16 安心
「僕って戦争の最前線に行ってたんですよ」
「同期で召喚されたやつらも、黒井さん以外全員」
「みんな良いヤツばっかでさ、戦争頑張ってたんです」
「でも、やっぱ戦争でしょ、一網打尽でやられちゃったんですよ、みんな一緒に」
「僕だけ『転送』で逃げれちゃったんです、みんなを助けられずに」
「戻ってきたら酷いもんでしたよ」
「敵前逃亡だの、ヘタレ野郎だの、勇者の面汚しだの」
「ただ、優秀な『転送』使いは死刑にしたくなかったんでしょうね」
「後方勤務で一生国のためにコキ使ってやる、ですって」
一気に話し終えたメイジさんが、私を見つめている。
「だから僕の同期って、もうクロだけなんだよね」
「だから、特別」
えーと、
「クロって何?」
「だってこうやって国の命令を無視してクロを助けた時点で、僕も共犯者じゃないですか」
「他人行儀なのはやめて、呼び方くらいはクロでも、ね」
「分かった。 ありがとう、ね」
私の中の何かが、少しだけ変わった気が、する。
「もし僕の胸以外のところを借りたくなったら、遠慮なく言ってください。 いつでも待ってますから」
「……あなたのそういうとこ、やっぱりキライ」
「それくらいの関係が、僕らにはちょうど良いですよね」
なんで、この人といると、こんなに安心出来るんだろう。
「ここが僕の隠れ家だって、他の誰も知らないですから、クロが落ち着くまでいつまででもいてくれれば」
「じゃ、僕そろそろ職場に戻りますね」
立ち上がったメイジが、振り向いた。
「そうそう、シルリちゃんのことなんだけど」
「今はフナエさんと一緒に王城でメイドさんしてるそうです」
「クロの薬、すごいよね。 シルリちゃん、今はすごくおしゃべりなの」
「クロのことは思い出せていないみたいだけど、すごく元気にやってるみたいですよ」
「もし会いたくなったら、僕に言ってくださいね」
「新しい名前は……確か……ササエさん!」
それじゃ、と言ってメイジは『転送』して行った。
本当に……何なのよ……あいつ。