07 脱出
初めは、好奇心。
『知識』で得られる元の世界の情報をこちらの薬に応用するとどうなるか、知りたくなった。
効能が、飛躍的に上がった。
これは秘匿しないとまずいと、出来た薬をこっそり隠していたが、結局バレた。
知らない男たちと、ひときわ怖い男が来て、脅された。
自分ひとりならやりようがある。
密かに用意しておいた、強力麻痺薬などの劇薬の数々。
でも、シルリに危害を加えられたら……
結局、メイジさんに頼ってしまう。
私の相談を真剣に聞いてくれたメイジさん。
「黒井さん、覚悟はありますか」
僕の所属部署が動けば、黒井さんたちの安全は間違いなく保障される
ただし、強化薬の製作と自由を失うことを条件とされるだろう
「覚悟、あります」
シルリは、ついて来てくれると、思う。
メイジさんの『転送』魔法、初めて家に『転送』された時は驚いた。
シルリも突然のことに驚いていた。
「メイジおじさんが怖い人たちから守ってくれる」
「でも、この家からはどうしても出て行かなくちゃいけない」
「シルリは、どうしたい?」
ぎゅっと手を握って、見つめてくる真剣なまなざしのシルリ。
「衣食住、全て置いていくんで、本当に大切なものだけ用意してください」
メイジさんの言葉で、ふたりで脱出準備、開始。
私は、手付かずだった老婆の遺産と、隠しておいた危険な薬全部を『収納』に入れた。
おねだりするようなシルリの視線に気付いて、台所でマイマグカップも『収納』
本当は何も、いらない。
今の私には、大切なのはシルリだけ。
シルリは、老婆の遺灰と、私とお揃いのマグカップ。
着古したワンピースに着替えていたが、老婆に買ってもらった思い出の服とのこと。
準備完了。
ふたりとも、メイジさんと手を繋ぐ。
「最後のお別れ、いいですか」
ふたりとも、部屋の中を見渡した。
乱雑だけど、どこに何があるかが全部分かる室内。
整頓整頓清掃された棚。
持ち主を失った机。
シルリと目を合わせた後、メイジさんに合図。
静かに、転送。