六の巻
あの収録から三週間、結局あたし達の姿はTVで放送された。
恥ずかしい事に、迷宮に行く所の後ろ姿をばっちり使われた。
しかも男前な編集をされて悶絶する程恥ずかしい物に成っていた。
放送日の翌日に学校で話題に成ったのは当然の事だと思う。
クラスメートに囲まれて、散々からかわれた。
あたしも萊ちゃんも、多分繚華ちゃんも向こうで頭を抱えていると思う。
周囲から色々とTV局の事を聞かれて見た事を答えていると離れた所に座る孤立気味のクラスメートグループが調子に乗るな的な言葉を吐き捨てたのが聞こえた。
別段調子に乗っているつもりも無いし、あたしより可愛い萊ちゃんが居て調子に乗るなんて無理な話だ。
萊ちゃんが自身の容姿を誇る性格をしていないし程度の低い僻みだと取り合わない事にする。
萊ちゃんに嫌がらせをするならその時はその時で対処すれば良い。
基本的に親しい人間以外には口ベタで寡黙な萊ちゃんは誤解され易いし、こう言う対応が苦手で困惑顔であたしに助けを求めてくる。
「シーカーで若い女の子は少ないし、女の子だけのチームなんてほとんど居ーひんって聞くし、面白がられてもうただけなんやけどなぁ」
単純に絵的に面白そうだから、それ以上の意味は無いと思う。
それは取材に来たTV局の人達の態度でよくよく分かった。
どの顔も面白い事言え、恥を美味しいと思え、そんな顔をしていたから。
だから自分の気に入らない事を口走ったあたしの言葉を平気で遮れるのだと思う。
態々遮らなくても編集で切り飛ばせるんだもん。
そんな大人に対する呆れと軽蔑が入り混じった感想を抱いている所に鼻背デバイスにメールが立て続けに届いた。
SNSのDMで、内容はどれもこれもが繚華ちゃんか萊ちゃんを紹介して欲しいと言う物だった。
取り敢えず全員ブロックをしておく。
馬鹿は大人だけじゃ無かった事に心底から落胆してしまう。
授業と授業の合間に、そんなメール処理をして結局その日は過ごした。
暫くは馬鹿な一部の男子と一部の女子の嫉みの対処をしなければいけないのが憂鬱だった。
繚華ちゃんも萊ちゃんもそう言うヒエラルキーは嫌いな性質だからすり寄ってくるクラスメートを突き放してるけど。
気の合わない人間と群れる気にもならないし、このまま無視を決め込む事にする。
「赫里ちゃん、どうかした? 機嫌悪い?」
「別になんもあらへんよ? あ、萊ちゃん暫く一人で動かへん方がええかも」
「なんで?」
「繚華ちゃんか萊ちゃんを紹介して欲しい言う男湧いとって」
萊ちゃんがあたしの顔を覗きこむ様にして聞いてくるから端的に応える。
あたしの言葉に萊ちゃんは顔を顰めた。
「また邪魔くさい事に成るんかな?」
「成るやろうね、せやけどあたし守るさかいね」
そう男前発言をして下手くそなウィンクを送る。
萊ちゃんも小さくそして可愛く笑って頷いた。
あたしも釣られて笑ったけど、少し頬が熱い。
皆、「可愛いって得」と言うけれど、萊ちゃんも萊ちゃんのお母さんもそれで苦労してるのを知っている。
変な男がウロウロするだけで、決して良い事は無いと言っていたし。
それでもあたしは萊ちゃんの時折見せる笑顔が大好きだ。
綺麗な顔立ちがいきなり可愛く成るのは反則だと思う。
「いつもかんにんな? 迷惑やんなぁ?」
笑顔の直後に申し訳無さそうに上目遣いをする萊ちゃん。
あざとくも見えるし、天然にも見える。
もう流石としか言い様が無い。
そんな表情の萊ちゃんに逆らえる人居ないよ、と思いながら苦笑する。
そんな可愛さに腹が立って艶々のショートカットを右手で掻き回してあげた。
「何でぇ? 髪型崩れるさかい止めてぇ~」
そう言ってあたしの手から笑いながら逃げた。
結局、あたしは萊ちゃんと繚華ちゃんが居ればそれで良いのだと実感した。
周囲の雑音を聞き流して、ただ守りたい物を意識しようと思った。
授業を終えて繚華ちゃんと合流する。
「赫里ちゃん、そっちはどうやった? こっちは囲まれて大変やったよ」
繚華ちゃんが疲れた事を全身で表現する様にしな垂れかかってくる。
萊ちゃんの寄せ付けないオーラとあたしの塩対応で囲まれる事は無かったけれど、繚華ちゃんはそこまで当たりの強い方でも無い。
むしろ和風美人の繚華ちゃんが囲まれるのは仕方が無いかも。
「一々付き合うさかい疲れるんやで? 適度に突き離さな」
「赫里ちゃんみたいには出来ひんよ。巧い突っぱね方分からへんもん」
萊ちゃんの弱々しい声に己の言動を思い起こしてみる。
「嫌な物は嫌、て言えばええんよ? その時に笑顔で嫌、て言えば感性鈍ない人なら引き下がるし」
コツとしては、拒否してる時の笑顔のテンションを変えない事位。
真顔や怒った顔だと角が立って後々面倒になる。
あたしの認識として「クラスメートはクラスメート、友達未満」と言う物が有る。
勿論中には「クラスメートで友達」も居るけど、クラスが一緒に成ったから仲良くしなければとは思わない。
前に無理やり合コンに萊ちゃんと連れていかれた時に、萊ちゃんを餌にセッティングした挙句、裏で萊ちゃんを邪魔者扱いした女子とトラブルに成って以来そう言う輩には塩対応で応える事にしている。
勿論あたしのクラスと繚華ちゃん達のクラスには根回しをしておいた。
件の女子達は気まずげにクラスに居る。
まあ、この一件であたし達の立ち位置はハッキリしている。
それにあたし達は武器に、刃物に慣れ過ぎている雰囲気が周囲から浮く要因に成ってる気もする。
一度だけ迷宮内でも間引き活動を動画として投稿している。
流石に兎の惨殺シーンはモザイク加工したけれど、それでも同世代が引く映像だったと思う。
予防線として良い働きをしてくれているけれど、見ていない人間が時折寄ってくるのが煩わしい。
萊ちゃんの周りを飛ぶ蠅の様な輩は心底煩わしい。
そんな事を考えながら一日を終えて帰宅する。




