72話 国王を拉致る?
「それより、サフィアスおじ様、僕はちょっと緊急でおじ様に用があってこちらに来たんです」
サフィアスおじ様「!、分かった、話を聞こう・・・」
僕が緊急といったことで、サフィアスおじ様は先程までとは違った緊張感を持って僕に向き合った・・・・・
「おじ様、今、デューキス公爵家でカミィ姉様が産気ずいたのは報告が上がってきていますよね?」
サフィアスおじ様「あぁ、それは数時間前に聞いている…、もしかして、出産中に何かあったのか?」
「「「「「っ!」」」」」
「あ、母子共に健康で無事ですよ。赤ちゃんは元気いっぱいの男の子でした」
「「「「「ほっ・・・」」」」」
僕がまずカミィ姉様の出産をしているのを知っているか確認したことで、よくない出来事があったのかと心配させてしまったので、そこはすぐに否定し訂正すると安心した様子を見せた王族達に僕はいい人達だなぁって、密かに思ったりした。
ロブル大おじ様「そうか、無事に産まれたか、それに男の子とな、これでムーグラーフ家も安泰じゃな!」
サフィア大おば様「そうね、めでたいわ♪」
母子共に無事だと知った人達が皆んなで喜んで祝福してくれた。
「はい、とてもおめでたいのですが、少し、異例のことが起こりまして、あ、これも、悪いことでは無いんですよ?・・・ただ、サフィアスおじ様にして頂かなきゃいけないことが急遽発生してまして・・・」
サフィアスおじ様「私にかい??」
急にして欲しいことがあると言われて、意味も分からずに頭にハテナを浮かべ首を傾けたサフィアスおじ様、他の人達も不思議そうな顔で僕の話を聞いて首を傾げている。
「はい、この国初の“精霊樹の愛し子の誕生を祝う式典“をあげて欲しいのです」
サフィアスおじ様「“精霊樹の愛し子の誕生を祝う式典“?・・・“精霊樹の愛し子“?もしかして、今、産まれた子がその“加護“を授かったと言うのか?」
「えぇ、そうです。正確には“精霊樹の枝葉の愛し子“と言いますが、この“加護“は今までエルフ達に与えられる事が多かった“加護“なのですが、今回はちょっとしたきっかけで僕の甥っ子がその“加護“を授かったのです。しかも、この国初の“加護“保持者として…そして、この“加護“は人族が授かる事が初めてで、“加護“を持つ者の扱いを知らないでしょうから、その説明も兼ねて僕がここに来ました」
サフィアスおじ様「人族の中で我が国が初めての授かった“加護“だと・・・しかし、その“加護“を授かった事と“それを祝う式典“をすることはどう繋がるのかな?」
僕がして欲しいことを言うとすぐに察したおじ様だが、この国初だからと言って、その式典をする意味は何なのかと疑問に思いそう聞いてきた。
「それがですね。“精霊樹“は精霊達の親のような存在なので、その精霊達からすれば“加護“を得たあの子は精霊達の兄弟の様な存在となるんそうなんです。
その兄弟の誕生を祝わないなんてあり得ない事のようで…、それに、この国に“精霊樹の枝葉の愛し子“が産まれた事を、国の代表であるサフィアスおじ様がちゃんと認識して、大事にすると宣言する意味で“祝いの式典“をあげた方がいいと、“この世界の精霊樹“がそう言っているんです・・・エルフの国ではかなり盛大にその式典が催されているようですし・・・」
サフィアスおじ様「・・・精霊達に向けた宣言ってことか・・・確かに、それは必要だろうけど、その“祝いの式典“は大々的に行わなければならないのかな?」
「いいえ、国家元首であるサフィアスおじ様があの子の元に来て、国の代表として宣言を行えばいいと精霊達が言ってます。その宣言は精霊達の間ですぐに共有されるそうなんで、心配はないそうです。ただ、おじ様も懸念されているエルフ種達へ対応の件は、僕が“精霊王“にお願いして、精霊達にこの国に“精霊樹の枝葉の愛し子“がいる事をエルフ種達には黙っていて欲しいと言うつもりです」
サフィアスおじ様「ほっ、そうか、それならばしばらくは大丈夫そうだな・・・だが、いつかエルフ種にバレてもいいように対策はしておかないといけないな・・・」
説明を聞いて“式典“の重要性を理解しつつも他種族との摩擦を考えて、“式典“の規模の心配をしていたサフィアスおじ様だったが、元々精霊達もその懸念をちゃんと理解していたので、大規模な“式典“は必要無いと事前に僕に言ってくれていた。それを伝えると安心したようだが、後々の対応策も考えると言ったサフィアスおじ様、それを聞いて(ちゃんと王様してるなぁ~)と大変失礼な事を思った僕でした。
サフィア大おば様「そうね…、それにしても意外だったわ、精霊との親密さで言えばアトリー君、あなたがその“精霊樹の枝葉?の愛し子“になってもおかしくないと思っていたのだけど」
「あ、それは、僕がその“加護“を得る条件を満たして無かったからですね」
サフィア大おば様「条件?」
「それは・・・」
サフィア大おば様の疑問に答えるためにデューキス家の屋敷でもした条件の話をもう一度説明すると・・・
サフィア大おば様「・・・まぁ、そうなの・・・、そんな条件があったから、今まで国内でその加護を持ち得た人がいなかったのね?信仰心はあっても、魔力量、もしくはその魔力の質といった所で条件が満たせて無かったのが、今回のカシミールちゃんとの間にできた子には、魔力量が申し分なくあって、魔力の質と言うものが精霊樹好みになったから、その条件を満たしたってところかしら?じゃあ、アトリー君が選ばれなかったのはムーグラーフ家の血を引いてなかったから選ばれなかったのね?」
(ソレもあるけど、多分、1番の理由は僕が“現人神“になった事が要因のような気がする・・・)
僕はサフィア大おば様が分かりやすくまとめた条件以外にも、僕が“愛し子“に選ばれなかった理由に思い当たることはあったが、本当の理由は自分にもよく分かってはいないのが現状だったりするので、それ以上は確信がないため言葉にはしなかった。
ローズ様「・・・しかし、ムーグラーフ家にそんな風習があったのは知っていましたけど、それを考えるとエルフと同じ精霊と親密な関係にあるドルイド族はその条件には当てはならないのね」
と、条件の範囲が意外と狭いことに、エルフ達とはまた違った精霊達との共生関係を持つドルイド族を引き合いに出しきたローズ様に僕は簡潔にこう答えた。
「そうですね。簡単に言えば、敬う相手が“精霊樹“か、“精霊“を敬うか、の差なんでしょうね」
「「「「「あぁ~~」」」」」
揃って納得の声をあげた王族達を見ながら、僕はここに来た時からずっと様子を伺っていたでデューキス家の屋敷で、国王を迎え入れる準備が整うのを感じとった。
「さて、そろそろ向こうの支度が整いそうなので、行きましょうか、サフィアスおじ様♪」
サフィアスおじ様「えっ!?今からかい!?」
「ええ、そうですよ。じゃないとこんな夜更けに僕がここまで来たりしませんよ」
今すぐと言われて、困惑するサフィアスおじ様に有無を言わさ無い勢いで近づく僕、実は僕がここまで強行手段に出ているのは僕の親族で“精霊樹の枝葉の愛し子“になった者が出たことで、周囲の精霊達がさっきからずっと僕の周りや赤ちゃんの周りでお祭り騒ぎを起こしているからだ。それでこのお祭り騒ぎをやめさせるのはどうしたらいいかと春雷達に聞くと、“祝いの式典“が終わるまでは続くだろうと言われ、僕は流石にこの状態を放置し明日まで持ち込むのは無理があると感じた。それに肝心の精霊達からは早く式典をして欲しいとずっとせっつかれていて、寝ようとしても寝れないのではないかと言う懸念まで出てきて、僕は自分の安眠の為にかなり強引に“式典“をさせようとしていたりするのだった・・・
(まぁ、“精霊樹“からも早めにして欲しいと念のようなものが送られてきてるから、僕はおかげでずっと起きていられるんだけどね(*´Д`*)・・・起きていられるのは嬉しいけど、起きてる間ずーっと、精霊達のお祭り騒ぎに付き合わないといけないのは流石にねぇ~(*´ー`*)・・・あと、何故か歌のリクエストも激しんだよなぁ・・・・(*´-`))
精霊達の浮かれ具合の圧に押されて、保身に走った結果、最短で“式典“を済ませる事を優先した僕、一応は気を使って家族の着替えや屋敷の出迎えの準備が済むまで、何気に時間稼ぎをしていた。
「さぁ、行きましょう♪サフィアスおじ様♬」
デューキス家の屋敷にいる家族には、僕が転移して行った後に精霊達から今からする事を説明させているので、それなりに場が整えられている頃だろうと思って、サフィアスおじ様を急かす。
サフィアスおじ様「ちょっと待って!流石にこの格好ではいけないよ!着替えだけでもさせてくれないか!?」
「・・・むぅ・・・しょうがないですね、じゃあ、お着替えが終わるまでここで待ってます・・・・」
(もう寝る前だったから、かなりラフな感じだししょうがないな、“式典“のためにはそれなりの格好ってものしたほうがいいか(*´ー`*))
急かされたおじ様は流石に服だけは、と待ったをかけてきたので、流石に僕も今のおじ様の格好をよく見て、“式典“をするにふさわしい格好は必要かと思い、仕方なく着替えを待つことに・・・・
サフィアスおじ様「ほっ・・・じゃ、すぐ戻るから、お茶でもゆっくり飲んで待っててね、・・・皆、しっかりもてなしなさい」
「「「「「畏まりました・・・」」」」」
(あれ?皆んな出て行っちゃった、もう寝ちゃうのかな?(・・?)おやすみなさいって言えばよかったね?)
天華『どうでしょうね・・・』
おじ様はそう指示して、自分の専属使用人を連れて部屋を出て行ったが、それに続くように他の王族達も専属を連れて退出していき、僕は1人、王族専用の談話室?に取り残されて、残った使用人達に手厚くもてなされた。
(まぁ、さっき突然きた僕のこと相当警戒してるけどね・・・警戒してるのは分かるんだけど、あからさまにこっちをチラ見してくるのはなんか用があるのかな?おもてなしの仕事はちゃんとしてくれているからいいけど、何か気になることでもあるのかな?(・・?))
天華『自分達が刃を向けた相手が噂の“現人神“だったことを、今更後悔してるんじゃ無いですか?それかちゃんとアトリーを認識して見惚れたか・・・』
(?そんな感じか?僕はてっきり、王族への態度が軽すぎるのを注意したいのかと思っていたよ)
夜月『それは無いだろう。王城やその他の国の重要施設ではアトリーは最高位の賓客扱いするようにと周知されているはずだからな』
(・・・い、いつの間に( ゜д゜)・・・でもじゃあ、ここの人達が僕をチラチラ見てくるのは物珍しさからか?(*´ー`*))
そんな事を思っているうちに着替えが完了したのか、サフィアスおじ様が談話室に騎士団長さんを伴って戻ってきた。
「わぁ、神官服みたいだ・・・」
戻ってきたサフィアスおじ様の服装はリトス教の大司教の神官服を彷彿させる格好だった。
(こんな短時間でこの服を用意できるのは流石もと神官家系の王族って感じだねぇ(*´Д`*))
サフィアスおじ様「ふふんっ、どうだい?これなら“式典“に相応しい装いだろう?」
「はい!サフィアスおじ様のこれは祭事服?ですよね?3年前に見たのとは少し違いますがとてもお似合いです♪」
そう言って褒めると「そうだろう、そうだろう」と満足げに頷いて喜んでいた、僕はそんなサフィアスおじ様を微笑ましく思いながら、早速屋敷に行こうかと思っていると・・・
ローズ様「お待たせ、さぁ、行きましょうか」
ロブル大おじ様「間に合ったか?」
「えっ!?」
サフィアスおじ様の後ろからこれまた見たことのある祭事服を着た王族達がゾロゾロ入ってきたのだった。
「・・・大おじ様達も一緒に行くんですか??」
ロブル大おじ様「あぁ、こんな祝い事サフィアスだけで済ますのは体裁が悪いだろう?それに本来なら次期国王のスタフがいかなければならない所だが、今回はまだ公務から戻って来ておらんからな、精霊樹様にも我が国が“精霊樹の枝葉の愛し子“の誕生を国をあげて歓迎していると行動で示さなければならん」
確かに、スタフお兄様は例の掃討作戦の後処理のため、王都にはまだ帰ってきていなかった、だからその代わりに他の王族達も参加することで体裁を保とうとしていると言うロブル大おじ様に、僕は半眼でじーっと探るような視線を送りこう聞いた。
「・・・本当は?」
ロブル大おじ様「・・・こんな、めでたい行事を見逃すのは勿体無い!」
「やっぱり・・・」
(えぇ、分かってましたよ。こんな家系だってこと・・・・(*´ー`*)ふぅ・・・)
他の王族達が祭事服を着て戻って来た時には少し驚きはしたが、すぐに、これは面白そうな事を見つけて、一緒に楽しみたいんだなって察した僕だった。しかも、もっともらしい事を言いつつ、その楽しむき満々の気持ちを隠すことなんて全くする様子もない大おじ様達にため息が漏れそうになった・・・
(しかし、これ、人数多くない?( ̄▽ ̄)てか、むしろ増えてる・・・)
ジュール『だね・・・』
ここに来た時は王族はサフィアスおじ様、国王夫婦と前国王のロブル大おじ様夫婦、それにスタフお兄様の奥さん、王太子妃の5人がいたのだが、今は何故かそれプラス、第二王子のクオツお兄様とその奥さん、あと、護衛の為なのか騎士団長と数人の近衛騎士達が談話室に入ってきて、僕はこの全員を連れて“テレポート“しなきゃならんのか、と思って、視線を天井に投げたのだった・・・
「・・・あの、一応聞きますが、ここにいる人、全員を連れて行くんですか?」
サフィアスおじ様「そうだね、使用人達も連れて行きたいんだができるかい?」
「使用人・・・できますけど、使用人さん達は数人残ってもらった方がいいと思いますよ。ここにいる全員の使用人さん達を連れて行くのは、流石に向こうでの受け入れ人数的に多すぎると思いますし・・・あと、“影騎士“所属の人は我が家は侵入禁止ですしね・・・」ニッコリッ
「「「「っ!!」」」」
サフィアスおじ様「あ、そうだったね。それじゃあ、数人はここで待機で、祝いの品は持って行っても大丈夫かな?」
しれっと、我が家に“影騎士“を送り込もうとするサフィアスおじ様に、僕はニッコリ笑顔で返すと若干笑顔が引きつつも、素直に“影騎士“の同行を諦めた。これで、必然的に使用人の人数が少なくなって、僕の要望は通ったのでさらに笑顔を深めていると、サフィアスおじ様はプレゼントまで用意していたらしく、その持ち込みの許可を求めて来たので、僕はこう言って快くそれを許可した。
「えぇ、構いませんよ、僕の“加護の結界内“に入れることができれば・・・」
「「「「「!」」」」」




