四の巻
朝、登校して校門手前で萊ちゃん繚華ちゃんの後ろ姿が見えたので合流する。
「おはようさん、萊ちゃん繚華ちゃん」
「「おはようさん、赫里ちゃん」」
校門寸前からでも合流すると一緒に登校した気分に成るのが小さく嬉しい。
でも、あたしと萊ちゃんが同じクラス、繚華ちゃんだけ別のクラス割になって少し寂しかった。
特にクラスが息苦しい訳じゃないけど、部活をやっていないと浮くのは仕方が無い。
いや、若干じゃ無く本格的に浮いたのは受験勉強でイライラしていたクラスメートがイジメ染みた事を始めて萊ちゃんが割って入ったのが切っ掛けかな。
性格的に生真面目で、イジメと言うか閉鎖的な空気に悩まされてきた萊ちゃんが見過ごせる訳も無いし。
あたしも一緒に成ってイジメが本格化する前に潰せたのは良かったと思う。
その後で萊ちゃんが泣きながらあたしを巻き込んだって泣いて謝られた方が困ったかな?
萊ちゃんの家庭の事情も何となくは聞いていたから当然の流れだと思ったしね。
それから萊ちゃんとは前よりもずっと仲良く成った気がする。
逆にあれ以来クラスメートからは微妙に距離を置かれてしまったけど。
あたしや萊ちゃんを気に入らないけど、直接何かを言ってくる娘も居ない。
日常的に本身の薙刀や日本刀を振り回してる娘に絡む勇気は無いと思う。
だからこそ逆に夏のプールの授業で二人揃ってアスリート的なくびれで嫉妬を買って陰で色々言われてたりもする。
その都度あたしが睨みを利かせてたりもしたけど。
ショートカットが似合う美少女でスタイルも良いから萊ちゃんに嫌味嫉みが集中してた。
そんな事を思い出したが今は関係ないので、頭を切り替えて昨日の話を皆にしておく。
「そうそう、昨日お祖父ちゃんから預かったんやけど皆の新しい道着と袴が家にあんねんなぁ」
「新しい道着?」
「赫里ちゃんのお祖父ちゃんが何で?」
「またいきなりやんなぁ?」
萊ちゃん繚華ちゃんは不思議そうに聞き返してくる。
「ええんやってさ、後援会からなんやって」
当然の疑問に答えられる範囲で答えていく。
「後援会って何する会なんやろ?」
繚華ちゃんが首を傾げて疑問を口にする。
「あたしも分からんくて聞いたんやけんどなぁ、装備費用を援助とかやない?」
「それならちょっとありがたいかも、研ぎ代って結構するもんねぇ」
萊ちゃんが少し困惑半分嬉しい半分と言う風に笑う。
「うん、そんでなぁ? 今日の放課後皆を連れてきぃ、言われてるんよ」
「赫里ちゃん家に? なんで?」
繚華ちゃんの疑問はあたしも感じているけれど、多分そうだとうと思う事を返答しておく。
「わかんないけど後援会の説明してくれるんと違う?」
「説明して貰わんと全然訳分からんもんなぁ」
苦笑を浮かべて繚華ちゃんが話を纏める。
話ながら歩いて行って気が付いたら繚華ちゃんのクラスの前まで来ていた。
手を振って萊ちゃんと自分のクラスに向かう。
「でも研ぎ代上がったの何でなんやろ?」
「何でなんやろね?」
そう言って鼻背デバイスで検索してみるとどこかのシーカーが武器の硬度と靱性?の変化と言うタイトルで書き込みをしている物を見付けた。
「それらしいの見つけたわ」
そう言って萊ちゃんのデバイスにHPのアドレスを転送する。
その書き込みを一読した萊ちゃんが納得した様に呟いた。
「武器の損耗が減る反面、砥石の損耗が増えたっちゅう訳なんやね」
世の中うまい話ばかりじゃないと言うか、世の中うまく出来ていると言う事かも知れないけど。
「ねえ、砥石を育てるとシーカー武器用砥石に成るんかな?」
刀より薙刀の方が勢い余って刃を傷め易いから少し気に成ってしまった。
「そうかも知れへんねぇ、一番減りが激しいと困る砥石を聞いておこか?」
「せやねぇ、後で電話してみるわ」
もし砥石を持ち込んで消耗しにくい良い砥石が作れたらあたし等にはありがたい話かも知れないし。
あれこれ萊ちゃんと話してから自分の席に着いて今日の授業が始まる。
退屈と言う事も無いけれど、授業の持って行き方が面白い先生とそうでも無い先生が居る。
今日の授業は外れだったけれど。
授業が終わり放課後、あたし達は揃ってあたしの家に向かった。
途中で生徒指導の先生の目を盗んで大判焼きを買い食いして家に到着する。
玄関を上がって皆を暖房の効いた居間に案内して、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの部屋に行く。
「お祖父ちゃんただいま、皆を連れてきたよ」
「おお、おかえり赫里。今行くよ」
お祖父ちゃんに声を掛けると何か風呂敷を持って付いて来る様だ。
首を傾げたが特に説明されないので居間で一緒に説明してくれるつもりなのだろう。
居間に着くとお祖父ちゃんに「お客さんにお茶も出さんと、仕方のない子やなぁ」と呆れられてしまった。
急いで人数分のお茶を用意しに台所に向かう。
お祖父ちゃんと皆は挨拶やら学校の近況報告をしている。
あたしは保温ケトルから急須にお湯を注いでお茶を淹れて、人数分のお茶を淹れてお盆で座卓に持って行く。
「お茶も出さんとごめんなぁ? 熱いから気い付けてな?」
そう言いながらそれぞれの前に湯呑みを置いていく。
息を吹きかけてお茶を冷ましながらあたし達はお祖父ちゃんが口を開くのを待った。
「まず皆を急に呼び出して申し訳ないなぁ、後援会の話もそうやけどまずお礼を言わせて欲しい。儂等大人がキチンとしかんとあかんかったのになぁ。若いもんに押し付けてもうた。ほんにかんにんな」
そう言ってお祖父ちゃんはあたし達に深く頭を下げた。
突然の事で驚いて言葉も出ないで居ると繚華ちゃんが声を上げる。
「赫里ちゃんのお祖父ちゃん、顔をあげて下さい。迷宮が出来たんも、迷宮から兎が溢れたんもお祖父ちゃん達が悪い訳では無いです。私達は私達の意志で間引きしてるだけです」
繚華ちゃんの言う通りで、あたし達は誰からも頼まれも強要もされていない。
義憤と自衛の為にやってるだけ。
それを誰かに謝られても困るし、筋が違うと思う。
「せやな、でもな? お前さん達が気張ってるんだから儂等も気張ろうとか、お前も男だろう気張れや言うてな? 周辺の農家衆を煽ってるんは本当なんよ」
「でも、そないな事やって当たり前ちゃうん? 誰かが気張れば誰かがプライドん為に気張るし、プライドが高こうて拗ねるん人も居て当然やない?」
「せやな、だからな? お前さん達を大々的に応援するんが筋やって結論に成ってな?」
そう言うとお祖父ちゃんは傍らに置いていた風呂敷を解いて一枚の布を広げて見せた。
大和撫子御前隊と筆文字で書かれた横断幕だった。
真っ白い生地にでかでかと書かれた文字に唖然とする。
えっと、これは、あたし等の事やんなぁ? 多分。
なんと言葉にしたら良いのか分からず皆の顔を見たら皆も口を開けて驚いていた。
意を決してお祖父ちゃんを問いただす事にする。
「お祖父ちゃん、この大和撫子御前隊? ってあたし達の事やんなぁ?」
「そうじゃ、良い名じゃろう? お前さん達にぴったりじゃとTV局の人も言っとったなあ」
遅かった、既にTV局側にも漏れているらしい。
思わず両手を畳に着けてしまう。
失意体前屈を自分がするとは思わなかった。
皆ごめんなぁ、と言おうと横を見ると全員が同じ状態に成っている。
あぁ、これはあたし達全員の黒歴史に今成ったのだと悟る。
あたし達の反応に気が付いていないのかお祖父ちゃんは自慢げに話し続けていた。
「乙女御前隊っちゅう案も有ったんやけど、字面も考えてこっちにしたんや」
と嬉しそうに、満面の笑顔で語っている。
全てが手遅れなんだと思い知らされた。
調子に乗った年寄ほど手強い者は世の中そうは居ないのだから。
暫く呆れるやら困惑するやらで思考停止していたがそれにも飽きたのかもう開き直る事にした。
「えっと、今日からあたし達は大和撫子御前隊らしいんやけど、どないしたらええと思う?」
「自分で大和撫子言うてるみたいで恥ずかしいなぁ……」
繚華ちゃんが多分全員が思っている事を端的に言葉にした。
「まあ、諦めるしか無いんやない? どんなチーム名を付けてもダソう成るもんやと思うし」
「大江薙刀隊とか付けても刀使う私が居たら突っ込まれると思うしなぁ」
繚華ちゃんと萊ちゃんもそれぞれ思う点を上げて諦める理由を作っていく。
確かに自分達で名前を付けても絶対に黒歴史に成る、そんな確信は有る。
読んでいる漫画に毒されている自覚は有るから。
とは言え大和撫子も御前もあたし達らしいかと言われると首を高速移動させたくなるけど。
取り敢えず明日の土曜日に取材を乗り切る事を皆で考える。
「取材ってうち等何を聞かれるんやろね?」
繚華ちゃんが疑問点を口にするが誰も答えられる者は居ない。
「そもそもなんでシーカーを取材したいんやろか?」
萊ちゃんが誰にともなく聞く。
こちらも誰も答えられない。
「そら赫里ちゃんの毛皮山を面白がってやないの?」
うん、繚華ちゃんが忘れかけていたあたしの痛いポカを指摘してくる。
まさかあそこまで皆に面白がられて拡散するとは思わなかった。
「で、あの毛皮はもう売りに行かはったん?」
萊ちゃんの問いに力無く答える。
「まだ、多過ぎて持って行けてへんの」
次からリュックに入る分だけでも持って行こうとは思ってはいるけど。
「でも、取材って言うけど迷宮の中も取材するん?」
「え? 流石にそれは無理やろ、兎を斬ってる所なんてTVに出せへんて」
「せやね、だったら何するんやろね?」
「んー、考えても分からへんもんは分からへんし、聞かれた事に答えるだけでええやん?」
私の疑問に皆が同時に首を振り、繚華ちゃんが実も蓋も無い言い切り、萊ちゃんが一刀両断とばかりに切り捨てた。
結局、TVの裏側なんて知らないあたし達には出せない種類の答えだと結論を出した所で萊ちゃんがそろそろ帰ると時計を見ながら呟いた。
時計を見るともう十七時近くに成っていた。
あたしは慌てて自室に戻って新しい道着を持ってくる。
「これ、持って帰る?それとも明日まで置いとこか?」
TV取材は直接あたしの家に来る事から、明日は我が家集合と成っている。
態々荷物を増やす必要も無い。
「せやね、預かってて。でも明日制服で来いってのがなぁ……」
繚華ちゃんの言葉に表れている通り、休日にまで制服で出歩くのもと言う意識が全員働いている様だ。
「でも、制服着てないと中学生なのか高校生なのか大学生なのか分からへんし、しゃあ無いって」
まあ、言っておいてあれだけど、私達が女子大生には見えないとは思うけれど、サムネとして制服は一番分かり易いアイテムだとは思う。
「まあ、諦めよ、取材が何時間掛かるか分からへんけど、早く終わるんなら遊びに行こ」
半日とか短時間だけしか行けないなら迷宮はすっぱり諦める。
取材のせいでバイトに行けない感覚だが、取材料と言うか出演料で補填して貰う事にする。
明日の集合時間を打ち合わせてから三人を玄関まで見送る。
TV局が来る、楽しそうと思う反面面倒事の臭いがして少し憂鬱な気分に成る。
どうせ十分程度のコーナーの為に半日使う事に成るのは目に見えているからだ。
明日は本当に何をやらされるのか不安。
面白さの為にどんな恥を掻かされるか分かった物では無い。
色々と悶々としながら夜は更け、また朝が来る。




