二十九の巻
朝、十二月三十一日、大晦日。
あたし達は午後から合流して、打ち上げをしようと言う事に成った。
とは言っても、大晦日にやっているお店も少ないし、予約も無しに飛び込める所も無い。
仕方なく、よく行くカラオケ店にみんなで行く事に成った。
途中で旅館に寄って羽生さんと祟目さんをピックアップしてそれから向かう。
萊ちゃんが嬉しそうで、繚華ちゃんが視線を彷徨わせているのを横目にする運転はなかなかに気まずかった。
高校生の頃から時折来ていたお店に入り、少しだけ待って広めの部屋に案内をされる。
皆でジュースや料理を頼んで、少しだけ合コン感の有る打ち上げに成って微妙な気持ちになった。
揚げ物の盛り合わせ大を全員でつついて、楽しく雑談をしていた。
時折メールや電話で中座する人もいたけど、それも数分。
歌も歌って楽しんでるとあたしの端末にメールが届いた。
東京の腐女子友達からの到着のメール。
前もって人が訊ねてくる事を話していたけど、正直微妙だ。
羽生さん達とも顔見知りだと言う事と、祟目さんの腕の怪我の事も有って寝惚けながら了承した。
してしまっていた。
朝起きた時、「また仕出かした」と思った時には相手はもう動いていた為間に合わなかったのが無念である。
電話だろうか? 祟目さんが席を外して十分程して戻ってくる。
「長かったな? 誰?」「三佐」「ああ」と二人が短いやり取りをする。
確か自衛隊の階級だったかな? と思っていると今度はあたしの方に電話が掛かってきた。
友達を迎えに店先に出て待っていると物凄い美人さんに声を掛けられる。
「見酒赫里ちゃん? で合ってるかな?」
「あ、はい、そうです。帳さん、ですよね?」
帳さんは大きなバッグを手に、柔らかい笑顔を浮かべる。
亜麻色の髪をふわりと巻いて、ファーのコートと相まって大人の色気溢れる雰囲気ある人だった。
数年であたしもこんな雰囲気を身に着けられるのだろうか? と思っていると、彼女に催促されて慌てて部屋に案内する。
部屋に入ると繚華ちゃんと萊ちゃんは誰だろう? と首を傾げ、羽生さんと祟目さんはなんで? と言う顔をする。
「お久しぶりです。京都迷宮沈静化おめでとうございます」
帳さんは柔らかくお辞儀をして微笑んだ。
「帳さん、だったっけ? なんでここに?」
羽生さんも面食らったらしく怪訝そうな顔をしている。
「祟目さんが怪我を負って、まともに治療を受けられてないと聞きましたので」
そう言って奥に座る祟目さんの隣に移動した。
彼女は手早くテーブルの上を片付けて、準備を開始する。
祟目さんはあたし達が見ても、目を白黒させて困惑していた。
準備が整った所で半ば強引に上体の左側を剥いて、怪我した患部を露わにして治療を開始する。
「痛みますから我慢してください。――ごめんなさい、痛いですよね、もう少しだけ我慢してくださいね」
ゴム手袋をした手で患部を掴み内出血を絞り出して、終わったら消毒をしてパッチで切り傷を塞ぐ。
その手慣れた手付きに迷宮脇の治療所の医師が優秀な事を感じ取った。
包帯を巻いて服を着せ直してからカルテに何か書き込みをして、何か紙と薬を渡して立ち上がった。
「では、私はこれで失礼します。良いお年を」
と言い終えると彼女は帰り支度を始めてしまう。
「えっと、もしかして、この為だけに?」
「はい、この為に来ました。東京に戻ります」
帳さんは困惑顔の祟目さんのお礼の言葉だけを受け取って颯爽と帰っていった。
部屋を出る時の横顔は勝者の笑顔だった気がする。
彼女を見送りに軒先まで行くと満足げに笑って、またメールすると言って彼女は本当に行ってしまった。
何と表現したら良いのか分からないけど、色々と彼女の圧勝だった。
苦笑しながら部屋に戻ると、空気清浄機のおかげで血の臭いは無かったけど、場の雰囲気は狐につままされた様な空気に成っていた。
「見酒さんが帳さんと知り合いだったとは思わなかった」
羽生さんが面白いものが見れたと言わんばかりに笑って言う。
「逆に、帳さんがお二人と知り合いやったって知ったんも昨日なんです」
「でも、なんでこんな事に?」
「寝惚けてメールのやり取りしてる時に祟目さんの怪我の話しになって」
「ああ、それで……、お前、そう言う事なら言えよ」
あたしの言葉に納得した様に頷いて祟目さんに肘打ちをした。
「渡されたのは?」
「処方箋と抗生物質だって」
祟目さんは渡された薬の錠剤をジュースで流し込んで、何となく安堵した様な顔をした。
まあ、きちんとした診察が受けれて、抗生物質まで出して貰えたら安心出来ただろう。
そう言う意味ではあたし、良い仕事した。
でも、予想とか常識の斜め上を行く人だったけど、と苦笑する。
打ち上げとして楽しい時間を過ごしたと思った所で、あたしは二人にアイコンタクトをしてから羽生さん達に質問をした。
「お二人は今後、どうされるんですか?」
「俺は一度東京に帰るよ」
「僕は山口に行くつもりでいる」
やっぱり祟目さんは次の迷宮に行くつもりらしい。
羽生さんが離脱? するのに疑問を覚えて首を傾げる。
「ああ、勿論最深部に行く時には手を貸すけど、仕事も有るしな」
ここで新事実、羽生さんは専業シーカーじゃなかった事に驚く。
逆に祟目さんは専業なのは納得出来る。
「あのっ、親の許可取りました。あたしも学校が休みの期間だけやけど、山口行きます」
勢い込んで言うあたしに羽生さんは頬を上げて、祟目さんは顔をくしゃっとさせて笑った。
「あの、私も行きます。説得しました!」
「ウチも行きます、連れてってください!」
繚華ちゃんも萊ちゃんも、予想通り次の迷宮に行く覚悟を決めて来ていた。
ここまで来たら最後まで関わりたいし、迷宮を全て沈静化させたいと思っている。
二人も熱意の大小は有っても同じだと思う。
「なら、三人の春休みに合わせて俺も山口入りするって事に成るか」
二月から三月末までの間に四ヵ所を沈静化させられるかは分からないけど、やれる人間が他に居ないならあたし達がやれば良い、そう思う。
やるべき事を知っていて、やれる事があって、それでもやらないのは卑怯者だ。
だからやる、真っ直ぐさだけは失いたくないから。
「羽生さんは直ぐに東京に帰っちゃうんですか?」
「どうしようかな? 年末年始に東京に戻らないといけないって訳じゃないけど、こっちでもする事も無いしなあ」
「あの、良かったら初詣、とか行きませんか?」
萊ちゃんがさっきの熱気に中てられて前に出た。
まあ、あれは凄かったしなぁ、と思わなくも無い。
「祟目さんは直ぐに山口に行ってしまうんですか?」
「いや、この腕だし、まだ沈静化させた時の換金も出来ていないから四日までは大人しくしてるつもり」
「そんなら良かったです……」
こっちはこっちで中てられてるけど、帳さんの熱量に腰が引け気味にも感じる。
あれに対抗するのは相当覚悟を決めないと難しい気がする。
あたしはあたしで、二人共青春してるなぁと一歩引いた所で見てる。
引いてるのか、取り残されているのか、微妙なところだけど。
夕刻、そろそろ打ち上げもお開きとして皆を送って家に帰る。
途中の車中では色々と交換やら約束やらが行われていた。
なんだろう、師走の大晦日なのに暖かい車内は春だった。
別シリーズのサブキャラクターがクロスオーバーしてきました。
今後も出るかは未定ですが。
土竜の遠吠え~ダンジョン災害奮闘記~
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