73話 “祝いの式典“
「えぇ、構いませんよ、僕の“加護の結界内“に入れることができれば・・・」
「「「「「!」」」」」
(今の僕の“加護の結界“、あの子の害になりそうなものも弾くように設定されてる感じがするんだよね、( ´ ▽ ` )何故か・・・)
夜月『ふむ、多分、アトリーと繋がっている“精霊樹“が“加護の結界“の設定に干渉しているんだろうな』
(まぁ、そんな感じはしてるね・・・てか、いい加減行くか、あっちが結構待ってるし・・・)
僕の言葉に驚いた表情をした人達そっちのけで、僕は“テレポート“の為の魔力を練りながら自分の家の方の様子を探り、王族をもてなす用意をしている場所の座標を決めていた。
「さて、そろそろ行かないと向こうが待ってますから、行く人は持って行きたい物を持って僕の周囲に来てください、この輪に入れない方はお留守番か、持っている荷物を置いて再度入ってくださいね」ブゥンッ・・・
そうして、僕が可視化させた“加護の結界“の範囲を示す輪の中に次々入ってくる王族の人達、その後に騎士や使用人達も続き全員が問題なく入ろうとした時・・・
バチンッ!「きゃっ!?」 ドサッ!
「「「「「!?」」」」」
「・・・・!!っ…[そこの貴女、貴女のつけているソレ、“よくない物“だ、早急に外して捨てなさい]」
?「ひっ!」
1番最後に結界内に入ろうとした、女性騎士が“加護の結界“に阻まれ、尻餅をつくように後ろに転倒した。ソレをみた僕はすぐに“真眼スキル“を発動させて、その女性騎士をよく観察した。すると、女性騎士の胸元から以前にも見た事のある、“呪詛“を行うときに発生するドス黒い“思念体“のモヤが纏わり付いているネックレスを見つけたのだ。
僕は“すぐにこれを浄化しなければ“と、思ったのだが、僕の意思とは関係なく、また誰かが僕の体を使ってさっきの言葉を発した。
(っ、また口が勝手に・・・“精霊樹“なのか?えっ?もしかして、少しでもあの子の害になりそうな物を排除しようとしてる?( ;´Д`)…あぁ、今回は体まで・・・)
夜月『アトリー!大丈夫か!?』
(今の所は大丈夫、これはもう“精霊樹“の好きにさせるしかないよ、あの人の持っているのは確かにかなりよくない物だし・・・(*´ー`*))
夜月『仕方ないか、確かにあれを屋敷に持ち込まれるのは危険すぎるからな・・・』
デューキス家の屋敷でも似たような感覚があったが、今度ははっきりと自分の“神力“とはまた違った“力“を感じ、その“力“を操る“精霊樹“と思わしき“人格“が僕の体を使い、呪詛の媒体となっているであろうネックレスをつけた女性騎士に、威圧を放ちながら近づいて行っている。
サフィアスおじ様「アトリー?」
「[早く外して、でなければ貴女は連れて行けません]」
女性騎士「っ!こ、これは、婚約者からの贈り物なんです!どうか、ご容赦ください!」
僕の様子が変なことに気づいたおじ様が近づいてきたが、僕の体を乗っ取っている“精霊樹の人格“はその事に構うことなく、女性騎士にさらに圧を強めながら、ネックレスの取り外しを強要する。だが女性騎士はそのネックレスに思い入れがあるのか、ネックレスを取ることを渋っていた。
「[ダメです。それは、貴女だけではなく、周囲にも被害が出る、その“負の思念体“がまとわりつく“呪物“を即刻手放しなさい、でないと、貴女自身を“贄“に周囲を巻き込み、“邪気“を振りまく。そうなったら、ここにいる私以外の全ての人が取り返しのつかない事態になります]」
サフィアスおじ様「“呪物“に、“贄“・・・“呪詛“か!その者を拘束し、隔離せよ!!」
「「「「「!はっ!!」」」」」
女性騎士「っ!」
“精霊樹の人格“と女性騎士のやり取りを聞いていたおじ様が、すぐに危険性を感じ取り、女性騎士ごと物理的に僕から引き離すように指示した。
「[待ちなさい、アレは、早急に浄化することを勧めます。あの女性がアレを手放したくないと言うのなら、女性ごとアレを浄化することもできますが、してしまっていいですか?]」
サフィアスおじ様「!、アトリー?…っ!瞳が・・・、お願いできますか?」
(ん?瞳の色がまた変わってんのかな?(・・?))
「[分かりました。では、“神器召喚“…邪悪なる気を祓い清めたまへ、“邪祓清浄“]」
(あ、体が僕なら勝手に“神器“出せるんだぁ・・・)
バサッバサッ! ぽわぁ~・・・ 「「「「「!?」」」」」
女性騎士「えっ!?な、何これ!?」
「[これで、問題ない]」
ナチュラルに僕の“神器の腕輪“から“異世界の精霊樹の枝“を取り出し、祝詞をあげながら“浄化“をした“精霊樹の人格“、ソレをみて僕は体を乗っ取られるとこんな事までできるのかぁ、なんて呑気に思っていると、“浄化の光“に包まれた女性騎士は、自分自身から滲み出てきたドス黒い“思念体“のモヤを見て驚愕していた。しばらくすると、そのドス黒いモヤも綺麗に“浄化“されて消えていくと、女性騎士もその彼女を取り押さえていた同僚の騎士達もホッと安心した様子を見せた。
(ねぇ天華、“浄化“の技って複数あるのかな?僕がいつも使ってるのは“邪気浄滅“だけど、今の“浄化“の祝詞は“邪祓清浄“って言ってたよね?(・・?))
天華『そうですね、祝詞は自分が思う“浄化“のイメージを反映する物なので、アトリーの“浄化の祝詞“は主神様からの教えでそうなりましたが、今の“浄化の祝詞“は“精霊樹の人格“が思い描いた“浄化“のイメージを言葉にしたのがアレだったんでしょう、なので基本的に“浄化の技“としては同じ効果しかありませんよ。
ただ、“浄化“を行う人の得意な属性魔法が付与される事があるので、そこを意識して“浄化の祝詞“もまた変わってくると思われます』
(ふぅーん、そう言えば今のは言葉通り“祓い清める“って感じがしたけど、僕のは“消滅させる“って感覚だった気がするなぁ、その違いが“祝詞“に出てくるって感じか・・・(*´Д`*))
天華『まぁ、そんな感じですね・・・』
(てかさ、あの人なんであんな物持ってたんだろう?アレって以前も似たようなの持っている人達いたよね?確か販売中止になって、全部回収されたって聞いたんだけど、まだ回収しきれてなかったのが出て来たのかな?( ̄▽ ̄))
天華『どうでしょうね?以前のものとは違って、今回は標的が誰かわわかりませんが、着用者を“贄“として呪詛を発動させるタイプですね。ソレも、周囲にいる他の人を巻き込む前提で・・・』
(・・・まじか、グレードアップしてさらにヤバい代物になってるなアレ・・・(・Д・))
今回、使われた呪詛の媒体となったネックレスは以前の物とは違い、所有している人が呪詛を仕込んで発動させるのではなく、呪詛を仕込んだ後に着用者を“贄“として呪詛を発動させる代物ようだった。しかも、今回の標的が誰だったのか、その発動条件はどんな物だったのか、それすらもあやふやで、無差別テロのような仕組みになっていたその呪詛媒体のネックレスを僕達はかなり危険視する事になった。
(家に帰ったら父様にこの事を報告しなくちゃね。また変なものが流行っているみたいって・・・)
天華『そうですね・・・』
“浄化“が終わった女性騎士を他の騎士に引き渡すようにサフィアスおじ様が指示したり、再度持ち物やプレゼントなどに不備がないかと点検しているローズ様達の様子を見ながら、僕はこんな感じで念話していると、僕の体を乗っ取っている“精霊樹の人格“が待ちきれなかったのかおじ様達を急かし始めた。
「[では、もう移動する。早く円の中に入らないのなら置いていく]」
サフィアスおじ様「!、同行するものは速やかに輪の中に入るんだ!」
バタバタッ!
「[“テレポート“]」
サフィアスおじ様の指示ですぐに“加護結界“の輪の中に入って来た近衞騎士達、今度は何の問題もなく全員が入れたことを確認した“精霊樹の人格“は、すぐに“テレポート“の魔法を発動させた。
「「「「「!?」」」」」 「もう、着いたのか?」 「ここはどこだ!?」
サフィアスおじ様「…デューキス公爵、お邪魔するよ・・・」
父様「お待ちしておりました。陛下…」
一瞬でデューキス家の大広間に移動して来たことに、初めて“テレポート“を体験した人達は困惑し、状況が飲み込めていなかったが、サフィアスおじ様はすぐにココがどこか把握し、目の前で準備万端で待ち構えていた父様達を見つけて挨拶を交わした。
「[君の為にすぐに“式典“を始めるからね。可愛い私の“愛し子“]」
カミィ姉様「アトリー?」
挨拶を交わす父様達を置いて、“精霊樹の人格“は産後間もないことで立つのが辛いカミィ姉様が座っているソファーに近づき、姉様が抱き抱えている赤ちゃんを覗き込んで笑顔でそう言った。赤ちゃんはもう夜遅くと言って良い時間帯なので、すでに寝ていたのだが、そんな様子も慈愛のこもった目で嬉しそうに見ていた。
カミィ姉様は近づいて来た僕の異変に気づき、心配そうに声を掛けてくれたが、“精霊樹の人格“はそんな姉様に無言の笑顔で返してそのまま後ろを振り返った。
「[さぁ、“祝いの式典“を始めてください]「ふっ!」っ!?…ふぅ、やっと出て行った?いや、僕はまだ眠くないからまだ中にはいるな…、しかし、今ここまで来て僕に体の主導権を返して来たってことは、僕に“式典“のことを丸投げして行ったのか?・・・酷い話だ・・・・はぁ~~・・・」
母様「アトリー、大丈夫?」さすさすっ
「一応、大丈夫です…ただ、“祝いの式典“って何すれば良いんですかね?」
“精霊樹の人格“が急にそう言って僕に体の主導権を返したことで、“祝いの式典“を丸投げして来たことをすぐに察した僕は、その場で盛大にため息を吐きながら上を見上げていると、近くにいた母様が僕の背中をそっと摩って心配してくれたのだが、今は体調的な問題よりこれからしなければならない“祝いの式典“の内容の方が問題だった。
(マジ何すりゃいいの!?(・Д・))
父様「大丈夫だよ、アトリー、“式典“の舞台の準備は精霊様達に聞いてもう出来てるから、あとは教えて頂いた手順に沿って進めるだけだからね」
「父様♪」
何をするのか全くもって分かってなかった僕、そこに天の助けのように父様が全ての準備をして、するべき事を教えてくれた。
(神が我を救いたもうた!!・:*+.\(( °ω° ))/.:+)
父様の話を聞く限り、精霊達は自分達のして欲しい事を脈絡もなく好き放題言っていたらしく、その脈絡のない話の要望を根気よく聞きとり、順序よくまとめ上げて、その上で出来る事と出来ない事を精霊達と話し合い、今回のように報告できる文章にするまでしたそうな、その話を聞いて改めて自分の父親が有能で自慢の父親だと感じた瞬間だった・・・
「・・・・と、言う事は後は用意された祭壇に“異世界の精霊樹の枝“を置いて、その横にあの子を寝かせてから、“祝福の歌“を歌って、サフィアスおじ様が祝いの言葉を言えば終わりって事ですか・・・意外とあっさりしてますね?それで、その“祝福の歌“って言うのはどんな歌なんですか?」
父様「それがね・・・」
簡潔に“祝いの式典“の手順を説明してくれていた父様が、手順の中にあった“祝福の歌“詳細を聞いた時に急に言いどもった。
「?どうしたんですか?」
父様「・・・それが、アトリーに曲を選んで歌って欲しいと・・・」
「はぁっ!?・・・僕がですか!?」
父様「うん、アトリーの歌が聞きたいらしい、精霊様達が言うにはエルフの国ではエルフ達が、その時々の流行りの歌を歌って踊ったりしているらしく、今回は人族での“初めての式典“だから、アトリーが選んだ特別な歌が聞きたいらしい・・・そして、出来たら踊って欲しいと言っててね・・・」
(ま、マジか・・・またこの展開なのか・・・しかも、今回は前回と違って、選曲の時間が無い!( ゜д゜)どうすりゃ良いんだー!!)
「きゅ、急に言われても・・・」
前にも似たような状況に追い込まれたことがあるが、今回は前回より難易度が高いことを要求されてしまった僕は、頭が真っ白になりそうだ。
(てか、こんな重要な“式典“の歌を急に決めろと言うのは無理があるだろう!?即興する訳にもいかないし!踊りまでして欲しいとか!無理なんですけどぉーっ!?o( ゜д゜ )o)
僕の言われた事に周囲の大人達は気の毒そうに視線を送って来ていたのは感じたが、それよりも要求が急すぎる事を心の中で盛大に文句を言った僕だった・・・




