狼牙の章 七の巻
地元TV局で流れてから数週間後の週末。
三人で迷宮に篭り間引きをし、そろそろ切り上げようかと言う所で地面が光った。
「え? これって氾濫の時のあれ?」
「なんも見えへん! 皆動いたらあかんよ?」
目が眩んだ状態で剥き出しの刃物を動かす訳にいかない。
全員が身を硬くして目を閉じる。
瞼で遮って尚視覚を照らす光に眉を顰めて手で目を覆う。
デバイスが瞬時に光量調節をしたお陰で目にダメージは出なかったとはいえ、光を抑える機能は無い。
光が収まるまでじっと動きを止めて周囲の異変に気配を配る。
一分か二分か、足を止め周囲の音に神経を集中して居る内に光は治まった。
視界が回復するまでさらに数分を要したが特に目に痛みを負う事も無かった。
「今の光て……迷宮発生した時とか氾濫の時ん光やんなぁ?」
我が声ながら警戒心全開の声で皆に確認を取る。
「せやね、あん時と同しやったと思う」
「せやったら急いで出た方がええやんなぁ?」
繚華ちゃんも萊ちゃんも緊張した声で言い募る。
「急いで出よ! 何が起こるか分からへん!」
繚華ちゃんの一声であたし達は急いで逃げる用意をする。
まさかとは思うが迷宮が崩落でもしたら目も当てられない。
迷宮の奥の方からも慌てた人の声がしているし退避するのが正解らしい。
刀や薙刀を鞘に納めてあたし達は走り出した。
迷宮を出て広場まで走り抜けた所で漸く足を止める。
「氾濫なんかな?」
そう言うと薙刀に被せた鞘を外してリュックに仕舞う。
続々と潜っていたシーカーが出てくるが特に兎が迷宮から出てくる事は無かった。
「出て来いひんね……、なんも無ければええのやけど……」
繚華ちゃんが迷宮の入り口を見ながら呟いた。
迷宮から退避した数十人のシーカー達も睨む様に入り口を見詰めている。
暫くすると数人の人影が視界に入った。
脚を怪我したのか肩を借りてヨロヨロと歩く姿にその場の空気が変わった。
ここ暫く、と言うよりも迷宮で肩を借りる程の怪我をしたシーカーが出たとは聞いていない。
体当たりしか攻撃方法が無い兎相手に怪我をする事の方が珍しい位。
それが自力で歩けない怪我をすると言う事が理解出来ない。
つまり理解出来ない事が内部で起きているらしい、それだけは分かった。
「崩落、かなあ?」
先程頭に浮かんだ懸念が口を突いて出た。
「崩落なら大っきな音するんちゃうかな?」
確かに繚華ちゃんの言う通り、迷宮から岩が崩れる様な大きな音はしていなかった。
つまり違う理由であのシーカー達は怪我をしたと言う事に成る。
あたし達は動くに動けずその場で事態を注視する事しか出来なかった。
「野犬や! 野犬出た!」
怪我人に肩を貸していたシーカーが叫んだ。
野犬が迷宮に入り込んだのだろうか?
有り得ない事では無い。
大江迷宮の内部は近隣で最も獲物が多い場所なのも確かだし、保健所が立ち入る事も無いだろう。
「なあ? この辺って野犬出るん? 聞いた事あらへんけど」
「出えへんとは言えへんけど、うちも聞いた事はあらへんなぁ」
あたしの疑問に繚華ちゃんが応え、萊ちゃんは分からないと言う様に首を振った。
「地面光って、迷宮内部で野犬が出る様に成る。そないな偶然有る訳あらへんって」
萊ちゃんの一言で現実逃避から引き戻された。
大人達がどこかに慌てて電話をしているのが聞こえてくる。
迷宮内部の事で問い合わせをしているのだろう。
「どないする? このまま暫く様子見しとく?」
繚華ちゃんの意見を聞きたくて質問を投げかけてみる。
「これだけ大人が居るんやし、うち等が居ても居ーひんでもおんなじ。取り敢えず買い取りしてもらお」
「それもそうやなね、いこか」
繚華ちゃんの言葉に頷いて揃って買い取り所に移動して毛皮や肉を全て買い取りをして貰った。
買い取り所を出て迷宮の入り口を見るが特に変化も無い様子に安堵する。
「なんも起きへんね、良かった。帰ろか?」
発光現象から大体二時間近く経過しているけれど、迷宮入り口でも変化は無い様に見える。
何が起きているかは気に成るが、それは大人に任せて帰宅する。
多分その内に迷宮庁から発表が有るだろうし、流石に女子高生が率先して迷宮調査をするのは流石に違うし。
「そうやなあ、今日はこのまま帰って迷宮庁のHPチェックしとこ」
バスの一番後ろに座ってゆっくり流れて行く景色を眺めつつ山を下っていると自衛隊の車両をすれ違い続けた。
「もう来たんや、案外早いんやなあ」
モスグリーンの車両が立て続けに迷宮に向かって行くのを見て珪子ちゃんが意外そうに呟く。
「早いのもそうやけど、えらい数やんなあ」
バスとすれ違う自衛隊の車両は五台や十台では収まらない数に上った。
こういう時何と言うのだろう? 即応性? だったかな。
いくら自衛隊駐屯地が遠くないとは言え、それだけの人数を送り込める事に驚いた。
「なんや早過ぎると思わん? 野犬が迷宮に紛れ込んだにしては大袈裟やし……」
繚華ちゃんの言葉に、確かにと同意する。
「大袈裟やね、ほんに」
もしかしたら実は大事なのでは無いかとも思ったけど、今直ぐ全部が分かる訳でも無いし。




