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二十三の巻

 地上に出ると真冬の凍った風が顔に吹き付ける。

 革のツナギのおかげで直接冷たい風を受けなくて良くても、気分から寒くなった。

 暗視装置がオフに成って視界が日常の物に成ると少し曇った寒空が余計に気を滅入らせる。

 灰色の空と落葉しきった木々が視覚的にも寒々しい。

 急いで建物に入って食堂に移動する。

 年末のこの時期、閑散とした食堂にはあたし達の他に二、三組のシーカーしか居なかった。

 元々少なかったけれど、ここまで少ないと京都は大丈夫なのだろうか? と思ってしまう。

「他のシーカーが少ないって感じるかい?」

 あたしの表情を読んだのか、祟目さんが訊ねてくる。

「そう――ですね、大丈夫なんかな? って」

「大丈夫だよ、僕が居るから」

 何の気負いも無く、驚くほど簡単に即答されて笑ってしまう。

 そうだった、ここに居るのは迷宮を二ヵ所も潰してきた人だった。

「いやいや、俺も居るからな? 流石にそれは酷いぞ?」

「それもそうだった、ごめんごめん」

 二人の短い掛け合いにあたし達は釣られて笑う。

 地味にBL展開を見せるから困る。


 日替わりランチを購入してテーブルに着いて各々食べ始める。

 あたし達は羽生さんも会話に加わって和やかな昼食をとっている。

 とっているのだけど、祟目さんだけが無言だった。

 あまり積極的に話す人じゃないのは分かってはいたけど、何か考え事をしているのかな?

「どうした? 祟目」

「いや、日数計算をしていただけだよ」

「日数? 六月までに、って事か?」

 祟目さんが無言で頷いた。

 この人達は残り五つの迷宮も潰すつもりなんだと、その覚悟が有るのだと分かる。

「あの、祟目さん、羽生さん、お二人はなんでそこまでするんですか?」

 知りたかった。

 ここまでまるで取り憑かれた様に突き進もうとするのか。

 その想いの根深さと根源を。

「俺は稼げて、この頭の面白いヤツを面白がって、って感じだな」

 羽生さんはそう軽く言い放つけれど、言葉ほど軽くないのは感じられた。

 萊ちゃんが惹かれた人だし、きっと何か在るのだと思う。

「僕は……、うん、多分もう誰も故郷を失ってほしくないんだと思う」

 もう? と言う所で思い至った。

 そうか、彼は原発事故で避難した……。


「ごめんなさい……」

「いや、話したのは僕の勝手だよ。君は悪くないさ」

 そう柔らかく微笑まれては二の句は継げない。

 故郷に戻れない苦さを誰にも負わせたくない、そう言う優しさが根底にあるのが分かった。

 その優しさが大きければ大きい程、迷宮への憎悪も大きいのだと。

 一人の人間が背負い込むには大き過ぎるとも思うけれど。

 ああ、この人柄と融通の利かなさ、危うさが周りを惹き付けるのかも知れない。

 そして祟目さんの不器用さも分かった。

 ここでアピール力を発揮したらカリスマシーカーにも成れそうなのに、それが出来ない人なのだろう。

 何となく、羽生さんが傍に居る理由が分かった気がする。

 純度が高過ぎて逆に危うい、そう感じているのだ。

「あの、祟目さん、今後のご予定は? どうされるつもりですか?」

 繚華ちゃんが踏み込んだ質問をする。

 隣で萊ちゃんも真剣な顔で答えを待っている。

 年末年始で片付けたい、と彼は答えた。

 祟目さんの言葉に羽生さんが強く異を唱えた。

「それは流石に無理だ! これからは自衛隊のバックアップも無いんだぞ? 東京みたいな強行軍を何度も出来る訳が無いだろう!」

 どうやら東京迷宮の時は本当に二人きりで最深部まで踏み込んだと言うことだ。

 宮城迷宮は自衛隊も同行していた、と言う事は分かるけど、今はそうではないらしい。

「なんで自衛隊は手伝うてくれへんのです?」

 萊ちゃんの疑問の通りだ。

 迷宮を沈静化させる必要性は誰にでも判る話だから。

 むしろ積極的にバックアップすべき事だと思う。

 祟目さんから「自衛隊にストップが掛かったからだ」と答えが返ってくる。

 政府側が氾濫に備えろと待ったを掛けたらしい。

 あたし達は思わず絶句する。

 去年、食料品の輸出入が世界的に滞って、世界同時不況の煽りを受けて政権交代したけど、ここまで馬鹿な事をするとは思いもしなかった。

 確かに今の政権与党はシーカーに対して厳しい事を言っていた政党だったけど、そこまでするとは。


「あの、羽生さんはどうするんですか?」

「こいつを一人で行かせる訳にはいかないだろう、対幽体の最大戦力をソロで特攻させる訳に行かない。確実に迷宮を潰せる人間を消費しちゃ駄目だ」

 確かに羽生さんの言う通り、祟目さんは日本の切り札だと思う。

 そして現状間引きが十分出来ているかと問われれば、疑問でもある。

 結局、祟目さんが頑張らなきゃ犠牲者が出る可能性が高い。

 分かっている、祟目さんを一人で行かせる訳に行かないし、羽生さんと二人でもギリギリだ。

 あたし達三人が同行すれば勝算も、安全性も格段に上がる。

 萊ちゃんは同行したいと思ってるだろうし、あたしもやるべきだと思ってはいる。

 それでも言葉に出来ないのは勝算が有っても賭けに違いない事だから。

 萊ちゃんの横顔からも羽生さんに無茶はしてほしくない、とありありと示している。

 下手すると祟目さんを死地に招く悪魔と思ってないか不安に成る。

「ウチ、同行しようかなぁ……」

「「繚華ちゃん?」」

「だって、ここまでお膳立てしてもろてるのに、ウチ等が何もせん訳にいかへんやん? それに……、ウチと赫里ちゃんが借りた水晶刀は確実に祟目さんの戦力を落としとるし、な?」

 そうだ、祟目さんは根本的に二刀流、しかもにっかり青江を写した水晶刀を主武装にしていた。

 あたし達の安全の為に自らの安全性や攻撃力を犠牲にした事に成る。

 これは借りだ。

 色々な条件を総合して考えたらあたしも同行する義務がある、そう感じる。

「あたしも、連れて行ってください」

「わ――私も!」

 繚華ちゃんの初動であたし達全員が乗った、いや乗せられたのかも。

 ただ、その場の勢いと言う訳でも無いけど。

 確かに、祟目さん達が京都に居てくれたらここの氾濫は防げるとは思う。

 でもそれは他の四ヵ所を見殺しにする、と言う事に他ならない。

 それを二人に望んだ瞬間、あたし達に大義は無くなる。

 地元さえよければ良い、と言い切れるほど強くも無い。

 消極的な理由で積極的に動く、という矛盾が可笑しい。


 眉間に皺を寄せて祟目さんが思案している。

「先ずはご家族の許可を取ろうか? 迷宮内に一泊か二泊する事に成るから」

「そんなに籠るんですか?」

「最深部はかなり深いから。移動と戦闘と休息を考えると、ね」

 少し困った様に笑う祟目さんに素朴な質問をした。

「迷宮の一番奥に行くルートって一本だけなんですか?」

 あたし達はお昼やトイレの関係で深い所まで行った事が無い。

 逆に中で一泊してしまうシーカーなんて聞いた事が無かった。

「どうだろう? 今まで入った所は迂回ルートみたいな物は無かったと思う。ここはどうか分からないけれど」

 つまり途中からはマッピングしながら進まなければならないらしい。

 昼食を終えて、休憩を取ってから再度迷宮に入る。

 午後は少なくともシーカーが共有しているMAP情報で、行ける所まで行ってみた。

 戦闘時間が短ければ体力の消耗も少ない。

 体力の消耗が少なければ休憩も少なく出来る。

 休憩が少なければ移動範囲も広がる。

 確かに、迷宮の沈静化には概念武器が必須なのだと改めて納得した。


 回収した金の粒を売却して五人で頭割り。

 受付の人には金額の多さに怪訝な顔をされたけど、二人のシーカー情報を見て納得したみたい。

 二人は迷宮庁でも名を知られているのが分かる一瞬だった。

「お二人は、この後どうされるんですか?」

 車に戻り当世大鎧を外しながら声を掛けてみる。

「ああ、俺達はこの後買い出し。流石にキャンプ用品とか持って来てないし、な」

 迷宮内で休息を取る為のキャップ用品を買いに行くらしい。

「あの、ウチも一緒に行ってもいいですか?」

 ずっとキャンプやアウトドアに興味が有った繚華ちゃんが手を上げる。

 二人は快諾して繚華ちゃんは二人に送ってもらう事に成った。

「ええの? 萊ちゃんも向こう行かんで」

「うん、でも、私遅く成れへんし……」

「先下ろして貰えばええやん? 一秒でも長く一緒に居とき?」

 そう言って萊ちゃんの背中に手を当てて、隣の祟目さんの車の方に押していく。

「祟目さん、今日萊ちゃんを先に送ってあげて貰えませんか?」

「ん? 構わないよ。了解」

 そのやり取りをした直後にアイコンタクトで繚華ちゃんに合図を送っておく。

 繚華ちゃんもあたしの意図が分かったらしくさりげなく立ち位置を変えた。

 二本の薙刀を車内に固定して、帰る準備が終わったので軽く挨拶をして先に車を発車させる。

 駐車場を出る時にミラーで確認すると繚華ちゃんが助手席に乗り込んだのが見えて笑った。

 我ながら良い仕事をした、と自画自賛して眉を下げながら笑った。


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