第五話
「もしも、この坂道に伏せるか、かがみながら見張りをしていたとしたらどう?」
フリッツの指摘があれば、ジョーは、よどみなく答えることができた。
「外から見えるのは、せいぜい肩から上くらい、身を隠しながら見張りをすることができる。」
フリッツがうなうずき、ジョーはさらに付け加える。
「しかも、見張りがクロスボウなんかの飛び道具を持っていれば、広場を突っ切ってくる相手に先制攻撃を加えられる。さっきの話しとは立場が逆転するのか。」
「ずっと攻撃するのが難しくなるよね。」
「つまり、入口の広場と坂道を合わせて考えると、侵入者への備えが施されていることがわかる。うん、ますます怪しいな。」
うれしそうなジョーに、フリッツが若干慎重に答えた。
「まあ、ここに住み着いていたゴブリンはとっくに討伐されてるし、今はもぬけのからなのは調べてきたから大丈夫なんだけどね。」
でも、とフリッツは続ける。
「僕の考えが正しければ、多分それだけじゃないと思うんだ。この坂は、今でも十分危険かもしれない。」
「まだ、なにかあるかもしれないのか?」
「もしも僕だったら、この坂をさらに利用しない手はないからね。気を付けるに越したことはないよ。」
「あー、確かに。」
含むところのありそうなジョーの見る目は、あえて気にしない。いよいよ洞窟へ、フリッツは指示を出す。
「とにかく、中央を通るのは避けて、壁沿いにゆっくりと降りていこう。僕が先にいくから、べスが転ばないように注意しながらついてきて。それから、僕がストップと言ったらその場で立ち止まってほしいんだ。」
「OK、任せた。」
三人は、そろりそろりと坂道を下っていく。その半ばあたりで、フリッツが立ち止まるようにと声をかけた。
「予想通りなら、たぶんこの辺りが怪しいと思うんだけど。」
ひとり坂の中央よりへとわずかにすすみ、地面に手をついて様子を調べると、やっぱりとつぶやく声が聞こえた。
「こっちに来ちゃダメだよ。思った通りだった。この辺りの地面は急に滑りやすくなってる。」
慎重な足取りで、フリッツが戻ってきた。
「このまま壁沿いを気を付けて降りていこう。」
坂を降り切ると開けた空間に出る。足元がしっかりしていることを確かめると、安堵の息がこぼれた。
「つまりは、こういうことだな。」
ジョーがおもむろに言った。