52話 初めてのお泊まり冒険者活動20〈僕達のお仕事〉
轟音と共に何かが折れて倒れる音がして、大勢の人の雄叫びが聞こえた。その後一瞬遅れて、ゴブリン達の雄叫びが聞こえてきて、盆地からゴブリン達の戦意が膨れ上がった、様々な方向から魔法や矢が飛び交い砂埃が舞い上がる、金属がぶつかり合う音に生臭い血の匂いが漂い出した事で、僕達はひしひしと“掃討作戦“始まった事を肌で感じたのだった・・・・
(さて、気になる事はいくつもあるけど、今はまず、始まったお仕事を優先しないとね・・・おっと、その前に・・・)
「スタフお兄様、目に映る範囲でこの石を回収して行きたいのですが、宜しいですか?」
スタフお兄様「あ、あぁ、構わないよ?でも、それをどうするんだい?」
「この石で囲まれた範囲が自然の力を貯めるための貯蔵地になっているみたいなので、その何に使われているか分からない貯蓄された自然の力を元の流れに戻すことで、これを仕掛けた者の思惑を阻止しようかと思いまして・・・」
スタフお兄様「ふむ、それはいい考えだ。皆!自分の近場にある模様の入った石を見つけて持ってきてくれ!」
僕達の出番はまだなので、その出番が来るまでの間にできるだけの事をしようと思い、魔法陣の刻まれた石の回収をスタフお兄様に提案すると、すぐに周囲の軍人さん達に指示を出し、人海戦術であっという間に周囲にあった魔法陣が刻まれた石が僕の元まで大量に届けられた。
ちょうどこの時、“掃討作戦“は第2段階に入っており、“第1遊撃隊“と“第2遊撃隊“の二つの隊が、援軍として洞窟から出てきたゴブリン達に両横から襲い掛かり、先に“正面強襲隊“と交戦していたゴブリン達との合流を防ぎつつ、そのゴブリン達を後ろから襲い、両方のゴブリンの群れの連携を乱していた。
そして、僕が集められた石を自分の“無限収納“に入れ終わった頃に、僕達の出動のタイミングになった。
今回の“掃討作戦“は3段階に分かれており、“第1段階“は“正面強襲隊“が先に野外のゴブリンの巣を正面から強襲し、なるべく入り口付近で戦闘を行いゴブリンの数を減らす役割をする。
“第2段階“は外の騒ぎに気づいた洞窟内のゴブリン達が、援軍としてそれなりの数が出てきたタイミングで、“第1、2遊撃隊“がゴブリンの巣の両側から援軍のゴブリン達を襲い、野外のゴブリン達との合流を防ぎつつ、巣の入り口で戦っているゴブリン達を背後からも襲い、全てのゴブリン達の連携を掻き乱し、さらなる援軍を洞窟から引き出させ、“洞窟隊“が突入しやすくする。(あ、ついでに言うと、“第2遊撃隊“の隊長はエレオスさんがしてたりするよ( ´ ▽ ` ))
“第3段階“目は、洞窟内いたゴブリン達をある程度誘い出し、安全を確認しつつ僕達“洞窟隊“が出動する。そして、背後からの安全確保をした後に洞窟内に突入して、中にいるゴブリンや報告にあったアーミーアントを掃討しつつ、今回の原因と考えられるダンジョンを捜索し、スタンピードを止める。
こうして現在の状況を把握し、突入する前に今一度自分のやるべき任務を頭の中で確認した。今思えば最初、この“洞窟隊“はただのゴブリンの巣の殲滅が依頼の内容だったのだが、現在は色々な事が重なり、かなり危険で重要な役目を担う事になってしまった。そう思うとやはりどこの世界でも、“物事は予定通りに行くとは限らないものだなぁ“と、人生2周目の僕はしみじみ感じるのだった・・・
ガイアスさん「“洞窟隊“今だ!行くぞ!」
そんなアンニュイな思考をしていると、隊列の先頭にいた“蒼炎“のパーティーメンバーが、真下にある洞窟の入り口からこれ以上ゴブリン達が出てくる様子が無い事を慎重に確認すると、抑えた声でそう号令を出し、急な斜面の山肌を静かに降りていく、それに続くように次々“洞窟隊“の人達が山肌を滑るように降りて行った。スタフお兄様もその後を追い、僕達はそれを確認して最後まで殿を務めてから同じように静かに降りて行った・・・
僕達が洞窟の入り口に着く頃には隊長のガイアスさんの指示で、外に出て戦っているゴブリン達が戻ってこないように、洞窟入り口を囲むように土魔法で分厚く高い壁が形成されていた。そしていつの間にかその上に、遊撃隊の射手や魔法使い達が陣取り、そこから野外の部隊を援護し始めた。
ガイアス「よし、これで背後から不意打ちを喰らう事は無くなったな。さて、次は各パーティーの斥候役と坊主達、お前さん達の出番だぞ」
「「「「「はい!」」」」」
そうしてガイアスさんに呼ばれた僕達は洞窟の入り口前に進み出て斥候役として洞窟内に先行突入する・・・
「・・・その前に、まず気配感知から始めましょう♪」
「「「「「はぁ??」」」」」
僕の突然の提案にソルやイネオス達以外の人達が不思議そうに声を上げた。
ガイアスさん「ちょっ、ちょっと待て坊主、気配感知は今から洞窟内に入って進みながらするもんだろ?なんでこんな入り口からするんだ?ここからじゃ奥に逃げ込んでいるゴブリン達の気配なんて全然感知できないだろう?」
「いえ、これで合ってますよ?イネオス達の感知範囲は平均で300メートルをゆうに超えますよ?方向を絞ればさらに遠くまで感知できますから・・・あ、あと僕の探索スキルなら、洞窟内の構造も探る事ができます♪なので少し待っていただけるなら、すぐに紙に書き起こします!」フンスッ!
と、気合いを入れて言うと、
「「「「「・・・・・・えっ???」」」」」
僕の言葉を聞いた大人達全員が口をポカーンッと開けて、固まった。
(ブフッ!全員同じ顔をしとるWWW( ´∀`)めちゃおもろ!!WWW(о´∀`о))
心の中で大人達の表情を笑っていると、僕達の感知能力や探索能力をよく知るヨンガン君が、ジト目で僕を見た後深いため息をしていたのが見えた。そんなヨンガン君に僕は笑顔を送ると、次は頭を抱え込んでいたのを見てさらに心の中で爆笑していると、・・・
イネオス「アトリー様、今の所、奥の方から新たなゴブリンがこちらにくる気配はないです。今の内に探索で入り口付近の地図をこの場で描かれてはどうですか?」
「あ、ん、そうだね、早くしないとまたゴブリンが湧き出て来られたら面倒だしね、じゃあまだちょっと気配感知で警戒を続けててね」
もうすでに気配感知で洞窟内を探っていたイネオスに声をかけられて、僕は真面目に仕事をし始めた、ソルが取り出したテーブルセットに座り、これまたソルが出してくれた紙と筆記用具を受け取って、目の前に大きく空いた洞窟の入り口に向けて“探究スキル“と“真眼スキル“を同時に発動し、洞窟内の構造を探り始めた・・・
「・・・うーん、結構深いね、・・・あれ、斜め下に潜って行くんじゃなくて、途中に階段?があるな・・・・ふむふむ・・・」
シャッ!カカッ カカカカッ カリカリッ シュッシュッ・・・・
突然始まった僕の製図作業にこれまた全員が目を見開き驚いて見ている、その間ずっとジュール達やソルは僕の側で警戒体制をとっていて、イネオス達は洞窟の入り口の真正面に武器を構えて気配を感知しながら周囲を警戒している、その中で今回、同じ斥候役に任命された各パーティーの斥候担当が信じられないものを見る目で僕達を凝視していた、すると、次第に僕の言った事の意味を理解し始めたのか、自分の能力と常識から考えてあり得ないと判断し、その表情が徐々に険しくなって行く・・・・
?「お前らっ!ふざけてんのかっ!?そんな落書きを今この場でし始めるとかよっ!!」
そう言って僕達に噛みついてきたのはBランクパーティー“黒鎖の同志“の斥候&前衛役の茶髪に黄色目の女性、“エニ“さん、彼女は“黒鎖の同志“のリーダー、“ブルッグ“さんと同じ地域の出身で幼馴染らしい、一緒に育った場所がその地域のスラムだったとかで、ブルッグさん同様かなり口が悪い・・・
「そうだよな、今する事じゃない」 「それにこの子達の感知能力範囲が300メートルとか、正直嘘臭い」 「長年、斥候役やってる俺だって100メートルが限界だぞ?」 「もう、こいつらここに置いて行って、俺らだけで先に偵察してきた方が早いよな?」
ソル「お静かに願います。今、アトリー様は洞窟の構造の把握に集中しておられますので・・・」
エニさんの言葉で我に帰った同じ斥候役の冒険者達やその仲間達が、次々と僕達に文句を付けてきたが、そこはすぐにソルが僕の前に出てピシャリッと注意をした。その様子を国軍側の軍人達は様子見をしていて、こちらの騒ぎに口を出しては来なかったが、スタフお兄様だけは黙って僕の方に近づいて来て、後ろから僕の手元の紙を覗き込んできた。
スタフお兄様「これは・・・かなり深いし複雑だぞ、この地図を見ながら行かないと確実に迷子になるな・・・」
僕の作っている地図を疑いもしないスタフお兄様のその言葉に、他の冒険者達が懐疑的な表情を浮かべ何か喋ろうとした時・・・
「ですよねぇ、思った以上に複雑で深くてちょっと、ここからだと見づらいです・・・・えーっと真下?に向かって螺旋を描くようにどんどん道が続いてますね・・・、所々に人の手が入っていたような痕跡が・・・・んっ・・・へティ、ここから斜め下、何かが動き出した、見てみて・・・」
へティ「はい!・・・・いました!直線で110メートル先、アーミーアントが2体が深さ地下1部分からこちらに移動して来ています。移動速度と気配の形、薄さからして、多分、アーミーアントのスカウト種です。入り口に着くまで40秒ほどです。どうやら上階のゴブリン達の気配が無くなったことで、様子を見に上がって来ていると思われます・・・」
へティが感知したアーミーアント達が、洞窟の一階部分に到達しようとしているのを聞いたイネオスとベイサンが、僕に迎撃の許可を視線で求めてきた。
「そう、こちらに気づいて中に逃げ戻られて、さらなる援軍を呼ばれると厄介だから、近くに来たらすぐに仕留めてくれる?「「「はい!」」」良かったお願いね」
そう言って許可を出すと2人は素早く洞窟内に入って行っていた。
「あ、そうだソル、紙が足りなくなって来たから次ちょうだい・・・!・・・これは・・・入り口?・・・くっ!弾かれた・・・無理ってことは・・・」ツッー・・・
ソル「!!?アトリー様!?」
「ん?何?・・・あれ?涙?」
迎撃の許可を出しおえて、作業を続けていると、ようやく洞窟の最深部に行き着いた、だがそこには大きな門があることが“探究スキル“何となく分かったのでその扉のさらに奥を“真眼スキル“も最大にして使い調べようとしたら、スキルの能力を弾かれた、その際に少し反動が来て一瞬目が痛くなったけど気にせず、この現象が何を意味するか考察し始めた。だが、ソルが僕が頼んだものを渡そうとコチラを見た時、物凄く驚き、焦った表情をしているのを見て不思議に思った、だがそれと同時に自分の頬を何かがつたう感覚に気づいた、自分が涙を流したのかと思って頬に手をやると・・・
「・・・血?・・・目から血が・・・・あ、あぁ、さっきの・・・」
何故か目から血が流れていた、だけど何故?と考えてみると、先程、“探究スキル“で見つけた大きな門の先を、“真眼スキル“で無理やり見ようとした時に見る事ができず、瞳に込めた魔力が弾かれたのを思い出し、その反動で痛みを感じたので、目から血が流れたのはそれが原因だろう、と納得していると。
ソル「アトリー様!血が!!目をお怪我なされたのですか!?「バッ!!」どこから!?」
へティ「えっ!!アトリー様がお怪我を!?」
原因不明の出血に慌てたソルが僕を庇うように前に出て、周囲を警戒し始めた。へティも洞窟の方を警戒しつつ後退り、僕の横まで来た。
スタフお兄様「えっ!?血っ!?アトリー君、こっちを見て!?・・・本当に血が・・・全隊員!周辺警戒!」
「ちょっ!!ちょっと、待って!!これ怪我じゃないです!!スキルの使い過ぎの反動です!!だからどこからも攻撃は受けてないですから、落ち着いて!!そ、それにほら!もう血は止まって、どこも異常はないですから!!」
ソルやへティに続いてスタフお兄様まで周辺の警戒態勢に入り出したので、僕は慌てて原因を説明して止まってもらった。
(ふぅ、久しぶりに怪我、はしてないけど血が出るような痛みを感じたな・・・、でもこれもすぐに治るし、今度同じことしても、もうこんな事態にはならないぐらいまた身体が丈夫になったな・・・( ̄▽ ̄))
夜月『だが、無理は禁物だぞアトリー』
(分かってる・・・(*´ー`*))
そう会話しているうちに戻って来たイネオス達が僕の様子を見て驚き、最初から驚いて心配しているへティとソルに加わった事で、さらに僕の周囲は騒がしくなった、僕はそれを見つつ現実逃避しかけたが、それを他の人達が何と言えない表情で見ていたのに気づき、流石にこの騒ぎを収めないと他の人に迷惑だよなと思って、ちゃんと現実に戻り全員に声をかけた。
「ちょっと、皆んな落ち着いて、ほら、もう何ともないよ、もう痛くないし、スキルはもう使ってない、あとは最下層の構造を描くだけだからね?それに今はお仕事中だよ!!」
イネオス達「「「はっ・・・」」」
ソル「アトリー様、また無茶をしてスキルをお使いになったんですね?」
ゴゴゴゴゴゴッゥ!、と音がしそうな雰囲気でソルが笑顔で詰め寄る。
「や、無茶はしてないよ?ただ、ちょっと、スキルの能力が届かない場所があっただけで・・・そ、それより、ソル!追加の紙をちょうだい!じゃないとお仕事が進まないよ!!」
ソル「・・・・・分かりました、はい、コチラが追加の紙です。・・・このお話は後でしましょうね?・・・アトリー様・・・」
「ひぇ・・・は、はい・・・・」(誤魔化されてくれなかったぁーーーーっ( ゜д゜))
少し言い訳をした僕にさらに笑顔を深めるソル、そのソルを見ている事ができなくなって、無理やりお仕事の話に話題を切り替えると、僕の要望を聞いて追加の紙を出してくれた。だが仕事の方を優先してくれたと思わせといて、ただ事情聴取と言うOHANASIは確実に後でやると宣言されてしまい、僕はその時のソルの迫力のある笑顔に盛大に顔が引き攣った・・・
(怖すぎる・・・確実にお説教までされるやつ・・・( ;´Д`))
天華『多分、感情共感で、アトリーが自分の怪我に関心が薄かったのが分かって、それで怒ってるんでしょうね。・・・・まぁ、自業自得ですね・・・』
(ぉっふっ・・・_:(´ཀ`」 ∠):)
天華にとどめを刺されて意気消沈しながら、最後の仕上げを粛々と進めた僕だった・・・・




