78話 準備運動も大事
父様達との話しが終わり、朝食を食べに広間へと移動している最中、僕はご機嫌で歩いていたのだが、ふっと確認しておかなければならない事を思い出した、僕を中心に両親と後ろをついて来ているソル親子と専属達をふくめ(“遮音結界“)を展開してから話しかけた。
「「「「「‼︎」」」」」
「父様、母様、先程はうちの家族とマルキシオス家の皆んなしかいませんでしたけど、イネオス達とそのご家族には僕の急な眠りについてどのように伝えてあるのですか?」
父様「ん?ああ、彼らには神々の加護が影響しているとはまだ知らせていない、疲労が原因でただ眠っていてアトリーは病気などではなく健康そのものだと、それで今の所は納得して貰っている、後は今日、アトリーが1人でダンジョンに向かわないといけない事は話してある、その理由は精霊様達から直接お願いされたとして、精霊王の加護の件は話してない、多分、ダンジョンの件は神々の加護の関連だと思っているはずだよ」
「そうなんですね…、じゃあダンジョンの件はそのままでいいとして、僕の急な眠りについては僕から話した方が良いですか?今後もイネオス達といる時に急に眠り込む可能性があるかも知れませんし、教えておいた方が彼らも慌てなくて良いでしょう?」
(もし、冒険者活動中に野営することになったりした場合、説明してあるのと、してなかったでは対応も違ってくるだろうからね)
父様「そうだね、昨日私達はヤヅキ様から説明を受けたけど、彼らにはちゃんと説明できなかったからね、それに彼らには聖獣様方の意思疎通の件は秘密だから、あ、そうだ、後ジン君達にもまだ説明していないよ」
「分かりました、食後のお茶の時間に話します、“結界解除“」
他の人には聞かれたくない話が終わったので“遮音結界“を解除し、何も無かったかのように別の会話をしながらそのまま歩き続けた。
広間に到着して中に入ると僕達以外の人達はすでに食事を始めていて、起きたのは朝早かったが遅れてやって来た僕達に気づき、慌てて立とうとしたイネオス達に、父様が立たなくていいと手で合図して、再び座り直したのを見て僕達も用意された席に座って朝食を食べ始めた、イネオス達と仁達には軽く手を振って、詳しい話はまた後でと口パクで伝えといた。
朝食も食べ終えサロンに移動した僕達は、出されたお茶を一口飲み一息ついた、そこにイネオス達と仁達が朝の挨拶をするためにやって来て、挨拶を交わした後、昨日の事を凄く心配したと言って来た、そこで皆んなに昨日の僕の急な睡眠が神々の加護の影響だと説明し、今後も夜になるとたまにこの現象が起こるかもしれないと言い、その時は迷惑をかけるかもしれないが、呆れずに今後も友人として付き合ってほしいと伝えた。
イネオス「僕達はそんな事で呆れたりしません!それよりアトリー様が急に倒れた理由が分かってスッキリしています!」
ベイサン「そうです!心配はしますが呆れたりしません!それに迷惑なんて思いませんよ!」
ヘティ「いつも私達を気遣って助けて頂いているのに、たったそれだけの事で、呆れて友人をやめるような恥知らずじゃありませんわ!もし急にアトリー様がお休みになられた際は絶対、皆んなでお守りいたします!」
「ふふっ、皆んな有り難う」ニコニコッ
と、そう言ってくれて、とても嬉しかった、嬉しすぎてニマニマが止まらずにいると。
彩ちゃん「もう!何なのこの子達、可愛すぎよ!心臓が持たないわ!!」
(それ、分かる~、あの一生懸命な所が可愛いよね!両手に拳作って気合い入れてる所がまた一層可愛い!!)
彩ちゃんの可愛いものムーブに同意した。
仁「どうどう、しかし、神々の加護の内容にも色々種類があるんだね、アメトリン君の加護の種類の多さはどうなってんだろうね?」
「はははっ、僕にも把握できてないですね、気づいたら付いている事が大半なんで・・・」
(((((神々の寵愛が重いなぁ)))))
と、この時思ったのは1人や2人では無いだろう。
夢ちゃん「アメトリン君でも把握できないんじゃ私達には尚更分かんないよね~、あ、そう言えば、今日の“水中ダンジョン“の件もある意味、神様の加護の影響なのかな?アメトリン君ダンジョンに1人で行かないといけないんでしょ?大丈夫?」
「あ、そうですね、1フロアだけなので問題はないですよ、それにその後もしかしたら皆んなも入れるかもしれませんし」
夢ちゃん「え、そうなの?」
「はい、僕が入った後、調査の為に騎士達が中の難易度の確認をして、その難易度によってはユメカさん達やイネオス達も中に入れると思います」
(ダンジョンって憧れるよね!)
そう言うと夢ちゃん達やイネオス達だけでなく、何故かうちの兄弟と従兄弟達、イネオス達の男兄弟達も嬉しそうにしていた。
(え?皆んなもそんなに入りたかったの?)
一通り喜んだ面々はこうしちゃおれんと言わんばかりに、いそいそとサロンを出て部屋に戻って行った、それを親達が頭を抱えて俯いていた。
「え?あれ?僕、今、余計なこと言いました?」
父様「んー、いいや、アトリーは悪くないよ?予想以上に“水中ダンジョン“に興味があった子が多かったでけで・・・」
(あ、さいですか・・・)
*通常のダンジョンは、冒険者登録をしていない人は原則侵入禁止なので、今回のように発見されたばかりのダンジョンだと、ダンジョンが発見された場所の領地の領主が先に中を確認調査して、領地の利益になるか、ならないかを見極めたのち、冒険者ギルドにダンジョンの攻略の依頼を委託するのだ、なので今の“水中ダンジョン“は冒険者ギルドが介入していない状態なので、冒険者登録していない人でもダンジョンに入る事ができるのだ、それを楽しみにしてたのがさっきサロンを出て行った人達だったと・・・(やる気満々で用意しに行ったってことだね・・・貴族ならではの楽しみ方になるのか?でも、今日中に入れる補償は無いのに準備万端でくるんだろうなぁ・・・)
(うん、知らなーい)
ジュール『あ、見なかったことにしたね!』
ジュールのツッコミも聞かなかったことにして、僕はダンジョンに行く用意をするためにサロンを出た、ソルも一応防具を付けるために自分の部屋に戻った、サロンに残っていた大人達も部屋に戻り、出かける用意をするようで、全員用意が出来次第、玄関ホールで集合となった。
「さて、どこまで防具をつけた方が良いかな?」
部屋に戻った僕は、父様達のおでかけの用意をしている間に、防具の下に着る服を選んでいると、先に着替え終わった父様達が玄関ホールで待っていると言って出た、僕も着替えが終わったその後、いつも自分の“無限収納“に入れてある自分の防具を全部だして首を捻った。
(いつもなら皮の胸当てに太刀の“雷凛刀“と、脇差の“鈴雪刀“を装備するだけだからなぁ)
他にも付ける防具はあるにはあるが、いつも激しい戦闘があるような依頼はしないので、冒険者活動の日でも全ての防具を装備していない。
オーリー「アトリー様、今日は初めてダンジョンに入るのでしたら、全ての防具を装備なさった方がよろしいかと」
「うん、そうだね、そうしようか、久しぶりに全部の防具をつけるから手間取りそう、2人とも手伝ってくれるかな?」
オーリー&カイン「「畏まりました」」
専属2人にお手伝いを頼んで、サクサク防具を装備し着け心地を確認していると、ソルも準備万端でやってきた。
「あ、ソルも防具全部つけて来たんだね」
ソル「はい、ダンジョンではご一緒できないのが悔しいですが、入る前の準備運動のお相手にはなれるかと・・・」
「いいの?」
ソル「はい、ここ数日は本格的な訓練ができていませんでしたから、少し体を動かしてから行かれた方がいいかと思いまして」
「有り難うソル、僕も少しそう思ってたんだ♪やっぱり軽く身体動かした方がいいよね♫」
ダンジョンに入る前に準備運動する事が決まり、互いの装備に抜かりが無いか確認し終えた僕達は玄関ホールに行った、玄関ホールでは先に用意が終わった人達が待っていて、大人達も最低限の防具をつけ、動きやすい格好をしている、先にサロンを出て行っていた兄弟や従兄弟達は、しっかり防具をつけて互いの装備に付いて話していて、玄関ホールは賑わっていた。
「わぁ、こんなに準備万端だけど、皆んな今日中にダンジョンに行けるのかな?」
父様「多分、行けないと思うよ、調査が早く終わったとしても、海に入るための魔道具の数がどうしても足りないからね」
「父様、僕もそんな気はしてました」
玄関ホールに降りてきた僕達に父様が話しかけて来てくれた。
父様「まぁ、無い物はどうしようも無いからね、翌日に持ち越せば良い話だよ、魔道具も少しは数が増えていると思うしね」
「あ、今まさに生産中なんですね?」
父様「そう言う事だね」
(なら、しょうがないよね昨日1日だけで、あの魔道具を調査に行く騎士達の人数分作れただけでも凄いことだし、さすが侯爵家お抱えの魔道具師)
しばらくして全員来たのを確認し終えると、揃ってマルキシオス家所有のプライベートビーチに移動した、移動した先で準備運動をする約束をしていた僕とソル、他の皆んなも一応準備運動するように、それぞれの親から言われて各々バラバラに準備運動し始めた。
僕とソルは近くに人が居ない所に移動して、互いに木剣を持ち距離を取り向かい合った、そのさいジュール達は、かなり距離をとって僕達を見守っている両親と一緒にいる。
「さぁて、久しぶりに身体を動かしますか」
ソル「お手柔らかにお願いします」
「そっちこそ、お手柔らかにお願いするよ」
「・・・・・・・・ふっ」カァーンッ!
ソル「っ!相変わらず早いですねっ!」グイッ!ドンッ!
「そっちこそ、相変わらず押し退けるのが上手いねっ!」カンカンッ!
なんの合図もなしにソルに斬り掛かった、その斬り掛かった僕の木刀をかろうじて受け止め、力で押し返したソル、互いに斬り合い、押し退けたり、受け流したりとしている間に、周りの砂が舞い上がり視界が悪くなっても木刀で打ち合った、しばらくして身体が温まり出した。
(さて、そろそろ最後にするか・・・)
僕が立ち止まり木刀を真正面に構え、気を高めるとソルもそれに受けて立つように同じように気を高め出した。
「行くよ」
ソル「どうぞ」
「すぅーっ、はっ!」ガンッ!!
ソル「くっ!」ググッ!
「ふっ!」ガッ!メキッ!!! ヒュンッ ヒュンッ トサトサッ!
思いっきり打ち合ったせいか、互いの木刀が折れてしまいそれぞれ反対方向に飛んで行ってしまった。
ソル「はぁはぁっ、木剣が・・・」
「はぁ、あぁ、壊れちゃったね、はぁっ、まぁ、身体は温まったからいいか、はぁっ、ふぅ」
息を整え互いに礼をし準備運動を終了させると、オーリーがすぐに濡れたタオルを持って来てくれたので、有り難くそれでかいた汗を拭った、汗を拭き終わると周りが静かな事に今頃気づく。
「?どうしたのかな?皆んな準備運動は終わったのかな?」
(皆んな、早いな、待たせちゃったかな?)
父様「ふふっ、そうだね、皆んなは準備運動が終わったみたいだよ、アトリー達もこれで終わりかな?」
「はい!、身体も温まりましたから丁度いいぐらいの運動になりました!これで準備万端です!」
父様「そうか、じゃあちゃんと水分もとってから行かないとね」
「はい♪」
父様の指示でオーリーが冷たいお茶を持って来てくれたので、それを受け取り飲んでいると父様と母様は笑顔で頭を撫でてくる。
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第三者 視点
この時、少し離れた所で準備運動をしていた面々は、急に始まったアトリーとソルドアの本格的な手合わせに目を見開き驚いていた。
イネオス「あぁ、始まりましたね」
ベイサン「だね、あれを見ると僕達なんかはまだまだなんだなって思うよ・・・」
ヘティ「私も負けてられませんわ!」フンスッ
と、気合を入れている者もいれば。
兄カイヤト「あぁ、アトリーはまた早くなっているね」
兄シーライ「また、追いつかなくなったか、どこまで早くなる気だ?アトリーは・・・」
姉ヘリオラ「もう、この様子だと全力のアトリーは“魔力感知“でも追えなくなりそうね、もっと感知能力を高めなきゃダメかしら?」
姉カシミール「そうね、私もまだ“気配感知“でかろうじて追えると思うわ、ヘリーも“魔力感知“だけじゃなくて“気配感知“も鍛えた方がいいと思うわよ」
と、冷静に分析している者もいた、他にも、
仁「うーん、だめだ、途中から見えなくなった・・・」
彩「私も・・・しかし、相変わらず異次元な準備運動の風景ね、これでもまた本気じゃ無いってのがさすがアメトリン君達ってことかしら?」
夢香「だねぇ~、あれでまだ本気じゃないし、魔法も使ってなくて全力じゃないってことがさらに驚愕だよね~、それについて行ってるソルドア君も凄すぎ~」
と、話しているのを聞いたマルキシオス家の人達が、
祖父イエロモンド「強いのは知っていたが、剣術だけでもこれほど迄とは・・・」
祖母プラセル「そうね、あれでまだ本気じゃ無いって・・・昔の貴方より強いんじゃ無いかしら?アトリー君」
叔父プロニモス「これはまた凄まじいね、あの才能、誰に似たのやら・・・」
叔母ネニュス(公爵様ご夫婦から聞いていた以上の実力ですね・・・)
従兄弟オーロベル「はぁ~、シトリス叔母様があれだけ心配するから気を張ってたけど、心配して損した気分ね・・・」
従兄弟サンストン「だねぇ、あそこまでできるアトリーに叔母上達はちょっと過保護すぎじゃ無いかな?」
と、漏らしていた、そこにヴィカウタ子爵やダンロン男爵、バロネッカ准男爵達夫婦が、
(((((確かに!ほんとそれな!)))))
と、心の中で大いに賛同していたのは誰も知らないことであった。
そして、イネオス達の兄弟の数人が悔しそうな表情で、アトリー達の手合わせを見つめていた。
他にも調査と警備のために来ていた騎士団の騎士達は・・・・
デューキス家騎士1「久しぶりの打ち合いですね、相変わらずお早いですね、アトリー様は・・・」
デューキス家騎士2「ん~、気のせいかもしれませんが以前より少しお早くなった気がします・・・」
デューキス家騎士3「確かに・・・、多分、ソルドア様の力が以前に増して強くなったから若干、速度を上げられたのかもしれませんね・・・、ああ、でも今回も全力ではなさそうです」
デューキス家騎士4「アトリー様の本気の速さは俺達ではもう捉えられませんからね・・・」
デューキス家騎士5「そうだな、だがリカルド団長ならまだ辛うじて捉えられるはずだ」
マルキシオス家騎士1「あ、あの、今の話は本当ですか?」
デューキス家騎士5「?、どの話でしょうか?」
マルキシオス家騎士1「全部です、団長殿でも辛うじて捉えることができるって・・・それにあれでまだ全力ではないと・・・」
デューキス家騎士5「あぁ、全部本当の事ですよ、アトリー様は5歳の頃には剣術の基礎を修了されてから、その後は我々騎士団とも度々訓練をなされるので、騎士団内ではアトリー様の実力を疑う者はいません、今回のダンジョンをお一人で入る事に皆 不安はありません、ただ、ここ最近はアトリー様の全力がどのくらいなのか測りかねていますね、アトリー様はご自分の実力をお隠しになるのがお上手ですから・・・」
マルキシオス家騎士1「そ、そこまでとは・・・、私達にはあのやり取りを目で追うのが精一杯です、なのにこれ以上の実力をお隠しになっておられるとは・・・」
まだ若い騎士なのか自分との力量との差を見せ付けられて愕然とした。
マルキシオス家騎士2「我々騎士より強いって、本当に、護衛必要ですか?あのお方・・・」
と、アトリーに護衛の必要性を疑問視した発言だったが、
デューキス家騎士1「必要なのですよ、アトリー様はいくら強いと言ってもまだ10歳ですから、世の中の悪どい人間などに騙されたりしないよう見守らなければなりません、それにアトリー様はなんと言ってもデューキス公爵家のご子息で有らせられるのです、そんな方を護衛も付けずに放置するなどありえません、あなた方も騎士の端くれならお仕えしている主人のお子様をお強いからと言って放置できますか?」
デューキス家の騎士達は自分が仕える主人の子息をどうあっても護るという、騎士として当たり前の事に誇りを持ち、以前の失敗は2度とおかさない、その覚悟が何よりも強い、この覚悟がもの凄い気迫となりマルキシオス家の騎士達に威圧感さえ感じさせた。
マルキシオス家騎士2「!、いいえ、できませんね、申し訳ない、先程の言葉は騎士として不甲斐ない発言でした、皆様にもご不快にさせた事、深く謝罪します」(自分もこのような立派な騎士になりたい・・・)
自分の発言の愚かさに気づいた騎士は姿勢を正し、深く頭をさげ謝罪した、そして、デューキス家の騎士達に畏敬の念を感じたのだった。
そして、準備運動が終わりとうとう、アトリーが“水中ダンジョン“に入る時が来た。