二十二の巻
クリスマスも過ぎた年末、仕上がった概念武器を手にあたし達は迷宮に再び入る事に成った。
あれから何度か砥ぎ師さんの所とやり取りをし、祟目さんも足しげく通い色々と手を尽くしてくれたらしい。
手の中の薙刀は以前使っていた物よりも細身でしっかりと握れた。
気持ち前よりも軽く、少しだけ長い。
バランスも悪くない。
何度か振ってみたけれど、驚くほど扱い易かった。
「繚華ちゃん、これ凄ない? 今日初めて振るうのに通したい所をきちんと通る!」
「せやね! 不安やったけどこれならいける気する」
透明に煌めく水晶の刃に目を落として武者震いをする。
「皆、行けるかい?」
祟目さんがあたし達に声を掛けた。
今日は羽生さんも一緒に、あたし達三人をコーチする為に同行してくれる事に成っている。
「はい、大丈夫です」
そう返事をして五人で迷宮に突入した。
数分歩いた所で幽体が壁をすり抜ける様にして現れる。
「現原さんと見酒さん、三回ずつ攻撃をしたら下がって僕と交代、の繰り返し」
祟目さんの指示で、まずあたしと繚華ちゃんが飛び出す。
鈴の音と共に鋭く息を吐いて水晶の刃を突き入れる。都合三回、薙刀を送り出して突きを放つ。薙刀の刃がぶつかれば折れかねない為、あたしは幽体の右半身、繚華ちゃんが左半身に突きを入れる。三度目の突き、薙刀を引いた所で後ろに飛び下がる。下がった瞬間に幽体が腕を振るった。
当たっていれば内出血で即リタイヤ。この瞬間はいつも背筋が凍る。
あたし達と入れ替わりに飛び込んだ祟目さんが太刀型で袈裟・右切上・唐竹と刃を走らせて飛び退いた。
その早業に驚きながら慌ててあたし等は前に出て三度の攻撃を繰り出し、幽体が動きを止めて消滅した。
「申し訳ない、いつもの癖で。速過ぎたね」
そう言って頭を下げられるが、返す刀が速いのは知っていたのに準備が出来ていなかったあたし等が悪い。
「いいえ、今のはウチ等が悪かったです」
もう一回、やってみようと提案されて、再度水晶刀との連携確認を行う事にした。
それにしても水晶刀、水晶薙刀を使うとこんなにも体力的な負担が少ない事に驚く。
ニホンオオカミの頃は技量で消費体力に違いが出るのは当然として、幽体の場合技量は関係無い。
つまり純粋に概念武器と言う存在が最適解なんだと肌で感じる。
そんなヒントを具体的に確立させるこの人の執念が凄いのかも知れないけど。
勿論技量も凄い。
鍔の鈴の音も三手なのに音が二回しか鳴っていないのがその証拠。
小太刀や打ち刀よりずっと扱いが難しい太刀を三度振るって鈴を二回しか鳴らさない、その技量は生半可な稽古で身に付く物じゃない。
現代具足? を着込んでるから分かり難いけど、斬る為に体が有る、そんな感じがした。
あれがあたし達の目指すモノなのかも知れない。
それから何度も連携の練習をしたり、祟目さんと羽生さんの連携を見て交代する繋ぎ目を三人で模索した。
頑張って早く駆除しようとすると体力を多く使う点と、長引くと精神的に疲れる点でバランスを取って負担の少ない、あたし達のベストを意識する。
繰り返し、繰り返して足運びを意識して、腰の使い方に重きを置いて、肩の動きを止めず、手首を柔らかく、戦う為の五体とする。
五回、十回と怪我と隣り合わせの、ギリギリの見取り稽古を行う。
それが出来るのもあたし達より前を行く人が居るからだけど、と自嘲気味に笑った。
そろそろお昼に向けて一旦出た方が良い時間帯に成り、デバイスのMAPアプリを確認すると驚いて声が出てしまった。
「え? ほんまに? 三時間でこないに深うまで入って来れるん?」
普段の倍は進んでいる。
第一次変遷期の頃には来ていたけれど、幽体が出る様になってからはここまで踏み込む事が出来なかったのに。
「なんて言うんか、この人やから出来たって納得した。やけど、これからはウチ等にもそれが出来そやね」
「小太刀型借りてもうたし、頑張らな……」
より戦い易くなった事であたし達は前向きに成ったと思う。
今までの経験に裏打ちされた自信に、概念武器と言う金棒を得た今なら堂々と進めると思う。
これから戻るという所でやる気が満ちている事に苦笑しながら全員で地上を目指した。
「せやけど、これ以上手数が削れへんのがなぁ……」
歩きながらそうぼやくと全員が唸る。
検証してみたけれど、一人の場合水晶刀小太刀型と数珠丸恒次写し以外は十五手、幽体を消滅させるのに必要だった。
祟目さんがソロで小太刀型を使えば三手、羽生さんが数珠丸恒次写しを使えば五手。
元の九十手よりは格段に良くなったけれど、三手と言う上を知ってしまうと求めてしまう。
何か手は無いかな? ヒントをまとめ上げて概念武器なんてトンデモを作ってしまった前例が有る、と言うか目の前に居るのだし。
その前例に倣うべきだと思う。
「幽霊が嫌う物、嫌う物……お経? お経でも書き込んだら効果あるんとちゃうかなぁ?」
「書き込むってどこに?」
思い付きでしかないのだけど、萊ちゃんに指摘された。
「刀身に刻むか、柄に書き込むか、ちゃう?」
「耳なし芳一みたいやね、それ……」
想像してみると何とも言えないビジュアルだし、柄も黒で書き込めない。
「いや、お経はやめた方が良い、どちらかと言うと神道寄りの武器だからね、書き込むなら祝詞の方が良い」
前方を歩いていた祟目さんがあたし達の会話を聞きつけて言葉を挟んできた。
神道系の武器、と言うのはどういう意味だろう?
「刀身は天叢雲剣を、鍔は八咫鏡を、鈴は八尺瓊勾玉を模した矛先舞鈴は神楽に使われる物だからね」
「え!? それってつまり……」
「三種の神器の概念を乗せてる」
何と言うか、形振り構わず、と言う印象を受けてあたし達は押し黙った。
執念、と言えば良いのだろうか?
あたしも迷宮に怒り、憎んでいたけど、あたしよりも激怒し、憎悪しているのが分かる。
その先に在るのは氾濫の無い世界だとしたら、それに付いて行きたいと思った。
彼が目の前で奮闘する背中を見ていると、大江の迷宮の沈静化は確定項だとあたしも思い込まされてしまう。




