59話 初めてのお泊まり冒険者活動26〈最深部、大空洞、リクエスト受付中〉
カッ!! 「あっ・・・・」
皆んなの幸せを強く願ったと同時に自分自身から強烈な光が放たれた。この時、僕はすぐに自分がしてしまった事を理解して焦った。
(やばっ!!“強く願っちゃった!!“Σ('◉⌓◉’)これ、確実に“加護“がついたよね!?しかも、全員に!!ど、どうしよう!?( ゜д゜))
夜月『落ち着け、アトリー』
「夜月!!」(ど、どうしたらいい!?)
うっかり前世の家族全員に“幸福を願う加護“を授けてしまって、慌てふためく僕に、さっきまで僕に遠慮して、加護の結界の外で魔物達を蹴散らしていた夜月が僕の隣まで来て、僕に落ち着くように言って来た。その夜月に僕は救世主が来たかのように抱き付き、助けを求めたのだった・・・・
(僕、他世界にいる家族に加護を授けちゃった!神様達の規定で他世界に干渉しちゃダメって聞いてたのに!ど、どうしよう!?僕はまだ本当の神様じゃないのにこんな事して、こ、この場合、どうなるの!?お、怒られちゃう!?それともこの世界から追放されちゃう!?)
たった今、前世の家族に幸せになると宣言しておいて、神見習いとしてポカをしてしまった事で、その約束を果たせなくなるかもと思い、凄く焦っていると・・・
夜月『落ち着け、アトリー、大丈夫だから』
先程の感動の名残で涙と鼻水を流しながら、必死に夜月に助けを求めた僕に夜月はいつもと同じ様に、ゆっくりと優しく落ち着く声で僕を宥めた。
(ほぇ?・・・大丈夫?)
夜月『あぁ、大丈夫、今の加護は向こうの世界にはほとんど届いていないだろうから、規定に触れるほどの干渉にはなっていない』
(僕の加護の祈りが届いてないの?)
加護の祈りが届いていないと聞いて、何でだろうと?不思議に思い首を傾げていると。
夜月『加護が届いていないのはこの世界と向こうの世界を隔てている、あの透明な壁があるからだ、あの壁がある限りどちらの世界からの影響は受けない。ただ、今回は“神力”が強く発せられたので、向こうの家族は多少幸運にはなったかな?ってぐらいの影響しか出てないそうだ』
(そ、そうなの・・・ん?それはティーナちゃんから聞いたの?)
夜月『いや、月詠様からだ』
(ほう、・・・あれ?そう言えばティーナちゃん達って、今こっちの状況は把握できて・・・ない?)
夜月『あぁ、この洞窟に入った時点で私達の姿が捉えられなくなっていたそうだ、だが、ついさっき、このゲートが開いた時に向こうの世界からこの洞窟内が見れる様になったと知らせがさっき入った』
(やっぱり・・・)
前回の勇者召喚以降、勇者召喚の儀式をしようとする者を厳しく監視していたティーナちゃんが、この事を知ったらすぐに僕に連絡をくれると思っていたのだが、今の今まで何の連絡もなかった事が不思議に思っていた、だが、この洞窟全体に神だけ見通せない隠蔽の術を施されていたのか、ティーナちゃんはこのゲートが開くまで勇者召喚の事に気付いていなかった様だった。それに、どうも、夜月達も勇者召喚の事をティーナちゃん達に伝えようとしていたが、その知らせも届いてない事に焦っていたそうだ。(通りで道中静かだと思った・・・)
(そうか、例えるなら、こっちの世界でのカメラはジャミングか何かされてて、向こうの世界のカメラは正常に動いているって事か・・・それに、互いの世界を見る事は規定に触れるほどの干渉ではないから見ていられるんだね・・・(*´ー`*))
夜月『まぁ、そうんな感じだ。それよりアトリー、考察するのは良いが、向こうの家族が心配そうに見ているぞ』
「あっ!」
夜月に抱きついたまま考え込んでいた僕は、さっきの光の説明もしていない事を今思い出し、慌てて姿勢を戻して向こうの家族と向き合った。
「ご、ごめん、ちょっとしたハプニングで、混乱しただけだから、気にしないで、あっ、そうだ、隣にいる黒い虎は“夜天虎の夜月“だよ。僕の頼もしい家族の1人、他に2人いるけど、後でまた紹介するね。いま、魔物達を討伐するのに参加してるからさ、それに、そろそろ僕もそっちに参加しなきゃだし、・・・あ、ソルがこっちに来てる・・・皆んな、今から来る僕の親友は僕が“転生者“だって知らないから、これからは僕のことは“咲子“じゃなくて、“アメトリン“、もしくは“アトリー“と呼んでほしい・・・お願いできるかな?」
皆んな「「「「「大丈夫、分かってる!」」」」」
前世の家族には僕が“神力“を得て、“現人神“になったことは伏せておきたいので、我ながら苦しい言い訳をしていたけど、ちょうど良いタイミングでソルがこちらに来ていたから、そのまま皆んなに僕が転生者だと言うことを内緒にしていて欲しいとお願いすることで、うまく話をさらすことに成功した。
ソル「アトリー様、お話中失礼します。討伐部隊にいるイネオス達が、ダンジョンボスと思わしき”ゴブリンキング“とその取り巻き達に苦戦している様ですが、どういたしますか?」
「そうか、流石に2パーティーだけじゃ“ゴブリンキング”達は荷が重かったか、軍の人達や近衛騎士達は、王族2人を守りながらその他の雑魚狩りで手一杯のようだし、それに、イネオス達は攻撃魔法無しだもんねぇ・・・あ!そうだ!良いこと思いついた♫皆んな、あのね!」にっこり
皆んな「「「「「ぽっ・・・・」」」」」
ここで、僕は良い事を思いついたので、両手をパチンッ鳴らし、満面の笑みで皆んなを見ると、振り向いて見た先の皆んなは顔を赤くして固まっていたが、そんなことは気にせず話を続けた。
「今、僕達、魔物の巣の掃討作戦に参加中で、この作戦中は攻撃魔法の使用を禁止していて、剣だけで魔物を倒してるんだけど普通に戦っても面白くないから、今から皆んなからリクエストを受け付けようと思うんだ。仁さん達がこっちにいた時に見せてくれた、アニメや漫画、ゲームなんかの登場人物が使ってた剣技や体術、再現してみた事があるから、作品名やキャラ名、技の名前などを言ってくれれば、わかる範囲で実際にその技を使って魔物を倒してみせるよ♪」
仁「えっ、また制限設けて依頼を受けてたの!?」
彩ちゃん「今回のは大規模作戦中なんでしょ?大丈夫?怒られない?」
夢ちゃん「また、面白そうだからって、魔法攻撃無しとかにしちゃったんでしょ、アトリー君・・・」
僕の話に1番早く反応を示したのは、こちらの世界に一時期来ていた仁達だ。こちらの世界で僕の家に来て以降、一緒に冒険者活動をしていた時からよく自発的に制限を設定して依頼を受けていた事を知っている仁達は呆れた顔でそう言ってきた。
「あははっ、残念ちょっと違うよ。今回はイネオス達がご両親達から条件をつけられてたから、僕とソルも一緒にしようって話になってね。・・・まぁ、面白そうって思ったのは否定しないけどね♫」
皆んな「「「「「否定せんのかい!!」」」」」 ズビシッ!!
「ブフッ!っ、・・・っ、ふっ、ふふっ、ふふふっ!ははははっWWW」(息合いすぎだろう!?WWW(^○^))
皆んな「「「「「・・・・・ふっ、ふふっ、あははははっWWWW」」」」」
仁達の言葉に反論してはみたものの、否定はできない一面もあるので素直に認めると皆んなが息をぴったり合わせてツッコミを入れてきた。そのツッコミのセリフと仕草があまりにも息が合っていたため、僕はたまらず吹き出して笑い出してしまった。皆んなも狙ってやっていた訳ではなかったようで、互いに顔を見合わせて驚いた後に誰からか笑いが漏れてきていた。
その場でソルだけ置いてきぼりにして、ひとしきり笑い合った後、少し冷静になった幸樹が僕にこう聞いてきた。
幸樹「咲、・・・アトリー君、さっきの話が本当なら、アレもしようとしたらできるのか?」
「アレ?とは??」
幸樹「咲、・・・んっ、ん゛、・・・えっと、アトリー君が見せてもらったかは分からないけど、“ファイナル・ファ○タジー“って言うゲームのなんだけど・・・」
幸樹は僕が“F○“シリーズのファンだと知っているから、その中の技は絶対に再現しているだろうと踏んで聞いているんだろう、僕もそれは分かっているが、ここにはソルがいるからちゃんと手順を踏んで質問をしてきてもらいたい。(あ、もちろん、このシリーズの技は何個か再現してみたぞ♪)
「あ、はい、以前、彩さんに見せて貰いましたよ」
幸樹「!、じゃ、じゃあ、“F○15“の主人公みたいに武器を周りに浮かせて武器を取り替えたりできるの!?」
「えっ!!、あ、アレですか・・・見せてもらったことはありますが、試してみたことはないですね・・・」
(アレかぁ~~~っ、(゜∀゜)アレはやったことなかったなぁ、他の若いナンバーの技を再現するのに集中しすぎて忘れてたな・・・・アレは魔法攻撃とかじゃないからやってみる価値はあるか・・・(・Д・)?)
「やった事はないですが、ちょっと試してみましょう・・・」
そう言って僕は自分の“無限収納“に入っている武器全てを取り出し、自分の周りに円を描くように地面に突き刺していく。ロングソード、大剣、棒、ハルバード、戦鎚、弓、手裏剣など、次々出てくる武器にソルと仁達以外の人達は驚いていたけど、僕はそれより、“この武器達を例の主人公のように自分の周囲に浮かび上がらせる事ができるか“、と言う事の方が気になって、じっと考え込んでいた。
(うーん、これをどう浮かび上がらせられるか・・・いや、浮かばせるだけなら簡単なんだけど、それがずっと僕の周囲をついて来させる事の方が難しいんだよねぇ、それにあの主人公は武器を出したりしまったりさせてるから、さらに難しいんだよなぁ・・・うーん・・・・( ;´Д`)まずは浮かせることを成功させるかぁ~・・・んっ!)
「あ!これならいけるかも!?」
ふわぁ・・・
と、思い立ったら即実行な僕はそのまますぐに武器を宙に浮かせる事に成功した。
皆んな「「「「「おぉ~~っ!!」」」」」
「できたー!・・・と言っても、持ち上げるだけは簡単なんだよなぁ、肝心なのは必要な時に武器を取り出して取り替えることだけど・・・うーん、今はこれで戦ってみるか?」
仕掛けは至って簡単で、僕がいつも鍛錬でソルとぶつけ合っている“魔力弾“、要は触れる事ができるほどの密度の高い魔力の塊で武器を覆うようにして、“魔力弾“を扱うように一定の高さに浮かせる事ができているだけだったりする・・・・
そして、武器を浮かせる方法は他にもあるのだが、肝心要の幸樹の言う“F○15“の主人公の技の再現で1番難しいのが、武器をこの状態で“無限収納“に出し入れすること。
だが、今の状況下では良い案が浮かばないので、ひとまずこの状態で戦ってみて、この技が有用だと思ったら、武器の出し入れの方法も検討することにした。
「さて、この技はできたけど、どの武器で戦って欲しいとかあるかな?」
と、幸樹を見ながら聞くと、
幸樹「アトリー君、刀はそこに入れないの?」
「ん?あぁ、この太刀と脇差ね。この二振りはちょっと特別だからね。ここの武器達とは一緒にできないんだ・・・あ、もしかして、刀での戦いが見たかったのかな?」
僕が腰に装備していた二振りを、技の武器の中に入れてなかった事を聞いてきたので、僕が刀での戦闘シーンが見たかったのかと聞くと、幸樹は素直に頷いた。
(この二振りには春雷達が宿っているから、密度が高い魔力で覆っちゃうと2人が自由に出入り出来なくなっちゃうんだよね、それは流石に可哀想だからこの技には使わなかったんだけど(*´Д`*)・・・)
「そうか、じゃあ最初はこの太刀を使おうか、普通に使った方がいいかな?それとも再現してほしい技や流派とかある?」
幸樹「“る○剣“の“飛天○剣流“で!!」
「お、おぅ・・・アレね・・・分かった・・・」(“F○“シリーズで来るかと思えば、“○ろ剣“で来るとは・・・(・Д・))
シャリンッ・・・
ちょい肩透かしを食らったが、リクエストに応えるため、“F○15“の技を使いながら刀を抜き放った。
「じゃあ、今から僕は加護結界を解くけど、代わりに夜月が結界を張ってね」
夜月「がぅ『了解』」
「ソル、僕が前に出るからイネオス達と“蒼炎“のメンバーに中央から離れるように言って、どいてもらって」
ソル「畏まりました」
「それから天華は僕の戦いに邪魔が入らないように中央に別の結界を張って」
天華「きゅぅ『了解です』」
「ジュールはそのまま他の魔物達を倒してくれるかな?」
ジュール「わふっ『いいよ~♪』」
「じゃ、皆んなよろしく!あ、そうだ、皆んな、戦ってる最中でも“リクエスト“は受け付けるから、気軽に大きな声で言ってねぇ~♫」
僕が準備を終えて指示を出すと、夜月はすぐに変わりの結界をはり、ソルはすぐに中央で戦っているイネオス達の元に走っていき、天華は僕の肩まで戻ってきて準備をしてくれる。ジュールは楽しそうに王族2人を襲っている上位種の魔物達を蹴散らしていた。
そして、僕は皆んなに思い出作り程度の感覚でリクエストを受け付けると言って、春雷が宿っている“雷凛刀“を片手に、中央で暴れ回っているゴブリンキングとその他上位種の元にゆっくり歩き始めたのだった・・・




