06 シルリ
シルリとのふたり暮らしはとても静か。
一日中、何もしゃべらない日も多かった。
朝起きて、まず最初に老婆の遺骨にふたりで手をあわせる。
老婆は、この辺りでは珍しい火葬を遺言で望んでいた。
シルリと共に朝食を準備して、ふたりで静かに食事。
午前中は薬や材料のストックの確認と製作の下準備。
お客は基本的に午後だけ。
昼食を呼びに来るシルリ、ふたりで静かに食事。
午後は来客の相手。
余裕があったら薬の作成。
明るいうちに店を閉めて戸締り確認。
シルリとの静かな夕食後は、ふたりでお風呂。
老婆は風呂好きだったそうで、浴室は狭いながらもしっかりした作り。
シルリを寝かしつけてから翌日の予定を確認。
何事もなく一日過ごせたことを感謝しながら就寝。
初めはシルリと別々に寝ていたが、
雷が騒ぐ夜や、老婆の事を思い出して寂しくなった夜、
いつの間にか私のベッドに潜り込んでくるシルリ。
シルリは、過去のことも少しずつ筆談で教えてくれた。
生まれは辺境の小さな村。
父母のみならず、村のほとんどの者が薬師。
特産の薬草と秘伝の製法、村は国から保護されていた。
ある夜、隣国の兵たちが村を蹂躙する。
助かったのは、地下の秘薬保管庫に隠されていたシルリだけ。
恐怖で口が聞けなくなっていた。
保管庫にあった秘伝の製法は国が全て持っていった。
残されたシルリを村出身の老婆が引き取る。
国からの条件は、村の事件も製法の秘密も、誰にも言わないこと。
何日もかけて、全てを伝え終えたシルリは、安心したようにぐっすりと眠り、
翌日、珍しく朝寝坊した。
その日から、毎日一緒に眠るようになる。
とても静かで穏やかだった日々は、
私のせいで失われてしまう。