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三の巻き

 あたしは見た。

 バギーのヘッドライトに照らされて振り向いた鬼の姿を。

 鬼はバンパーと接触し、跳ね飛ばされ、そしてタイヤに踏み潰された。

 バギーは静かに減速して停まった。

「撥ねた! 今この人鬼を撥ねよった!」

 鬼を躊躇いも無く撥ねた張本人は無言でドアを開けて降り、バギーの後方へと歩いて行った。

 何をする気だろうと慌ててシートベルトを外すとグシュッと嫌な音がする。

 あたしも降りて現場に行くと、祟目さんが鬼の頸椎を水晶刀・太刀で刺し貫いて息の根を止めた所だった。

 その躊躇いの無さに腰が引ける。

「何と言うのか、祟目君は恐怖と言う物が無いのだろうか……」

 厦海さんも顔を引き攣らせている。

「身も蓋も無いって言うか、何だろうなぁ……」

 男性陣二人もドン引きしている。

 良かった、あたしだけじゃないらしい、そう思うと少し救われた気がする。

「まあ、こんなだよな」

 祟目さんはそう呟いて生じた金塊を拾って戻ってくる。

 バタンとドアを閉めると早く乗る様に促される。

「繚華ちゃん、なんか……」

「せやね……、なんか……」

「「相変わらずどころか、酷くなってるし……」」

 祟目奉、あたし達のリーダーは迷宮と言うか、モンスターに容赦が無かった。

 元々迷宮を害悪だと断じて、毅然と立ち向かっていたけれど、今は遠慮も躊躇い、そして容赦も無い気がする。

 この二年間、彼はどんな日々を過ごしていたのだろう?

 何が彼をここまでさせるのだろう?

 そう思うと少しだけ切なくなる。

 こんなに振り切れた人じゃ無かった。

 それがこの時のあたし達の共通認識だったと思う。


「繚華ちゃん、これってあたしが知ってる迷宮じゃない気がするんやけど」

「せやね……」

 あれから十分おき位に鬼と遭遇して、いや鬼を撥ねて、を繰り返した。

 十回を超えるとあたし達も悪い意味で慣れてきた。

 慣れて来て、そして暇になった。

 祟目さんが合流するまでの間、あたし達は自分を鍛え直し、体力も付けた。

 そしてこれである。

「あの祟目さん? そろそろあたし達も戦いたいと言うか何と言うか……」

「そうだね、確かに作業染みてきたしね。次は普通に戦おうか」

 その言葉に思わず頷くが、頷いた後で気が付いた。

 鬼と積極的に戦いたいと思わされてると言うか、誘導されてないだろうか? と。


 低速で進み、途中の小部屋が視界に入った所でバギーが停まった。

 あたし達は無言で車を降り、得物を抜いた。

 ここからは鬼との殺し合いだ。

 そう思うと身が引き締まる。

 自然と表情も硬く、集中力の高まりと共に真顔になっていくのが解る。

 面頬の口から息を吐くと小部屋から一体の鬼が姿を現した。

 バギーのエンジン音を聞きつけて出てきたらしい。


 あたしと繚華ちゃんが先ず飛び出した。

 鬼は引き絞った様な筋肉に覆われた成人男性程の体躯。

 水晶刀・薙刀で爪の届かない間合いを保ちつつ脛や太腿を斬り付ける。

 斬撃の合間に羽生さんと厦海さんが左右から挟撃に入る。

 四人。

 萊ちゃんが抜けても連携に不和は無い。

 四人? と思っていると後方で戦闘音と言うのか肉と骨が断たれる音が届いた。

 挟み撃ち? と慌てるがそちらは祟目さんが担当してくれるらしい。

 一人で、しかも初見で鬼と対峙している事に気が付くと焦りが生じた。

「大丈夫、もう終わった」

 祟目さんの落ち着いた声が耳に飛び込んで来る。

 素早い。

 どうやらもう切り伏せて終えてしまったらしい。

 きっと呆れる程あっさりと片を付けてしまったのだろう。

 これはあたし達も手古摺っている訳に行かない。

 三人も同じ想いだったと確認しなくても分かる。

 あたしがそう想っているのだから、皆も同じだ。

 薙刀で鬼の分厚い胸板を突いた。

 動きを押し留める為に。

 強靭な皮膚と筋肉に切っ先が二本、沈み込む。

 計らなくても同じ動きをあたし達はする。

 常に肩を並べてきたあたし達だから。

 そして振りかぶった鬼の腕を羽生さんが斬り付け、無防備に成った首を厦海さんの三鈷剣が薙いだ。

 返り血を浴びない様に後ろに飛び退くと、ゆっくりと鬼は地面に倒れ伏した。


「「ふぅ……」」

 肺に溜まった息を吐き出して、噛み合った連携に満足して笑った。

 振り返ると祟目さんがあたし達を満足げに頷きながら見ている。

「物凄く連携が巧いね」

 その上から目線の言葉に少しだけ嬉しくなる。

 口を開こうとした瞬間に奥で肩から脇腹まで掛けてバッサリと両断された鬼が見えた。

 一刀で仕留めたのが見て分かる。

 鬼の皮膚は固い。

 筋肉はもっと硬い。

 骨はさらに堅い。

 それを完全に、しかも長さと言うのか広さと言うのか肩口から腰まで一息、一刀で断つ。

 その技量に戦慄する。

 この人は二年間、実戦で研鑽を続けてきたのだと理解した。

 それは剣客を超えて剣豪の域に踏み込んでいる気さえする。

 太刀筋ではなく、結果でそれが見えてしまった。

 見せつけられてしまった。

 彼の今までの修羅場が垣間見えた気がする。

 勝てないとか、まだまだ遠いとか、とは違う壁や溝に近い物を感じて溜息が出た。

 黒光りする甲冑姿も相まって一人、現代感も現実感も無くなってる気さえした。


「さあ、金塊を回収して次に行こう」

 促されてあたし達は切っ先に着いた血を拭ったり、金塊を回収してからバギーに戻る。

 祟目さんも回収を終えて運転席に座る。

「祟目さん? 出来たらもっとゆっくり走ってもらえへん?」

 恐る恐る、お願いをしてみた。

 まあ、結果は分かってはいたのだけれど。

 ギャリッと音を立ててタイヤが空転した直後に、バギーはまたハイペースで走り始める。

 数分置きに鬼と遭遇、いや接触してその度にあたし達は舌を噛みそうになった。

 バギーを止めて祟目さんが無言で鬼を斬り伏せて、戻ってくる。

 返り血を浴びたのだろう。

 咽返る血の匂いと左右に振られる状況に、体が限界を迎えた。

「祟目さん、お願い……停めて……、無理……」

 口を手で押さえながらギブアップをすると慌てた様に、そして優しくバギーは停車した。

 急いで降りて壁際で胃袋を空っぽにする。

 気が付くと左右に厦海さんと繚華ちゃんがあたしと同じく並んでいた。


「流石に酔うか」

「当たり前だろう? 思い切りアクセル踏んで左右に振られるだけでもきついのに、鬼を毎回撥ねる衝撃が来るんだぞ!」

 羽生さんの文句と言うか、正当な主張に祟目さんも黙った。

「お前、フランスでも同じ事やってたんだろ? 文句出なかったのか?」

「いや、スケルトンの時にはバイクで跳ね飛ばしてたけど、狼男は素早いから車は持ち込まなかったよ」

「似た様な事は、やってたのかよ……」

 荷物からペットボトルの水でうがいをする。

 苦く酸っぱい胃液の味が舌に残る。

「「「たーたーりーめーさーん(くーん)?」」」

 あたし達は真っ直ぐに祟目さんに詰め寄った。

「だって、内部構造は同じだし、正解の道は分かってるし、移動で時間も体力も無駄にしたく無いし、この重量は武器に成るし……」

 慌てて言い訳を言い募るが、圧力に圧されて後ろによろめいた。

「でも、同乗者が酔う事は想定して無かった、と?」

 あ、繚華ちゃんが標準語に成ってる。

「止めを刺す為に停まるなら、あんなにスピード出す必要ないと思うんだが? 最初から視界に入った段階で停まれるよね?」

 厦海さんも静かにキレているらしい。

 二人もキレた人が居ると途端に冷めてしまう。

 それでも不満は山積みだとあたしも詰め寄る。

「あ~、……ごめんなさい」

 あたし達の圧に屈したのか、祟目さんは言い訳を止めて頭を下げた。

「後はあたしが運転する。祟目さんは荷台。鬼と遭遇したら飛び出す役やってな?」

 あたしは、あたし達の気が済むまで祟目さんをこき使う事に決めた。


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