四の巻き
バギーを緩やかに走らせて迷宮の奥へと向かう。
暗視装置で見える視界とMAP情報をすり合わせながら進んで行くと小部屋の目前にまで到着する。
減速をして停まる直前に祟目さんは荷台を飛び降りて前方の小部屋へと向かっていく。
あたし達も慌てて追いかけた。
小部屋に祟目さんが入るとカシャと現代具足の擦れる微かな音が聴こえた。
飛び込む様にして小部屋に入ると、祟目さんが鬼と対峙している。
身の丈180㎝程の大柄の鬼だった。
腕の長さと膂力を誇り、慎重に対処すると数分掛かるタイプだ。
鬼は鉤爪を立てて襲い掛かる前動作を取った。祟目さんも正眼に構えて力を溜めている。ゴウッと鬼が吠えて飛び掛かった。その動きに遅れる事無く、祟目さんは右脚を外側に半歩ずらして踏み込み鬼の爪を躱し、腰を斬って上段から水晶刀・太刀を振り下ろした。一切の音を立てず、刃は鬼を通過した。鈴の音の中、鬼は地面に倒れ込んだ。倒れる勢いのまま鬼の頭部が落ち、切断された左腕が転がる。
一手、一斬。
それが、祟目さんが鬼を仕留めるのに費やした動き。
先程の両断された鬼を見てその業の冴えに身震いしたが、直接見るとその凄さが良く分かる。
「奉、お前腕を上げたのは分かるんだが、それでも凄過ぎないか?」
ふう、と息を吐いて祟目さんはあたし達を向き直った。
「いや、鬼との相性だと思う。刃の入りが物凄いんだ」
謙遜も有るだろうが、その言葉には本人も納得していないと言うニュアンスが籠っていた。
「そりゃお前の水晶刀が太刀型だし、モデルは国宝なんだろ?」
「まあ、安綱のデータだから、その通りだけど……」
羽生さんの言葉に小首をかしげている。
「童子切安綱、酒呑童子の首を落とした名刀。その写しで、迷宮で鍛え抜いた水晶刀。切れ味は鬼限定で言えば最強なのでは無いかね?」
厦海さんの言葉に羽生さんは頷き、祟目さんは考え込む。
確かに、この二年も休む事無く迷宮で使い続け、強化も進んでいるだろう。
そして概念武器の特徴が前面に出た結果と言える。
「オリジナルを除いて、最適な武器やと思うんやけど」
「せやね、鬼を斬るなら安綱か鬼切丸やろうね」
本当に、偶然としても出来過ぎていると思う。
たまたま新たなモンスターが鬼で、たまたま安綱写しの水晶刀を用意していた。
こんな偶然が有るのだろうか?
そんな気分にもなる。
「まあ、天下五剣で一番惹かれたから安綱を選んだけど、偶然だよ? 多分」
「その偶然がここで活きたって事だろ。俺の数珠丸写しは正直、相性が特別良いとも思えないしな」
「いや、太刀だから効果的な筈だよ。確かに数珠丸の逸話に鬼は絡まないけどさ」
二人の会話に羨ましさすら感じる。
あたし達の水晶刀・薙刀の刀身も祟目さんから借りてる物だけど、鬼に対しては特に特効は無さそうだ。
そう考えると溜息が出る。
「どうなんだろうね? 実際の所、鬼を殺せれば何でも良い気もするし」
「私の三鈷剣も調伏の概念が乗って入るだろうが、そもそもが武器として扱う物では無い。そろそろ不安でも有るな」
厦海さんの三鈷剣は以前の幽体には効果的だったが、鬼相手だと効果がどれだけ有るかは分からない。
迷宮で大量の幽体を斬ってきた事も有り十分に強化されてはいるだろうが、それでも武器として日本で扱われた歴史は無い。
その不安は当然とも言える。
「とは言え、先ずはここを潰しましょう」
祟目さんは極々自然に言い切った。
その言い方は“迷宮は抑え込める”と確信しているのが分かる。
日本で七ヵ所、フランスでも何ヵ所も抑え込んできた実績に裏打ちされた自信、だろうか?
頼もしいと思う反面、全部一人でやると言い出さないか不安にもなる。
何でもかんでも全部一人で出来ると思われるのは不満だ。
あたし達も戦力に成っているはずだし、見劣りするつもりも無い。
次の鬼はあたし達だけでやろう。
祟目さんをこき使うつもりだったけど、前言撤回。
あたし達だって弱くないと納得させなければと思う。
その後も小部屋や通路で遭遇する鬼と交互に対峙した。
上背の有る鬼や小型の鬼、様々だ。
「ふっ!」
強く息を吐いて水晶刀・薙刀の刃を寝かせて突き出す。小型の鬼の胸元に深く食い込ませる。肋骨の隙間を通して肩甲骨まで貫くと捩じり込み、全身に力を入れて鬼の動きを抑えに掛かる。上から押え付ける様にして体重をかけた。動きを阻害された小鬼の首を繚華ちゃんの薙刀が切り落とした。
刀身に付いた鬼の血を払い落としてから手拭いで拭う。
「小鬼やったらリーチも有るからスムーズやね」
「そうやね。少しでも大きいとウチ等だけやと辛いけどなぁ」
「それでも、負けてられへんしな」
「そうやね」
あたし等は少しだけ目をギラギラさせて笑った。
祟目さんに「自分だけでも大丈夫」なんて絶対に言わさへん、そう二人で頷く。
「さあ、お二人さん。回収したら次行くぞ」
バギーに戻ると羽生さんと厦海さんが荷台に上がる。
次は自分等だ、と主張する様に。
あたしと繚華ちゃんは運転席と助手席に座った。
祟目さんは無言で後部座席に収まった。
無言なのが怖い。
迷宮を鎮静化させる事に使命感を強く抱いているこの人は出番が無いのが苦手らしい。
「祟目さんは戦うん、好き?」
「……いや、好きだと感じた事は無いよ」
「そうやったら自分一人で全部やろうとするんわ困るんよ」
オマケ扱いするな、のニュアンスを乗せて笑う。
「ごめん、色々と気負い過ぎだね」
あたし等だって特に戦闘が好きな訳じゃない。
それでも、仲間が一人でシャカリキに成って、無理して、怪我して、それでも戦闘を続ける姿を見せられては堪らない。
“そんなにあたし等が信用出来ないか?”と問いたくもなるし、“一人で何でも出来ると思うな”と言いたくもなる。
苦楽を共にした仲間だからこそ許せない事だった。
「祟目君が日本人シーカーのトップなのは事実だけど、我々もそこまで見劣りはせんよ」
厦海さんが窘める様に締めくくった所で、アクセルを踏んでいく。
スルスルと走るバギーのライトに照らされて洞窟内部の岩壁が流れていく。
暫く走らせると小部屋に差し掛かる所で大型の鬼がライトに照らし出された。
「あかん、小部屋と通路で重なってる」
間の悪いと言うのか、運が無いと言うのか、二匹の鬼と同時に対峙する事に成りそうだ。
「あたしと厦海さんと羽生さんで正面の鬼を、繚華ちゃんは祟目さんと小部屋をお願いっ!」
言葉を投げ捨てる様にしてあたし等は鬼の前に駆けだした。
別の方向に地面を蹴る音が聞こえたのだけ確認して目の前の鬼を見据える。
正面をあたしが、右を厦海さん、左を羽生さんで受け持ち、まず先手の牽制を掛ける。
鬼の目の前を薙刀のリーチを活かして薙いで突進の勢いを殺してCのアーチを描いて脛を斬り付ける。これで鬼の突進は完全に殺せた。すかさず羽生さん厦海さんが鬼の両腕を削りに掛かる。二人の剣戟の合間に薙刀の突きを放って鬼の動きを阻害し続ける。二人の剣を振り払おうとしたら顔を突き、前に出ようとすると左右から斬り込む。鬼を波状攻撃の形に落とし込んで完全に封殺する。
グワッ、強い掛け声の様な雄叫びの様な声を発して鬼が握り込んだ拳を厦海さんに向けて放った。
キシッ――咄嗟に三鈷剣の腹で拳を受けて難を逃れたが、刀身から小さくそして耳に残る嫌な音がした。
厦海さんは慌てて飛び退いてその穴埋めに連続の突きを放つ。羽生さんの構えが視界に入りタイミングを合わせて一歩下がると音も無く刀身が駆けた。
ピタリと動きを止めた鬼から頭部がゴロリと落ちた。
深く息を吐いて力を抜く。
戦闘が終わった事を確信した所で思い出したかの様に厦海さんを振り返る。
そこには刀身と柄が分離した三鈷剣に視線を落とした姿が目に映った。




