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01 異世界

独立した短編となっております。


お楽しみいただければ幸いです。




 私の名前は黒井チェル。


 異世界召喚者なんていうふざけた人生を送る羽目になっているが、結構それを楽しめていたりする。



 元いた世界では受験生だった。


 医大合格を目指してがつがつ勉強する毎日。


 自分で望んだ道だから、友達付き合いとか息抜きとか全く無くても構わなかった。


 むしろ自分の人生から余計な要素を排除したくて家族付き合いすらご遠慮状態。


 小さい頃から熱中すると周りがどうでも良くなるタイプ。


 生き物の体への興味が高じて医者を目指したって感じかな。


 本当は、いわゆる受験勉強的なくだらないものに費やす手間と時間をもっと有意義に使いたかったけど、免許・資格が無いと何も出来なかったからね、あの国は。



 合格してこれから実技・実践出来るんだとわくわくしていたら、突然召喚された。



 薄汚れた白っぽいのを着たおっさんが大勢いる部屋、召喚されて最初に思ったことは、


『小汚いなこいつら』だった。


 おっさんたちからの状況説明で不覚にもちょっとだけ楽しそうに思ってしまったのが、悔しい。



 ここは私が元いた世界とは別の世界で、もう帰れない


 仲間もいっぱい呼んだから、この国のために戦争行って死んでこい



 科学も化学も、技術が爆発的に発展するのは戦時だ。


 戦場で死ぬのは御免だけど、技術の発展を目の当たりにしてあわよくば自らの手で、なんて調子の良いことを夢想しちゃったのは、まだまだお子さまだったから、かな。



 その後、別の部屋に連れて行かれて何やら変な儀式を受けることになる。


 こういうのがある世界なのね、と呆れながら見ていたら、おっさんに言われた。


「あなたの固有スキルは『知識』です」



 なんて?



 こっちに呼ばれた犠牲者は、いくつか特典がもらえるらしい。


 まずは全員にプレゼントされる『翻訳』『収納』『鑑定』


『翻訳』

 世界間の言語の壁を取っ払っちゃう便利能力。 あっちの世界にこんなのがあったら、あのすました顔して人のことを見下しているバイリンガルなんちゃらっていう連中をまとめてゴミ箱送りにできたのにね。


『収納』

 なんか目に見えないでっかい押し入れを持ち歩けるみたいな感じ。 私は基礎体力がだめっ娘なので結構ありがたい能力でした。


『鑑定』

 知りたいことを深く知れる能力かな。 実は私にとって一番重要なものだったりする。



 以上の三種は一律一緒ではなく個人差が大きいそうだけど、私のは三種全てが相当に優秀だった。



 で、固有スキル『知識』


 なんか今まで所持者がいなかったものらしくて、おっさんたちが困惑していた。


 やばいな、もしかしてモルモット人生かよ、なんてへこんでたらそんなこともなく。


『知識』について何か分かったら何でも教えてくださいね、みたいにやたらと低姿勢。


 解剖とか拷問とかじゃなくて、ありがたい。



 戦争のために呼ばれたわけだから、そっちの訓練もさせられるわけで。


 皆さん呆れてたね。


 剣どころか訓練用の木の棒も満足に振れない虚弱女は訓練の邪魔でしかなかったよ。


 重すぎてよろいも着れないから、そんなとこ危なくていられないわけです。


 魔法がばんばん使えたわけでも無かったし、早々に訓練生からリタイアでした。



 最初のうちは興味を持たれていた『知識』も、あの人たちにはがっかりものだったみたい。


 私が『知識』で知りたがったのはこちらの世界の情報で、それってあの人たちにとっては先刻ご承知のことばかりなわけで。


 自分が知りたいことがいろいろと分かる『知識』は、私には便利もんだったんですけどね。



 武術からっきし、魔術だめだめ、固有スキルは役立たず。


 いよいよお城に居場所が無くなってきた私。


 みんなから除け者扱いだったけど、ひとりだけ話しかけてくる子がいた。


 同じ頃に召喚された藪雨銘寺。


 私にしょっちゅう話しかけてきたけど、他の訓練生の娘とか教官の女騎士とかにもモーションかけまくっていたのを知ってたんで、適当にあしらうようにしていた。


「僕のこと、メイジって呼んでくれないか」 なんて初対面で言ってくる男の子が信用できるかっての。



 お城の方でも私を持て余してるのが分かっていたから、担当してくれていた神官に相談してみた。


 下職制度ってのがあって、落ちこぼれ召喚者が町で暮らせるようになるそうだ。


 ただし、お目付役の騎士さまから生涯監視されるとか。


 なんでも良いから早くそれやりたいって言ったら、鼻で笑われた。


 お供の騎士にだって選ぶ権利はあるだろう、みたいな。


 下職した召喚者とお供の騎士が結婚しちゃうのって、結構多いそうだ。


 まあ結婚なんて生涯監視されるようなものだしね。



 で、私です。


 自分で言うのも何だけど、魅力無いからね。


 影薄い、胸薄い、愛嬌薄いの三重苦ですよ。


 男女問わずの不人気物件扱いでしたね。



 下職以外の道は無いのか、聞いてみました。


 ありましたね、結構屈辱的なのが。



 低職処分、ですって。


 下職で監視が付くのは警戒されているからです。


 こいつなんかやらかすんじゃないか、みたいな。


 で、監視する価値も無いやつを放り出すのが低職処分です。


 下職では住居購入資金とかがそれなりにもらえるそうですが、低職はそういうのすっぱり無し。


 でも、なんか私向きで良いなって、すぐに申し込んじゃいました。



『今後一切召喚者関係には関わりません』


 っていう誓約書に署名した時は、この世界に呼ばれてから一番スッキリしましたね。



 あっさり了承されて、


 ほどほどのお金と、


『収納』に入っているわずかばかりの生活雑貨、



 あとはこの身ひとつで、


 異世界暮らし、開始です。



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