悪役令嬢は今をトキメク!
突然だが、我が家は夫婦仲が良い。パーティーでの私とログ様は、まさにオシドリのようだと言われている。
だが、知っているだろうか。オシドリは毎年、相手を変えている、いわばセフレのような付き合いをする鳥だと………。
「あら、また公爵様と夫人がくっついておられるわ。相変わらず、仲睦まじいわね」
「いいですわぁ。あのお二人を見ていると、政略結婚もそう悪いものじゃないと思い直しますわ」
パートナーではデカイ声でこんな噂をされ、そんなもんだから、私たちも調子にのってラブラブする。
だが。だがだ。
「……遅いですわね」
「…仕事だ。文句あるか」
「………」
帰ってきたら、もうこれで会話終わり。
いやぁー……熟年夫婦か。私たち、まだ結婚一年なんですけど。
が、仕方がないのだ。
何せ私は………元・悪役令嬢なのだから。
◇٠◇٠◇٠◇٠◇
私は、初めは実にポピュラーな悪役令嬢サマだった。
人を見下し、友達は奴隷。権力は使ってナンボでしょう。それが私の”当たり前”だった。そりゃ、生まれた瞬間から甘やかされれば、当然そうなる。
契機は五歳のとき。
私はとある事故で、一週間ほど意識不明の状態に陥ったのだ。
そんとき私はどうしてたかって?
当然、よくある感じに夢を見ていた。前世の夢をね。
そんな感じで、幼女の皮を被った根暗オタクになった私は、この春ログ様攻略対象の妻となったのだ。
よく死ななかったなって?
うん、このゲームハーレムモード無いからね。ヒロインちゃんも良い子だし、フツーに幼なじみとハッピーエンドだったよ。
なぁんにも破棄する理由も必要もないので、計画通り政略結婚をしたっていうのが、ことの顛末だ。
そんなフラれた上に嫌いな悪役令嬢と結婚したログ(正直、そろそろ様つけるのめんどい)だが、前述したように最近帰りが遅い。
浮気?
ノンノン、それは無い。何せあいつはくそ真面目なのだから。私がいる以上他に手出しはまぁしないだろうし、してたら私が気付く。
そして慰謝料をふんだくるネタにする。
ヒロインのストーカーでもしてる?
いやまぁまぁにありそうだけど、あいつはヘタレだし。
せいぜいラブレターでもしたためる程度だろう。
じゃあ、本当に仕事?
ちっちっち。あいつの仕事は国王の補佐が主。そしてなんか仲良くなれた元・悪役令嬢の王妃様によると、今は国王夫婦がおアツいらしい。
(学生時代私が二人の仲を取り持ったので)
よって、近頃は定時上がりなはずなのだ。
じゃ、何してるかって?
ふ……ふふ……。
◇٠◇٠◇٠◇٠◇
「♫♪♫♫♪♫♪♫♪」
「キャーーっ レイちゃんーっ!」
「可愛いっ! こっち見てーっ!」
はい。
レイ、こと、公爵夫人の川岡零(前世名)でぇーす☆
実は、下町の夜の酒場で、アイドル(もどき)やってまーす☆
だってさ!
せっかく、今世めっちゃ顔良いんだもん!
生かしたいじゃん!輝きたいじゃん!
ひとヤマ当てたいじゃーんっ!
……いや、枕仕事してるわけじゃないよ?
フツーに歌ったり、してるだけだよ?
テキトーにハズい曲歌って、それっぽく踊る。
それだけでどんだけ儲かるか………いやぁ笑いが止まらないぜ…………おっと失礼。
まぁそんなわけで、地下アイドル的なものをやってたワケです。
暇をもて余して。
夫の仕事に合わせて、絶妙にうまくやってたんだ。
ほら私、ハイスペックだから。
使用人は、お茶会とかに出掛けてると言ってあるし。
ついてきてる侍女と御者は、ばいしゅ………協力してくれてるし。
だが、この楽しい私の公爵夫人ライフは、音を立てて崩れた。
数週間前、ログは仕事後のつきあいからかこの居酒屋を訪れたのだ。
それは良い。まぁ良い。
問題は、奴がこの私にハマってしまったことだ。
それも、毎日来るほどに。
仕事後に忍んで来んなよ!逢い引きかよ!平安貴族かよーっ!
ごほん。取り乱しました。
とにかく心配なのは、身バレすることだよね。
私が原因で離婚するのは、癪に触るし。
この世界の化粧品はまぁまぁだが、所詮まぁまぁだ。
当然、便利なチョーカー型の変声機何てものもない。
………詰んだかもしれない。もはや時間の問題か?
最近までは、そう思ってた。
しかし、もう早数週間。出会って一月近く経つ。
一向にバレない。
もう、心配になるほど澄んだ目で、頑張れとか言ってくる。
あ、ログの目って節穴なのね。
つかむしろ、デカイ風穴でも開いてんじゃないの?
最近は、歌いながらいつもそう考えてる。
全く、いつ気付くのやら。