50話 初めてのお泊まり冒険者活動18〈作戦決行直前〉
時間は朝6時を回ろうとした頃、ようやく冒険者達が全員揃い、班ごとに別れて整列した。それを見計らったように国軍側の将校達や王族2人も集合場所に姿を現した。
ザッ!!
「「「「「総司令官殿に敬礼!!」」」」」
ザワッ!!
「「「「「!?」」」」」
スタフお兄様達が姿を現したと同時に綺麗に整列した軍人達が一斉に敬礼をした。だがそれとは別のざわめきが起こったのは冒険者達の方からだった、それは何故かというと、王族2人が軍服を来て現れたからだ。普段の王族とはかけ離れた軍服姿、冒険者達の大半はその姿を初めて見るのが大半であろうが、よく見ると他の軍人達とはまた違った軍服だ。
もちろん普通の軍服では無く、軍将校の制服をさらに豪華にしたような王族専用の軍服だ。それは通常、戦時下で王族が前線に立つ時に着用するのものであるが、冒険者達はそんな事を知らなくても、今この平和な時代には似つかわしくない物を身に纏っていた事で、周囲から驚きのざわめきがたった。
そして貴族籍のものならば、王族がこの軍服を身に纏ったと言う事の意味をちゃんと理解していた。それは、戦闘に参加すると言う意思表明である。最初、スタフお兄様が総司令官とは名ばかりの見届け人的な意味だと思っていたが、ちゃんと作戦に参加し指揮を取る、あわよくば、剣を持って戦う気満々なんだと言うことがこれで判明した。
(スタフお兄様達があれを着ているって事は、今回の作戦の現場にまで来て一緒に戦うって言うこと!?Σ('◉⌓◉’)確かに昨日の会議にもちゃんと参加して作戦の修正とかもしてたし、夜には僕の所にわざわざ来て配置を聞いたりして来てたけど・・・真面目に最前線で指揮を取る気なの?(*´-`)いいの?この国の王太子が魔物の掃討作戦の前線に出て・・・)
「スタフお兄様・・・本気か?・・・」
誰かに言ったわけでも無く小さく呟いた僕の言葉に、スタフお兄様は気付き、僕を見てニコッと笑いかけた。
(本気みたいだ・・・確かに今回の“掃討作戦”は異例の出来事が発生しているから、総司令官のスタフお兄様が現場にいた方がいいのは確かだ、難しい判断を迫られる時にも一々本部があるこの村に戻ってお伺いを立てる必要もなくなるしな・・・でも危険が伴うのも確かだ。後はどこの隊で指揮を取るかだけど、その辺はどうするつもりなんだろう?・・・)
そんな僕の心配をよそに今回の作戦の大まかな説明がなされ、それぞれの部隊の役割の説明が終わり部隊ごとにゴブリンの巣に向かうルートを案内する斥候隊の軍人を紹介されて、最後にスタフお兄様が同行する隊が発表された・・・
スタフお兄様「今回の作戦を実行するに当たって、現地の調査をした際、看過できない原因不明の現象を観測し、その現象の根幹を見極めるべく、本作戦の総司令官として着任した、スタサフィス・レイ・ウェルセメンテ、この国の王太子だ。本日は原因解明を自ら行う事を最優先とし、私は洞窟内の調査隊に同行することになる、部隊の任務の邪魔にはならぬよう、後方の支援隊として洞窟に突入するので、よろしくお願いする」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
ザワザワッ
「マジか、王族が自らゴブリンの巣に入るとか・・・」 「大丈夫なのか?」 「王太子様だぞ?」 「危ないんじゃ・・・」 「でも、こっちにも公爵家の子が・・・」
今の発表で冒険者側は動揺しながらも心配の声が上がる。その動揺が冷めやらぬ間に続いて、ロズ殿下の配置も発表された。
ロズ殿下「私はロズクオツ・レイ・ウェルセメンテ、第3王子だ。私は、先日からの軍将校として在籍しており、今回の“掃討作戦“の任務に参加をしている、また1小隊を率いて、洞窟内の調査隊に同行する。役割は魔物討伐を主に動くので、よろしく頼む」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
(・・・ま、マジか・・・王族2人とも僕達と同じ洞窟隊に来るのか、( ゜д゜)しかもロズ殿下はいつの間にか軍属なって魔物討伐まで・・・てか、あの人、騎士団に入るんじゃなかったの?)
ザワザワッ
「どう言う事だ?王子が軍所属とか聞いた事ないぞ!?」 「しかも、魔物討伐も積極的にするとか!」 「ちゃんと討伐できるのか?」 「こっちの方が危険じゃ・・」
相次いで思いもよらぬ発表に動揺が広がるが、ギルマスがすぐに手を叩き冒険者達を静かにさせた。その後は総元帥も洞窟隊に入ることが告げられた、それは王太子の護衛も務めることになると聞くと、冒険者達から安堵の空気が流れた。
そして、総元帥の副官が野外のゴブリンの巣の掃討指揮を取ると通達され、後は、各隊の連携確認のため、その場で国軍側と冒険者側も各部隊に別れて、同じ隊を率いる隊長達から昨日の会議で決められた配置を、小隊やパーティーごとに通達していき、それに従って隊列を組まされた。
僕達の配置はゴブリンの巣に行くまでの間、後方の周辺警戒を任され、ゴブリンの巣の洞窟についてから斥候、偵察役として先行潜入を行うことになっている。なので行きは後方隊のスタフお兄様を護衛する形で隊列に組み込まれた。
(そして今、何故か僕の真横にスタフお兄様がいるんですよねぇ~~・・・なんでやねんっ!( ゜д゜)/ズビシッ!)
本来なら僕はスタフお兄様を囲むように軍人さん達がいて、その更に外側に配置されているはずなのに、何故かスタフお兄様を囲んでいる軍人さんの列の間にスタフお兄様本人が無理やり入り込んで来て僕の真横に居座った。
「・・・スタフお兄様、ちゃんと元の配置に戻ってください・・・」
スタフお兄様「今は良いじゃないか、向こうに着いたらちゃんと元の位置に戻るからさ、私はアトリー君と話がしたいんだ」
あからさまに迷惑そうな表情と声でそう言った僕を見ながら、それを全然気にした様子もなくニコニコ笑顔で受け流すスタフお兄様。ついでに言うとロズ殿下はもっと前の方の軍人さん達の列に並んでる。
「はぁ・・・それで、お話とは?」
スタフお兄様「いやね、君が装備しているその剣、どこの工房で手にれたのかな?って気になって・・・」
「あ、この“刀“ですか?・・・」
どうやら僕が装備している“刀“に興味があって話しかけて来ていた様だが、僕はこの“刀“の詳細を話して良いものか少し迷う。
(以前ドゥーカ領のドラーゴサブマスに、僕達の装備の出所を言いふらすなって言われたことあるからなぁ~、スタフお兄様は身内みたいなものだけど、やっぱり言ったらダメだよね?(*´ー`*))
天華『そうですね。王太子殿だけの時なら良いんですけど、今は周りに他の方がいらっしゃいますから、今はやめた方がいいですね』
(だよねぇ( ´ ▽ ` ))
自分達の装備の貴重さは重々理解しているのだが、身内である王族にそれを隠したままでいいのかと迷った、天華が流石にこの状況ではやめた方がいいと最もな指摘に僕もそれに同意するしかなかった。なので、この刀の制作者である“ハント親方“のことは誤魔化すことに決めた矢先に・・・
スタフお兄様「その剣は“刀“と言うんだね。確か、大陸の東にある島国特有の剣の名称だよね?その剣を打てる職人は少ないと聞いたことがあるけど、国内にそんな貴重な剣を打てる職人は私が思い当たるでけで1人ぐらいしか・・・・もしかして、ファッブロ・・・」
「・・・・・」ニコッ(あーあ、自分で正解に辿り着いちゃった・・・)
結局、スタフお兄様は持ち前の察しの良さで答えに行き着いてしまった。僕の“刀“の制作者に気づき絶句しているスタフお兄様に、僕は笑顔で誤魔化すことしかできなかった。
スタフお兄様「っ!!そ、それはほん「しーっ」・・・はぁ・・・私でさえあまり見ることのできない代物だよ?それ・・・・」
スタフお兄様が僕の笑顔の真意を問いただそうとしたので、僕は口元に人差し指を当てて内緒のポーズをすると、それ以上は突っ込んで聞いて来なかったが、少ししてため息を吐き、小声でそう言ってきた。
(へぇ、王太子のスタフお兄様でさえあまり見ないって、そんなに少ないんだ?“ハント親方“の作った武器って(・・?)・・・でも僕が持ってる“ハント親方“の武器って、この“刀“だけじゃ無いんだけどなぁ・・・)
スタフお兄様はそう言うが、自分が持っている“ハント親方“の作ってくれた武器はかなりの数あるので、大袈裟ではないかと思って内心苦笑いしてしまった。
夜月『もう完全にバレたな・・・』
(だねぇ(*´Д`*))
天華『あんな事すれば確定した様なものですよアトリー・・・』
(しょうがないじゃん、大きな声で叫ばれるよりいいと思ったんだもん・・・(*´-`))
天華『それはそうですが、周囲の軍人、数人にもバレてしまいましたから、気をつけてくださいね』
(分かってるよ、まぁ、でも、そもそも、僕の“刀“達は簡単に奪うことはできないと思うけどね・・・)
夜月『まぁ、そうだろうな・・・』
そう話していると、僕の腰にある“刀“達が同意とばかりにカタカタと少し震えるのだった。
(ふふっ、僕もそう簡単に君達を奪わせるつもりはないから安心してね。春雷、雪花)
リーンッ リーンッ
僕がそう言うと、“刀“はその名の通り嬉しそうに澄んだ鈴の音を鳴り響かせた、そしてどこからか聞こえる鈴の音に周囲の人は不思議そうに頭を捻るのだが、僕はその音を聞きながら笑顔で歩き続けた。
その後はスタフお兄様にテントの質問や制作依頼などの話をされて、それに応えていると山の中で一時休憩に入った。
スタフお兄様「ふぅ・・・山登りはやっぱりキツイね・・・」
「?スタフお兄様、以前どこかで山登りなされた事があるんですか?」
スタフお兄様「ん?あぁ、学園の行事で年に数回、ここより緩やかな上り坂の山だったけどね」
軽く汗を拭きながら近くにあった岩に寄りかかり、傾斜の強い山道を見上げながらそう話すスタフお兄様。元々、この山の形状は特殊で、村から山に入る山道は序盤からかなりの傾斜のキツイ山だ、だが山自体の標高は高くなく山頂付近は多少穏やかな形状をしており、その横に続く尾根もそれほど尖ってはない、むしろ山頂以外の山の高いところの尾根は少し平らなところが多いので、キツイのは最初だけらしい。でも、山の反対側のゴブリンの巣がある方は、村側より急な傾斜というか崖に近い角度らしいので、降りる時は注意が必要との事・・・
そして、ふとスタフお兄様の発言で気になった事を聞いてみた。
「あ、それって、第3学年になったら始まる野外実技実習授業の事ですか?」
スタフお兄様「そうだよ、年に3回ぐらいだったかな?学年と季節ごとで行われる場所が変わるけど、山に行く様になるのは第4学年の春ぐらいだったはずだよ。君達は今第3学年だから、秋が最初の野外実習だよね?」
「それが先月、担当教員から王都近郊の森であるのは聞きましたがいつ行われるかは未定との事でした」
スタフお兄様「そうか、私が学園に通っていた時とは日程が変わったのかもしれないね。でも、最初に行く場所は変わってない様だね」
「そうなんですね。その野外実習の行われる場所ってどこの森が使われるんですか?」
スタフお兄様「確か王都の西北、この山と王都の間ぐらいにある中規模の森だったはずだよ。そこは王都周辺の草原地帯にある森としてはそこそこ大きいからね。軍や騎士団などの訓練場としても使われている、道もしっかり整備されてて、定期的に軍が訓練の為に魔物を討伐しているから、低学年の学園の生徒でも心配はないよ。それに野外実習前には一度軍が森に入って危険な魔物を排除している。だから早々危険な目には遭わないだろうね」
「かなり厳重に管理されている森なんですね。それなら皆んな安心して野外実習が受けれます」
最初、山登りできつそうにしていたスタフお兄様だったけど、今は僕達と野外実習の話で盛り上がれる程に回復した。それを見計らったように山登りが再開されて、また軽くお喋りしながら歩き始めるのだった。
(それにしても、野外実習の行われる場所が分かってラッキー♪それに定期的に軍や騎士団が訓練で見回りしているなら、野外実習を怖がっていたロシュ君とか安心して行けるね( ^∀^))
野外実習の事前情報がゲットできて得したと思っていると、傾斜が緩くなるのを感じた。どうやら山頂近くの尾根に近づいて来たようだ。徐々に近づく尾根、そこを越えて行くと崖に近い山肌があり、そこを降りた先にはもうゴブリン達が蔓延る巣となっている。全員が息をひそめ極力物音を立てずにゆっくり歩く、ゴブリンの巣が近くなった事で緊張感があたりを覆う・・・
そして、前方の人から次第に足が止まり、あらかじめ決まっていた配置につくため徐々に隊ごとに分かれて動き出した。
この時、隊列前方の3分の2の“前方隊“は山に囲まれた盆地を利用してできている野外のゴブリンの巣を強襲する部隊となっていて、その部隊はさらに“正面強襲隊“、“第1遊撃隊“、“第2遊撃隊“の3つの隊に分かれて動き出した。
まずはその“前方隊“の左に国軍兵が主に並んでいる、その左半分の国軍兵を“正面強襲隊“として、少し先に動き出した。隊を纏める隊長役を任された総元帥の副官が道案内役の軍の斥候の案内に従い、山の真ん中にある盆地の南側にある入り口を塞ぎ、ゴブリン達を逃がさないように強襲するため、静かに隊を率いて尾根を越え左側斜め下に向かって歩き出し離れていく。
それとほぼ同時に前方隊の右半分に残った2つの隊は、盆地の左右から野外のゴブリンの巣を遊撃する為それぞれ移動し始めていた。残った2つの隊は縦2列に分かれていて、右端に並んでいた“第1遊撃隊”は、盆地に入らず尾根沿いに大きく右回りに避けて、ここから盆地にあるゴブリンの巣を挟んで対極にある位置まで移動しなければならないので、すでに先行して動き出していたのか前方隊の隊列からすぐにいなくなり、そのすぐ横の“第2遊撃隊“はそのまま真っ直ぐ正面の尾根に進み、そこに生えている木々や藪を利用して隠れ、息を殺して待機し出した。
僕達、洞窟内に突入調査する“後方の洞窟隊“も少し遅れて動き出し、先行していった前方隊の“第1遊撃隊“の後を追うように、正面の尾根に待機し出した“第2遊撃隊“の横を通り、洞窟の入り口がある盆地の北側へ向かって静かに尚且つ、素早く動き出した・・・
こうして、緊張状態の中、徐々に“掃討作戦“の準備は進んでいく・・・・
その時、尾根に生えている木々の間にある藪の数カ所から、周囲の魔素が集中している場所がある事に気づき、その魔素溜まりのような場所の横にハンドボールサイズの異様な気配のする石が等間隔で置いてあるのも見つけた、それを見て僕は今朝、春雷達から聞いた報告を思い出し、とても嫌な予感がしたのだった・・・




