18 闇医者
旅は、それなりに楽しい。
人に頼まれて薬を作ったり、
人から頼まれなくても薬を渡したり、
面白いな、と思ったこと。
悪いヤツほど盛大に、私の薬で自滅した。
頭が悪かったのか、性格が悪かったのか、どっちかは知らないけど。
もちろん、どっちも悪かったのかもね。
それと、いつの間にか、対抗策を準備しておくようになった。
例えば、超強力な毒薬を作るときは、必ず超強力な解毒薬を用意しておくとか。
要するに、やらかしへの対策ってこと。
いろんな人に会えたり、逢えなかったり。
まだ、シルリに逢いに行く自信は無い、けど。
それでも、面白い人にもたくさん出会えた。
やたら元気でとても可愛らしい、サキュバスのメイド、とかね。
「クロイ先生っ、大変なんですよぅ、モノカさまが、モノカさまがっ」
おっと、噂をすれば何とやら、だね。
「どうしたんだい、ニエルさん」
「先生、うちのモノカさまが大変なんですよぅ、普段は殺しても死なないようなお強い人なのに、お熱が下がらなくて汗で濡れ濡れなんですよぅ」
「濡れ濡れは大変だ、それじゃあ風邪をひいてしまうよ」
「そうですよぅ、お熱を下げ下げしちゃうお薬、私に売っちゃってくださいよぅ」
いつも明るくて楽しくて可愛いらしいニエルさんをここまで心配させるなんて、とんだ悪党だよ。
おしおきしないと、ね。
「分かったよニエルさん。 それで患者さんはどこのどちらさんなんだい」
「えっと、ここっ、この街のお宿のベッドで超高熱で濡れ濡れになっちゃってるんですよぅ」
ニエルさんが地図を指差した街は、一度訪れたことがある街。
これなら私の転送薬ですぐに飛んでいける。
どうだいメイジ、『転送』はもう君だけの十八番じゃないんだよ。
「じゃ、行ってくるね。 お土産は何が良いかな」
「お土産なんていいですよぅ。 それよりも、モノカさまが元気になったらお友達になってあげてくださいよぅ。 とっても良い娘なんですよぅ」
ニエルさんにここまで想われているなんて、ちょっと妬けちゃうね。
お熱が下がったらお見舞いに、とびっきりのおしおきをおみまいしてあげよう。
「それじゃあニエルさん、行ってくるね」
私は闇医者、黒井チェル。
今日も、私だけの戦場で、急患や実験体が、首を長くして待っている。
もちろん一瞬で首を縮める薬だって、『知識』の中にちゃんと入っているのだよ。