112話 神々の会議 第三者 視点
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第三者 視点
ーーー何処か山奥の薄暗い洞窟内・・・・
ジジジジジジジッ ジュボッ! ピシッパキッン! シューッ・・・・ボロボロボロッ
蝋燭に灯っていた炎がなんの前触れもなく1つ消え、その下にあった陶器でできた猫の置物にヒビが入り、黒いモヤを吐き出し崩れるように壊れた・・・・
「っ!・・・・・申し訳ありません、フィズィ様、例の端末は失敗いたしました・・・」
『・・・やはり、コレぐらいの念の呪詛ではあやつが授けた加護の結界は貫くことは出ぬか・・・、よい、アレは試しに行なったものだ、これで分かったことは多い…、直接仕掛けるにはそれに相応しい時がくる、それに備え、もっと端末を増やすのだ・・・・』
薄暗い洞窟の一角を煌々と照らす数百はあるであろう蝋燭達、その蝋燭の下には様々なものが置いてあり、その一つ一つが蝋燭のゆらめきに反応するように、淡く仄暗い黒いモヤに染まっていく。
その数百ある蝋燭が丸く囲む中心に一際大きな金属でできた大蛇の像が置かれ、その大蛇の像の前には祭壇があり、その上は血液が滴って先程まで何かしらの儀式をしていた痕跡が窺える、その祭壇に大きく黒い影の蛇が居座り、聖職者の様な格好をした男を鋭く赤黒い瞳で見つめていた。
「畏まりました・・・、フィズィ様、1つ良いお知らせが、“例の器“は順調に念に染まり馴染んでおります、近いうちに最高の状態でフィズィ様にお使い頂けるかと・・・」
男は自分の進めていた計画が上手く行き、その成果を自身の主人に捧げるのが喜ばしいとばかりに恭しく頭をさげた。
『・・・ほぅ、それは楽しみだ、アレを手に入れるのも近いやも知れぬな・・・、もう一方の準備も怠るでないぞ、この儀式が完成するのも後もう少しだ、教会の動向にも常に気をつけておれ、悟られぬ様にな・・・我は“器“の完成まで今一度力を蓄える、次に我が起きる時は全ての計画を実行に移す時だ、それまでに万全を期せ、・・・・・・・・今度こそ絶対に逃しはせぬ・・・・』
「神命に従い、万全の状態でお待ちしております・・・・どうぞ、御ゆるりとお休みください・・・・」
黒い影の蛇は口元をニィっと開き笑った、自分の念願が叶う喜びから来た笑い、それを見た男は感動していた、主人の次の目覚めと同時に起こる出来事に期待に満ちた表情をして・・・
そうして、黒い影の蛇は後ろにある大蛇の像に溶け込むように姿を消した・・・・
「やっと、やっとだ、計画の実行が近い、やっと我らの念願が叶う!私達に理不尽な罰を下した、あの神を!引き摺り落とす時が来た!!ふふふっふはははっあははははっ!!!全て!願いのままに!!」
男は狂気に満ちた瞳で宙を見ながら高らかに笑い続けていた・・・・
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第三者 視点
ーーーとある重複した神域内・・・
『ーーーーで、ついこの間もウェルセメンテ王国の王都周辺のスキャンをしたんだけど、やっぱり目ぼしい情報は見つからなくてね、相手の隠蔽工作が巧妙になって来ているみたいなのよ』
『まぁ、そうなんですね、拠点そのものも隠蔽できる様になってしまったんでしょうか?』
『多分そうなんだと思うわ、それだけじゃなくて、一個人の情報の隠蔽まで巧妙になって来ていて、信者を見分けるのも大変で居場所が分からないのよ・・・』
今日は定期的に行われている報告会の最中・・・、いつもの様にアトリーの近情報告を主神リトスティーナが天照達にしていた。
『それに、ここ最近のアトリーちゃんの寝不足の件でアトリーちゃんの夢の中に入ろうとしたけど、月詠君の加護が強すぎて私にはできなかったのよね、だから原因が分かってないの…、もうっ、分からない事だらけで嫌になっちゃう、昨日は月詠君が偶然用事でここに来たから対処ができて良かったけど…、アトリーちゃんの体は私達の加護でそう簡単には傷つかないけど、心の傷を完全に癒す術は私達神でも難しいから心配だわ…、一体何が原因なのかしら?・・・』
『そんな事があったんですか?』
先日の偶然に下界の様子を見ていて、アトリーの不調に気づいた主神リトスティーナ、その時、原因を探る為アトリーの夢に入ろうとしたが、自分より早く生まれて、神として格が上の月詠が与えた加護が強力だったため、神々の中で若手の部類に入るリトスティーナには、その加護を突破するのは不可能だった、そのことで頭を悩ませていた丁度その時、用事でここを訪れた月詠によってアトリーの睡眠をサポートし、ぐっすり眠れるようにした事で寝不足は解決できたが、根本的な解決にはなっていないので頭を悩ませていた。
『その事なのだが、昨日、天華からの報告で気になった事があったので、一度“アース・地球世界“に戻って再度アトリーの前世の記憶を見直してみたんだが、天華達が気づいたアトリーの死者に対する対応と言うか心情が異様なほど冷静なんだ』
『冷静?ですか?人の死に?悲しさや寂しさ、虚無感などではなく?』
『あぁ、思慕や敬意、憤りなどもなく、ただただ冷静に死そのものを受け入れたいた、それが道理であるように、人はいつかは死に居なくなってしまうのは当たり前の様に、アトリーは自分の死すらすぐに受け入れていた、今思えば最初に会った時から普通ではなかった、普通ならもっと困惑し、今までの生にしがみ付くはずだ、そして、死んだ原因の私の部下に怒りを感じてもおかしくない、それなのにアトリーはそんな素振りすら見せず、こちらの世界に転生させる話もすんなり受け入れていた』
月詠はアトリーの前世での記憶をたどり見てきた様子を話す、そして、他の人間との違いに言及した。
『・・・確かに、凄いあっさりしてた様な・・・、あの時はアトリーちゃんの対人関係の歪さに意識が行ってて気づかなかったわ、それ自体も普通ではなかったけど、それを上回る問題よね?人の死に関しての感情の消失?って事?』
『いや、感情が消失している訳ではないと思う、祖父母が亡くなった時はその時は悲しいと言う感情は確かに感じていた、だが少しするとその感情はすぐに薄れ無くなって行って、コレからするべき事やるべき手配の段取りなどを考え始めていた、その後は残された他の家族のフォローや家でいつもする仕事をこなしていた』
『うーん、人の死を悼んでいないわけじゃ無いのよね?とても切り替えが早いのかしら?』
『それにしても早すぎだと思いますよ?普通の人達にしてみれば身内の死は結構大事です、私達、神の様にたくさんの人の死を見送って来たなら、“慣れ“たりすることもありますが、人生の短い人間がそこまで早く身内の死を割り切れるものでしょうか?相手が憎かった人ならまだしも、自分を可愛がっていた祖父母ですよ?』
『・・・そうよね、私だってこの間、お世話になった知り合いの女神が殺されたかも知れないって聞かされて、凄く動揺したもの…、でも、そうなると、アトリーちゃんの心は死に対してどんな思いを持っているのかしら?一層分からなくなって来たわ、死に慣れている私達より冷静なんて、・・・・・まるで上位神のお姉様方みたい・・・』
ポソッと感想を漏らした主神リトスティーナの様子を静かに見ながら考えを巡らしていた2柱。
(そう言われると、私達より早く生まれていた神々の様に、人の死を割り切っている感じがするのは確かだ、だがアトリーはそれほどまでに老成していたわけでは無い、人間の感覚で言えばまだ若い部類に入る、それに今の年齢で言うならばまだ子供だ、精神が大人であっても人の死に慣れるような年齢ではなったはずだが、それがアトリーの夢見の悪さと、どう関係して行くのか分からないな、まだ判断材料が少ないもっと検索の範囲を広げるか?・・・もう少し前世でのアトリーの様子と周りの反応も見てみるか・・・・・⁉︎、夜月からのメッセージ?)
『『!』』
『どうしたの?2人とも?』
考え事をしている最中に急に天照と月詠が急に頭を上げ宙を見た。
『今、天華から知らせが入りました』
『こっちも、夜月からだ・・・・・!!アトリーが呪詛を受けかけた⁉︎』
『え⁉︎どう言うこと⁉︎』
急に天華と夜月から入ったメッセージによると、今日の午前中にテロ紛いの呪詛式を掛けられそうになったと言う文面だった、あまりに簡単な文面だったのですぐにこちらから連絡を取り、リアルタイムでやり取りをする事になった。
『ーーーーそうか、それで、今アトリーは寝ているんだな?』
[『はい、今の所、ここ数日のようなうなされ方はしていません、まだ月詠様に施していただいた術が効いている様です』]
*[『 』]このカッコは神々と天華達の通信中の会話の表現です。
そして今は神々と天華達、独自の繋がりを利用した通信方法で会話している、神々側からは向こうの姿を見ることはできるが、向こうからは神々の声だけが聞こえている状態だ。
『その術はまだ1ヶ月をほど効果を発揮するだろう、だが根本的な解決にはならない、アトリーの夢の中に入りその原因を突き止めたい所だが、神々の中での決まり事で、担当する世界以外の過度な干渉は御法度とされているからな、今回施した術ぐらいなら転生の際与えた加護の効果の一部として使用できる、効果が消えてもまだうなされている様なら、再度、術を掛け直すので連絡をくれ』(前回、説明のためにアトリーの夢に入ったのもギリギリセーフだったからな、あんなことが無い限り他世界の人間に干渉しようならば、重いペナルティーを負うことになる、そうなると完全に関わりを断つようにされてしまう、手助けも出来なくなってしまうのは本末転倒だ、だがそれで原因の究明に役立てないのが歯痒いな・・・)
[『分かりました・・・・、今回の件に関しまして、今、アトリーの父親達が犯人達の処遇や、呪詛の媒体になったペンダントの出所の調査の方向性について会議をしている所です』]
夜月と天華から今日あった事件を詳細を詳しく聞き、現状の報告を聞いた、現状で言えるのは何者かが意図的にアトリーの精神を操る事が目的だったらしいと…、その話を聞いた月詠は少し思った事があった。
『・・・その話だが父親達は邪神教が関わっていると考えているか?』
[『・・・そうですね、アトリーのお父君はそこに気づいていると思います、公爵家の手の者達を総動員してペンダントの出所を探しはするでしょうが、その邪神の居所を掴むのは難しいと思われます』]
そう天華に言われ、少し考える月詠。
(こちらで邪神教の拠点を特定できていないことから、あのペンダントの入手先から辿るのもいいかと思ったが、やはり限界があるか・・・だが、アトリーを操ることが目的だとしたら、それはやはり、アトリーの前世でも干渉していた“神“だろう、邪教の主神としてティーナの管理する世界に侵入し居座っただけではなく、方々でこの世界に悪意のある技術を振り撒いている、その“神“は何故そこまでしてアトリーに、アトリーの魂に執着するのだろうか?)
アトリーの前世でも意図的にアトリーが孤立するような環境を作り出し、自ら孤立するように洗脳までしていた、その“神“の真意が未だ測りきれず、月詠はもやもやとした心境になっていた。
『・・・・・あの“神“は、アトリーをどうしたいのだろうか・・・』
月詠がポツリと溢した言葉に、主神リトスティーナや天照だけではなく、通信で会話していた天華達までもしばし考え込んだ。
『『『『『・・・・・・・』』』』』
[『精神を操るつもりだったのなら、殺害するつもりは無いのでしょうが…、正直、相手がアトリーに何を求めているのかは、私達にも予想はつきません…、ですが、何があろうともアトリーは我らが絶対にお守りいたします!』]
夜月は真剣な目でそう宣言した、天華やジュールも真剣に頷いていた。
『・・・・そうだな、相手が何をして来ようとも、私達がアトリーを守り通せばいい事だな、夜月、そなた達の覚悟しかと受け取った、私もこちらで出来る最大限のサポートをすると約束しよう、だから、そなた達にはアトリーの事を任せる、何としても奴にアトリーを奪われるなよ!』
[『『『はっ!しかと、肝に命じます!』』』]
月詠は天華達に最大限のサポートを約束し、激励の発破をかけた、その激励に応えるようにビシッと姿勢を正し返事を返した、その様子を微笑ましそうに見つめていたリトスティーナと天照。
[『そうだ、ティーナ様、今回の犯人達の神罰どうするの?スキルの剥奪?それとも反省を促す悪夢を見せる?』]
『あっ、そうだったわ、忘れてた、あのご令嬢達よね、どうしようかしら?今回ばかりはしでかした事がことだけに、いくら未成年だったとしても軽い罰にはできないわ』
『そうですねぇ・・・』
ジュールの言葉で忘れかけていた処罰をどうするかと話し合い始めた。
そして、色々話あった結果・・・・・
『うーん、この際ジュールちゃんが言ってた罰を全部すれば良いんじゃ無いかしら?』
『スキルの剥奪と反省を促す悪夢の刑ですか?少しぬるすぎませんか?』
主神リトスティーナが神罰の内容を2つにする案を出したが、天照は犯した罪の罰としてはまだ軽いと主張した。
『そうだな、私もそう思う、・・・そうだ、スキルの剥奪の範囲はティーナに任せるとして、もう1つの罰の悪夢の内容を変えればどうだろうか?』
『内容を?反省を促すものじゃなくて?』
『ああ、今回、自分が行おうとした呪詛をあの子供達に、身を持って体験してもらうのはどうだろうか?その上で反省を促す内容を織り込んだら、もう2度とアトリーに近づかなくなるのではないか?』
『ふむ、それなら良いかもしれませんね・・・』
『おー!それ良いね♪それなら難しくないし、もし再びあの子達がアトリーちゃんに近づきそうになったら、反省するまで悪夢を見せるようにしときましょう♪』
月詠が提案した罰に天照は納得した、だが主神リトスティーナはその提案に賛成しつつ再発防止の案まで出して、徹底的に相手を追い詰める神罰を考えついたのだった、この決定を音声だけで聞いていた天華達は、自分達から罰を降せなくて少し残念に思っていたが、神罰の内容に不満はなかったのでそのまま黙っていた。
こうして、凄く軽いノリで子供相手でも容赦のない神罰の内容が1つ生まれたのであった・・・
ーーーその日の夜、犯罪を犯しコミス家で拘束されていた、子供2人は就寝と同時に神罰を降され、翌日の朝7時キッチリまで悪夢を見ることになり、深夜に様子を見に来た見張りの報告を受け、駆けつけた大人達、うなさせている子供2人を見て、アトリーの父、アイオラトはすぐにこれが神々からの神罰だと察し、翌日の2人の尋問の脅しに活用したとか、しなかったとか・・・・ーーー
そして、すべての報告を受け、今後も天華達はアトリーの周りの警護を固める方針で話は終わり、月詠は再度アトリーの前世での記録を見返す調査を買って出て、天照は引き続き他世界の神々と連絡をとり、アトリーに執着する“例の神“の正体を特定する仕事に戻った、主神リトスティーナは“例の神“の現在地の特定の為に新たなるスキャン方法を編み出す研究に入った、無論アトリーの日々の様子を見守ることも忘れない、そうして今回の“神々の会議“は終了した。