42話 初めてのお泊まり冒険者活動10
ギルマス「そうですか・・・、そう言えばデューキス様、先程も仰っていましたが、このような事が頻繁に起こると言うのはど言う事なのですか?」
と、訝しげに聞いてきた。
「あぁ、それは、!?・・・何だ?」
聞かれたことに答えようとした時、休憩用の広場のすぐ近くにある小さな森から微かな気配が複数近づいて来ているのを感知した・・・・
「気配が薄いな」 「こっちに来てるぞ」 「なぁ、なんか多く無いか?」 「あぁ、多いな」 「魔物か?」
休憩中の冒険者達も一斉にその気配に気づき戦闘体制に入った、僕やソル、イネオス達は気配のする方をじっと見て、何が来るのか探り出した。
へティ「!、これは小型の動物と魔物達の群れですね。敵意は無いようです」
へティがそう告げたと同時に、近くにあった木の茂みから小さなリスやネズミ、ウサギなどの小動物から、キツネやイタチなどの子供の魔物がかなりの数飛び出してきた。そして何故か全員が僕の方に駆け寄ってきて、怯えたように後ろに隠れた。
「な、何だ!?」 「本当に小動物だらけだ」 「何もして来ないな?」
「わぁ、可愛い子達がいっぱい♪・・・?、どうしたの?、!、へティ、奥・・・」
「「!?」」 「何か来るぞ!」 「⁉︎、構えろぉ!」
へティ「!…はい、感知しました。どうやら、この子達は何かに追いかけられていた様です。前方80メートル、大型の魔物、魔力量や速さからボア系の魔物と推測します」
「なっ!?」 「こんな所にボア系統だと!?」 「本当か!?」
動物達の様子がおしいと気づいたと同時に、僕が軽く広げた索敵の感知範囲に、更なる魔物の反応が引っかかった、それをへティにも共有すべく端的に指を刺し指示すると、へティもすぐに自分の索敵範囲を僕が指差した方向に広げた。周囲でもそれに気づいた人達もいる中、へティは誰よりも素早くこちらに来ている魔物を的確に分析し、誰にでも分かるように声に出して報告した。同時に、ジュール達も全て感知して、僕を守るようにいつもの体制に入った。
ドッドッドッドッドッドッ 「ブギィィィーー」
「「「「「!!」」」」」 「本当だ!!」 「全員武器を構えろーーっ!!」 「盾持ち!前に出ろっ!」 「突進してくるぞ!!」 「耐えろよっ!」
ドッドッドッドッ!
「イネオス、ベイサン、お願いできるかな?」
イネオス&ベイサン「「はい!」」 ダッ!!
ドッドッドッドッドッ! バキバキッ!! 「フゴッフゴッ!ブギィィーー!!」
他の冒険者達がそれぞれのメンバーに指示を出して戦闘体制を取り直している間に、僕もイネオスとベイサンに対応をお願いすると、2人は凄い速さでこちらに来ている魔物に向かって走り出した。
ドッドッドッドッドッドッ! ドンッ!バキバキッ!!「ブゴッーーーッ!」
ガイアスさん「お、おい!待て!」
ギルマス「危険です!!戻りなさい!」
ギルマスや“蒼炎“のメンバーさん達が慌てた様子で止まるように言ってきたが、それはもうすでに遅く、イネオス達は木々の間から物凄い音を立てて突進してきているイノシシの魔物、“グレートダッシュボア“の進路上を真っ直ぐ走り始めた。
この“グレートダッシュボア“は我を忘れているのか、周囲の木々にぶつかっても気にせず、全ての障害物を薙ぎ倒しながら、ただひたすらにトップスピードのまま走り続けているのが分かる音がしてきた。
ドンッ!バキバキッ!! ドッドッドッドッドッドッ! 「ブギィィィィーーーッ!!」 ドッゴォーン!! メキッ!!バキバキッ!!ブチンッ!! ブンッ! ドガッン!! ドッドッドッドッドッドッ!
ギルマス「っ!暴走している!?全員退避!!」
「デカいっ!?」 「危ねぇぞ!!」 「避けろぉー!!」 「跳ね飛ばされるぞっ!!」
ゼンガさん「貴方達どきなさい!!私が止めるわ!!」
もう残り30メートルほどの地点で怒りの声をあげて、自分の進行方向にある樹木に突進し、牙で突き刺し力任せに持ち上げて投げ捨てる“グレートダッシュボア“、その凄まじい力も見せたボアに誰もが驚いた。今まで凄まじい音は聞こえていたが、先程まであった樹木が邪魔で見えていなかった全貌がやっと見えた。
そのボアは巨体は体高を軽く3メートル越し、ゼンガさんですら見上げるデカさで、体全体が筋肉質だ、特に4本の足の筋肉は異様なほど盛り上がっていて、これまで通って来た全てのものを踏み潰していた。
ギルマスはすぐにこのボアの異常に気づき、退避の指示を出す。他の冒険者達も危険を察知したのか、イネオス達を心配して声をあげながら、自分達も巻き込まれないように距離を取るために下がっている。そんな状況の中、“蒼炎“のメンバーのゼンガさんが自分が受け止めると言って、馬車に載せていた大きな盾を持ちイネオス達の後ろまで来ていた。だが、それも間に合わない・・・・
「ブギィィィーーッ!!」ドッドッドッドッドッドッ!
「「「「「危ないっ!!」」」」」
イネオス&ベイサン「「はぁぁ!」」 ダダダダッ!「「「「なっ!?」」」」ダンッ!
フォンッ!! ザシュッ!! ガクンッドコッ!「ブギィィ!!」ズザァァァーッ!ドスッ!「ふんぬっ!!」 ザザザァーーッ!
イネオス&ベイサン「「とどめ!!」」 ドシュッ!! 「フゴッ!?フギィィーー・・・」 ドサッ・・・
「「「「「・・・・・・」」」」」 「「「「「はっ?」」」」」
自分達に迫って来ているボアを真正面から見つめる2人、あと10メートルと言う所で周囲がもうダメだと思いながらも、危ない!と叫んだ、その瞬間、イネオス達は気合を入れて、さらにボアに自ら突進して行く、その行動に誰もが驚愕した。
そんな、無謀な行動とは裏腹に2人は至って冷静で、突っ込んで来るボアを十分引き付けた後、素早く両横に別れてボアを避け、自分達の真横を走り抜けるボアの両後ろ足を、すでに抜き放って構えていた剣でそれぞれがタイミングよく同時に切り落とした。
そして、両後ろ足を切り落とされたボアはバランスを崩し横に倒れ込み、突進の勢いのまますでに構えていたゼンガさんの盾にぶつかり、踏ん張るゼンガさんを押し込みつつ1メートルほど下がった所で完全に止まった。ボアは自分が横に倒れていることに混乱しているのか硬直している所に、その隙を逃さなかったイネオス達がボアの脳天と首を狙って確実に仕留めた。
あっという間の出来事に僕達以外の人達は呆然、皆んな武器を構えたままポカンッとした顔でイネオス達を見ていた。
ソル「生命反応、魔力反応、共に停止、確実に仕留めたと思われます。アトリー様」
「うん、僕も確認したよ。イネオス、ベイサン、お疲れ様、見事な連携だったよ。また剣の腕が上がったね♪それに、へティも、索敵の精度により一層磨きがかかって、もう一人前の斥候役になれるね♫ゼンガさんもあの巨体を受け止めるなんて凄いです!」
イネオス&ベイサン「「ありがとうございます!」」
へティ「まぁ、アトリー様からお墨付きを頂けるなんて嬉しいですわ♬ふふっ♪」
夜月『ふむ、成長著しいようで何よりだ』
(だね♬( ^∀^))
僕の斜め前で警戒体制で武器を持って構えていたソルが、イネオス達の倒したボアを注意深く観察した後、警戒を解き武器を下ろしながら僕にボアの現状を報告してきた。僕も展開していた感知系のスキルからソルと同じ情報を得て、ソルの報告が確かだと確認をとった後、イネオス達の活躍ぶりを褒めると、イネオス達は照れたようにお礼を言ってきた。(ゼンガさんはまだ放心していたけど( ´ ▽ ` ))そんな照れた様子のイネオス達に僕は微笑ましく思っていると、僕の後ろに隠れていた小さな動物や魔物達がひょこっと顔を出してきた。
「あっ、もう君達を追いかけてくる怖い魔物はいなくなったよ。良かったね」
と、しゃがんで頭を撫でてやれば、嬉しそうに鳴き声をあげて擦り寄ってきた。それを皮切りに、小動物達が自分も撫でてとわらわらと僕に群がり、あっという間に僕は小動物まみれになった。
「わっ、ふふっ、くすぐったい!皆んな撫でるから、その前にイネオス達にちゃんとお礼を言って!」
「「「「「・・・・・はぁ!?」」」」」 「どうなってんだ!?」 「もう倒したのか!?」 「何だあの速さは!?」 「てか、あの子、動物に群がられてるんだけど!?」
僕が動物達に群がれていると、やっと放心状態から復帰した冒険者達が一気に騒ぎ始めた。
ギルマス「全員、落ち着きなさい!!」
放心状態から戻ってきたギルマスがすぐに騒ぎを収め、倒したボアの処遇をイネオス達に聞いてきた。そして、イネオス達が素材としての魔石と皮以外はギルドに売ると言ったので、ギルマスは手際よくギルド職員に指示を出し、ボアの解体をさせた。その間、僕達はお説教と事情聴取?をされて、そこで僕が動物まみれになっている、理由も聞かれた。この時、“蒼炎“のパーティーメンバー達は僕達の実力に驚愕しつつ、何処か感心したような表情で僕達を見ていた、特にイネオス達の活躍を1番近いところで見ていたゼンガさんは、興奮したようにメンバーにイネオス達の腕前の良さを話していた。
ギルマス「それで、デューキス様、貴方のこの状況はどう言うことでしょうか?」
「どう言う事、と言われても、この動物達はあのボアに追いかけられて怖い思いをしていたみたいだから。慰めようと撫でてあげたらこうなってしまったんです」
動物達はさっき僕が言った言葉で、イネオス達にありがとうの気持ちを込めて、イネオス達の周囲に群がり、頭を下げてひとしきり擦り寄った後、なぜか僕のところに戻ってきて。“ちゃんとお礼を言ったよ。えらいでしょう?撫でて!“と言った感じで、期待に満ちた目で撫で待ちをして来たので、仕方なしにまた撫でてあげると一斉にまた群がられてしまった。(まぁ、可愛いもふもふの魅力に逆らえなかった、と言うのが正直な話ではある・・・)
そして、事情聴取?の間もひたすら動物や魔物達を撫でる機械とかし、今に至るのだが、どうやらギルマスには僕がふざけているように見えているようだ。
ギルマス「っ・・・あのですね。動物達を撫でることになった理由を聞いてるのではなくてですね。なぜ、こんな警戒心の強い動物や魔物達が貴方に懐くように群がっているのか、その理由を聞きたいんです」
「あぁ、それですか。先程ボアが出て来たので言えませんでしたが、僕は動物や人型の魔物以外の魔物に好かれやすい体質をしてるんです。だから、こんなふうに馬車の旅をしていても、休憩などで外に出ると、必ずと言っていいぐらいに周辺の動物や魔物達が僕に会いにいてくれるんですよね。僕に危害を加えてくるわけでもなく、ただ構ってほしいと可愛くおねだりされたら、たまらず構ってしまいますので、いつもこんな感じで動物達に群がられてしまってます」
ギルマス「・・・そ、そうですか。・・・体質・・・それで、従魔のモモンガも?・・・」
僕の説明に最初は懐疑的な表情をしていたが、先程のモモンガの行動を思い出したのと今の動物達の行動を目の当たりにして、否定できないなと言った表情に変わっていた。その間も僕達は動物達を愛でていたら、僕達の専属受付嬢のアンテレさんと、解体師長のフライシュさんがボアの解体が終了したと報告に来て、僕達のお説教と事情聴取?は終わった。そして、解体の済んだボアの皮と魔石をフライシュさんがイネオス達に手渡したあと、残ったボアの肉は今日の昼ご飯と夜ご飯のおかずになるからありがたいと言って笑いながら去っていった。
「今日のご飯のおかずになるんだ、あのボア・・・しかし、あのボア、どこから来たんだろう?こんな小さな森の中にいるような種類じゃないはずなのに、それにかなり気が立っていた」
ギルマス「そうですね。あのような大型のボア系統の魔物の生息域は山が近い広い森が主です。この周辺でその条件に当てはまるのは例のゴブリンの巣が発見された山の麓にある森が当てはまるのですが、多分その森でゴブリンが幅を効かせ始めたのでしょう。その証拠にあのボアの体に致命傷にならない程度の矢傷が複数確認されたと、フライシュから報告が来ました。それに、この小動物達の数の多さも異常ですし・・・」
「確かにそう考えるのが妥当ですね。君達も必死にこの森まで逃げて来たのに、手負の暴走したボアに追いかけられて大変だったね」
よしよしと、近くにいたイタチの魔物の子を撫でると嬉しそうに鳴いて、僕の腕をするすると登り肩まで来て、僕の頬にお返しとばかりに頬擦りをしてくれる。
(それもそうだよね。話を聞いた限り、かなり大規模な巣だもの、周辺の環境に影響が出るのは当たり前のことだったね。でも、村に被害が出てないのは、ゴブリンの巣がある山の形が特殊なおかげか?( ̄▽ ̄)地図を見た限りだと、山の高さまでは分からないし・・・(*´ー`*))
天華『そうですね・・・』
そして、ギルマスは先程の事があったからか、この休憩中にも警戒を怠らないようにと冒険者全員に注意喚起して、かなり早い昼食の時間だが、各々昼食の準備に掛かるよう通達した。
その話を聞き終わった冒険者達は、それぞれのパーティーで持って来ていた食事の用意をしだし、今回の遠征討伐ではギルド側が全員に料理を一品提供することになっていたので、今回はスープを大鍋で三つ作って提供された。スープは各自取りに行く事になっているので、全員が自分の食器を手に持って大鍋の前に並び出した。スープを受け取った冒険者達はパーティーでまとまって食事を始めた。
(おぉ!ギルド側が今回の遠征中に一品提供するって確約していたスープに、さっきのボアの肉が早速投入されてる!)
自分でスープを受け取りに行こうと思ったが、構ってほしい動物達が纏わり付いて動けなくなった僕の代わりに、ソルがギルドの提供するスープを用意していた鍋を持って取りに行って来てくれた。ソルはテーブルの用意をするからスープの入った鍋を見ていてくれと僕に渡して、ある程度平らな地面をさらに土魔法で整地しテーブルなどを取り出し食事の用意をし始めた。
僕はそんな様子を見ながら渡された鍋の蓋をそっと少し開けて中を覗いてみると、野菜がゴロゴロ入ったボアの肉入りブラウンシチューだったので、早速倒した素材が活躍しているのを見て感心していると、ソルとイネオス達が食事の用意ができたと呼びに来てくれたので、動物達には悪いけど少し離れて貰って、鍋を持って完璧に準備されたテーブルに鍋を置き、動物達と戯れた時に汚れた体にクリーンで綺麗にしてから、椅子に座って食事を始めた。
この時、他の冒険者達はその辺の地面に直接座り、食事をしていたのだが、僕達はいつも通りマイペースに、収納スキルとマジックリングを最大限活用して、テーブルセットを用意し優雅に食事をとっていた。その様子を見ていた冒険者達の中でやはり妬みの視線を強く感じたが、そんな視線はこれまでで何度も感じてきたものなので、いつも通りガン無視で、家の料理長から持たされた柔らかいパンや、他の豪華なおかずを皆んなで和気藹々と優雅に食したのだった・・・
・・・・・しばらくすると冒険者達の食事が終わり片付けをしだし、僕達も食事が終了したのでお片付けに入った、僕とへティは基本的にどのお手伝いもさせてもらえないので、食事中静かだったジュール達や小動物達を構いに行って、片付けが終わる頃に、撫で回していたキツネの魔物の子に、“そろそろココを離れて先に進む“と言ったところ、それを聞いた小動物全員が僕の足元を囲み、悲しそうな顔で僕を見てくる。
「あ、あのね、僕はもうそろそろ、行かなきゃいけないんだ、だからね、離れてくれると嬉しいなぁって・・・」
「「「「「きゅっ?」」」」」 「「「「「きっきっ?」」」」」 「「「「「みゅ?」」」」」
可愛い鳴き声と共に可愛く首を傾げて見上げてくるのは手のひらサイズの小さな動物達、“もう行っちゃうの?“と言ってるようなその仕草に・・・
(ぐっふっ!!か、可愛すぎかっ!!( ゜д゜))
と、心の中で吐血しながら困ってしまった、もう全員連れて帰りたい衝動に駆られたのだが、そこはグッと堪えて、優しく1匹ずつ抱き上げて、足元から引き剥がし、寂しいがまたくるからと約束して、後ろ髪引かれながらも馬車に乗り込んだ。僕と同じように小動物達を愛でていたへティも悲しそうな表情をしながら、馬車に乗り込み、この日の休憩と昼食は終わった。




