81話 野外実習2 実習地に到着!
天華(『多分、アトリーとこの3人の王族と横に並びたくないんでしょうね。自分達がこのアトリーを含めた4人と並んだ場合、他者からどう見られるかと考えた彼らは、確実に自分達の方が見劣りすると自覚があるんでしょう』)
ジュール(『そうだよねぇ、この4人、クラスの中でも身分が高くて凄く容姿が良いもんね。同じ身分が高くてもこの4人と比べたらの魔力量と容姿の凄さでは勝てないから気後れしちゃってるんだろうねぇ~』)
夜月(『他者からどう言う評価をされるかと予想がつくから、必死に自分の存在を薄くしているんだろうさ。その点アトリーは他人からの評価なんて気にしなからな、彼らの行動の意味がいまいち理解できてないんだろう。まぁ、見栄を張らないとやっていけない者も存在すると言う事だな』)
ジュール(『人間って、本当面倒だよねぇ』)
夜月(『だな…』) 天華(『ですねぇ…』)
そんな、やり取りがされている間、僕達は無駄に豪華な長馬車の中で気まずい空気の中、目的地まで揺られていくのだった・・・・・
・・・・そして、現在・・・・
(うーん。気まずい、イネオス達の班の人達とは最近よく話をしたけど、こっちの王族3人と同じ班になった人達とは初めましてだもんなぁ~( ̄▽ ̄)それに班の中でも空気悪そう・・・)
因みに、エルフのフィエルテ王女と、ダークエルフのアンテレ王子が同じ班で、鬼族のオルコ王子は別の成績上位者と班を組んでいる。なので、この場所には初めましてと言っていい人が合計7人もいるのだ。その7人と僕は今まで接触が無かった人達なので何を話して良いか分からないのが現状です。しかもその内の約半数が一般市民の人達なので、同じ班内でも貴族の人との間にわずかな壁を感じ、今は僕の班の人達を含め一般市民勢はガッチガチに緊張しています・・・・
「うーん、凄く気まずい、どうしたらいい?こっちから何か話しかけた方が良いのかな?」ヒソヒソ…
ソル「どうでしょう。向こうの班の人間関係がどうもうまく行ってないように見受けられますので、何が原因か詳しい事情を知らない僕達が話かけるのはやめておいた方が良いと思います」ヒソヒソ…
「あー、確かに・・・」ヒソヒソ…
(2班の一般市民の人達4人は仲良く同じソファに座ってるけど、貴族達は3人は同じソファに座っててもなんか凄く不服そうで機嫌が悪いな、それぞれも、それぞれで仲が悪そうだ・・・、その貴族3人の様子に王女や王子達が困った顔や引き攣った笑顔を貼り付けてるなぁ(*´ー`*)王族の3人があんな表情するとは、何やらかしたんだ?あの貴族3人は(・Д・)・・・)
その後は無理に話をふる事はせずに、自分達の班の人達と今日の野外実習や課題について話していた。たまに王族3人が話題に入ってきて、質問してきたりするので、当たり障りの無い範囲でその質問に答えたりとしているうちに、長馬車は王都の西門を出て西街道をゆっくり走り出した。
「あ、門を出たね。そう言えば西門に来るのは久しぶりな気がする。いつもは南門の方を使って王都から出てるから、こっちから出るのは新鮮だね」
ソル「そうですね。西門から入ってくることはありましたけど、出ていく事はなかったですね。冒険者活動でもこちら側にくる事はありませんから、地理的に分からないことがありそうです」
「そうだよね。入ってくる時は馬車移動だから、ここら辺は歩くことなかったし、今回の実習地もこの街道の近くって聞いて驚いたよね。街道からは見えないところの森を国が管理してたなんて知らなかったよ。規模もどれくらいか知らないし軍の施設で機密扱いだから、地図にも詳細は載ってなかったよね?」
ソル「えぇ、載ってませんでしたね」
以前、王都近隣の詳細な地図を作成した時に森の存在は知ってはいたけど、それが国の管理下にあった事は初耳だった。王都から程近い場所にあるので軍の訓練施設としては便利なのは確かだろうと納得していると、ロシュ君が心配そうにこう聞いてきた。
ロシュ君「確か、軍の施設扱いだって聞きましたけど、僕達みたいな平民の学生が入っても良いんでしょうか?それに場所がバレたら大変なんじゃ・・・」
「あぁ、それは現地についたら説明されると思うけど、その森は元々軍の戦闘訓練施設だから、常に訓練場として誰かが魔法の試し打ちや対戦形式の訓練などが行われているらしいよ。そんな時に無断で入ると問答無用で攻撃されるからね。怪我しても自己責任だから危なくて率先して入って行く人はいないし、こうやって、学園の授業でも無い限り入る許可は降りないからね。それに無断で入ったのが見つかったらそのまま捕まって牢屋行きだよ。だから、なんの得もないのが分かっててわざわざ入って行く人はいないって事」
ロシュ君「そうなんですね。確かにそんな危ない場所に自分から行こうって人はいませんね」
軍施設の情報漏洩の心配をしていたロシュ君は僕の説明を聞いてホッとした様子で笑った。その話を聞いていた他の一般市民のクラスメイトもホッとした様子だったが、僕の班の2人はそれより、他の心配もあったようだ。
イリーさん「私なんて、今回初めての城壁外の森です。王都から出るのもほぼ初めてって感じですから、ちょっと緊張しちゃいます・・・」
チェルシーさん「私は近隣の街や村までは行ったことがありますけど、訓練場って呼ばれるところのような大きな森には入った事はありません」
「そう言えばそうだったね、僕達は結構頻繁に冒険者活動で王都外の大きな森に入る事は多いけど、王都で普通に生活してるとそんな大きな森には入る機会はないんだよね」
(この世界では生まれた土地から一生出ないことも多く、安全な城壁の外に行く人はそれこそ冒険者や商人、貴族などの本の一握りの人達だけだったな、それにまだ、僕達のような年齢の子供なんて、城壁外に子供達だけで出て行くこともそうそうないしな、学園にある小さな森以上に広い森に入ることなんて初めてでもおかしくないか(*´Д`*)・・・)
その心配はクラスの半数以上の生徒が思っていることであったようで、この会話を聞いて小さく頷く人達がたくさんいた、貴族家の子供でも街道沿いの整備された小さな森などには行ったことがあっても、軍事施設とは言え、実践形式のほぼ整備されてない大きな森は入ったことがなかったようだ。何が待ち構えているか分からない不安で皆んな口数が少なくなったいた。
(僕達みたいに冒険者登録して活動している人達は学園とかには通ってる人は少ないもんな、特にAクラスは高成績を維持しなきゃいけないから冒険者活動なんてしてられないんだよなぁ、そもそも、このクラスは王族が多いから、冒険者してるのって僕達ぐらいだしな・・・そう考えると、この野外実習、素人ばかりだからかなり危険なんじゃ・・・(・・?))
天華『そうかもですね、でも、軍の方で事前に危険な魔物は討伐されているって言ってましたから、大丈夫でしょう。まぁ、多少、森で転けて小さな怪我するとかする人は出るかもしれませんが・・・』
(・・・フラグ?・・・)
天華『・・・あっ・・・』
こうして嫌なフラグを立ててしまった頃には長馬車はもう、実習地に到着してしまったのだった・・・・
「もう着いたの?結構近かったのかな?」
そう言って窓の外の景色を見た瞬間。
「っ!?」
ソル「!、アトリー様、どうかなさいましたか?っ!?」
「「「ん??」」」
(天華!これって、“あれ“が始まってるって事で間違い無いよね!?)
天華『はい!間違い無いです!だが、これはこのままだと危ないですね…』
僕が窓の外を見て驚いていると、それに気づいたソルも僕の視線を追って外の様子を見た。外の光景に僕と同じように息をつめたソル、その様子に近くにいたロシュ君達も同じように外の様子を見ていたが何があったのかと首を捻るばかり、その様子は他の人達にも伝わり皆んなが馬車の外に視線を向けていく。そんな事には気にせず、天華に手短に今の状況の確認を取ると、僕の予想は当たっていたようで、天華はその状況が危ないと断じた。
フィエルテ王女「?・・・えっ!?」
アンテレ王子「どうしっ、なっ!?」
オルコ王子「どうした?4人とも?」
馬車の中の人達全員が窓の外を見た時、僕とソルと同じ反応をしたのはエルフ族のフィエルテ王女と、ダークエルフ族のアンテレ王子のだけだった・・・
そして、同じソファに座っていたオルコ王子は何があったのかと僕達に聞いてくるが、僕達は外のあまりにもな光景に言葉が出なくなっていた。
「・・・っ、なんでこんな事に!?・・・はっ!そうなると、このまま進んではいけない!!」バッ!
副学園長「ちょっ、危ないですよ!」
ガチッ!ガチャガチャッ!
少しして僕はすぐに我に帰り今見えている光景に対応しなければと、すぐにこの長馬車を操っている馭者のいる、馭者台に通じる扉の方に向かって走り出した、それを見た副学園長は驚き、目を丸くしていた、だがすぐに馬車がまだ動いているので危ないと注意していたが、僕はそんな事はお構いなしに馭者台に続く扉を開けようとしたが、鍵がかかっていたのか開かななかったので、咄嗟に扉を叩きながら叫んだ。
「っ!馬車を止めるんだ!!このまま先には行ってはいけない!!」 ドンドンドンッ!ドンドンドンッ!
僕のこの行動にクラスメイトは目を見開き驚いたり、不安そうに周囲を見回したりしていたが、僕はそのクラスメイトを守るために必死で馬車を止めようとした。だが、その行動は無常にも意味をなさず、馬車はスピードを落とす事なく、実習地の軍の訓練場の敷地内に入っていってしまった。
「っ、結界内に入ってしまったか・・・」(どうしよう、入ってしまったけど、これは入り口から戻ったらこの結界から出れるのだろうか?)
副学園長「どうしたのですか?デューキス君?」
「副学園長先生、今日の野外実習は取り止めにできませんか?」
副学園長「えっ?何故ですか?」
僕は肌感覚でこの地に張ってある結界の様なものを通り抜けた事を感じ取り、扉を叩くのをやめて、この先どうしようかと考え始めていると、馬車が停止したことで、僕の側に駆け寄ってきた副学園長が心配そうに声をかけてきたので、僕はこの状況下ではこのままここにいるのは良く無いと思って、野外実習の取り止めを進言した。その発言に眉を顰め説明をお求められてのだが、僕はどう説明したものかと少し考えて口を開いた。
「・・・・先生、今、この場の状況が先生にはどう見えますか?」
副学園長「この場の状況?・・・」
僕の問いかけに、副学園長はゆっくり馬車の窓に視線を送った。しばらくして…
副学園長「・・・普通に何も無いと思われますが・・・」
夜月『アトリー、精霊が見えている我ら以外には何も見えてないが、馬車の外に出れば何かしらの異変に気づくと思うぞ・・・』
(!、そうか、僕は外の異変が感じた時から外の状況を感知している様にしているけど、先生は視覚的異変を感じないから、外に向けての感知をしてないのか、それに、この長場車の空間拡張のせいで、感知能力が大幅に低下しているもんね!( ・∇・))
「先生、一旦、外に出て、もう一度周囲に違和感がないか見てもらえませんか?」
夜月にアドバイスされて、すぐに副学園長が外の異変を感じてない原因がわかった僕は、そう言って先生を外に誘導する事にした。
副学園長「外に出て?・・・はぁ、いいですが、もっと詳しく説明をお願いできませんか?デューキス君・・・」
そう言いながら馬車の扉の鍵を開けて、扉を開くと・・・
「「「「「っ!???」」」」」 ざわっ!!
「な、何今の!?」 「ゾワって来た!?」 「変な感覚がしたっ!?」 「外から変な風が来た!!」 「鳥肌がたった!!」
副学園長「こ、これは・・・いったいここで何が・・・」
扉が開いたと同時に、馬車内はざわめき出し、感知能力が高い数人の生徒達が自分達が独自に感じた感覚に戸惑っていた。副学園長は扉の外に出て周囲を見渡しながら、自分が感じたその異変を感知能力で探ろうとしていた。
「先生も異変をお感じになられたと思いますが、今、この場所は・・・多分、“ダンジョン“ができている最中だと思われます・・・」
副学園長「!?、ど、どう言う事ですか!?ダ、“ダンジョン“って!?「しっ!先生、もっと声を落としてください!」あっ!」
僕が見た光景、それは軍訓練場に張られたドーム型の結界の中で、たくさんの精霊達が渦を巻くように畝っている大きな力を必死に抑え込み、その力を何かに変換している様子が目に映っていたのだ。
その大きな力は、僕の目に映っているだけで、ソルやエルフ種の王女や王子達には、精霊達が不自然に渦をまき、実習地の訓練場の森を覆っている様にしか見えてないだろうが、それでも十分に異様な光景だったためかなり驚いていた。
だが僕は大きな力の正体が“自然エネルギー、または星のエネルギー“と言われる、この世界になくてはならない貴重な力であることが分かっていて、それが何故かこの土地に大量に噴き出している事が、とても危険だと言うことはすぐに理解したから、野外実習の取り止めを進言したのだった。
「先生、そのままでいいので話を聞いてもらえますか?」
副学園長「っ・・・」コクンッ
「先生、まず、貴女は僕の能力、いや、立場をどのくらい知ってますか?」
僕と副学園長は自分達の長馬車の隣で話をしていたが、馬車の扉が開いていたので、先生の驚きを嗜めると、先生は咄嗟に自分の手で口を押さえた。僕はそのままでいいので話を聞いて貰う事にして、先生に小声で僕の能力や立場、その正体などをどのくらい知っていて理解していることから確認を始めたのだった。
そうして話しているうちに他の長馬車も次々軍の訓練場の敷地内に入ってきていて、それを見ながら現状を整理していった。
「先生、もう実習地に入ってしまったのはどうしようもないので、まずはこの状況を他の先生方と共有することから始めましょう」
副学園長「ええ、分かりました。すぐに他の先生方に集まってもらいましょう。それにここを管理している軍関係者の方も呼んできます」
そう言って他のクラスの長馬車の乗っている同伴の先生たちを呼びにいった副学園長、僕はその後ろ姿を眺めながら一つため息を吐いた。




