58話 初めてのお泊まり冒険者活動26〈最深部、大空洞、繋がる二つの世界〉
「ぃやらせるかぁーーーっ!!!」
バッキィーーッ!!!
どこからか、気合の入った少年の怒声が聞こえたと思ったら、次の瞬間、こちらに向かって走って来ていた“ゴブリンジェネラル“の顔面をめり込むように蹴りを入れた、銀髪の男の子が目に映った。
仁達「・・・ア、アトリー君???・・・・」
はい、どうも僕です。今、全速力で駆け出してます・・・
それはなぜかと言うと、数秒前・・・・・
魔物ひしめく通路を走り抜けた僕達、その通路を抜けた先にあった大空洞はとても広く、意外と明るかった、その明るさの原因と思わしき方向にあった明るく光る大きな扉、その下の一部に魔物達が群がっているのを見つけ、良く目を凝らして“見て“みると、そこに空間の歪みを感じ取り、僕は咄嗟に走り出した。
「嘘だろ!嘘だろっ!?間に合えっ!!」
僕は自分の見た光景を信じたくないと思いながら、焦りつつも全速力で走った。その後ろをソルや天華達が黙って着いてくる。
今、あそこに広がっていた光景、それは・・・・・・
(あの、人影は間違いない!仁達だ!)
群がる魔物達の合間から見えた人影、一眼見て、自分の前世での甥っ子である“花村 仁“であると確信したのだった・・・
元々、洞窟内で発見された“勇者召喚の儀式“の仕掛けの中で、僕が洞窟内に入ると同時に儀式が始まると言ったギミックを見た時、とても嫌な予感がしていたのだった。
それは、また三年前ように僕の前世にゆかりがある人が召喚されるのではないか?と、いった懸念をずっと持ちながらも、儀式を止めるべくここまでやって来ていたのだが、それが今、現実に起こってしまっていることに酷く焦りを覚え、いち早く仁達の元に駆け付けなければならないと、必死だった。
必死に走っている最中、大空洞中央でラスボスのように黙って玉座に鎮座していた“ゴブリンキング“が、不意に横にいた“ゴブリンジェネラル“に話しかけて、仁達がいる大扉の方を指差した、その指示にゴブリンジェネラルは動き出し、自分の身長と同じぐらいの長さの持ち手のついた戦鎚を持って、最初はゆっくり、次第に速さを増し、戦鎚を振り上げて、仁達がいる場所へ走り出していたのだ、それを見て僕はさらにスピードをあげ、自分が出せる最高速度でそれを追った。ソルや天華達を置き去りにしながら・・・・
そして、僕はゴブリンジェネラルに追いつくと同時に、高く飛び上がりゴブリンジェネラルに向かって蹴りを繰り出した。そう、前世で有名な某“仮面ラ○ダー“のような“ラ○ダーキック“をこう叫びながら・・・・
「ぃやらせるかぁーーーっ!!!」
バッキィーーッ!!!
ゴブリンジェネラルは顔にめり込むほど本気の僕の“○イダーキック“を受け、近くにいた魔物達を巻き込みながら真横に吹っ飛び、途中で霧状になり消えていく。その間に僕は、仁達がいる大扉前に華麗な着地を決めていた。
スタッ!
仁達「・・・ア、アトリー君???・・・・」
「!やっぱり!!仁!!夢ちゃんに彩ちゃんも!!大丈夫だった!?」
仁「う、うん、なんか、透明な壁があるみたいだから、こっちにはまだ魔物達は来てないよ、でも、さっきのはちょっと焦ったけど・・・」
「ほっ、あ、本当だ、壁がある、よかった、久しぶりだね皆んな、今何してた・・・えっ!?皆んな居る!?」
彩ちゃん「あ、今、沙樹崎家親族全員が参加しているキャンプに私達もお邪魔している最中だったんです」
「キャンプ!?皆んなも!?偶然だね、僕も、今日はゴブリンの巣の“掃討作戦“の依頼で初めての野営お泊まり、つまりキャンプしてるんだよ♪」
夢ちゃん「え、お泊まりって事はアトリー君、Cランクになったんだ!?」
「うん、そう♪だから初めてCランクで泊まりがけの集団討伐依頼を受けて、皆んなでキャンプしてるんだ♫」
仁「そうなんだ、ソル君、は、当たり前だけど、イネオス君達も一緒なんだ・・・って、それはいいんだけど、アトリー君、後ろ・・・」
「ん?」
久しぶりに会えた仁達に嬉しさが込み上げてきて、世間話に花を咲かせてると、先程、ゴブリンジェネラルが突進して来る時に逃げていた他のゴブリン達が、僕の後ろまで迫っていた。
「あぁ、大丈夫、僕の加護の結界は誰にも破られないから、それにここ氾濫しているダンジョンの中なんだ」
仁達「「「あぁー・・・」」」
ギャッ!ギャギャッ!! ゴンッ!ドンッ!バンッ!!・・・ボグッ!!ギャゥ!!シュワシュワシュワァ~~~ッ! ポトポトポトッ・・・
背後に迫り来ていたゴブリン達が、僕に勢いよく突進して来たのだが、大空洞に入ったと同時に加護の結界が、いつものように自動即死効果の“反撃モード“へと移行していたことで、ゴブリン達は僕の元に辿り着く前に結界に勝手にぶつかっては次々と霧になって消えていくのだった・・・・
「ねっ♪」
仁「結界の“ヘルモード“、相変わらず凄いなぁ・・・」
「うーん、こんな時は凄く役に立つけど、普通にダンジョン攻略している時は面白くなくなっちゃうんだよねぇ・・・あ、それより、仁達と会うのは3年ぶりだけど、皆んな元気にしてた?」
仁「えっ、3年!?そっちではもう3年も経ってるの!?そう言えば、アトリー君、身長伸びた!?」
「あれ?“もう“3年って事はそっちじゃそんなに時間経ってない感じ?あと、身長はそれなりに伸びたよ!それに僕は今12歳だね!」
夢ちゃん「12歳かー、やっぱりそっちの時間は早いなぁ、こっちはまだ戻ってきて1年とちょっとしか経ってないよー」
魔物達の心配がないと分かって、ゆっくり話すことにした僕達、久しぶり会ったと言っても、どうやら向こうの時間の流れでは1年とちょっとしか時間が経過してないようで、仁達は以前と同じように接してくれた。
「へー、結構時間のずれがあるねぇ、しかし、皆んな元気そうだね。
そこにいるのは亜実子姉さん?老けてんねぇー!おっ、もしかして、そこで棒持ってるの“圭太郎“?大きくなってるねぇ!自分のお父さんより身長伸びてるんじゃない!?あ!“幸樹“!あんた、前々からおっさんぽかったけど、さらにおっさんぽさ出てるね!それにちょっと太った?WWお?“雪也“に“聡太“も大きくなって!男前になったねぇ♫“こと“に“媛子“に“まどか“も、あんなにちっちゃくて可愛かったのに!綺麗なお姉さんになってる!皆んな今何歳になったの!?皆んな成長してるねぇ・・・・
おや?君が“すず“ちゃんかな?初めまして、元、君のお母さんのお姉さんだった咲子おばさんだよ、皆んなは“おばマ“って呼んでるかな?で、今はこっちの世界では“アメトリン・ノブル・デューキス“って名前の男の子だ。よろしくね?
しかし、皆んな、それなりに老けたねWWW、それに・・・・母さん、もうお婆ちゃんだね・・・本当、元気にしてた?皆んな・・・」
仁達と普通に話していても、視界の端には前世での家族の姿が入っていて、先程まではちょっと照れ臭くて、話しかける勇気がなかったのだが、その中で前世ではよく面倒をいていた甥っ子姪っ子の姿を見つけて、つい懐かしくなって、姉の亜実子をきっかけに次々話しかけてしまった。そして、最後の方には孫を庇うように立っていた、かつての母を見て涙目になってしまった。向こう側の皆んなも涙を流したり、涙目になって僕の話を聞いていて、その中で年少組の3人だけはどうしたらいいのか分からずポカンと僕を見ていた。
亜実子姉さん「っ・・・アンタって子はっ!急にいなくなってっ!急に現れてっ!そして、急に助けてくれて・・・、前も、仁達を助けてくれて・・・っ・・・グスッ・・・本当にもう・・・ありがとう!・・・」
祐二さん「咲ちゃん、本当に感謝しても仕切れない、ありがとう!・・・」
「気にしないで、2人とも、大事な甥っ子とその幼馴染を助けるのは当然のことですから」
僕がにっこり笑ってそう言うと、少し申し訳なさそうに笑い返してくる姉夫婦、僕の言葉は本当にそう思っていたし、これ以上2人に気にして欲しく無かったと言う事もある、だからまた少しふざけた感じで笑い返すと、姉夫婦は仕方ないなって感じで苦笑いしていた。そんな話をしていると、まどかが近くにまで来ていて僕に話しかけて来た。
まどか「“おばマ“、本当に“おばマ“?」
「うん、そうだよ、“おばマ“だよ。そう言えば、まどかはこの世界を舞台にしたゲームのファンだったんだよね?どう?今の僕はゲームの中の僕に近づいていってるかな?」
まどか「う、うん、マジ美形、でも可愛い、本当に“おばマ“なんだ・・・でもでも、あの綺麗な瞳はアメトリンその物だしリアルな瞳の色とか、CGとは全然違う、それに本物のアメトリンと喋っちゃった・・・声、幼くて可愛すぎ!・・・このアメトリンがこれから成長して長身のイケボ美形になるとか、信じられない!」
「お、おぅ・・・、結構コアなファンなんだね、まどか・・・でも、ゲーム内の僕は結構、身長大きいみたいだね!ついこの間も夜月達にも身長高くなるってお墨付きも貰えたし、今に見てろ幸樹!アンタの身長は軽く超えてやるんだからね!以前の僕をチビチビって馬鹿にしたのを後悔するがいい!!」ドヤァ
幸樹「なっ、咲ねぇ、まだ根に持ってたのかよ!?てか、ドヤ顔してるけど、今はまだ前の身長と変わんないだろうがよ!」
皆んな「「「「「ぶっ!あははははっ!」」」」」 「確かにっWWW」 「気が早いってWWW」
推しキャラと会えてヒートアップしたまどかにちょっと引きつつも、会話の中で身長のことが出たところで、幸樹に言わなければならないことを思い出した僕は、ドヤ顔で次は勝つ宣言をすると、急に話を振られた幸樹の返事に皆んなが笑い、先程までのしんみりした雰囲気はなくなり、空気が温かくなった。
「なんだとぉ!?今世では175センチ越え確定なんだからな!!」プクーッ
「もう、この子ったら・・・相変わらず負けず嫌いなんだから・・・咲子、久しぶりね。元気にやってる様で安心したわ・・・」
「っ・・・母さん・・・」
幸樹達と笑いながら話していると、以前より悪くなった足を少し引きずり、“藍子“の手を借りながらゆっくり近づいて来ていた母、“皐月“は昔の面影を探すように僕を見つめ、かつての幼い時の僕を思い出したのだろう、懐かしそうに目を細めながら優しく僕にそう話しかけてくる、だからか、僕も懐かしさで胸が締め付けられるのを感じ、泣かないようにグッと堪えて母を呼んだ。
母さん「そんな顔をしないの、今の家族は皆んな良い人達なんでしょう?それなら幸せいっぱいに笑って見せてちょうだい。咲子がこっちの世界でいつも気を使わせてしまってできなかった事を、好きなだけさせてくれる、そんな家族に私は感謝している、だからね、私達に気を使わずにこれからもずっと幸せに笑っていて欲しいわ・・・」
母さんは僕の考えていることを察していて、気を使わせないように目に涙を溜めながらも満面の笑みでそう言ってくれた。
(僕、こんなに幸せでいいんだろうか、母さんとの約束は中途半端だし、僕がいなくなったことでここにいる皆んなに迷惑をかけたのも分かってる、それでも僕はこのまま幸せになって良いのか?それでも母さんは僕に笑っていて欲しいって言ってくれている、僕は・・・)
亜実子姉さん「何迷ってんの!私達もアンタの幸せを願っているんだから、素直に頷いときなさい!!」
幹子「そうだよ!咲姉は考えすぎ!!」
藍子「たくさん迷惑かけた私が言うのはなんだけど!咲子姉ちゃんには幸せになって欲しい!!」
幸樹「こっちのことは気にしなくていい!今の幸せを好きなだけ感じて良いんだよ!咲ねぇ!!」
小秋「咲ねぇ!子育て手伝ってもらった事、本当に感謝してる!だから!幸せにならないと怒るからね!!」
小冬「そうだよ!咲ねぇ!私も怒るからね!!」
「・・・皆んな・・・・」
母さん「私も、咲子の幸せを何よりも願っているよ・・・皆んなの願いなんだから、ね?」
「っ、・・・うん、・・・分かった!私、いや、僕は幸せになるよ!でも、僕も、みんなの幸せを願ってるっ!!!」
母が気を使わず幸せになれと言ってくれたのだが、僕はまだ自分の中に残る罪悪感や後ろめたさを感じ、俯き自分の幸せについて考えていた。そんな時、親兄弟、従兄弟達にその家族、全員が僕の幸せを後押しする様に声をあげ、その言葉に同意するように強く頷いているのを見て、皆んなが僕の幸せを本当に強く願ってくれているのが分かった。それでもう、涙は堪えきれずに鼻水まで垂らしながら、僕は皆んなの言葉を心に受け止めて、同時に皆んなの幸せを強く願った・・・・
カッ!! 「あっ・・・・」
皆んなの幸せを強く願ったと同時に自分自身から強烈な光が放たれた。この時、僕はすぐに自分がしてしまった事を理解して焦った。
(やばっ!!“強く願っちゃった!!“Σ('◉⌓◉’)これ、確実に“加護“がついたよね!?しかも、全員に!!ど、どうしよう!?( ゜д゜))
夜月『落ち着け、アトリー』
「夜月!!」(ど、どうしたらいい!?)
うっかり前世の家族全員に“幸福を願う加護“を授けてしまって、慌てふためく僕に、さっきまで僕に遠慮して、加護の結界の外で魔物達を蹴散らしていた夜月が僕の隣まで来て、僕に落ち着くように言って来た。その夜月に僕は救世主が来たかのように抱き付き、助けを求めたのだった・・・・




