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「なあ里奈」

「どうしました?」

「いつも思うんだが、本当にこれでいいのか?」

「いいって言ってるじゃないですか。これで十分なんです」

「悪いわけじゃないけどさ、たまにはちょっと高めのレストランに行ってみたいとか、本当にないのか?」

「ふふ、孝弘さんってほんと心配性なんですね」

「え?」

「付き合っている時にも同じ質問をされましたけど、結婚してからもまた同じことを聞かれるなんて、なんだか変だなって思って」

「そうかな」

「あ、今そういう君の方が変だなって思ったでしょ?」

「そ、そんな事は」

「孝弘さんって医者の時はしっかりしているのに、医者じゃなくなった瞬間別人みたい」

「悪かったな」

「ううん。そんな所も素敵です」

「まったく…一回り近く違うってのにほんと敵わないな」


 私達はなんて事ない、でも幸せな時間をいつものファミレスで過ごしていた。

 周囲からは驚きの声ばかりだった。

 私は坂井と結婚した。結婚して一年以上が過ぎた今となってもいまだにまさかの組み合わせだと周りからは冷やかされた。

 

 きっかけは、と言われれば杉原の一連の出来事になる。

 あの日倒れた杉原は意識こそ失っていたが、命に別状はなかった。ただ、あれだけの騒ぎを起こしたという事で懲戒解雇となった。しかし、杉原はもうこの時点で元の杉原ではなくなっていた。完全に精神に異常をきたしており、急に笑ったり泣いたりとまともな状態ではなくなっていた。うわごとのように「影が」「あいつらが中に」「仕組まれた」「呪いだ」などとのたまい続けていた。

 そのまま実家に一旦引き取られたが、おそらくあの状態では精神病院入りだろう。


 ただ、杉原が口にした言葉は私達にとってだけはうわごとでは済まされないものだった。

 おそらく今も彼女の中にはあの四人がいるのだろう。理不尽に殺された復讐を彼女の中で続けているのだろう。

 その原因が自分にあると思うとどうしても考え込まずにはいられなかった。そんな私を理解し支えてくれたのが里奈だった。それは里奈としか共有出来ず癒す事の出来ないものだった。


 呪いというものを目の当たりにしたのは初めてだった。

 人を呪うという事。その行為そのものの恐ろしさもそうだが、何より、人を呪おうと思う黒い感情がどれほど恐ろしいか、そしてその末路がどれだけ救いのないものか、今回の件でまざまざと見せつけられた。


「行こうか」

「はい」


 誰かを恨むことなく、僻むことなく生きるのは難しい事かもしれない。

 だが結局、そんな感情は何一ついい結果を生みださない。

 

 “出来る事を、続けていこう”


 私と里奈がこれから過ごす時間の中で、もうこんな悲惨な事は起きない事を心から祈りながら、私が彼女との人生の中で自分が出来る事を、これらも続けていこう。

 そんなふうに思った。


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