76話 “祝いの式典“終了
「・・・♪~~~…「シャンッ!」ふぅーー・・・、ご清聴、ご観覧いただきありがとう御座いました。続いて、“祝いの言祝ぎ“を国王陛下より賜りたく存じます・・・!?」
歌と共に踊り終わると、再び始まりと同じ姿勢に戻り深々と頭を下げて、こう言って後ろを振り返った・・・・
(な、何だこの状況は!?∑(゜Д゜))
振り返って見ると、そこにいた人達の大半が大きく目を見開き口まで半開きにしたまま放心していたのだ、人によっては両膝をつき手をだらしなく下げたまま座り込んでいたり、祈りの態勢で放心している人や、祈りながら涙まで流している人達までいた。そんな人達の中で僕の家族や血縁者である王族の人達だけは、辛うじて立ったまま放心していたので、僕は恐る恐るサフィアスおじ様の所に近づいていき、そっと声を掛けた・・・
「サフィアスおじ様?出番ですよ?」
サフィアスおじ様「はっ!!?「ビクビクッ!?」・・・あ、アトリー・・・今、私は天に召されそうになっていたよ・・・・」
「ん?・・・そんな、馬鹿な・・・」
何を言い出すかと思えばそんな事を…、と言った感じで笑った顔を手に持っていた“舞扇“で口元を隠しながら、冗談でしょって感じで言いながら周囲を見渡すと、サフィアスおじ様の声で正気に戻っていた他の王族達や家族が無言で何回も頷くのが見えた。
ルスじいじ『アトリー、今まで参加してきた“式典“などの中で、1番優美で荘厳なものだったぞ!』
「ルスじいじがそこまで言うほど?」
(あれ?魔力とか漏れてたかな?でも、今までエルフ達が数う多く行ってきた“式典“を見てきたルスじいじ達が、あんなに喜んで褒めてくれるなんて思っても見なかった…僕の“歌と舞“が他の人達に感動して貰えてるって…嬉しいな・・・(о´∀`о))
真剣な表情で頷く大人達を見ながらもまだ少し信じられない僕、そんな僕にルスじいじからは上機嫌で褒められて、そのじいじの言葉に他の精霊王達も笑顔で頷いて、僕の“歌や舞“を次々褒め称えてくれた。それに続くように家族や王族達にも褒められて、そこでやっと自分がした事がどれだけ他の人達を感動させる事ができたか分かって、前世でやってきた事は無駄ではなかったと、胸の奥がじんわりと暖かくなって来るのを感じて嬉しくなった。
「ふふふっ、そう言ってもらえるなんて嬉しいな・・・」
「「「「「ぐふっ!!」」」」」 『『『『『まぁ♪』』』』』 『『『『おぅ・・・』』』』
「!、そ、それよりサフィアスおじ様、今はサフィアスおじ様の出番ですよ!祭壇前で祝いの言葉を言ってください!じゃないと“式典“が終わりません!」
照れて歯に噛むように笑った僕の表情に大人達はまた鼻を押さえたり、胸を押さえたりとし、精霊王達は照れている僕を見て微笑ましいとばかりの表情をした。それに気づいた僕は恥ずかしくなって、慌てて皆んなの意識を逸らそうと本来の用事をサフィアスおじ様に伝えた。
サフィアスおじ様「!、そ、そうだった!!」
そうして重要な役目を思い出したサフィアスおじ様は服装を整え、気を引き締めた表情で先程までと打って変わって、威厳ある雰囲気を出し祭壇に向かって歩き始めた。精霊王達も雰囲気を読み祭壇の周囲で真面目そうな表情でそれを待ち受けた。
(ふぅぃー…、もう少しで僕が恥ずかしぬ所だった・・・( ̄∇ ̄))
ジュール『うまく誤魔化したね…』
天華『誤魔化しましたねぇ』
夜月『誤魔化したな、しかし、そんな恥ずかしがる事は無いと思うがな…』
(!、い、いいの!これで!大体、前回の“送還の儀“の時は周囲の反応なんて気にしてる余裕がなかったから、あんなに喜ばれてるなんて知らなかったんだもん!急にあんなに褒められるとどう言う顔していいか分かんないんだもん!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾)
天華『本当に、アトリーは他者からの賞賛になれませんねぇ・・・』(まぁ、そこが可愛いんですけど・・・)
そんな念話をしていると、サフィアスおじ様が祭壇前に到着して、右手を胸の上に置き恭しく一礼をし祝いの言葉を述べた。
サフィアスおじ様「この度、我がウェルセメンテ王国に“精霊樹の枝葉の愛し子“が誕生した事を国を代表し心より喜び申し上げます。そして、“愛し子“の健やかな成長を“見守る事“を“精霊樹と精霊王様方“にお約束いたします」
そう言って再び恭しく一礼して後ろに下がってきた。
(おや?えらくシンプルだね?それに“見守る“って事でいいの?“後ろ盾“なるとかじゃなく?(*´Д`*))
天華『あぁ、それはさっき、アトリーが支度を整えている間に、“祝いの言祝ぎ“の文言をどうするかと、国として“愛し子“にどう言った対応をしたら良いかと話あっていたので、私が精霊達の希望を聞いて通訳したところ、精霊達的には“愛し子“にはアトリーのような扱いを求めているようで、国としてはただ静かに見守るぐらいがちょうどいいと言ってましたね。どうやら、エルフの国で生まれた“愛し子“は、親元から引き離されて過剰に守られ、王族以上に自由が効かなくなって、幸せとは程遠い生活をする者多かったようです。ダークエルフの国では、周囲から崇め敬われて、甘やかし放題されて、性格が悪くなっていく傾向にあったようです。なので、この人族の国では国からの過剰な干渉は控えて、“愛し子“には親元でのびのびと自由に育って欲しいそうです』
(あー・・・教育の両極端にダメなケースだな・・・エルフ種って何に対してもほんと極端だよね・・・(*´ー`*))
天華『ですね・・・』
僕がサフィアスおじ様の“祝いの言祝ぎ“を聞いて不思議に思ったことを聞くと、天華が理由を話してくれた、その理由を聴いた僕は心底エルフの風習に呆れたのだった。
天華とそんな念話をしている内に他の王家や親族、精霊王達から、“愛し子“への祝いの言葉と共にプレゼントが祭壇前に積み上げられていき、精霊達が喜びのダンスを披露したりしていた。そして全員がひとしきり“愛し子“の誕生を祝ったところで、僕は再び意識がぼやけて“精霊樹の人格“に身体の主導権を奪われた。
(あっ…、またか・・・(*´-`))
夜月『またか、しかし、やたら主導権を奪われやすいな?』
天華『波長が凄く合って同調率が高いんでしょうね。それにアトリー、あなた“精霊樹の人格“に抵抗する気ないでしょう?』
(あー・・・うん、なんでかな?分かんないけど、“精霊樹“なら良いかなって思って、なんか、凄く自然とそう思っちゃって、気がついたら体の主導権が向こうに移ってるんだよねぇ、それに僕なんか眠くなってきたし・・・(_ _).。o○)
ジュール『あらら?おねむになってる?・・・』
夜月『流石に生まれて初めての夜更かしはキツかったか』
天華『仕方ないですね、今日一日大忙しでしたから・・・』
そうして僕はほぼ寝たような感覚で、“精霊樹の人格“が大人達に向かって何か言っているのをぼんやり聴いていた。
「[皆からの祝いの言葉、とても嬉しく思います。私もこの先、この子がスクスクと育つことを願います。そして、この場に集まった人々へ感謝の気落ちを込め、私の“葉“を送りましょう]」
そう言って、祭壇に置いていた“異世界の精霊樹の枝“を掴み、力を込めた。そうすると“枝“がみるみる成長していき、枝葉が増え、40センチ弱の枝が倍の80センチ程の大きな枝に変化していた。そこまで成長した“枝“は何もしてないのに瑞々しい葉がハラハラと枝がら散っていく、それを小さな風の精霊達が風で一つにまとめ、優しく祭壇の上に置いた・・・
「[これをこの子の贈り物への返礼とし、“祝いの式典“を終わりとします。・・・
そして、今後はこの子の人生に無条件に関わりを持てるのは、本人とご両親以外では、“現人神“となった“この方“以外は発言権すらないと言うことを心に留めておいてくださいね]」ニッコリッ
ザワッ!
そう言って自分が憑依している身体、僕の胸に手を置き意味深な笑顔を大人達に振り撒いた。
(うわぁー・・・“何かする気なら容赦はしないぞ“って副音声が聞こえた気がするー・・・(*´ー`*))
「[この子の人生はこの子のやりたい事をしてほしい、でも、人族としての最低限の常識と知識を得るために必要な助言も今言った人達だけとします・・・]」
この“精霊樹の人格“の発言は、国王始め、他家から嫁いで来た王妃や王子妃、それに騎士として務めている人達に向けて、ぶっとい釘を刺したのだ、この時この言葉を聞いた人達は戸惑い、どこか少なくとも、自分の理になるような考えを持っていた人達は、心の中で静かに悔しい思いをしたのだった・・・
「[さて、ご理解いただけたところで、私達はこれでお暇させて頂きます。なので、この方は今からお倒れになられますが、お休みになられているだけなので、ご心配は要りません。では失礼・・・](プツッ!)っ・・・」 ふらっ…ぽすっ
「「「「「アトリー!」」」」」
“精霊樹の人格“が僕の体から離れた事で、もうほぼ意識が寝ていた僕は力無く近くで受け止める準備をしていたジュールの背中に背中からダイブした。
すると、それを見た僕の家族が心配して駆け寄ってきた…
「お、休み、な、さい…すぅ…すぅ…」
駆け寄ってきた家族に、かろうじてお休みの挨拶をして僕はその日は寝てしまったのだった・・・・
・・・・・アトリーが寝入ったその後・・・・・
第三者 視点
アトリー「お、休み、な、さ、い…すぅ…すぅ…」
「「「「「っ、・・・はぁ~~っ」」」」」
アイオラト「ふぅ、本当に寝ただけのようだね・・・」
シトリス「そうですね。いつもよりだいぶ夜更かししていましたから限界だったんでしょう・・・」
1番先にアトリーに駆け寄って来てアトリーの体を抱き抱えていた両親は、静かに寝息をたたている息子が、本当に寝ているだけど分かって安堵の息を吐いていた。
サフィアス王「ほっ、寝てるだけか…しかし…、最後に“精霊樹様“が言った。“この方“と言う言葉、アトリーの事なのは間違い無いのだろうが、“精霊樹様“より“現人神“になったアトリーの方が、序列が上、と言う事なのか?“現人神“とはそれほどまでに尊きものなのだろうか・・・」
“精霊樹の人格“が発した言葉がこれまでの自分達の認識は正しいのかと真剣に考え始めたサフィアス王、その言葉に他の王族達もハッとし、考え始めた。
サフィアス王(以前ラトから聞いた説明では、“現人神“とは天に座す神々とは違い、力に制限がかけられて、肉体に縛られているので、完璧な神ではなく、“神の見習い“のようのものだと言っていた。だが、序列の扱いは“加護を得た愛し子“より位は高いとは聞いていたが、“聖域“でこの世界の精霊達を生み出し、星の自然の力を整えていると言われている“精霊樹様“より位が上とは聞いたことがなかったな、そもそも今まで“現人神“となれる存在がいる事さえ半信半疑だったからな、その辺の上下関係の基準が全くもって分からない・・・今後アトリーにどう言った接し方をすれば良いか、いよいよ分からなくなってくるな・・・)
そんな疑問に頭を悩ます王族達とは違い、アトリーの家族は服装が元に戻っているアトリーをベッドに寝かせる手配をし、祭壇の上で大人しく寝ていた“愛し子“を父親のハウイが迎えにきて、母親のカシミールの腕に抱かせ部屋に移動したり、使用人達にはこの場の片付けなどを指示、テキパキと行われている作業の中で、精霊王達はいつの間にかこの場からいなくなっており、残るは頭を悩ませている王城から来た一行をどうしたものかと相談しているのだった・・・




