5話 隔世遺伝??
ソル「では、本日のご用件に入られてください・・・」
向こうの王族3人にお茶を出した後、そう促したソル。その言葉に最初に口を開いたのは今回、僕に会談を申し込んだセリニデュシスの王女殿下だ。
エルフ王女「はい、まず最初に、ここ数年での我々の無礼な行動を謝罪させて頂けますでしょうか?」
おずおずと、僕の顔色を伺いながらそう申し出てきた王女殿下に僕はゆっくり頷いた。僕が頷いたのを見て向こうはホッとしている…、側近エルフ以外は・・・
(物凄く不服そうだねぇ( ´ ▽ ` )でも、これをしないと先には進まないんだよ?・・・王女様は国のお偉いさんに散々注意されてるみたいけど、あの側近達の方の注意は疎かになってたのか?てか、なんか今の状況が企業の圧迫面接している気分になってきた・・・(*´Д`*))
なんて思いながら見ていると、3カ国の王族が揃って立ち上がり1人ずつ謝罪をして頭を下げ始めた。
エルフ王女「これまでのデューキス子息に対するご無礼の数々、誠に申し訳ありませんでした。初めてお会いした時に子息のご予定も確認ぜず、会話の許しさえもえずに勝手に話しかけ、ましてや名乗りもしないまま、子息を蔑ろにしてしまいました。言葉で謝っても完全に許されると思っていませんが、心より謝罪させてください。本当にすみませんでした!」
ダークエルフ王子「私も、お二方が話しているにも関わらず、会話に割り込み自分の要件を優先させ、精霊やスキルを使ってデューキスご子息にご不快な思いをさせてしまいました。それに子息の休日、私的な時間のお邪魔までしてしまい。誠に申し訳ありませんでした!」
鬼族王子「自分も礼節を守らず、無礼な行いをしてしまい、誠に申し訳ありません!」
そう言って更に深く全員で頭を下げた。側近エルフ以外からは本当に真剣に申し訳ない気持ちが伝わってきて、僕は彼らを許す、と言うか、そこまで彼らに興味がなかったので、無礼をされたという意識はなく、今まで彼らの話を真剣に聞こうと思う気持ちもなかったのだが、今の謝罪で真剣に話を聞く気が出て来た。
(ねぇ天華、もう話し掛けていい?( ´ ▽ ` ))
天華『ふむ、しょうがないですね。良いですよ、ですがあのエルフの側近の態度が酷くなるようでしたら、強制的に外に出しますからね?』
(あ、うん、それは好きにして( ^∀^))
天華にOKを貰い、ソルの顔を見るとソルはすぐに察したのか、仕方なさそうに頷いてくれたので僕はにっこり笑顔で返しといた。
「皆さん、顔をあげてください。皆さんの謝罪は受け取ります。僕は元々皆さんを罰する気持ちなどは持っていません。ただ、以前から普通に学園生活をし、友人達との冒険者生活を楽しみたいと公言していますので、その生活に支障が出なければ誰がどこで争おうが、誰かが僕について悪い噂を立てようが気にしたりはしないんです。普通に話しかけてくれれば普通に返事を返しますし、その場で済む話でないのなら事前に知らせをください、予定を調節して時間を作って対応もします。なので最低限の礼節を持って接して頂ければ、僕からは何も言う事はないのでこれ以降はそう固くならずに会話ができればと思っています」
一見突き放したような言い方だが、自分の本心だし、これ以上堅苦しい言葉遣いで話を進められても肩が凝ると思ったので、もっと気楽に話し合いがしたいと暗に伝えた。その意図を汲めた王族や側近達は呆気にとらわれたような表情をし、意外そうな目で僕を見た。だがその中で1人だけちゃんと言葉の意図が理解できず、こちらを鋭く睨むエルフ王女の側近、そんな彼の表情に気づいた隣のダークエルフ王子の側近が、慌てて側近エルフの脇を肘で突き注意していた。
「「「「「お許しいただき、ありがとうございます」」」」」
再び深くお辞儀をした王族3人とその側近達に、僕は再度ソファに座るように促しお茶を勧め、一息ついたところで今回の向こうの要件である話の内容を聞いた。
「それで、本日の要件とはなんでしょう?」
エルフ王女「あ、その事なのですが、デューキス子息、貴方は我々エルフやダークエルフの風習や習慣、宗教観念などご存知でしょうか?」
「?風習や習慣、宗教観念ですか?・・・そうですね、あなた方の宗教観念は人族の中でもそれなりに有名ですので何となくは分かりますが、風習や習慣に関しては細かい所は全くと言って良いぐらい知っている事は少ないかと、…僕が知っている事と言えば、人族と違いこの世界を創り見守ってくださっている神々を崇めるのではなく、この世界の自然を管理し正常に保つ役割を担っている精霊達を敬い崇めている。と言った所でしょうか?」
エルフ王女の質問に自分が知っている限りの情報を答えた。
ダークエルフ王子「大体は合ってますね。ですが、我々ダークエルフとエルフでは少々暮らし向きと宗教観念のもとである精霊達との関係性が異なるんです。普通のエルフ達は先程ご子息が言った通り、精霊を1番に考え、自然そのものを大事にして、どの種族よりも精霊に寄り添って敬い伝統的な暮らしをしているものが多いのですが。我々ダークエルフは精霊達を敬いつつもこの世界を見守ってくださっている神々も等しく敬って、精霊達の力を友として借り、常に新しい良きものを取り入れながら暮らしています。その精霊に対する考え方が多少異なる私達ですが、それでも双方共通の認識として、精霊に対する知識はどの種族より理解しているのを自負しています。そんな私達でさえ貴方の今の現状は今までにない衝撃的な状況になっているのですよ・・・」
(エルフは保守的で伝統的な考えで精霊だけを敬うが、ダークエルフは革新的な考えで常に新しいものを取り入れ、神々と精霊は同じように敬いつつも、隣人として共に助け合い、日々、生活しているって事?か?それにしても・・・)
エルフとダークエルフの精霊に対する宗教的な考えや習慣の違いを聞いて、同じエルフ系の種族でも結構違いがあるんだなぁ、なんて感心しながら聞いていると、精霊に対する知識は同じ様に持っている双方が共通して驚いている事があるらしく、それが今、僕の周囲で起こっている事だそうだ。
「???今の状況???」
エルフ王女「ご子息、失礼ながら申しますと、貴方様は今の周囲の状況を見えてはいるけど見ぬふりをなさっておいでか、意図的に見えないようになさっているのではないでしょうか?」
「!、それはどう言う事でしょう?」
(おっとぉ?何の事だ?もしかして彼らが言いたいのは精霊が視認できるのにしてない事が指摘したいのか?でも周囲の状況とはなんだ?(*´Д`*))
ダークエルフ王子の言う“今の状況“と言うものがどう言う意味かわからず、首を傾げていると、エルフ王女が僕が何かを見えることを前提としてそう聞いてきた。その言い方から察するに精霊が見れると言うことを確認したいのか?でもそれを僕が正確に答える事はできないのでとぼけていると・・・
ダークエルフ王子「ご子息、我々は貴方様が我々と同じように精霊達を視認できる瞳をお持ちなのではないかと思っているんです。それをあえて、世間には隠していらっしゃるのではないですか?」
「・・・ふぅ、何故その様な見解に?」
夜月『中々鋭いな・・・』
ダークエルフ王子が僕が答えを濁していると気付いたのか核心をつくようにそう言ってきた。確信を持ってそう言ってくる彼にどう言った経緯でそんな考えに至ったかを聞くと。
ダークエルフ王子「それは、ご子息の周囲にいる精霊達が貴方様に纏わり付いて離れようとしないんです。私達が話しかけても反応を示さず、無視するんです。いつもでしたらその土地で暮らしている精霊達とは挨拶を交わすものなのですが、この国に来て学園で暮らしていく上で、この土地の精霊とは一度も話せず、挨拶さえもできていないのです。そればかりか、本国から連れてきた自分の契約精霊達も、貴方の様子を見て欲しいと頼んだ後から貴方様の側から離れなくなってしまっていて驚いているのです。人族の中でこれほど精霊に好かれ愛されている人は見たことがありません。そこまで精霊に愛されている方が精霊の姿を見れてないとは思えません。それに諸説ありますが、精霊は元々自分たちの気に入った者に自分達を見て欲しくて、“精霊視“と言うスキルを与えると聞いた事があります。なので、貴方様が何らかの理由であえて意図的に精霊を見ないようにしているのではないかと考えました・・・」
「ん??ちょ、ちょっと待ってくださいね?精霊を見ることのできるスキルがあるのは知ってはいますが、そのスキルとは精霊から付与されるものなのですか?」
(そんな説初めて聞いたんだけど?あれって魔力視の上位互換でスキルが進化してもらえるか、エルフ達の血筋に沿って現れるものじゃないのか???Σ('◉⌓◉’))
天華『まぁまぁ、落ち着いて、精霊王達クラスでしたら能力的には可能だとは思います、それもアトリー並みに精霊に好まれる人物でしたらあり得ますが、まぁ、実際にその様な事例があったかは不明ですよ?』
(そ、そんな、曖昧なものなんだ?(*゜▽゜*))
驚きの説を聞いてプチ混乱。
エルフ王女「一説ではそう言われている事もありますが、私達がご子息が精霊を見れるのではないかと言う見解に至った1番の理由は他にもあり、その事に気づいたのはノルテ魔王国の王子、オルコ殿のお話を聞いた時でした・・・」
そう言って左端で静かにエルフ達の話を聞いていた鬼族王子を引き合いに出したエルフ王女。
「彼の話とは?」
(どう言うことよ?ここでノルテの王子が出てくるの?(*´Д`*))
そう思いながら鬼族の王子を見ると・・・
鬼族王子「えっと、そうですね。以前そちらの従者の方に酷く怒られた時に3人で反省し、互いの要件を話した事がありまして。私はご子息のお力を伝聞でお聞きしたことでご子息のそのお力の根源に興味が湧き、貴方の血族にどの様な種族が存在したのかお聞きしたかったんですよ。この国は多種族を差別する事なく平等に受け入れていると知ってますので、そこに婚姻によって様々な種族の血が流れた人達が存在していることも知ってます。そんな国の王族もあらゆる血筋を取り入れていることで、様々な種族の特性能力を持った人がいると推測し、そこで、ご子息の血縁者の中にジャイアント族の血を受け継いだ方がいたのではないかと推測して話していたのですが、それを彼らはその説でいくともしかしたらご子息は、エルフ族かダークエルフ族の血も受け継いでいるのではないかという話になり、ご子息がエルフの血を継いでいて精霊が見れると確信したようで・・・」
鬼族王子は憶測の域を出ない話だと分かっているのか、所々言いにくそうに話しているが僕は・・・
(マジか、その可能性はあるかもしれないか、“エルフ先祖説“・・・(;-∀-))
「そう、ですね、・・・・確かに、この国の住人の大半は何かしらの種族の血を受け継いでいるとは思います。ですが通常生まれ持った外見で種族の判断がつき、その種族的な能力もそれに準ずるものを受け継ぐ筈なのですが、僕はそんな中でもとても珍しい例でして、外見では判断できない種族特性を多数所持してはいますね。その中にエルフ族やダークエルフ族の種族特性である精霊視のスキルがあっても不思議ではない・・・ですが、僕の知る限り僕の血縁者の中で、種族特性を受け継ぎやすいと言われる過去4代前までは、そのどちらの種族ともの婚姻はなかったはずです。ノルテの王子殿下の言う通り、僕の母方の祖父の母親がジャイアント族であったのは確かではありますが、それ以外の他種族との婚姻はこれも母方の祖母の父親が小人族であるぐらいですかね・・・あ、でもそれ以上昔の先祖に他の種族との婚姻があったかどうかはまでは・・・」
自分で話しているうちに、自分には2つもの種族特性を持つ前例があるという事は、その“エルフ先祖説“も否定はできないと思い始めた・・・
(うん?待てよ?もしかして、アリーお祖母様の魔力操作の技術の高さはエルフの種族特性だったか?もしかしてお祖母様のご先祖の中でエルフがいて、それが父様の代で“精霊視”の下位互換である“魔力視“が隔世遺伝で出たとか?そして僕にもそれが出て、スキル進化で“精霊視“になった?・・・その説が濃厚になってきたな・・・(。-∀-))
「もしかしたら、父方の祖母の方にエルフ族かダークエルフ族がいたかもしれませんね。僕は隔世遺伝で・・・でも・・・」ボソッ
「「「「「えっ!?」」」」」
エルフ王女「やはり!そうなのですね!?」 ダークエルフ王子「では、やはり精霊が見えるのですか!?」 鬼族王子「マジか!?ジャイアント族だけじゃなくエルフ族や小人族まで!?」
「あっ、・・・・ふぅ、そうですね、正直に言いますが確かに僕には精霊が見えます。今は意図的に見えない様にしているのも確かです。ですが、それが隔世遺伝なのかは確証は持てませんよ?」
つい口が滑り、確証もない隔世遺伝の話に彼らは前のめりで食いついてきた。ここまで来ると僕が精霊が見えることを白状した様なものなので、そこは素直に精霊が見れることだけは認めた。だが僕自身はこの説に確信が持てずにいる。
それは何故かというと、僕の隣にいるソルも精霊視のスキルを持っているからだ。彼は完全に僕の血族とは関係がないし、彼の一族は人族主義が強い国の出身なので、多分、裏家業の人族同士の婚姻で血を繋いできたはずだ、もしその中でエルフ族やダークエルフ族と少しでも関わった人がいたとしても、血縁としては遠いと思われ、ソル自身は世代が近い血縁の特性を複数顕現させているので、もし隔世遺伝が起きたとしても大した能力は発揮できない筈だ、世代が近い血縁の能力が強く現れると、世代が遠い血縁の能力は薄まる。それが今までの血縁から得られる能力の強弱の定説となっている。(僕にもこれにあたると思われる)それにも関わらず“魔力視“から“精霊視“のスキルを進化獲得している。
ならば何故僕やソルは“精霊視“を獲得できたのか、それを別の線で考えるとダークエルフ王子が言っていた説、精霊達がソルが好きで自分達を見て欲しいから見えるようにしているという説が出てくるのだが、その説に僕が当て嵌まったとしても、ソルは精霊達から僕並みに好かれていると言うわけではない。なのでその説にも信憑性があるわけではない・・・
両方の説に疑問が残るので、今この場だけ“僕の“精霊を見る能力は“エルフ先祖説“を暫定的な候補としておく・・・
(まぁ、僕の場合はお祖母様の“魔力操作能力“と父様の“魔力視スキル“があって、それを僕が引き継ぎ、その上で精霊王からの加護を貰ったから“精霊視“を開花させた可能性はある、だから“エルフ先祖説“が有力候補ではあるんだけどな・・・(。-∀-)はぁ、どうも結論がハッキリしない、こういう時にDNA鑑定の技術が欲しくなるなぁ)
と、多少の勘違いをしたまま、そうぼやく僕は、この時いつもなら話に参加してくる天華やジュール達が途中で、目の前の王族3人や僕から必死に目を逸らし、極力この会話に参加してこなかった事に気づかなかった・・・
ジュール(『い、言えないよ、“魔力視“や“精霊視“のスキル獲得条件が、エルフ族やダークエルフ族は基本的に取りやすいってだけで、血縁とか関係なく精霊と親和性が高い人族でも稀に取れる事はあるって、言えない・・・』)
天華(『言えない、アトリーのお父君の“魔力視“が生来のものではなく、アトリーやソルが“魔力視“を得たのが血縁ではなく完全なる偶然なんて、言えない・・・』)
夜月(『言えないな、アトリーの“魔力視“の進化で“精霊視“を得られたのは神々の指示で、精霊王が加護の内容をいじったおかげで確実に得られたものだなんて、その上、アトリーの周囲の人達が同じように“精霊視“を獲得できたのは、アトリーに近寄ってきていた精霊の気配を常に感じていたせいだなんて・・・言えない・・・』)
*アトリーの父親であるアイオラトが以前持っていた”魔力視“のスキルは、彼の専属執事である“カイル”が所持しているものを“忠誠の誓い“の効果でスキルの共有をしていたのだが、“魔力視スキル“がアトリーに集まってくる精霊の影響でスキルが進化し、“精霊視スキル“として本人が取得できたものだ。借り物のスキルを進化させ、自分のものとする事ができたのはかなり珍しいことではある。ちなみに“カイル“の母方の祖父がダークエルフ族のハーフだったらしい・・・
様々な種族が暮らすこの世界では過去を遡れば必ずどこかで様々な種族と混じり合うものだ、血縁を追求しても得られる特殊な能力やスキルは確定ではない、スキルを得られたのならそれはその時の本人の努力の賜物である。近しい血縁で得られる能力も引き出せるかどうかも運とその人の努力次第だ。たまに特殊なスキルを授かるのはその本人の性格や魂の質に適性があったからだったりする。要は簡単に言うと種はあっても芽吹くかは全てその人次第ってことだ。・・・・そして、他にもスキルを得る方法はあるが、神々の気まぐれな贈り物として得られるものだ、それは完全なる神々の気分次第なので期待してはいけない・・・・この事を後に知ったアトリーが遠い目で数分動かなかったとか、頭を抱えて唸ったとか、諸説あるがその光景を見る事になるのはもっと先の未来の話である・・・
そんな世界の摂理など全く持って知らない今のアトリーはスキルの不思議に頭を捻るばかりであった・・・




