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二十八の巻

 氾濫に怯えなくて良い、それだけで嬉しくて堪らなかった。

 最近泣いてばかりだ、そんな事を思いながらも頬が緩むのを止められなかった。

「これでシーカー辞められるな! 土日もあらへん青春なんてあかんもんな!」

 そうお母さんが嬉しそうに言った瞬間にハッとした。

 そうだ、迷宮が沈静化したんだからあたしもうシーカーじゃないんだ。

 でも、後四ヵ所の迷宮が有る。

 そう思ったら嬉しさが音を立てて引いた気がした。

 暫くの間嬉しそうに騒いでいた家族もあたしの顔を見て不思議そうに黙った。

「あかん、あたしシーカー辞められへん。まだ迷宮有るもん。終わってへんもん」

「赫里、もうええんちゃう? もうあんた達十分頑張ったやん? もうええんとちゃう?」

 お母さんの言葉にかぶりを振った。

 そうじゃない、頑張ったと自分でも思うけど、そうじゃないの。

 あたしは「ちょっと待っとって」と言い残して自室に戻って薙刀を持って居間に戻る。


 薙刀を持って現れたあたしにみんな驚いてるけど、ちゃんと説明しなきゃいけない。

「あんな? これがあたしの使うとった新しい薙刀。これな? 祟目さんが自分の刀をあたしに貸してくれて、薙刀作り直してくれた物なんよ。これが無かったらあたし達戦えなかったし、勝てなかった。間引きもようしきらんかったと思う」

 そう言って鞘を払うと鈴の音と共に曇り一つない水晶の刀身が露わに成る。

 何度見ても息を飲むたたずまいをしている。

 気泡も日々も無い、透明度の高過ぎる水晶はいっそ神々しさすら在る。

「この薙刀は『この国を救う為に在る』んよ……。だからあたし……シーカー辞めへん!」

「赫里、そら、その祟目さんが言うてるんか?」

 お祖父ちゃんの言葉に首を横に振る。

 あの人はそんな事言わないし、言えない人だ。

 自分一人で突っ込んでしまう人だ。

「あん人はそないな事、他人に求めたりしいひん」

「せやったら、なんで赫里がやる必要有るん?」

 お父さんの質問に答える為に自分の中の本心を引っ張り出した。

「あたしが、迷宮在る事、許せへんから! あたしがあたしの為に戦うんよ」

 そう言って薙刀を鞘に納めてから手首を返した。


 シャンッ……。

 鈴の音が今に響き渡って厳かな空気に満ちる。

 何となく、この水晶薙刀を持つとお神楽を舞う巫女に成った様な気になってしまう。

 家族全員が沈黙して水晶薙刀を見詰めているのが分かる。

 不思議な事に、この水晶薙刀も、祟目さんの水晶刀も鋭利さでは本物の日本刀と同じなのに怖いと感じた事は無かった。

 祟目さんが鈴を鳴らすと身が引き締まって(おそ)れを感じる事は有ったけど。

 今の音は祟目さんが鳴らす音に似ていたと思う。

 何となく分かった気がした。

 祟目さんは神職じゃないけど、護国の人なんだ。

「赫里? そら繚華ちゃんとか萊ちゃんもなん?」

「知らへん、あたしはあたしの気持ちを言うただけやし。せやけど萊ちゃんは多分行く言うと思うし、繚華ちゃんは祟目さんの怪我気にしてるし行きたがる思う」

 そして家族の表情から祟目さんに対してのネガティブな感情が見えた気がする。

「多分やけどな? あの二人来へんかったら来年六月に壊滅しとった思うで? 東京も宮城も。七ヵ所の内三ヵ所沈静化させるってそう言う事やし」

 あたしの事を心配してくれるのは家族としてありがたいけど、それで祟目さんを悪者にするのは絶対に違うと思う。


「さあさあ、取り敢えず食べよ? 赫里も座り」

 お母さんが手を叩いてあたし達を促す。

 食卓にはズラリと御馳走が並んでいた。

 真ん中に鎮座した鴨鍋に簡易食続きだった胃袋が活発化したのが自分でも分かる。

 白みそのお鍋を食べてホッとした所で猛烈な睡魔が押し寄せてきた。

 食事を終えて寝る準備をしようと席を立った所でお祖母ちゃんに呼び止められる。

「赫里、あんたの気持ちは良う分かった、せやけどなぁ? あんたを心配してる家族がおる事も忘れたらあかんよ? やけど、お祖母ちゃんはあんたを応援すんで」

「お祖母ちゃん!」

「皆も赫里が心配で仕方あらへんのんは分かる。せやけどな? 赫里達にしか出来んで、わし等だけ恩恵に与ろなんて恥ずかしい事言うたらあかん」

「お義母さん……」

「赫里、勉強は手ぇ抜いたら許さへん、休みは迷宮に行くのんはええ。せやけど迷宮無うなったらきちんとするんやで? ええなぁ?」

 そりゃ、迷宮を沈静化させたらシーカーも何も無いし、分かってると返事をすると満足そうにお祖母ちゃんは頷いた。


 寝る準備を済ませて部屋に戻る。

 取り敢えず、我が家の最高権力者のお祖母ちゃんの了解を得られた。

 後はお祖母ちゃんが皆を説得してくれると思う。

 薙刀を掛けて、ベッドに横に成ろうとした所でメールが来ている事に気が付いた。

 どちらも東京のお友達からだった。

 一人は大鎧のデザインをしてくれた木村さん、一人は東京で迷宮関係の仕事をしている腐女子友達から。

 二人共京都迷宮の沈静化にあたしがかかわってるか? と言うメールだった。

 木村さんは祟目さんの友達だと言う事も有って割と詳しく返事をしておいた。

 もう一人はあまり込み入った事を言うのもどうかと思い多少誤魔化しながら話している内に「鎧男が怪我した」と触れた途端に長文が返ってきた。

 どうも祟目さんとは東京迷宮で面識が有るらしかったし、怪我の心配をしていたのでざっくりと説明をしておいた。

 勢いに負けた気も少しする。

 回らない頭でのメールはしんどくて、ウトウトとして記憶が途切れた。

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