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竜巻

最初に目を開けた時、世界は真っ黒だった。


まるで真っ白な紙を真っ黒なインクで染めてしまったかの様に漆黒の闇だった。


まだ目を閉じていた方が明るいのではないかと考えてしまう程に。




2度目に目を開けた時、世界は灰色だった。


全てが埃を被ってくすんでしまったかのような鉄灰色だった。


まるでこの世界には楽しい事など何も無いのではないかと思えてしまう程に。




「…ここは?」


灰色の世界を見渡しながら少女はゆっくりと起き上がった。


訝しげに細める降り積もった雪の様に純白の瞳。


少女が頭を振る度に揺れる同色の髪。


唇だけが燃えるように赤く目立つ以外は身に纏う全てが無色の少女であった。



少女は辺りを見渡すが視界に映る灰色の世界に見覚えはない。


…そもそも自分が何故ここにいるのか、何時からここにいるのか。


何故草や土までが灰色なのか、ここが一体何なのかさえ分からなかった。


少女が首を傾げていると横から草を踏み付ける音が聞こえ、そちらに視線を動かした。


「やあ、気が付いたかい?」


少女に向かって起き上がらせる様に腰を屈め手を差し出しながら少年は言った。


真っ白な少女とは対象的な黒髪に黒いローブを纏った姿。


だが闇夜の様な容姿とは裏腹に弧を描くその黒い瞳はどこか優しい。


だが少女は少年の手を取らず警戒心を剥き出しにしたまま答えた。


「…あなたは?」


そんな少女の失礼な態度にも関わらず少年は相変わらず微笑んだままだ。


「さあ?」


「さあって?」


「俺も知らないんだよね、名前。」


少年の当たり前の様に答えた返事に少女は首を傾げる。


「名前を知らない?

 でも呼び名位あるでしょう?」


「呼び名もないなあ。

 でもそれは君もだろう?」


少年の揶揄う様な言葉に少女は眉間に皺を寄せた。


名前位あると言い返そうと口を開く。


…が、出て来ない。


それはそうだ。


少女には自分が何故ここにいるのか、何者なのかの記憶もないのだから。


「…覚えてないの。」


「覚えてない?」


「何で私がここにいるのか、私が誰なのかも思い出せないの…。」


少女が不安そうに呟くと少年は顎に手を当て何やら考えていたが、暫くするとまた優しく微笑む。


「君が誰なのかは俺にも答えられないけれど、君が何故ここにいるのかは教えてあげられるよ。」


「本当?

 何故私はここにいるの?」


少年はしゃがみ込むと少女の白い髪に絡み付いていた草を摘みながら答えた。


「ここはね、オズの魔法使いって言う物語の世界なんだ。

 オズの魔法使いは知ってる?」


「まあ何となくあらすじは朧気に…。」


「そのオズの魔法使いの本を気に入らない人物がいてね、ビリビリに引きちぎってしまったんだよ。

 だから今この世界は物語が進まなくなってしまっているんだ。

 俺と君は物語を正しく進める為にこの世界に来たんだよ。」


より詳しく説明して貰うとこういう事だった。


この世界には大図書館なる場所があり、そこにはこの世に誕生した全ての童話や小説が保管されているらしい。


だがそこに置いてあるオズの魔法使いの本を気に入らなかった人物がとち狂いでもしたのか切り刻んでしまい、物語はバラバラに。


そのせいで現実世界では今オズの魔法使いという物語は存在しなくなっており、オズの魔法使いの物語の中では物語が進まないという事態に陥っているという。


「でも何故私達が物語を進める事になったの?」


「命令だからだよ。」


「命令?」


「そっ。

 ライブラリアンが激怒しちゃってね。

 俺と君で何とかしてこの物語を直して来いってさ。」


「ライブラリアン?」


「図書館員の事だよ。

 君の記憶が無くなるのは予想外だったけど物語に飛ばされた影響かな。」


少女は眉間に皺を寄せたまま唸る。


ここにいる理由は何となく理解はしたが何故自分がそんな面倒な事をしなければならないのかやはり納得がいかない。


そんな少女を見て黒水晶の様な髪を揺らしながら少年は笑った。


「…納得いかないって顔してるね。」


「まあ、そりゃあ。」


「まっ終わらせなきゃ俺も君もここから出られないんだから諦めようよ。

 ほら、そろそろ起きて。

 …嵐が来る時間だ。」


そう不穏な言葉を告げた少年に未だ不信感は拭えなかったが、今は信じるしかないと少女は少年の差し出した手を取ったのだった。

  

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