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Prologue
「これで、自由、おめでとう」
女の静かな声が裏路地の壁にこだました。
街頭の届かない場所でも、月明かりが彼女に降り注いで、手元の銃を煌々と輝かせている。
一寸も揺れ動かない赤い瞳が、彼女の下でゆっくり呼吸をしている男を捕えている。男には彼女に殺される未来以外の選択肢は、良悪問わずひとつも残されてはいないようだった。
彼女に馬乗りにされ、首を押さえられても冷静さを欠くことはなく、男はただ従順に未来を受け入れる。
肺に残った酸素を吐き出して、言葉を紡ごうとしている。
「ようやく、僕にもわかった」
__貴女が以前口に出した、言葉の意味を
酸素が惜しくて口内で消化されたこの言葉も、彼女には伝わっている。
そして、男はふんだんに息を吐いてしまってから、絶え絶えにこう呟き、笑った。
「いまは月が、反転して見える」