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そんな感情を抱いていたある日、私は珍しく一人で行動している彼を見かけた。
最初はいつものようにすぐに彼の取り巻きたちが現れるものだと思って見ていた。
先程も話したが、そんな彼を遠巻きに眺めていた私はそれは陰気に見えただろう。
それか、そこまで洞察力の鋭い人物でなければ単純に何かを懊悩しているように見えただろう。
さらに言ってしまえば私を風景の1つとして捉えている人物であれば課題を黙々とこなす学生に見えただろう。
現に私は一人用の学習スペースで次回の授業までに仕上げて来るように指示された英文を翻訳しているところだった。
本当に常々人からの視線を気にし、その視線の意味や思惑を汲み取るとする自分の自意識の過剰さ加減にもほとほと嫌気がさしてくる。
そんな鬱々としたくすぶった感情も彼を殴りさえしてしまえば、どれほどの爽快感を得られるだろうか。
それに彼を殴ることは彼のためでもある。
彼を殴ることで彼の素行が正しき方向へ真っ直ぐと伸びていくこと、こればかりは本当に彼の気持ち次第なのではあるのだけれど、彼に対しては私も例に漏れず彼の平生の行動について負の感情を抱いているであろう人間も少なからずいると思われる訳であって、これは天罰である。
もしかしたら、私が彼を一発殴ることで、彼の行動の多少が緩和され、そしたら私は常日頃の悪事を看過することができるようになるかもしれないし、私の目の前には姿を現さなくなるかもしれない。
私の存在に惧れをなし、まるで弱者のごとく逃げ隠れして歩く彼を想像するのは小気味がよく、気分がいい。
自分が今までそうしてきた制裁が今返って来るのだ。