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二十四の巻

 十二月二十八日、あたし達は迷宮の最深部を目指して籠る事に成った。

 三十一日の大晦日には帰ってくる予定で。

 途中で難しければ即座に戻って、年明けに再挑戦すると取り決めもしてある。

 と言うか、させられた。

 年越しは家族と過ごすべき、と大人に言われてしまうと何も言い返せなかった。

 泊まり込みでの迷宮探索は当然反対された。

 反対されたが、現状のままでは恐らく氾濫が起きる事を説明し、二ヵ所の沈静化の中心人物と行動を取る事を説明した。

 改めて二人の事を説明してようやく許可が下りたが、説得に三時間も掛かった。

 実績と申し訳無かったけど祟目さんに電話で話してもらった。


 各自、大型のリュックを担ぎ直して体を左右に振って動きをどれだけ阻害するかを確かめる。

 それぞれが三日分の缶詰やアルファ米、寝袋、小型テントや簡易トイレ等を持ち込んでいる。

 一番重たいのは大量の真水だった。

 五人が三日必要な量と、調理に必要な量だとかなりの量に成る。

 流石に背負っての移動は難しかった為、キャリーカートで運搬する事に成る。

 迷宮の通路はそれなりに広いし、なにか乗り物でもあれば便利だけど、当然狭い所も有るし他のシーカーを撥ねたら大問題だ。

 この辺りは今後の課題だと思う。

「せやけど、えらい荷物やねぇ」

 全員が中身パンパンのリュックを背負い、祟目さんと羽生さんはキャリーカートで重たく嵩張る物を引いている。

 祟目さんの真っ黒い鎧姿にリュックやキャリーがどこまでも不似合いで笑ってしまう。

 いや、大鎧のあたし達も大概似合ってないんだけどね。

「三日分って案外物が要るんやねぇ」

「せやなぁ、ウチも水なんて意識して無かったもんなぁ」

 萊ちゃんと繚華ちゃんも勝手が違って戸惑っている。

 今までは本当に手ぶらに近い状態で迷宮に入っていたし、狼の事は空のリュックが帰りにパンパンに成った。

 今回は大荷物を持ち込んで、帰りはすっからかんで帰ってくる事に成る。

 そう考えると真逆で、感覚の違いに戸惑う。

 まあ、帰りが楽な方が良いんだけど。


 入口から十分程、幽体が床から染み出す様に現れる。

 キャリーから手を放して祟目さんが飛び出す。


 鈴の音を立てて刃が走った。斜め下から右切上から唐竹、切り返して逆風、そして右薙。後ろに飛び退くと幽体の右腕が弧を描く。腕が通過した所で踏み込んで突きを放つと幽体は動きを止め、姿を薄れさせて、そして消えた。


「いかんな、リュックを背負ったままはキツイ」

 珍しく祟目さんは呼吸を乱していた。

 正直、二十㎏近くのリュックを背負って無呼吸での五手は体力を相当消費する。

 それを二日間と考えると今から気持ちが悪くなりそうだ。

 祟目さんはリュックを下ろしてキャリーに括り付ける。

「羽生、一時間交代でじゃないとこれキツイよ」

「まあ、昼までは俺とお前で交互にやろう」

 そう言うと羽生さんもリュックをキャリーに括り付けて引き始める。


 しゃがんで金の粒を回収している祟目さんに疑問に思った事を質問する。

「祟目さん、なんで太刀を使ってるんですか? 小太刀の方が楽ですよね?」

 そう訊ねると祟目さんは押し黙って、少し間を置いて太刀を見詰めながら答えた。

「この先、この太刀が命綱に成る、そんな予感がするんだ……」

 そう言って水晶刀を鞘に納刀する。

 どういう意味か分からず、この先? と首を傾げた。

「兎、狼、幽体、次は何だろうね? もっと厄介なモノが出る。そんな予感がするんだよ」

 この人はもう次の事を考えているのかと、呆れる様な感心する様な微妙な気分になる。

 多分、こういう人が先駆者に成るのだろう、とも。

 小部屋と通路、道々の幽体を倒して昼休憩。

 朝食をしっかり食べていた事も有って、軽いエネルギーバーで済ませた。

 午後からはあたし達も交代のサイクルに加わって夕方まで駆除を続けた。


 三人がギリギリ寝れるテントを設営して少し離れた所に仮設のテント型トイレも設置する。

「なんか、思てたんと違うけど、キャンプやねぇ……」

 繚華ちゃんが嬉しそうにテントの中から顔を出す。

「まあ、暗視装置で視界明るいし、夜の野営って感じはしいひんけどね」

 そう応じると隣では萊ちゃんが「お泊りやんお泊りやん」と小さく呟いていた。

 うん、少し自重してほしいかな?

 改めて見るとかなり可笑しな光景だった。

 迷宮内部、洞窟にテントと仮設トイレが有って、祟目さんが小型のガスストーブで料理をしている。

 キャンプ場のイメージからかけ離れていて違和感が強かった。

 それでも、温かい食事が摂れるのも、休息が出来るのもありがたい。

 入浴が出来ないのは辛いけれど、それは体を拭けるウェットティッシュを持ち込んで済ませた。

 休息も、幽体は探索しなければその場には二時間程しなければ現れない為、交代で休息を取っても見張り役が処理してしまえば済む。

 そう言う意味でも五人での踏破も可能だと言える。

 先番(さきばん)中番(なかばん)後番(あとばん)の三交代で三時間ずつ仮眠を取って、全員が六時間の睡眠を確保した。


 一日目はぶつ切りの睡眠時間以外に支障なく過ぎた。

 二日目は休憩多目で午前中は順調に進んだ。

 お昼に仮眠の時間を交代で取り、体調を整える。

 二日目の朝の段階で、既にMAP情報として共有されたエリアは越えており、行っては戻りを繰り返してマッピングをしながら奥へ奥へと進んでいく。

 少し不思議に思う事が有って祟目さんに声を掛ける。

「祟目さん、狼ん時ときたま妙に頭ええのんが居たんですけど、幽体には個体差ってあらへんのですか?」

「どうだろう? 手強いと思ったのは最深部のヤツだけだったよ? ああ、頭が良いって意味では壁から現れるヤツは頭が良くて厄介なヤツに成るんじゃない?」

 そう言われて何となく納得する。

 攻撃パターンも両手を振る位だし、動きも遅いのも共通だし。

 違いは出現する時の面倒臭さだけかも知れない。

 壁際に陣取られると攻撃がしにくい。

 刃を傷めない様に両側から交互に攻撃して徐々に引っ張り出す面倒さを思い出して顔を顰めてしまう。

「最深部のヤツはそないに手強いんですか?」

 祟目さんが手強いと言う幽体がどんなモノなのか少し不安に成る。

「そうだね、賢さはあまり感じないけど、兎に角タフで先が見えないから精神的にも凄く辛い。まあ今回は五人だからモグラ叩き気分でやっていこう」

 確かに、幽体は血も出なければ部位欠損も無いから数十回斬り付けても終わりが見えなかった。

 今は水晶刀のおかげで一桁台に収まってるけど、最深部のヤツはやはり長期戦に成るらしい。

 萊ちゃんも繚華ちゃんも神妙な顔で頷いている。

 気を引き締めていこう、と三人で頷き合う。


 羽生さんが幽体を駆除して金の粒を回収して戻ってくる。

「どうする? 少し休憩にするか?」

「ん~、そうだね。一時間コーヒーブレイクにしようか」

 そう言って祟目さんは荷物からボンベや鍋を取り出してお湯を沸かし始める。

 時間を見ると午後三時過ぎ、休憩を取るのは良いかも知れない。

「コーヒーと言ったけど、お茶と羊羹で良いかな?」

「そんな物まで持ち込むから重いんだぞ?」

「まあ、美味は英気って事で」

 そう言って沸かした鍋にティーパックを入れて人数分の紙コップに注ぐ。

 温かいお茶が洞窟内の寒さにありがたい。

 配られた羊羹も小分けにされた物で、二、三口で食べきれるちょうど良い物だった。

 柔らかい甘味が口に広がって気分が和らぐ。

 全員が安堵の溜息を吐いて寛いでいる。

 迷宮内でのキャンプ行為の場違い感も有るけど、それ以上に警戒を緩められる時間が有るのが不思議だった。

 あまり褒められた事ではないけど、緊張感や集中力は途切れる物だから。

 こういう時間は必要なのかも知れない。

 祟目さんはメンバーのテンションを維持させるのが巧いと思う。

 紙コップのお茶を飲み干して、血糖値も上がった所でもう一度気持ちを切り替えて行動を再開した。


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