第四話
「ここは地面が平らすぎる。」
片膝をつき、手を地につけて、こうべを垂れる、まるで騎士がかしづくような姿勢から一変、よっこいしょと背筋を伸ばし、両手をはたけば、そこには不遜な挑戦者の立ち姿が現れる。フリッツの投げかけたその一言から、ちいさな少年少女たちのダンジョン攻防戦は始まった。
「もっとデコボコしていそうなものだろう?」
「つまり、人の手が加わっている?」
即座に理解の色を示すジョーの察しの良さを確認して、嬉しそうにうなづく。
「もしかしたらね。それにもうひとつ不自然なことがある。」
洞窟から振り向いて、森の方へと視線を誘導した。
「うっそうとした森の中で、ここだけが広場のように開けているのにも思惑がありそうだよね。」
「そりゃあ、普通に考えたら、見通しを良くして、入口に近づく人を見つけやすくするためだろ?」
「だとしたら、この入り口から続く斜面に、意味があるかもしれない。」
「何かわかったんだ。」
「そうだなぁ、もしもの話をするよ。」
フリッツは、すこし考えるそぶりを見せたあと、ジョーを指さす。
「ジョー、君は、凄腕の冒険者だ。」
と笑いながら。
「というつもりになって聞いて。」
と付け足した。
「わかった。」
ジョーも慣れたものである。
「君は、森の洞窟に住み着いたゴブリンを退治するように、村の人に頼まれた。」
ジョーは、軽くうなずく。
「森を抜け、目的の洞窟のそばまでくると、周りは広場のようになっていて見通しが良く、入り口にはゴブリンの見張り番がたっているのが見える。」
フリッツが問う。
「ジョー、君ならどうする?」
さして考える風もなく、おもむろに答える。
「気がつれないように隠れながら、木が途切れているギリギリのところまで近づいていって、弓で見張りを狙う。」
「うん、僕もそうする。」
ニコニコしているフリッツを見て、彼の言いたいことがジョーにもわかった。
「なるほど、ここに広場を作って見張りを立てたとしても、見通しの良い場所に立っている方が先に発見されやすいし、むしろ、いい的にされて不利になる。」
「そう、そこでこの傾斜が意味を持つことになる。」
彼が見下ろす先をジョーも見つめる。地下へと続く洞窟の坂道を。