「森の中にいた人達、29人はここに全員“テレポート“させました、残り10名の居場所は今から言いますので、先生達が手分けして呼びに行ってください」
「「「「「はっ??」」」」」 「「「「「えっ・・・」」」」」
この時、何が起こったのか分かってない僕達に、デューキス君はなんてことないと言った風に慌てた様子も無く冷静な表情で淡々とそう言ってきた。その言葉にこの場にいた誰もが呆然とした表情を向けていたのは確かだった・・・




