五の巻
朝、目を覚ますと日課に成った薙刀の朝稽古を庭で行う。
部活をやっていない為に腕が鈍らない様に気まぐれで始めた事が習慣に成っただけなのだけれど。
一通りの形と素振りを熟してからシャワーを浴びて汗を流す。
基礎化粧品を使ってお肌の手入れを終えて、取り敢えず私服に着替える。
土曜日に制服を着てTV局を待つ事のおかしさに耐えられなかっただけだけれど。
居間でTVを見ながら時間を潰しているが落ち着かない。
緊張……、してるみたい。
面倒に成って逃げ出したくなるけど、そう言う訳にもいかないのも分かってる。
そうこうして居る内にインターホンが鳴って心臓が跳ねた。
「赫里ちゃーん、来たよー」
繚華ちゃんの声が玄関の外から聞こえて慌てて迎えに出る。
「はーい!」
玄関を開けると二人が制服で勢揃いしていた。
「おはよう、チャイムで心臓止まるか思たわ」
そう苦笑すると二人も苦笑して頷いた。
どうやら二人とも緊張しながらここまで来たらしい。
自室に招き入れて私も制服に着替える。
皆思い思いにあたしの本棚から漫画を抜いて気分転換をする為にページを開く。
全員が気もそぞろで、現実逃避している感じだった。
「赫里ー! そろそろ準備せんと!」
お母さんの廊下から声に全員で飛び上がって変なポーズで固まってしまった。
お互いにその変な格好がおかしく成ってしまい笑い合って何となく雰囲気も変わった気がする。
肩の力が抜けた気がして立ち上がって皆に声を掛けて居間に移動する。
移動中にインターホンが鳴り緊張しながら出るとTV局のスタッフがゾロゾロと家の前に居た。
想像よりも大人数で面食らっていると挨拶をされ名刺を渡される。
渡された名刺に目を落とすとチーフディレクターと有る。
良く分からないが偉い人らしい。
夜八時の番組の一コーナーでシーカーをやっている若者を特集するらしい。
コーナーの展開を説明されて流れを把握した所で繚華ちゃんが質問をした。
「それでうち等は何をしはったら良いでしょか?」
「あー、君達がシーカーとしてどんな活動をしてるのかを撮らせて貰いたいんですよ」
その言葉にあたし達は顔を見合わせて困惑する。
だって迷宮内の活動をTVで流せるとは思えなかったから。
「えっと、それってうちらが迷宮内部で刀・薙刀で兎の群れを斬り殺してるんをお茶の間に流したい言う事?」
思わず実も蓋も無い言い方に成ってしまったけれど、萊ちゃんの言う通りだ。
「えっと、じゃあ、換金してる所とか。それなら血生臭い所は」
「女子高生が毛皮を売って現金を確認してるんを? 何言われるか分からへんく成るん違う?」
そんな話をして結局家の庭でインタビューに答えるだけと言う事に成った。
まあ、庭の向こうには畑が広がっていて氾濫の惨状も一緒に語ってあげた訳だけれど。
途中、何故シーカーを始めたのか、続けているのかと問われた。
「家は農家です、育てた野菜やお米を毎年食い荒らされたら堪りませんから。第一、野菜や米が氾濫が起こる度に値上がりしたら皆困るでしょ? なのにシーカーが増えな」
農業系シーカーの苦境を話そうとしたら途中で遮られてしまった。
スッと血が下がる感覚と共に冷静と言うより冷淡な気分に成った。
萊ちゃんも繚華ちゃんももう真顔になっている。
どうせ切り貼りされてお茶の間の娯楽として消費されるだけだと分かって切り上げたくて仕方が無くなった。
スケッチブックで若いスタッフが笑え、笑顔とアピールしているが正直もう良いかと思う。
「さて、そろそろ全国のお母さん達の為に、値上がり防止に迷宮に行きます」
拗ねたと言われればその通りだし、子供っぽいと言われたら返す言葉も無いけど、娯楽屋に真面目に付き合うのもここまでで良い筈。
「皆、道着に着替えよ」
そう言って大人達を残してあたしの部屋に篭って新しい道着に着替えて戻ってくる。
腕組みをして不満そうな顔をしたチーフディレクターがあたしを睨んでいたけれど無視した。
道着袴姿で刀や薙刀を持って真剣な表情をしたあたし達に文句は誰も言わなかった。
言えなかったのが本当の所だとは思うけれど。
「「大和撫子御前隊、お気張りやす!」」
お祖母ちゃんとお母さんが声を揃えて、お祖父ちゃんとお父さんが横断幕を広げて笑い掛けてくる。
「あい」
そう短く繚華ちゃんが返事を返して私達はインタビューを受けていた庭を玄関に回ってバス停まで歩いて行った。
途中で刀袋や薙刀袋に得物を慌てて仕舞ったのはご愛嬌だろう。
バスが来るまでの数分の間に笑い合った。
「赫里ちゃんいきなり真顔に成るんだもん」
繚華ちゃんがあたしを弄るからあたしは茶化して返した。
「繚華ちゃんなんか真顔通り越して怖なってたよ?」
「え? 嘘? 怖い顔とかTVで流れたら嫌やわあ」
「もう遅いて、うちらまだ子供やけど、大人の失礼を許してあげるんは違うもんなあ」
萊ちゃんが憤慨を隠さずに切り捨てる。
「せやね、なんやのあのおっちゃん、ほんに失礼やったわ」
珍しく萊ちゃんも怒っているのも面白い。
「娯楽屋にこれ以上付き合うんも時間の無駄やし、半日やけど気張ってこ?」
今やるべき事をやろうとしている人間の足を引っ張る、そんな大人の都合や馬鹿馬鹿しさに呆れて寧ろ発奮したと思う。
バスに乗り込んで迷宮に向かい徹底的に兎の間引きをして良い時間に成った所で切り上げる。
三人揃って憤慨してリュックを置いて来てしまった為、皆して毛皮を山盛り抱えて買い取り所に行った。
買い取り所でタッパーと袋を借りていたので肉を無駄にしないで済んで良かったと思う。
家に帰るとお父さんとお母さんに怒られたけれどお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが取りなしてくれてお説教は五分位で済んだ。
「赫里も皆も、ごめんなぁ、祖父ちゃん達もTV言うて浮かれてたわ」
「浮かれてたんはあたし等も同しやから」
「さあさあ、御馳走作ってあるから、皆も食べてって」
お祖母ちゃんが手を叩いて夕食を告げる。
二人はデバイスを操作して家に電話をして夕食を食べてから帰る旨連絡をしている。
全員許可を取ったらしくあたしに向けて合図を送ってくる。
一つ頷いて揃って居間に移動すると食卓が素晴らしく豪勢だった。
「どうしたん? 気張り過ぎちゃうのん?」
そう尋ねるとお母さんとお祖母ちゃんが苦笑する。
「私等もね、あんた達を馬鹿にされた気がして怒っててん、気張って帰って来たら美味しいもん食べさせたらな思うてな」
どうやら皆して激怒していたらしい。
そして迷宮で気張ってるあたし達を労う為の料理らしかった。
自家製の野菜をふんだんに使った様々な料理にあたし達は舌鼓を打ちながら堪能した。
「でも今日の収録、使われるんかなぁ?」
食後のお茶を飲みながら思った事を口にする。
「どうなんやろね?直接悪態吐いた訳やないしなぁ……」
「流石に赫里ちゃんが顔色変えた所は使われへんと思うけどな」
萊ちゃんが首を傾げながら肯定的な意見を言うと繚華ちゃんが混ぜっ返しに掛かる。
混ぜっ返されるネタにされて眉を曲げると珪子ちゃんも参戦した。
「萊ちゃんと繚華ちゃんが居るから使わない言う事はあらへんと思うなぁ」
「せやね、二人とも可愛いもんなぁ」
あたしも乗っかって二人をからかいに掛かる。
「ウチも顔色変えたらしいし、どうなんやろね? ね? 萊ちゃん」
そう言って繚華ちゃんは萊ちゃんを避雷針に使うつもりでこちら側に乗っかった。
「皆してそうやってからかう……、私だって怒ってたやんか、なあ?」
「萊ちゃん私等だけの時以外表情変えへんから、ずっと可愛い顔してたで?」
萊ちゃんが同意を求めてくるが褒めつつ切り捨てる。
「そう言えば先週な? 萊ちゃん一年生にナンパされてん」
「ちょっと! 赫里ちゃん!」
いつも周りの目を気にしている萊ちゃんの近況を皆に暴露してみると萊ちゃんが慌てて声を上げる。
「何で知ってるん? って言うか何で言うんよ!?」
「たまたま見かけただけやけど、言ったらあかんかった?」
萊ちゃんの狼狽が面白くて悪い笑顔に成ってしまう。
「あかんよ! 恥ずかしいやんか!」
慌ててオロオロする萊ちゃんを生温い目で見ながら少しホッとしてしまう。
この娘が周囲の目を気にして気を張ってるのは知ってたから。
両親の離婚でお母さんの実家に身を寄せて、ご近所さんからチクチク言われてるのはあたし達にも分かったから。
この土地に溶け込む為に農家じゃないのに必死に成ってシーカー活動して、この土地の役に立ってるアピールをしてお母さんと自分の居場所を確保しようとしてる。
生真面目で優しい娘だけど、いつも緊張してるからこうしてからかって空気抜きをしてる。
萊ちゃん本人には良い迷惑だと思うけど、友達がパンクするより性質の悪い冗談を言う友達で居ようと思ってる。
大好きな親友だし、と少し照れ臭いけど思ってる訳。
多分繚華ちゃんも同じ様に感じてるのは伝わって来るし。
そう思うと違う意味で笑みが深く成る気がする。




