155話 テンセイシャ・・・ 王弟:ブルージル 視点
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王弟:ブルージル 視点
今日、不可解な言葉を聞いた“テンセイシャ“これは、我が国で保護している“勇者候補“達から出てきた言葉だ。その言葉の意味は全く分からない、だが凄く重要なことは理解できた。何故ならその言葉を出した時の“勇者候補“達が見ていたものが、我が従兄弟の可愛い末の息子、アメトリンが“祝福“された時の“結果“だったからだ。
(アトリーに関する事の殆どは重要な事柄だ。それに、今回の事は最も重要な気がする・・・)
勘がそう告げている……
(問題は今あった事をラトに話すべきかどうかと言う事だ。ジン達の様子を見るに、今の事を絶対に誰にも話さないだろうな。アトリーの親であるラトには話すべきなのだろうが、ジンが言った神々が関わる事柄だと言う事が本当なら、無闇に話してはいい事ではないか。・・・それにその“テンセイシャ“と言う言葉の意味も分からないのにラト達を不安にさせてもな・・・)
あの後、ジン達との会話は無く、“記録再生の魔道具“に流れている映像を彼らはひたすら無言で見ていた。その表情はどこか衝撃を受けたような表情だったが何を考えているかは分からなかった・・・
流れていた映像が終わっても、彼らは何処か上の空で、かろうじてアヤが俺に“記録の魔道具“を見せた事の礼を言ったぐらいだった。暫くすると、アトリーが魔道具を作り終えたと知らせが入り、ジン達は意を決した表情で立ち上がり、知らせに来た使用人に会議室まで案内して貰っていた。自分もその後に続くとジンが振り返り俺を見た。
(ん?俺の存在を確かめたか?・・・多分、俺の扱いに困っているんだろうな・・・)
自分達だけが理解できたアトリーの重要な秘密を知ってしまったが故に、その場に理解ができてない他者が存在したことが不安なんだろう。
(それに俺は国に仕えている王族だ。アトリーと同じ血筋と言ってもデューキス家とは事の重要性の優先順位が違うからな、国に影響が出るような事柄なら把握しておきたいと言うのが本音だ。それを感じ取ってアヤ達と内密に話がしたいが、俺に聞かれるとまずいと思っているんだろう・・・もう少し離れて歩いてみるか?)
ジン達の心境を読み、歩く速度を落として彼らと距離をとって見た。今度はジンだけじゃなく、アヤ達も後ろにいる俺との距離を確認し、大丈夫と判断したんだろう。口に手を当てながら小声で話始めた。
ジン「ね・、あ・・・・・・・・だよね。ぼ・・・・神・・・・・・・アト・・・・・・に・・・」
アヤ「そ・・・・・じゃ・・・・・ほ・・・・か・・・・・・でしょ」
ユメカ「じゃ・・・・ほん・・・・き・・・・しゃ・・・て」
(所々、しか聞こえないな、話の内容がまるで分からない・・・ジンの魔法か・・・念入りだな・・・)ふっ
わざと距離をとって見せて、彼らが話しても大丈夫だと安心させ、耳を“身体強化スキル“で強化し、彼らの会話を盗み聞きしようとしたが、それはジンの念入りな盗み聞き対策の魔法に阻まれ、あえなく失敗した。
(ふぅ、これじゃあ誰も内容は理解できないな・・・失敗か・・・、さて、どうしたもんか・・・)
そんな事を考えているうちに会議室に到着した。そこには少し興奮気味のアトリーといつも通りのソル、そして顔色が青いアトリーの平民の友人ロシュが待っていた。聖獣様方は素知らぬ顔でアトリの周りで寛いでいた。
(アトリーは何やらご機嫌だな、・・・ラトは遅れているのか・・・)
周囲を見渡し、ラトがまだ来ていないのを確認して、さっき座っていた同じ場所の椅子に腰を下ろす。
アトリー「ジル叔父様、仁さん、彩さん、夢さん、お待たせしました♪完璧な対人対策を施した魔道具ができましたよ♫これで、悪い人に何をされても万事解決です!」
(お、おう、またどんな規格外の物を作ったんだ?アトリーは・・・・)
ラト「ふふっ、アトリー、魔道具の製作は大成功したみたいだね?」
椅子に座った俺達に楽しそうに話しかけてくるアトリーに苦笑いしていると、入り口からニコニコ笑いながら入って来たラト。
「遅かったな、ラト」
ラト「あぁ、すまない、仕事が立て込んでてね」
(兄上からもぎ取った学園内の警備の見直しの件だろうな・・・相変わらず子供の安全に関わると力の入れようが違うな・・・長女のカミィが入学する時に今の警備体制を膨大な献金をして導入させたしな、この親バカは・・・・)
俺がラトと言葉を交わした時に少しだけジン達が反応したが、すぐに平静を装った。その後すぐに“対人用魔道具“と称されたペンダント型の魔道具の説明が始まった。そのアトリーが設計し製作した魔道具は今まで以上にとんでもない代物になっていた。
見た目は大きさ約3・4㎝の愛らしい薄桃色の5枚花弁の花を模ったペンダントトップだ。その土台の素材はミスリルでできており、緊急時に魔力を通すと様々な効果を発揮するらしい。
(この意匠は遠く東の島国“ゾネオスト“に自生している樹木の花だな、何代前かの“勇者“が故郷にある花と似ているからと、わざわざそこで国、“ゾネオスト“を建国したと言う逸話のある花だったはずだ、国旗の柄にも採用されてるな・・・“勇者“繋がりでジン達が“勇者候補“と認識しやすいようにこの意匠にしたのか?・・・確か、あの花の名前は…)
「「「桜・・・」」」
「「!?」」
アトリー「そうです。この花の名前は“桜“、数代前の“勇者“が、“ゾネオスト“と言う名前の島国を建国する前に見つけて、名付けたとされる花で、この花に似た花がジンさん達の故郷にも咲いていると天華達に聞いたので、この花を魔道具の意匠に採用しました♪」
(そうなると、数代前の“勇者“とジン達は同郷だったのか?それをアトリーが知ってわざわざこれにしたのか・・・)
ジン達はテーブルの上においてあるペンダントを、困惑したような懐かしむような複雑な表情で見ていた。
(どうしたんだ?嬉しくないのか?)
この時、その表情があまりにも不可解なので気にはなったが、アトリーがまだ興奮した様子で魔道具の説明をするので、そちらの話に気を取られていつの間にかその表情の事を頭の片隅に追いやってしまった。
アトリー「それでですね、この“桜“の花の花弁にはひとつずつに異なる魔法を“付与“し、使用したい魔法の花弁を意識して魔力を込めるだけで、その付与した魔法が発動できるように工夫した特殊な魔法陣を刻んであります♪ペンダントに使用している金属はミスリルなので、魔力の通りが良いですし、頑丈です!
花のピンクの石は色にこだわって“ピンクカルセドニー“って鉱石を使ってます♬綺麗でしょう?ふふっ。
・・・あ、そうだ、花弁に付与した魔法効果は、“誘惑魔法“対策の精神防御耐性をあげる魔法や、“薬物“を使われた時の為に解毒効果の強い治療魔法など、その他はこちらに記載してます。よく読んで覚えて下さいね。まぁ、最悪、全ての花弁に魔力を通しても問題ない様にはしていますから。緊急の時は全ての機能を発動させるといいですよ!」
そう言って、アトリーは楽しそうにその説明書の紙をジン達に渡した。
(っ・・・・、また、とんでもない機能がついたペンダントを作り上げたな・・・しかし、この深い緑の魔石こんな“純度の高い魔石“を一体何処から・・・)
アトリー「そして仕上げはこれっ!今回のこの魔道具で1番重要なのが、このペンダント専用のチェーンです。こちらを“桜“のペンダントトップに通して身に付けることで、ペンダントトップの意匠にある葉っぱ、この3枚ある葉っぱの形をした装飾に、それぞれ施した機能が使用可能になります。まず中央下の葉には“使用者登録“の機能を、右上の葉には“盗難防止と撃退用“の機能を、それと最後の1枚の左上の葉には、装飾には居場所を知らせる“緊急魔法信号“を出す魔法を付与しました。
まず最初に中央下の“使用者登録“の機能は、登録された人以外は使用不可になる魔法陣を刻み、取り外しを本人以外ではできない様にしました。
次に右上の葉の“盗難防止と撃退用“の機能は、ペンダントを他の人が盗もうとすると、強力な電撃が走るような雷魔法を付与しています。これは“盗難防止と撃退“同時に行える様に、自動反射する魔法陣を刻みました。今説明したどちらの機能も常時発動型の機能を維持するため、葉っぱの形の装飾に嵌め込まれた綺麗な緑色の石、“純度の高い魔石“を使用しています。一応、補助の為“魔素供給用“の魔法陣も刻んでますよ♫
では、最後に左上の葉の“緊急魔法信号“を出す機能ですが、本人が使用中に本人以外の人が、ペンダントを無理やり外そうとしたり奪おうとした場合。瞬時に“緊急魔法信号“が発動するように設定した特別な魔法陣が刻んであります。その“緊急魔法信号“発動させる原動力である魔力は、ペンダントを奪おうとした相手の魔力を吸収して使用するように設定しました。
なので、これを無理やり取ろうとした人が“緊急魔法信号“を発信した人となり、信号を受け取る側、この“受信用魔道具“に、受信した信号の魔力を記録する様にもしましたので、もし、ペンダントを取ろうとした犯人が否認しても言い逃れできない様にしました!
と、言うことで、この全ての機能を使用可能にするために、僕はチェーンの輪の一つ一つ金具にまで“魔力回路“を刻み、ペンダントやチェーンの何処を触っても機能を必ず発動するようしたので、このチェーンが1番重要と言う事です!今回の“対人用魔道具“はペンダントトップにチェーン、そしてこの“受信用魔道具“全てを合わせて、安心安全設計で作ってみました!」
最後の最後にやり切った得意げな顔で笑ったアトリーに、ジン達は表情を固め、ラトは少し困った顔、ソルはいつも通り、ロシュは冷や汗をかいている。
(っ、・・・・なんだこの魔道具は・・・下手すると国宝どころか、神器級の魔道具だぞ⁉︎)
「ラト・・・・いいのか?」
と、声を落とし聞くと。
ラト「・・・いいも何も、せっかくアトリーが作ったんだ、出来たものは使わないとね・・・」
ラトは笑顔で固まった表情のまま、力無くそう呟いた・・・
(あの魔道具をこの世に出していいものか迷った結果、アトリーがせっかく作ったものを秘匿するのはアトリーを悲しませるとして、苦渋の選択で使用を決めたか・・・)
「・・・そうか・・・使わないとな・・・・」
アトリーの規格外の行動に慣れている筈のラトでさえこの状態なのを見て、言いたいことは沢山あったが何も言い返せず、複雑な気分でそう返すしかなった・・・
(普通、こんな神器級の魔道具を気軽に使うわけねぇだろっ!こんなものどうやって作ったんだ!この直系1㎝も無いあの花弁や葉にどうやって魔法発動の発動条件が記入してある魔法陣を刻んでんだ⁉︎そもそも細さ1㎜のチェーンの輪一つ一つにどうやって起動用の魔力回路を通したんだ⁉︎・・・・・・・っ、・・・はぁ・・・アトリーだから仕方ないか・・・・)
もし、専門的な知識が自分にあったとして、説明されても理解が追いつかないだろうし、どうか考えても分からない、むしろアトリーにしか理解できない物だ、これはそう言う類の物だ、そう思うことにした、それで俺は深く考えるのを諦めた。現実を逃避するために両手で目を覆い俯いた。俯いたまま深く考えまいと別のことを考えようかとした時、ふと気づいた・・・
(はっ!・・・もしかして、これがジン達が言う“テンセイシャ“って“称号“の意味なのか?様々な分野に精通し、独創性の高い工夫で途方もない成果を出す。規格外な能力を持った存在。それがあの“称号“の意味?そうなると、ジン達が焦るのも頷ける、アトリーはその自覚もないみたいだしな、さっきのジン達の反応や話の内容にも通じるものが出てくるし、神々がアトリーを大事にする理由も“テンセイシャ“だからか?・・・それなら合点がいく・・・)
自分自身が納得が行く仮説ができたからか少し心に余裕ができた。なので、再び頭を持ち上げアトリーに視線をやると、ジン達に早くつけるように急かしていた。
(ふぅ、こんな所はまだまだ可愛い子供だな・・・)
と、アトリーの年相応の行動に安堵して見ていると。アトリーは早速ジン達に自分が作った魔道具の、“使用者登録“の“魔力認識“をさせ、“対人用魔道具“を装着させた。
アトリー「うん♪いい感じ!」
ソル「えぇ、皆さんとてもお似合いです」
ロシュ「は、はい、凄く似合ってます」
魔道具を身につけたジン達を見て、満足そうに頷いた。
アトリー「これで誰もジンさん達に危害は加えることはできないでしょう。それと以前渡した、結界魔法を付与した魔道具と併用すれば、最強の守りになりますからね!」
ジン達「「「あ、ありがとう、アトリー君・・・」」」
戸惑いながらも、お礼を言うジン達に満面の笑みで・・・
アトリー「どういたしまして!」
と、嬉しそうに返すアトリー。
「「「「「うっ!」」」」」
(うっ、ま、また、そんな無防備な笑顔で喜ぶ・・・これだから、ラト達が心配して過保護になるんだろうな・・・)
そんな事を思っている間に、カイルが夕食の準備ができたと言って全員を呼びに来た。食堂に全員が集まり楽しく会話をしていると、アトリーとソルがロシュを、夕食後にある騎士達を含めた魔法訓練に誘ったと話していて、そこにジン達も今日も参加すると言い、この後の合流場所を決めていた。
(・・・いつもアトリー達がしている訓練に、ジン達もこちらに来た時から参加しているのは知っていたが、アトリーを1人呼び出すには絶好の機会だな・・・この後すぐに帰るつもりだったが少し訓練を覗いてみるか・・・)
そうして俺は、子供達が魔法訓練をする公爵家の屋敷裏にある訓練場まで、密かに移動し子供達と騎士達の訓練を陰ながら見学した。
訓練を見学し出して少しすると、先程までアトリーとソル2人組んでしていた訓練を終了し、友人のロシュに手ほどきをした後、個人でそれぞれ騎士を相手に乱取り訓練をし出した。その機会を逃さないかのように、ジン達がアトリーに話しかけたのに気づき、ジン達がアトリーを人目のつかない場所に誘って行った。その後ろをアトリーにバレないように距離をかなり空け、気配と魔力を極限まで消してついていくと、少し奥まった所にある小さな噴水が設置された広場で、ジン達が立ち止まりアトリーに話しかけていた。
ジン「アトリー君、君に聞いていいものか悩んだ、最初は君がちゃんと理解できているか知りたかったけど、それはもうさっき確信に変わったから、あえて直球に聞くね・・・・・君、“テンセイシャ“なんだろう?・・・・・」
アトリー「!⁉︎」
ジンのその問いかけにアトリーが息を呑んだ音が聞こえた。アトリーが凄く動揺したのか長い沈黙が流れ、風が草木を揺らす音だけが聞こえてくる。長い沈黙に耐えられなくなったのか、ジンが再び口を開き、何か喋ろうとしたその時・・・・
アトリー「・・・ジンさん、その事を知っているのは、他に誰がいますか?そこにいる、ジル叔父様以外で・・・・」
ジン達「「「えっ⁉︎」」」
(っ!、これでもバレるのか・・・俺でこんな簡単にバレてるってことは、アトリーには影からの護衛が全部バレているってことか・・・)
アトリー「ジル叔父様、そこにいらっしゃるのは分かってます。出てきてください」
「はぁ、うまく隠れていた筈なんだがな・・・いつ気づいた?」
アトリー「最初からです。僕の“魔力感知“から逃れることはできないですよ。それに叔父様の匂いはよく知ってますから」
そう言って横にいた狼の聖獣であるジュール様の頭を撫でていた。こうしてあっさり尾行がバレて、隠れていた茂みから出ていくと、聖獣様達やジン達が警戒態勢で出迎えたのだった。
(聖獣様に感知されてたか、それはバレてもしょうがないか。それに匂いね、それは隠すのをすっかり忘れてたな・・・さて、それは良いとして、この場はどうしたものか・・・いっそ素直に理由を言うか?)
そんな事を冷や汗をかきながら思った・・・・・




