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私は静かに立ち上がり、彼のもとへ歩き出した。
心は平常に、心は平常に。至って平然と。
取り乱すのは私らしくない。
彼ごときに。
私は何も悪くない。これは必要な措置なのだ。措置を施す人間がいないから私が実行するのみ。
なに、殺すわけではない。一発思い切りぶん殴ってやるだけだ。どうせならあの見るだけでも憎たらしい、いつも人を見下しているように世界を見ている顔を殴ってやろう。♡
彼の背後に立った。
静かに右手を振り上げる。
気配に気が付いた彼が振り返った。
勢いよく上げた右手を振り下ろすと、鋭い音と共に右手に激痛が走った。
殴るってこんなに痛いんだ、なんで制裁を加える私がこんな痛い思いをしなければならないんだ。
まあ、部位にもよるのだろうけれど、殴るということは殴られる側にも対等に力が加わるわけで。
彼は驚きつつも痛みにゆがめた顔で私を見上げながら椅子から転げ落ちた。
私はそれをじっと見つめていた。
思い描いていた爽快感はそこまではなく、じんじんと熱を持ったように痛む右手ばかりに意識が取られた。