21話 頭痛が痛い
サブマス「ど、どう言う事ですか?」
いまいち状況が掴みきれていないサブマスを放置し、話をつけた僕とギルマスはギルド正面入り口に視線を移した。
ガチャッ カツンッカツンッ
不意に空いた扉から護衛騎士を伴いギルド内に入って来たのは、先代デューキス公爵家当主 インディ・ノブル・デューキス前公爵だった、つまり僕のお祖父様。
お祖父様「んん?どうした事だこの空気感は?・・・・おぉ、アトリーそこにいたか、アトリーが帰って来るのが遅いとラト達が心配していたから迎えに来たぞ、最初はラトが自分が迎えに行くと言って聞かんかったが、流石に仕事の山を抱えた状態では来る事はできんからな、代わりに私が迎えに来た、冒険者登録はもう済んだのか?」
僕を見つけたお祖父様は僕に近寄りつつ周りを見回していたが、僕の前まで来ると優し笑顔で頭を撫でてくれた。
「お祖父様、冒険者登録はもう済んでます、今から帰ろうとしていたのですが・・・、ご心配かけてすみません、それにわざわざ迎えに来て頂き有り難うございます」
お祖父様「いい、気にするな、私がアトリー達を迎えに来たかっただけだからな、たまにはギルドを訪れるのも良いものだ、中々の手練れもいるようだしな」
「な、なぁ、い、今、デューキス家の坊ちゃん、お、お祖父様って言った?」
「あぁ、お祖父様って言った・・・」
「て、事はあの人は前のデューキス公爵って事だよな?・・・」
「そ、そうなるな?・・・」
「じゃ、じゃあ、前国王の王弟殿下って事だろ?」
「ん?・・・あっ!た、確かに!お、王族が何でここに⁉︎って、孫 迎えに来たって言ったな・・・」
「あぁ、言ったな、今考えるとあの坊主達やばいんじゃねぇ?あのデューキス家坊ちゃんにちょっかい掛けたのって、王族の血筋に喧嘩売ったようなものじゃねぇか?」
「「「「「‼︎」」」」」
「た、確かに・・・・や、やばいな、お、俺、笑って見てたよ、ど、どうしよう・・・」
「お、俺もいつも通り見学しちまった・・・」
お祖父様が登場したことであちらこちらから こんな会話がなされ始めていると。
お祖父様「先程から思っていたが、どうしてこの様な事になっているのだ?」
と、少し離れた所に倒れている貴族子息達4人を見て言った。
「ん~、まぁちょっと面倒事が起きましてそれに対処した結果と言いますか・・・あははっ」
(流石にイライラして、プチ切れたとは言えないな、この場では・・・)
お祖父様「なんと、怪我は無かったかアトリー、それに他の子達も」
「はい、僕達は何ともありませんでしたので大丈夫ですよ、お祖父様」
僕の言葉に皆んなが頷いたのを見て。
お祖父様「そうか、何とも無かったのなら良いが、其方達はマルキース侯爵も可愛がっておるし、私も孫 同然に思っておるからな、心配でたまらん、何かあったらすぐに言うんだぞ?」
「「「はい、お気遣い有り難うございます」」」
「うむ」と鷹揚に頷きチラッとオーリー達専属使用人の方に視線を移した、オーリー達が深く頷いたのを見て、皆んなと返事をしなかったソルに近づいた。
お祖父様「ソル、お主もだぞ、分かったな?」
ポンッ、とソルの頭に手を置いて撫でたお祖父様。
ソル「はい、大旦那様・・・」
お祖父様「うむ、しかし最近は大爺様と呼んでくれんな?ソル?」
ソル「え、あ、いや、さ、流石に・・・」
お祖父様「おぉ、照れとる照れとる♪」
ソルを揶揄いながら頭をワシワシと撫でているお祖父様に僕は、
「お祖父様・・・、ずるいです!僕もソルを揶揄いたいです!後、頭も撫でたいです!身長がソルの方が高くなって撫でにくいんです!」
「「「「「そっちかよ!」」」」」
ツッコミ属性の冒険者数人から ツッコミを入れられたが気にせず、
お祖父様「おぉ…、それはすまんかったな、アトリーそう拗ねるな、今度 一緒にソルを揶揄う算段をつけような、身長はそのうち伸びるさ、ヨッと」
「わっ!高い!・・・ふふっソル照れてる可愛い♪よしよし♪」
「ずるい!」と、言って拗ねた僕をお祖父様は抱き上げソルの横に立ち、上から頭を撫でさせてくれた。
ソル「っ・・・・・!アトリー様!大旦那様!悪ふざけがすぎますよ!後、そんな算段は付けなくて良いです!」
恥ずかしさで顔を真っ赤にして怒ったソル。
「わぁー!ソルが怒ったー!クスクスッ」
お祖父様「おぉ!今日はすぐ怒ったな♪」
ソル「むーっ」
(膨れっ面するソルも可愛い♪)
「ふふっ、ごめん、ごめん、ソルはお腹が空いてきてるからいつもより怒るのが早かったんだよね、あ、そうだお祖父様、僕達まだお昼ご飯を食べて無いんでお腹が空いているんです、今日の用は終わっているんで帰ってご飯が食べたいです」
お祖父様「うん?そうなのか、しかし、この者達の件はいいのか?」
僕を床に下ろして聞いてきたので。
「あ、この人達の事はシャリテギルマスにお任せしたので、僕達はもう帰っても構わないと先程 言って頂きました、それに…僕からの罰はもう与えてあるんで、今後2度と僕達にちょっかいはかけてこないでしょうし…ふふっ」
パチッと、手のひらに電気を流して見せた。
お祖父様「ふむ…、あれを食らわしたか、ならば貴族としてのこれ以上の罰は必要ないか…、シャリテギルドマスター、孫はこう言っとるが本当にこのまま帰っても良いかな?」
ギルマス「あ、は、はい、構いません、のちに分からないことがあった場合、後日お時間を頂けるとお約束して頂いたので、本日はお帰りになっても大丈夫です」
お祖父様「あい、分かった、では帰らせて貰おうか…、あぁ、そう言えばアトリー、屋敷で料理長がアトリーの感想を聞きたいと待ち構えていたぞ?」
「そうなんですか?じゃあ今日のお昼ご飯は料理長の新作なんですね楽しみです♪ね、皆んな♪」
「「「「はい♪」」」」
「じゃあ、ギルマス達に挨拶して帰ろうか、ではシャリテギルマス、シエリーサブマス、今日はご迷惑おかけしました、これから度々こちらに出向くと思いますので、今後ともよろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします」」」」
ペコリっとお辞儀をして、ニッコリ笑うとギルマスとサブマスは引き攣った笑顔で「こちらこそ、今後のご活躍を期待しております」と返してくれた、
その後はギルド前に出てきていた、それぞれの馬車に乗り込み屋敷へと帰った。
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*アトリー達が去った後の冒険者ギルド内では・・・・
第三者 視点
「「「「「「っ、・・・・・ハァ~~~」」」」」」
ギルド内の大半の人達が詰めていた息を同時に吐き出した。
「はぁ、マジ緊張したぜ、急に王族が来るって誰が想像できた⁉︎」
「いやっ!それより あの孫の方だろ!何だあのすごい魔力威圧!普通じゃありえねぇよっ!俺は息をするのがやっとだったぞ!」
「それに、雷属性の魔力を使ってあの4人を気絶させた手際、しかも完全無詠唱、相当な魔力操作の鍛錬度だ」
「そうね、かなりの時間を費やして訓練していたに違いないわ、宮廷魔道士級の魔法の使い手ね」
「そうだな、だがあの子供、あの身のこなし方、多分 武術の方もそこそこな使い手だと思うぞ、他の子供達も同様だ」
「えっ、じゃぁ何か?あの子供達は戦闘の熟練者ってことか⁉︎」
「そこまでは言ってない、ただ、あの公爵家の子供と前公爵に揶揄われていた子供、あの2人は他の3人より実践的な訓練をしているのは間違いない、身のこなし、視線の動き方、気配の読み方まで、ずっと人や動物相手に本格的な実践訓練している奴の動き方だ、多分側にいた使用人や騎士、聖獣様相手に訓練してるに違いない」
「Aランクのあんたにそこまで言わせるとはね…、確かにあの使用人達の動きは戦闘職の動きそのもの、護衛騎士はそれ以上、それを相手取る力量の武術、その上 魔法まで使いこなすなんて…、たった10歳でどうやったら そんな物が身につくんだろうね、あの容姿だけでも驚かせられたのに、それ以上に驚かされるなんて思っても見なかったよ、前公爵がいる時は年相応の表情も見せていたけど、大人の相手も完璧だったしね」
「た、確かに、俺よりちゃんとしてたな…」
「そうね、ってか、あんたはもうちょっと、ちゃんとした言葉遣いを覚えなさいよねっ!」
バチンッ
「いてぇっ!背中を思いっきりを叩くなよ!!」
「それにしてもぉ、あの子の年相応の表情が可愛かったわぁ~、ギルマス相手にしゃべっている時のリンとした表情もいいけどぉ、お友達を撫でてる時の笑顔も可愛くて…、もう、あたし胸がキュンキュンしてたまらなかったわぁ~♪次はいつ来るのかしらね あの子達♫」
「はぁ、アンタ、まだ言ってたの?いつもそれよね、いつか捕まるわよ・・・、まぁ、言いたいことは分かるけど」
「でしょ~♪」
あちらこちらで先程までいた人物の話で持ちきりだ。
パンッパンッ!
ギルマス「はい、皆さん!注目!ギルド内の人はホールに集まって下さい!」
・・・・・・暫くしてギルド内の冒険者達がホールに集まった
ギルマス「集まりましたね、・・・今回の件ですが皆さんの思う所は色々あるでしょう、ですが先程のあの方は王家の血を引く公爵家の方と言うだけではなく、“ここ数百年“稀に見る主神様の加護を持ち、聖獣方が見守ると言う、神々から多大なる寵愛を受けておられます・・・、今いる方々の中にも貴族出身の方はいるので分かるでしょうが、
対応を間違えればこの場のいや、この国 自体もなくなる恐れがある方ですが、ご本人はとても聡明で常識があるお方です、そして、冒険者として普通に過ごしたいとのご希望ですので、くれぐれも変な気を起こさないようにっ!
もし、忠告を無視して彼の方の逆鱗に触れるような事しても、冒険者ギルドは一切の責任を負いませんっ、全てあなた方自身の責任と判断として処理いたします!
これはウェルセメンテ王国にある、冒険者ギルドのギルドマスター統括としての決定です!
今、ここにいない知り合いの冒険者達にもちゃんと教えて差し上げてくださいね、もちろんギルド側でも注意喚起は行いますので、故意に嘘を教えた方には何らかの罰が降ると言うことは忘れないように!では、話は以上です、解散!」
ギルマスは注意喚起と決定事項を述べると、すぐさま倒れている貴族子息達を拘束して2階の医務室に運ぶように指示を出し、先程の騒動の当事者の少年とサブマスに応接室に来るように告げ、2階に消えて行った。
「アンタ、気をつけなさいね、いくら可愛いからって気軽に頭撫でたりしたら不敬罪でとっ捕まるわよ」
「え~、頭撫でるのもダメなのぉ?」
「当たり前でしょうっ!アンタみたいな“おねぇ言葉のゴツい男“から、いきなり頭撫でられたりしたら驚くでしょうがっ!!」
「ひどぉい、体は男でも心は乙女よぉ~」
「と・に・か・くっ!いきなり頭撫でたりしちゃダメだからね!」
「はぁ~い・・・」
「まったくっ」
「しかし、ギルマスも大変だな、冒険者ギルドとしては冒険者登録されている冒険者は、貴族も平民もランクと言う物差しで待遇を変える組織として周知させたいのに、あんな大貴族の子供、しかも主神様の加護を持った規格外の存在を無下に扱えないんだからな」
「そうねぇ、あの光景を見たらどうやっても無下に扱うことなんてできないわね、でも噂のあの加護?は犯罪者を炙り出すのには最適じゃない?」
「あぁ、あの子に悪意を持って近づくと結界に阻まれて神罰が降るってやつか?」
「そうそれっ、盗賊の襲撃の時とか かなり役立ちそうよね、護衛依頼中に襲われてもあの子がいたら勝手に相手が自滅するんでしょう?」
「確かに、でもまぁ、結界がどのぐらいの範囲まで有効かにもよるけどな」
「あー、それもそうか~」
今だにギルド内でアトリーの話題が上がっている時、2階に上がっていったギルドマスターは頭を抱えていた。
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冒険者ギルド:ギルドマスター ディーネー・ノービレ・シャリテ 視点
私は今、非常に頭を悩ましている、なぜなら今日1日で問題を起こした冒険者5人を、ギルドマスターとして適切に処罰しなければならなくなってしまったからだ、それもその5人は全て同じ人物に絡んでいって返り討ちにあっているのだ、絡まれた人物には何も非はない、だがなぜか全てその人物とご友人が標的になってしまった。
「はぁ~、何故ここのギルドに登録しに来るのよ~、そもそも何故冒険者なの⁉︎他に沢山なれるものはあったでしょう⁉︎それにあの魔力量普通じゃないわ!」
バンッ! 執務室の自分の机に勢いよく手をついた。
(人族の王族の血筋だからと言ってもあれは異常だわ、以前登録に来た王弟殿下とは次元が違う、それにダークエルフの私を上回る魔力量なんてあり得ないわ!まだ あの子供がハイエルフの子供とか言われた方がしっくりくる魔力量にあの容姿、エルフの子供でも性別はすぐに判断できていた私が、あの子を見た時しばらくどちらか分からないほど中性的な容姿の美しさをしていた、あんなの長年生きてきて初めて見たわ・・・・・、はぁ、これからあの子供に出くわすことが増えると思うと憂鬱ね、神の加護を3つも持って、結界で守られた寵児なんて前代未聞、それこそ扱いを一歩間違えたらこちらが滅ぼされかねないわ、あの子の父親の忠告通りやるしか無いと言うことなんでしょうね・・・、何より、まずは専属の受付を選ばないといけないわね)
私は気持ちを切り替え、次の仕事に取り掛かることにした。
コンコンッ ガチャ
サブマス「ギルマス、失礼します、応接室に当事者の少年と目撃者の冒険者グループを案内してきました」
「分かったわ、今行きます」
声をかけてきたサブマスは自分の証言だけではなく、しっかり客観的な証言をできる者まで連れてきていたようだ。
(この子の良い所は自分だけで完結させずに、別の観点からの意見を汲み取り仕事をこなす所ね)
部下の有能さに満足しながら執務室を出た。
(何にせよまずはこの一件の処理を早く済ませましょう・・・・・はぁ、でも1番の面倒ごとはこの事をギルド本部に報告することよね…頭が痛いわ)