第二話
ダンジョンマスターは、困っていた。
「どうして子供がこんなところまで。」
「近くの村の子供が迷い込んだものかもしれませんが・・・」
答えたダンジョンコアも、声色に戸惑いをにじませるという器用な真似をしている。コアの正体は、占い師の水晶玉のような結晶体である。発声自体をどうしているのかわからない。
その水晶玉には、三人の子供たちの姿が映し出されている。
背中まで届くストレートの黒髪を毛先のあたりでひとつにまとめた10歳くらいの少年が、洞窟の端から頭だけをのぞかせて中をうかがうと、首を斜めに傾げた拍子に、髪が重力にひかれてぷらんと下がる。
その黒髪の少年を横から押し出すようにして、二人目の子供が入り口をのぞき込む。髪の長さは黒髪の少年と同じくらい。やはりひとつにまとめているが、すこし癖のある明るい茶色の髪がところどころはねている。年齢も黒髪の少年よりも若干幼く、背も小さいが、表情豊かで活発な印象をうける。
そして、4、5歳くらいの幼い女の子が、茶色の髪の子の後ろに隠れるように寄りそっている。肩でそろえた髪は、さらに明るく金髪に近い。茶色の髪の子のもものあたりの布地をしっかりと握りしめていて、見るからにおとなしい。年長の二人が額を寄せて話し始めても黙って聞いている。
「フリッツ、フリッツ、すごいよ、やっぱり来てよかった。」
「そうだね、これは思っていたよりも、くるものがあるね。」
黒髪の少年フリッツは、はしゃぐ友人に示し合わせるような笑顔を向ける。
そんな二人に不穏な空気を感じたものか、一番幼い女の子は、つかんでいた服をひっぱり、ぴとっとくっつくと、まっすぐ見上げて、おずおずと訴えかけた。
「ねぇねぇ、ジョーおこられるよ、かえろう?」
ジョーと呼ばれた茶色の髪の子は、すがりつく女の子の頭に手をのせると、はずんだ声色をつくって話しかける。
「心配しなくても大丈夫だよ、べス。それにほら、深い森を抜けて、あやしい洞窟にたどり着いたのだから、これはもう正しく大冒険なんだよ。ここで盛り上がらないのは無理っぽい。だからもうちょっとだけ、ね?」
髪をなでられ、静かに聞いていたべスは、ジョーの服に顔をうずめ、さらにひしっとくっついた。
そんな子供たちの様子を見て、コアが報告する。
「あーマスター、首謀者は悪ガキです。」