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三の巻

 居間に行くと家族が皆揃っていた。

 人数が多い為に座卓を2つ並べて、その上に料理が並んでる。

 急かされてあたしも空いた一角に着く。

 家長の祖父が号令を掛けて夕食が開始される。

「赫里、いつもすまんなぁ」

 祖父が兎肉の炊いたんを頬張りながらあたしに頭を下げる。

「気にせんでええんよ、間引きしないと困るんはあたし達なんやしなぁ」

 気にしないで良いと祖父に手を振ると父さんが口を開く。

「父さんも間引きはしてるんやし、赫里がそないきばらんでもええんよ?」

 お父さんも周囲の農家の人達と一緒に畑仕事の合間に間引き作業をしてる。

「高校に通い始めたらあんまり手伝えんくなるし、今だけはなぁ」

「赫里ちゃん、そうは言うても女の子なんやし、兎狩りに頑張るんも違うと祖母ちゃん思うんよ」

 お祖母ちゃんまで似た事を言う。

「お祖母ちゃんも、皆も、あたしはあたしが納得出来ひんからやってるだけ、危ない事も無いんやし、な?」

 そう言って兎肉の炊いたんを口に入れる。


「それに……、兎の毛皮はあたしのお小遣いになるし、な?」

 畑をやられてからこっち、いろいろ厳しくてお小遣いもストップしている事を思い出して大人四人はだんまりを決め込んだ。

 どんな時でもお金が最大の説得力だと思う。

 シーカーを初めて数か月、あたしの洋服代とか全部兎由来と成ってる。

 憎っくき敵で有ると同時に収入源。

 今日から『兎貯金』と名付けようかな? と考えてしまう位に必要な物だ。

 なのに、いざ目の当たりにすると怒りしか湧かないから困る。

 感情のコントロールを身に付けないといけない、そう自分でも思った。


 食事を終えて自室に戻って学校の教科書を並べる。

 鼻背デバイスでBGMを聞きながら勉強を開始。

 高校の教科書はまだ手元には無いので、中学一年から総浚(そうさら)いと言う勉強法になる。

 シーカーを続ける条件として学業に手を抜かない事を両親と約束させられてる。

 所々忘れている部分を憶え直して、二時間程復習をして今日の勉強を終えて固まった背筋を伸ばす。

 パリパリと関節が小気味良く鳴って背中の凝りがほぐれる。

「こう言う指針のあらへん勉強って本当に正しいんか分からへんから不安なんよなぁ」

 教科書が無いと勉強のスタート地点が分からないのが難点だ。

 一息吐いて台所に行って飲み物を物色する。


 居間ではお父さんとお母さんがTVを見ていた。

「勉強は終わったんか?」

「うん、ただの復習やけどなぁ」

 そう応えて冷蔵庫から牛乳をコップに移して一口煽る。

 居間に移動してTVに視線を移すとバラエティ番組が流れてる。

 芸能人が迷宮の話題に触れている所だった。

 スキャンダルで自粛後、話題作りに迷宮に入っている人が面白おかしく騒いでる。

「この人も馬鹿なお人やね、暮らしを脅かされてるん訳でも無いのに兎を虐殺してて人気出る訳無いのに」

「そうやな、まあ、今は氾濫被害を憶えてる人がよおけ居るからやけど、その内また消えるやろうなぁ」

「せやね、あたし等かって学校で『駆除しなきゃなんは分かるんやけど兎やん?』言われたもん」

 実害が有っても可愛い小動物を殺す事に抵抗感を覚えるのは当然だ。

 もっとも、人の姿を見付けたら突進して攻撃してくる兎を「かあいいウサギさん」なんてあたし等は思えないけど。

 体当たりされて骨を折られたりした人も事実いる。

 あまり一般的な情報でも無いからか、迷宮を危険な物とは認識されてない気がする。

 現に、一部の動物愛護団体の妨害は各迷宮で行われてる。

 被害総額は全国で数百億円を超えているのに、だ。

 あたし等シーカーにとっては田畑を襲う害獣だと言うのが共通認識。

 第一、動物だから駆除している訳では無い、死活問題な害獣だから駆除しているだけ。

 ああ言う連中は野菜不足による高騰(こうとう)をどう考えているのだろう?

 そう言えば先週、お祖父ちゃんがシーカーを妨害しようとした動物愛護団体のリーダーに被害総額の請求をするぞと逆に絡んでいたのは面白かった。

 一緒に居た他の農家の人達にも同様の事を言われて退散していたけど。

 あれ、恐喝に成らないかが心配では有るけど。


「やっぱり世間とあたし等だと認識も感覚も違うんやね……」

 生きる為には駆除しなければいけない。

 田畑を荒らされた報復の部分も当然有るけど、氾濫させる訳にいかないだけなのに。

 必要な事をしてるだけなのに、それ等を理解されずに罵声を浴びせられるのは辛い。

 一昔前までの自衛隊の人達もそうだったのかも知れないと思うと切ない物が有る。

 いや、自衛隊さん達はもっと大きい規模で頑張っているのだから一緒にするのは失礼かも知れないなどと考えて苦笑する。

 コップに残った牛乳を飲み干して立ち上がる。

「そろそろ寝るね」

「おう、おやすみ」

「おやすみ、温かくして寝るんよ?」

「はぁい、おやすみなさい」

 コップはシンクに置いておけば良いとお母さんに言われたので蛇口の水を入れて置いてく。

 自室に戻って鼻背デバイスを充電器に差してから部屋の電気を消してベッドに潜り込む。

 冷たいシーツに身体を丸めて、布団が温まるのをじっと待っている内に眠気が来てそのまま眠りに落ちて行った。



 あれから丸二年が経った。

 三人揃って同じ高校に進学した。

 週末とか休みには大抵迷宮に潜って兎狩りをしてた。

 皆のお陰でトラウマも克服出来たと思う。

 最近は兎を見ると肉とお金としか認識出来ない位に認識が変わった。

 迷宮関連でイライラする事も無く成った。

 逆に最近悩みと言うか困った事が有る。

 GW明けに地元TV局から取材の申し込みがあたし達に有った。

 迷宮でシーカーをやってる女の子の取材をしたい、らしい。

「やってしもたぁ~」

 思わず頭を抱えて机に突っ伏した。

 元々はあたしがSNSで換金し損ねた大量の兎の毛皮の写真をアップした事から始まった。

 時折、疲労が溜まって換金せずにリュックに入れたまま帰宅してしまう事が何度か有ったんだけど、それが複数回重なると数百枚の毛皮の山が出来てしまった。

 面白がって山詰みの写真とかをUPしたらフォロワーから呆れと笑い混じりに写真が拡散された。

 暫くしてTV局からメッセージが来てシーカーの取材をしたいと連絡が来た。

 皆に相談したら減る物じゃないし面白そうと言う事で受ける事に成った。

 夕食の時に家族にも話してみたら全員が面白がって、取材日が近く成る毎にソワソワしてて呆れた。

 皆揃ってミーハー家族だった。

 翌日お祖父ちゃんから大きな風呂敷に包まれた荷物を見せられた。

「お祖父ちゃん、これは?」

「おう、赫里達気張って間引きしてくれてるお陰であれからいっぺんも氾濫起こっとらん。赫里達気張るさかい周りの農家も間引きを気張るっちゅう流れが出来た」

「そう言うもんなん?」

「そう言うもんなんよ」

 そうお祖父ちゃんはカラカラと笑って風呂敷を叩いた。

「でじゃ、こら祖父ちゃんたちこの辺の農家衆からの日頃の感謝と、TVに映るのにジャージじゃ格好付かんちゅう話に成っての」

 そう言って風呂敷を解くと何組かの道着と(はかま)が綺麗に畳まれてた。

「新しい道着?」

「そうや、ほんまはもっと可愛い服をあげたいんやけど、若い娘の好む物分からへんさかいな」

「みんなん分も有るん?」

「そうや、赫里の友達の分も当然有る」

「ありがとう、お祖父ちゃん」

「なんも手助けもして来へんかったんや、当然や。それで儂等、赫里達の後援会(こうえんかい)を作るん事にしたんや」

「後援会て、大袈裟やなぁ。で後援会って何する会やの?」

 後援会言われても、地元のシーカーはあたし達だけや無いし、後援会が必要な事なんて無い気がするし。

「後援会は赫里達をフォローをする応援団や。ほして赫里達が牽引役で、赫里達が走れば周りの若いもんも走らなしょうがないからなあ」

 そう言って少しだけ人の悪い笑い方をする。

 最後に明日みんなを連れて来いと言い残してお祖父ちゃんは自分の部屋に戻って行った。

 皆で来いってなんやろう? と思いながら首を傾げる。

 お祖父ちゃんが置いていった道着袴は明日皆に渡す事にする。

 一着を広げてみて感じたのは—ジャージは楽だけれど、確かにビジュアル的に薙刀を振るうのには適してない—と言う事。

 ただ、薙刀や剣道の道着袴は着替えるのも面倒だし、洗濯が大変だから使ってなかっただけなんだけど。

 まあ、真新しい道着は気持が良いから嬉しいんだけどね?

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