第一部 飛兎の章 一の巻
「これで最後っ!」
カビ臭い苔むした洞窟内に気合いの籠った声が反響する。
下段に構えた薙刀を地面に這わせる様に横薙に振るって五羽六羽纏めて薙払う。
腰の捻りだけで出せる省エネな攻撃。
最初は狭い洞窟内で振り回せない事がストレスだったけど、慣れてきたらむしろやり易い。
あたし達の中ではクビレ薙ぎと呼ぶ位に良く使う。
近頃は冗談ではなく、腰が締まってきた。
「大量やね~」
畑を氾濫で荒らされて、冬野菜以外の収入も見込めない中兎の肉が食卓に並ばない日が無い。
同時に時折手に入る兎の毛皮も売ってお小遣いにも出来る。
迷宮さえ無ければこんな苦労もしなくて済んだと思うし、迷宮が頼みの綱になっている。
その両面があたしをイライラさせる。
「赫里ちゃん、そないにイライラせんと、な?」
そんなあたしに声を掛けてくるのは現原繚華ちゃん、薙刀部の元部長で皆のまとめ役。
と言ってもここに居るのは薙刀部の引退組と剣道部の引退組の三人組だったりする。
実家が農家な娘と部活を引退して受験も終わって暇な仲良しが集まった感じ。
「そうやで? これで新刊買お? な?」
ブルーシートに仕留めた兎を並べていった成湖萊ちゃんが相槌を打ちながらそうあたしを宥める。
「そないに表に出てる?」
「出てるよ~? えらい数やったし、邪魔くさいんも分かるけどな?」
萊ちゃんとのフォローも有り、息を吐いて自分を落ち着かせようと思った。
「堪忍な? なんか色々考えてもうてん……」
「刃物使こてる時に考え事はあかんよ?」
「せやね、ほんに堪忍な?」
繚華ちゃんに窘められて素直に謝罪する。
刃物と言うか、武器を扱っている時に考え事して周りにも伝わる位イライラするのは良くない。
誰かしらかを大怪我させるかも知れなかった、と反省する。
「ちょい早いけどけっこうな数収穫出来たし、今日はこの辺で御開きにしよか」
繚華の言葉に同意をして、兎が肉か毛皮に成るのを待ってから迷宮を出る事にする。
肉はタッパーに収めて持ち帰り組と売却組に頭割り、毛皮も頭割りする。
「毛皮が思った程出なかったなぁ」
「せやね、今日はお肉の日なんかね?」
「しぶちんやねぇ」
繚華ちゃんのボヤキに萊ちゃんが応じる。
あたしの名前は見酒赫里、中学3年生。
所謂、中学生シーカーをやってます。
全国、全世界で同時に迷宮が出来て、何年かした後に氾濫した。
京都の山間の街、大江の迷宮からモンスターが大量発生、氾濫が起きた。
溢れ出たのは兎。
あたしの実家の畑は全滅した。
黒い津波の様に押し寄せてきて周囲の田畑に雪崩れ込んだ。
周辺の農家、うんん、全世界の迷宮付近の農家は壊滅してしまった。
理不尽な事に山々の草木には見向きもせず、田畑の野菜やお米だけを食い荒らして行った。
お祖父ちゃんお祖母ちゃん、お父さんお母さんが育てていた野菜もお米も全部。
あたし悔しくて腹立たしくてシーカーに成った。
学校の友達にも似た感じに怒っている子も何人か居たし、ね。
そして、氾濫が起きなかったのは貧富の差が激しい国で、貧しい人達が兎肉で食い繋ぐ為に迷宮で活動していたのが間引きに成ってたらしい。
国はまさか氾濫なんて想定外だったみたいだし、迷宮活動が間引きに成るのも分からなかった。
お巡りさんやら自衛隊さんが夜通し駆除してくれたけど、迷宮に近かった家の畑は全部食い荒らされた。
数日で氾濫は落ち着いたけど、氾濫の頻度も分からない。
迷宮での間引き活動が一般にも開放された時に蔵に仕舞っていた薙刀を引っ張り出してきた。
あたし元薙刀部だし。
ホントは蔵の中には刀も有ったけど、慣れない物を使うのも疲れるし、だから薙刀。
あたし元薙刀部だし?元エースだし?
だからあたしは今シーカーをやっている。
これから毎日、20時に投稿致します。
楽しんでいただけると幸いです。