十九の巻
先ず、あたしと繚華ちゃんが砥ぎに出す所が薙刀の柄の制作からやってくれるか、の問い合わせを支持される。
刃は小太刀の刀身を流用、静型で拵えを作る案が出た。
鍔もそのまま転用して概念を乗せる事に。
一つ頷いて祟目さんはリュックから覗いている刀を取り出した。
ずっと気には成っていたけれどリュックから四本の柄が見えていた。
予備の武器はあたし達も携帯しているけど、何本も持ち歩く意味が分からない。
迷宮に持ち込む時間が長ければ長いほど武器の耐久度が上がるから、常に持ち歩く事にしてるそうだ。
そして萊ちゃんに打ち刀型が、あたしと繚華ちゃんに小太刀型が渡された。
そして合わせて注意点も教わった。
曰く、柄にも色々と仕込んでいる為、小太刀型を流用しても三手では倒せない事。
同時に、三人の攻撃力のバランスを考えると萊ちゃんにも小太刀型を渡すと呼吸と連携が崩れる為、一枚劣る打ち刀型を渡す事を説明された。
概念武器が一体どれだけの価値が有るのか分からないけれど、そう簡単に譲渡して良い代物では無いのは分かる。
そんな考えがあたし達三人の顔に浮かんでいたのだろう、羽生さんが明るく朗らかに笑った。
「気にしなくて良いよ、祟目は味方が増やす時には本当に形振り構わないヤツだから」
そう言ってテーブルの上の数珠丸常次写しをちらりと見る。
そうか、この太刀も持ち主は祟目さんなのか、と納得する。
「急いだ方が良い、か。二人共、砥ぎ師の人と連絡が取れるかい? 取れるならアポを取って都合が良い時に行こう」
そう促されて馴染の砥ぎ師さんの所に電話を掛ける。
暫くやり取りをして、無理を言ってこの後に時間を取って貰った。
「祟目さん、時間は取れるそうです」
「了解、なら直接行こうか。羽生はどうする? えっと成湖さんの水晶刀の練習のフォローしてる? 僕の間合いに合わせた刀身だから慣れておいた方が良いと思うけど」
祟目さんの合理的な言葉に動揺してしまう。
萊ちゃんを残していくと羽生さんと二人きりに成ってしまう。
「はい、お願いします!」
あたしは言葉を挟む前に萊ちゃんが勢い込んで返事をした。
その声色に不安感が募った。
「大丈夫かい? 具合が悪いなら僕だけで行くけれど?」
「……、行きます、案内します」
一瞬、ほんの一瞬だけ迷って砥ぎ師の所にあたしも行くと返事をする。
ここで、ヤキモチでやるべき事をやらなかったら、きっと皆と一緒に戦う資格すら失くしてしまう気がしたから。
お腹が落ち着くまで待って、それからあたしと繚華ちゃん、祟目さんで街に。
萊ちゃんは水晶刀を馴染ませる為に羽生さんと迷宮に入る。
祟目さんは自身の車のキーを羽生さんに渡し、あたし達が遅くなるなら街で合流という事になった。
砥ぎ師さんの所と往復したら何時に成るか分からなかったので、ありがたい。
車まで戻って大鎧を鎧櫃に収めていると、祟目さんは自身の鎧をリュックに詰めていった。
あたし達の大鎧よりも体に密着している分、嵩も小さいらしい。
三人共鎧を脱いだ所で気が付いた。
あたし達のツナギのデザインは完全に共通だった。
「やっぱり祟目さんのツナギもあたし達と同じシリーズなんですね」
内臓を守る事を考えたら袷のデザインに成ったとの事で、本田さんと本当に仲が良いらしい。
あたし達の大鎧をカスタムする様に、ってメールを貰ったのを思い出した。
どれだけ効果が有るか分からないけど、現在、あたし達の大鎧には全身に大祓の祝詞が刻まれている。
この辺りも、もしかしたら祟目さんの概念武器の派生なのだろうか? と気に成って聞いてみる。
あたしの車で街の砥ぎ師さんの所まで一時間かけて向かった。
アポの取れた時間にギリギリで飛び込んで砥ぎ師さんと柄巻師さんと打ち合わせを行った。
主動は祟目さんで、本道と離れた仕事を依頼する事を何度も謝罪しながら、それでも氾濫を食い止める為、どうしても必要な事だと力説して薙刀の柄を作ってもらう事に成った。
最初は否定的だったけれど動画を見せたり、自身の体の傷を見せてあたし達の為にもと頭を下げたり、凄く熱心で押しが強かった。
お昼に話した時と印象が全然違ったけど、羽生さんが「間引きに手を抜けない」と言っていたのを思い出す。
仕様としては水晶刀の刀身を静型の薙刀にする事、鍔と鞘はそのまま流用が可能だった為、柄だけの制作に。
あたし達の使っている薙刀と出来るだけ重心が近くなる様に、また柄の細さもあたし達の手に合わせて作ってくれる事に成った。
費用は祟目さんが出すと言っていたが、概念武器を借りる手前、一時立て替えてもらい、今後の迷宮の金粒で支払う事に。
茎が短い為、強度的に不安な為補強が必要だと言われた。
作業には二週間は最低でも要すると言われてしまったが、その分の間引きは任せろと祟目さんが笑う。
余裕や自信を見せつけられた気がした。
シーカーとしてのキャリアは変わらないのに、と思うけれど結局は覚悟の差なのかも知れない。
幽体の氾濫を未然に防ぐ為に概念武器を考案して、私費を投じて水晶刀を作るだけの本気なのだと。
砥ぎ師さんの所を辞して、萊ちゃんを迎えにお山に向かう。
道中に色々と祟目さんを交えて、話をしたけど興味深い話もいくつか聞けた。
後で萊ちゃんにも聞かせてあげよう。
それにしても萊ちゃんが心配だ。
新しい、馴染んでない、間合いの違う刀で幽体と戦ってると思うと不安になる。
うん、不安に成っているのはそう言う事だ、と何度も心の中で繰り返した。
それが嘘だと自覚もしていたけれど。
それでも、その嘘を思い込みたかった。
お山の駐車場に車を進めると一台の四駆の所で萊ちゃんと羽生さんが話しているのが視界に入った。
その隣に車を止めて急いで車を降りる。
「萊ちゃんお待たせ、いけた?」
楽しそうで、ソワソワしている萊ちゃんの顔を見て無事だと分かり安心しつつも、切なさがどんどんと大きくなっていくのが分かる。
「あ、赫里ちゃん、おかえり。うん! この水晶刀凄いんよ! 今までの苦労がなんやったん? って位戦える! あ、祟目さん! 水晶刀凄いです! ありがとうございます!」
あたしの苛立ちは隠せたのだろう、萊ちゃんは興奮気味にあたしと祟目さんに向けて感想を口にする。
祟目さんが萊ちゃんの言葉に頷いて、羽生さんが投げたキーをキャッチする無言のやり取りにも心が動かない位動揺している様な逆に冷静な様な、変な感じ。
胸が苦しい。
口を開くと何を言うか不安で、そのままトランクを開けに車の後方に行った。
運転席に戻ると祟目さんから連絡先のメモをあたしと繚華ちゃんは渡された。
水晶薙刀? が出来たらコーチ役として同行してもらう事に成っている。
そんなやり取りをして萊ちゃんを待っていると、開いたままのトランクから声が聞こえた。
「あ、あの……、羽生さん、連絡先の交換をしてくれはりますか?」
萊ちゃんの言葉に、その声色に愕然とする。
萊ちゃんが羽生さんに強く興味を持っているのは見て分かっていた。
でも、あの萊ちゃんが、こんなに積極的に男の人に向かっていくとは思わなかった。
ずっと一緒に居たからこそ、萊ちゃんの見せた事が無い積極性に驚いた。
「ああ、メモか何かあるか?」
「あ、このまま無線交換で……」
萊ちゃんはそう言うと鼻背デバイスを羽生さんのデバイスに角度を合わせる。
チラリとルームミラーを見ると美男美女の二人がお互いの目を見ていた。
情報のやり取りとして、ちょうど視線を絡める形で数秒――数十秒かも知れない時間を見詰め合っていた。
萊ちゃんの照れ笑いを見て、胸が、心臓がキシキシと痛む。
二人が視線を外した所であたしもミラーから目線を外した。
助手席に座っていた繚華ちゃんがあたしの肩に手を置く。
びっくりして身を跳ねさせて横を向くと繚華ちゃんは切なそうに、痛ましそうにあたしを見ていた。
そしてその表情であたしは色々な事を悟った、と思う。




