172話 “公開実技授業”当日〈武術実技授業の時間5〉
はい、どうも、僕です。今、僕はちょっと、怒ってます。
「・・・ん?くだらない理由?」
僕は王女様の私怨の理由より、最後に言い放った言葉に引っ掛かりを覚えた。
王女様「ええ、そうよっ!いつも一緒にいる“下級貴族共“との交流をやめるように言っただけで、お前が反発するからっ!トルペ様は寛大なお心でお前に助言しただけだと言うのにっ!!生意気にもお前はトルペ様に罰を与えるなどと!“身分“を!“身分“をわきまえなさいっ!お前も、あの薄汚い“下級貴族共“もっ!!はぁ、はぁ、はぁっ・・・」
興奮して一気に言い切った王女様は肩で息をし、僕を見下すような目で睨みつけてきた。
ザワッ!!「「「「「っ、うわぁ・・・・」」」」」「「「「「っ・・・・」」」」」
「・・・へぇ、“下級貴族“、“身分“、・・・ね・・・」ボソッ
「「「「「あー・・・・」」」」」「『『『・・・・』』』」
今の王女様の発言が聞こえた人達の大半はドン引きの声をあげたり、眉を顰め絶句している。僕は自分でも驚くほど低い声で王女様の言葉を復唱した。その声が聞こえたのか、イネオス達や仁達は何か察したような声が上がり、ソルやジュール達は真顔で沈黙していた。
「ふーん、“身分“をわきまえるね、・・・・ねぇ、王女様、僕はねさっきまで貴女に対して申し訳ない気持ちが少しあったんですよ。“元第5王子“が人として全く尊敬できない人物だったといても、貴女に対しては尊敬できる優しい人物であったのなら、そんな人を奪って申し訳ないってね」
王女様「はっ!今更何を言ってるの⁉︎お前に!慈悲深いトルペ様の何が分かるって言うの!それにトルペ様を“元“第5王子なんてお前が呼ぶんじゃないわよ!そうなったのは誰のせいだと思ってるの!?“下級貴族”としか馴れ合えない、ちょっと珍しい加護を得ただけの公爵子息のくせに!生意気にもトルペ様に説教するなんて!!」
(何言ってんだ、この王女様、僕がただの公爵子息だってまだ思ってるのかな?この間のパーティーで何が起きたか知らないはずはないんだけど・・・)
「はぁ、貴女はその表面上は慈悲深い?“元“第5王子に騙されていたんだろうと、思っていたんだけど・・・
貴女もあの“元“第5王子と同じで、“身分”で人を見下すような人だったなんて、正直、ガッカリだったよ。貴女は王族としての心構えが全くと言っていいほどないんだね。どんな教育を受けたらそんな言葉を発せられるんだい?貴女はヴェステ王国の“次期女王“の第1王女なんでしょう?国民を守っていかなければいけない立場なはずだ。いや、今回の事でその“身分“も完全になくなったか・・・・」
頭の痛くなる様な言葉を並び立てる王女様に苛立っていると。観客席から父様と母様が石舞台の近くまでやって来ていた、隣にはソルにジュール達、仁達やロシュ君、イネオス達の姿も見える。
(あ、父様達だ、さっきので心配させちゃったのかな?( ´ ▽ ` ))
父様達と目があったので自分は大丈夫だと軽く手を振り合図していると。
王女様「・・・お前は、そうやって、のうのうと幸せを享受して、わたくしにまでそう説教を垂れるのは、神々に気に入られたからと言うだけの事でしょう!?それが無くなればお前になんて誰も見向きもしないわ!親兄弟がお前に優しくするのも!あの“勇者候補達“を侍らせることができるのも!各国の王侯貴族ですらお前を気にかけるのも!全て、お前に神々の寵愛があるから!ただそれだけでしょう!?仲良さそうにしていても今頃お前のそばに駆けつけたのがいい証拠よ!お前が殺されそうになっていた時だって助けに来なかったんだから!!
でも、わたくしはトルペ様を心の底からお慕いしているわ!!お前とは違うのよ!トルペ様はわたくしの伴侶となるのに相応しいお方なのよ!わたくしが女王となるとき、何よりも必要だったトルペ様をお前が貶めた!国はトルペ様を庇うどころか閉じ込めた!だからわたくしはお前に復讐してやると決めたのよっ!!“次期女王“!?そんなのもうどうでも良いのよっ!婚約を白紙にした母国にも未練なんてありはしないわ!!お前が死ねばわたくしは、わたくしとトルペ様は幸せなの!
だから、その目的の為なら手段は選ばないわ!お前はこれから自分のその化け物じみた魔力で、この結界から出ることなんてできないのだから!助けすら来れないわ!お前の魔力が尽きて死ぬまでね!
・・・ふふっ、うふふふっ、あはははははっ!お前の大事な“お友達や勇者候補達“に助けて貰ったらどう?・・・できればの話ですけど!あはははははははっ!」
(く、狂ってる、支離滅裂なことを言い出したな、“身分“で差別する割に自分の国での“身分“には未練がないなんて、言動がおかし過ぎる・・・Σ(-᷅_-᷄:)それになんでこんなにこの結界の魔道具を信頼してるんだ?何か他に仕掛けがあるとか?)
狂ったように笑い出した王女様に、周囲の人や観客、各国の要人達もドン引き。僕は支離滅裂な彼女の言動に違和感を覚え考えていると・・・
天華『アトリー、その王女様を“情報開示“で見てみたらいかがですか?』
(うーん、確かにその方が詳しく分かるか・・・“真眼“じゃ今の所、怪しい物は見当たらないし・・・・一応、サフィアス叔父様に許可を貰うか?後、父様達にも・・・)
「はぁ、これはまた、いい加減な事を言わないでほしいですね。そもそも僕は生まれた時から家族から可愛がられている自信はあるし、仁さん達が僕のそばに居るのは彼らの意思だ、僕が侍らせてるわけじゃない。まぁ、神々の加護の影響で各国の要人達が、僕に気を使ってるのは事実だから、そこは否定しないけどね。
後、この結界から誰も抜け出せないなんて、誰が言ったんです?何か変な仕掛けとかあるんですか?・・・・・ん?なんだこの魔力の流れは?・・・・」
急に感じた魔力の流れの変化に気づき足元に視線をやると。
(なんだ?これ、急に彼女の持っていた剣に魔力を移し出してる?さっきまで“呪詛媒体のナイフ“に魔力を注いでいたのに?ナイフに溜め込めれる上限が来たから?ん、いや、それなら、魔力供給を止めれば良いだけの話だもんな。(-᷅_-᷄๑)じゃあ、なんで別の剣に魔力を込め出したんだ?あ、この剣も“呪詛媒体“の1つとしてたのか?・・・ん?結界の魔道具にも異様な程、魔力が溜め込まれている?なんで?結界の維持に使ってるんじゃ・・・)
王女様「あはははははっ、わたくし達の幸せを奪ったお前も!その原因になった“下級貴族共“も!まとめて“全て、消えて“仕舞えばいいのよっ!!」
王女様の今の一言で全て察した僕は慌てて結界の外に向かって叫んだ。
「っ!“全て消えれば!?“ソル!!ロシュ君と仁さん達を守れ!!父様!母様!皆んな!!僕の渡した結界の魔道具に最大限魔力を込めて!!石舞台を囲んで!!ここは危険だから!全員、運動場内から退避を!!」
(これは手製の大型クラスター爆弾だっ!このナイフや剣達は元々ある一種のリミッターも兼ねていたんだな⁉︎ナイフには後付けで“呪詛媒体“にしたのかもしれないが、魔力がナイフと剣、どちらもが石舞台にある状態で魔力が満ちる時が下にある結界の魔道具が本領発揮で、自分が僕にとどめがさせなかった時の保険、通りで殺したいほど憎い僕と長々と会話をしたわけだよっ!
大体、たった直径3メートルの結界を維持するためにしては魔力の吸収率が多いと思ったんだ、空気中からも魔素を取り込んでいたんだな⁉︎結界を発動させてもなお余る魔力を魔道具自体に溜め込んでオーバーフローさせて、爆発させる気だったなんて!くそ!もっと早く気づけたはずなのに!)
結界の魔道具を爆弾がわりにしようとしていることに気づき、すぐに対策を指示したがそれでも不安は残る、なぜならこの結界魔道具が爆発すれば、この石舞台が爆散することになり、爆発し砕かれた石舞台の破片が爆風に押し出され、弾丸のように屋外運動場全体に飛び散るのは予想できる。1番危ないのは石舞台の上にいる僕達なのだが、次に危険なのは同じ運動場内の競技スペースにいる同級生達だからだ。
「「「「「っ!?」」」」」「「「「「へっ?」」」」」
両親やイネオス達は僕の指示に驚いた様子だったがすぐに指示通りに動き出した。周囲で見守っていた騎士達も迅速に動き出し、生徒達を避難させようとしていた。だが急なことで何が何だから分かってない、生徒達や観客達は呆気に囚われて動きが鈍い。
「早く!!陛下!!早く全員の退避を!!石舞台が爆発するっ!!くっ!間に合わないかっ!?・・・サフィアス叔父様、少し僕は本気を出させてもらいますよ。いいですね?」
サフィアス叔父様「っ!!ああ!無理をするなよ!アメトリン!」
剣にたまる魔力のスピードが思ったより早く、観客全員の避難は間に合わないと判断し、僕は普段は使わないようにしていた魔力の使用を決めた。
「えぇ、分かってます。・・・・父様、母様、すみません、大事になってしまいました」
父様「良いんだよ、大丈夫、父様はアトリーが無事ならね。それにアトリーなら解決できると私はちゃんと分かってるよ。大怪我だけはしないように気をつけなさい」
母様「アトリー、無茶しないでね・・・」
「はい、大丈夫です。少し本気を出しますから、父様達も気をつけてください」
そう言うと、父様達は笑顔で頷いた。
王女様「ふっ、今更どう足掻こうと、止められはしないわ!!」
「それはどうかな?「ふわぁ」ジュール!天華!夜月!僕の魔力制限を一部解除を申請!」
「「「「「えっ!?」」」」」「「「「「飛んだっ!?」」」」」
僕は自分の魔力を結界の魔道具にこれ以上魔力を奪われないように、“レビテーション“で石舞台から浮き上がり、ジュール達に向かってそう叫んだ。
ジュール『承認するよ!』「アォーンッ!!」
天華『承認いたします』「キュキュウゥーッ!」
夜月『承認』「ガオォーーッ!」
マルキシオス領にできたダンジョンでの魔力解放以降、僕の魔力制限のコントロールの半分をジュール達に託してあるので、僕1人が独断で魔力を解放することはしないようにしている。どうしても必要な時は、こうしてジュール達に“承認“を取るようにし、魔力の制限の鍵となって貰っている。
ズンッ! 「きゃっ!何⁉︎今の魔力⁉︎」「魔力が増えた⁉︎」「あ、あり得ない・・・」
ジュール達の“承認“を得た事で制限し、押さえ込んでいた魔力が僕の体を満たす。
「はぁ、久しぶりのこの感覚、これならどうにかできる。・・・“レビテーション“「キャッ!」“プリズン“」
王女様「なっ、何するのよ!出しなさい!」ダンッ!ダンダンッ!
「自爆する気かどうかは知りませんが、もし自爆する気がなかった場合逃げる手立てがある筈です、だから騒ぎに乗じて逃げ出される前に捕まえさせてもらいました。その結界の中では物理も魔法も効きませんからね、逃げられませんよ」ニッコリッ
石舞台の上で1人、爆発に恐れる様子もなく余裕な表情で立っていた王女様を、僕は魔法で浮かせた上で牢獄結界で捕らえた。
王女様「っ!だ、出しなさい!わたくしをここから出しなさいよ!」ダンダンダンッ!
「それは出来ない相談ですね。うるさくて集中できないんで静かにして下さい。“サウンドリバップ“。さて、静かになった所で、そろそろ臨界寸前の結界の魔道具をどうにかしないとね」
そう言って下に視線を移し、よく観察した。
(うーん、もう既に許容量を超えそうだな、制御は、できてないみたいだ・・・・もう止めるのは無理か・・・)
天華『どうしますか?』
(そうだね・・・仕方ない、まずはこの結界からでるとするか・・・でも、ほんの少しの衝撃で結界の魔道具は爆発しそうだ。耐えたとしても魔素の吸収は止められないしな・・・皆んな、石舞台だけを包み込める強い結界を瞬時に張れる用意をお願いできるかな?)
夜月『あぁ、大丈夫だが、この結界を破壊する気か?』
(うん、僕が結界を壊すと同時に上に飛び出るから、すぐに結界を張って魔道具の爆発に備えてくれる?あ!それと同時に運動場全体、いや、学園全体にも結界で人の出入りを遮断して欲しいんだけど・・・できそう?(*´ー`*))
ジュール『できるけど、どうして?』
天華『この場にいる協力者を逃さないためですか?・・・アトリー、“情報開示“で見て、“探究“を使う気ですね?』
(うん、そうだよ、この組み合わせなら余分な情報は入ってこないだろうから、大丈夫。それに、爆発がうまくいかなかったら、王女様の協力者はすぐに逃げ出す筈だから、僕達が脱出と同時に“情報開示“をして居場所の確定と捕獲をするよ。あ、でも、結界の他に誰か1人は捕獲の手伝いして欲しいかな?3人で分担お願いできる?)
天華『分かりました、私がアトリーとの視界共有をして、共犯者の捕縛を手伝います』
夜月『では、私は石舞台の結界を担当しよう』
ジュール『じゃあ、私は学園全体の結界を作るね!』
(ありがとう皆んな、じゃあスタンバイして!)
サクサクッと作戦と担当が決まりそれぞれがやりやすい位置に移動した。天華は結界の上空で僕がで出てくるのを視界共有しつつ待ち。夜月は結界の魔道具を発動させながら石舞台を囲んでいる父様達の前に出て待機し。ジュールは屋外運動場の1番高い所まで一気に駆け上がり学園内を見下ろした。
僕はジュール達のスタンバイが完了したのを見て、結界を壊す準備を進めた。
「よし!やりますか!」
ヴォンッ!!
気合いを1つ入れて、僕はソルが“魔法実技授業“で出した“フォトンソード“と似たものを、自分の周囲に7つ扇状に浮かべた。光輝く7つの剣に誰もが驚きの声をあげる。
「あ、あれ、さっき見た魔法じゃないか⁉︎」「どういうこと?」「7本も出てる!」「あれでどうするつもりだ⁉︎」
周囲が騒ぐのを聞きながら、手を頭上にかざす、それと連動するように自分の周りにある7つの剣が、僕を中心に切先を上に向けながら円形に並び立つ。
バチバチッ!!
光り輝く剣は放電し始めどんどん威力が増していく。この帯電している7つの電気を放つ剣、これは“フォトンソード“の魔法を応用して作った“エレクトリカルソード“、要は雷魔法で作った剣だ。
バチバチバチッ!
放電が激しくなり、電圧が上がっていくのを感じる。僕はそのまま静かに浮上していき、“エレクトリカルソード“を高さのある結界の天辺に勢いよく放った。
バチバチバチッ!! ドンッ! バキッンッ!!
雷の剣は結界を一瞬で突き破り結界の外に舞い上がった。それを追う様に自分も結界の外に高く飛び出した。ついでに王女様が入った結界の球も連れて・・・
父様&母様「「アトリー!!」」
父様達が心配する声が聞こえるが、僕は自分が出てきた場所を注意深く見つめた。すると夜月がすぐに石舞台全体に結界を張るのが“見えた“。その結界の中では結界が破られた衝撃は何とか耐えられたが、加速していく魔素の吸収に、結界の魔道具に蓄積されていた魔力が暴走し始めているのを感じた。
「1番結界が薄い場所を壊してみたけど、やっぱり爆発は免れないか・・・」
天華『そうですね、もともと臨界寸前でしたからね』
上空で待機していた天華が僕の側まで飛んできて、周囲を旋回している。
「まぁ、しょうがないか、あっちは夜月に任せて、僕達は僕達でやれることをしないとね、ジュールの結界の展開も完了したみたいだし」
天華『そうですね』
そう言って、一緒に脱出した王女様の結界の球を自分の目線まで動かし、向き合うようにした。
「“鑑定“させて貰うよ、王女様・・・」
僕は相手に声は届かないと分かりつつも一言、断りを入れて“情報開示“のスキルを使用した。
「ふーん、そう言うことか・・・・ん?この宗教団体・・・・“マルモーヴェ教“?・・・どこかで聞いたことが・・・・」
僕が“鑑定“してステータスを見ていることに気づいた王女様が驚愕の表情をした後、鬼の形相で怒り暴れ始めた。
そんな事は完全に無視して、僕は気になる事を後回しに次のスキルを使おうとした・・・・・