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五の巻き

「厦海さん……、それ……」

 刀身が半ばから折れた三鈷剣に視線が釘付けに成って、言葉が続かない。

 苦い顔をして厦海さんは柄を強く握り締めている。

 全員が沈黙する中、繚華ちゃんが声を上げた。

「出よ! この状態で長居したらあきません!」

 彼女の一喝いっかつであたし達は急いでバギーに乗り込んだ。

 この状況ではステアリングは祟目さんに預けて、あたしと繚華ちゃんは荷台に上がる。

 慣れも有るのだろう。

 祟目さんの運転は一切の迷いなく、ブレる事無く高速で迷宮内部を走り続ける。

 来た道で鬼を駆除済みだったお陰で、一度も止まる事無くあたし達は迷宮を脱出した。

 あたし達以外のシーカーが居なかった事も幸いした。

 もしそんな命知らずのシーカーが居たら撥ねていただろう。

 全国的にシーカーが沈黙しているのは、挑んだ全員が鬼を倒す決定打に欠いていたから。

 そしてあたし達だけが例外的に、効果的な武器を揃えられたと言う意味でもある。

「シーカーで動いてるん、あたし達だけなんやろか?」

 なんとなく思った事を口にすると祟目さんが前を見据えながら言葉を発した。

「その分自衛隊が奮闘しているらしいよ。今回は以前と違って実体が有るモンスターだから、銃弾が普通に効くからね」

「そうなん? せやったらなんでここには来てくれへんの?」

「陸上自衛隊にも数が限られているからだろうね。北海道から順々に南下してくるはずだよ。まあ、追い付かせるつもりも無いけどね」

 そう言って面頬から覗く口元は不敵に上がっていた。

「しかし……、私はもう戦えないぞ……」

「厦海さんらしくも無い。測定しないと分かりませんが、厦海さんの三鈷剣って鉄製ですよね? ならば迷宮に持ち込んだ僕の鋼と組み合わせて新たに鍛えれば良いんですよ。今度は概念だけじゃなく、邪を断つ刃を持った三鈷剣を」

 祟目さんの言葉からは一切の迷いは感じられなかった。

 よく考えると、厦海さんがあたし達と行動を共にする様になったのは、迷宮の沈静化も折り返した頃だった。

 つまりそれだけ武器の強化に差が有ると言う事だ。

 それを補う為の方策を即座に思い付く辺りは流石だと思う。


 迷宮の出口を潜り、陽の下にあたし達は躍り出た。

 視界が一瞬にして明るく開けた。

 その光景は困難を打ち破れるあたし達を暗示している気がしてくるから不思議だ。

 祟目さんは楽観的と言うか、少しも悲観的に成っていない。

 それに引っ張られてか、あたしも“何とか成る!”そう感じてしまう。

 我ながら単純だと苦笑する。

「さて、厦海さんは行ける範囲の刀鍛冶を調べてください。僕は一度東京に戻ってざいを回収してきます」

「申し訳ないな。しかも東京から来たばかりなのに……」

「いえ、これも何かの切っ掛けですよ。三鈷剣が強力に成ればその分楽に成る筈ですから」

「せやね。祟目さんには苦労掛けてまうけど、ペースは掴めたんやし、焦る必要が有らへんくなったんは好材料やね」

 申し訳無さそうな厦海さんを除いた全員が明るく前向きな発言を繰り返す。

「しっかし、リーダーが復帰初日にまたえらくバタバタやねえ」

 混ぜっ返す様な事を言うと全員が声を上げて笑った。

「「「「そりゃ、祟目奉だから」」」」

「人をトラブルメーカーみたいに言わないでくれるかな?」

 声を揃えたあたし達に抗議して来るが、自覚が無いと言うのは怖いね。

「違うなんて言わさへんよ? どこの世界に迷宮にバイクやらバギーやら持ち込む人が他に居ると思うん?」

「……多分僕だけじゃないと思うんだけどなぁ」

 否定したいのに強く否定出来ない、そんな声色で祟目さんはぼやく。

 その言葉にまたしてもあたし達は大きく笑った。



 あれから二週間。

 あたし達は再び大江の迷宮に挑む事に成った。

 厦海さんの三鈷剣も無事復活した。

 折れた刀身を芯金に、皮金に祟目さんの持ち込んだ鋼を用いて作刀された新たな三鈷剣はある種の威容を醸し出していた。

 切っ先が菱形でトップヘビー型と言うのか、叩き切るのに適した形状で作り直された。

 装飾の類は柄のしょ部分のみで、むしろ畏敬の念すら湧いてくる。

「でも、この集団はなんの集まりなんやろうね?」

 自分もその一員だと認識はしているが、言わずには居れない。

 五人中三人が紅白の大鎧を、一人は現代アレンジされた当世具足を、一人は修験者の装束を身に纏い、それぞれが武器を携えている。

「平時ならコスプレって奴か、良くて仮装行列だな」

 羽生さんはそう笑って面頬を装着する。

 あたし達も各々面頬を装着してから兜を被る。

「まあ、フランスだとジャンヌ・ダルク二世とジャンヌ隊は全員お揃いの金属鎧で迷宮に挑んでるけどね」

 兜を被りながら祟目さんも話に乗ってくる。

「そのジャンヌ・ダルク二世からジャンヌ隊まで、思い切り誘導したん祟目さんやって、あやさんから聞いてるんやけど?」

 このカーボン大鎧のデザイナーで、年上の腐女子友達、祟目さんの友人でも有る木村綵――旧姓本田綵から当時の話は聞いていた。

「仕方が無い。フランスは迷宮の数も多いし、シーカーが少なかったし、首都のど真ん中に迷宮が有ったのに手をこまねいていたから。インパクトが強く、反発しにくい旗印が必要だったんだよ」

 確かに、以前動画で見たジャンヌ隊が歓声を浴びる姿は映画か何かと思う位熱狂的で現実味が無かった。

 人工英雄と言ってしまうと人聞きは悪いけど、演出やお膳立てが必要だったのだと思う。

 まあ、その中に日本の甲冑姿が一人混じってるのはシュールだったけれど。

 思い出すとおかしくて今でも笑ってしまう。

「そう言えば、ジャンヌさんに「ジャンヌダルクを名乗れ」言うたんやって?」

「あ~、うん、言ったね」

「で、実はジャンヌさんの本名がジャンヌやった、と」

 何の因果か、それとも運命だったのか。

 そう感じてしまう。

 きっと世界中で色々なドラマが有るのだろう。

「それしか無いと思ってたけど、誰かの名前を奪うって苦かったよ。後々、実はって聞かされた時には腰砕けに成ったよ」

 そう自嘲気味に笑う祟目さんを見て思う。

 生真面目な人だから、ずっと気にしていたんだろうな、と。

 狼にも幽体にも鬼にも、スケルトンにも狼男にも果敢に飛び込む精神性を持っている割に、気が小さいのが笑いを誘う。

「動画で見たけど、ジャンヌ隊の行進格好良かったし、あたし達も負けてられへんね」

 繚華ちゃんが締め括る様に明るく言い放つ。

「よし、厦海さんの新しい三鈷剣の実戦投入だから、二人はそのフォローを。僕と羽生は周囲の警戒をまずやろう。無理無茶無謀は厳禁で。余裕を持って迷宮を踏み潰す、これを方針として頑張ろう」

 リーダーの号令であたし達はバギーに乗り込んだ。

 運転はあたしと祟目さんが交互に行う事に成っている。

 ステアリングを握り、全員の準備が出来たのを確認してスタートさせる。

 あたし達が乗り込んだバギーはゆっくりと闇深い迷宮でと突入した。


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