第三話
マスター達の困惑が、子供たちに届かないように、うららかにそそぐ春の日差しもまた、洞窟の奥までは届かない。片膝をつき、ランタンの準備をしながら、フリッツが下調べしてきたことを話していた。
「おばあちゃんが若かったころ、ここは壁画や石室のある地下遺跡のような場所だったらしい。それが、わずか一夜のうちに、何もかもなくなってしまって、今のような洞窟に変わってしまったというんだ。」
「それって本当?」
ジョーが聞き返すと、フリッツは嬉しそうに、にんまりとする。
「さぁ、どうかな。ただ、おばあちゃんは、今でもその夜のことは忘れないって言っていたけどね。」
「いいね、面白い話じゃん。」
上機嫌にうなずくジョーに、フリッツは、さらに話を続ける。
「不思議な話だけれど、もしかしたらこの洞窟は、本当にダンジョンだったのかもしれないね。」
「あぁ!ダンジョンかあ、伝説の海賊”片目の”ウィリーが遺した財宝を守る『間抜けだまし』とか、あこがれたなぁ。」
「古いよ、そんなの今時の子は知らないよ。ジョー何歳なの?」
「フリッツとたいして変わらないし、しっかり通じてるじゃない。」
「ふふふ、嫌いじゃないからね、お互い。まぁ、ダンジョンには、気が付くと分かれ道が増えていたり、ある日、突然様子が変わってしまうなんて話もあってね。」
「なるほど、もしかしたらこの洞窟にも、何か秘密があるかもしれないんだ。」
そう言うと、ひょいとかがんだジョーは、フリッツのつけたランタンを掲げ・・・
「ジョー、待って、ストップ、ストップ!」
ジョーが歩くと、下衣をつかんだままのべスが少し遅れてついていく。それは、見慣れたいつもの光景だが、ここは村ではない。ジョーが気なしに歩き出そうとしたものだから、フリッツがあわてて止める。
「べスをひとりで歩かせるのは危ないから、二人で支えながらいこう。」
「あっ、そうだった。」
岩肌の地面で転んだりしたら一大事になる。あらためて地面に目を向けると、入り口から地下に向かって平らな坂道になっていた。
「それに・・・」
フリッツは、かがんだまま地面を手のひらで撫でて確かめる。
「この洞窟、どこかおかしいよ。」
さあ、ダンジョンマスターと子供たちとの知恵比べが始まる。